「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

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【第二部 異世界転移奇譚 RENJI 2 】「気づいたらまた異世界にいた。異世界転移、通算一万人目と10001人目の冒険者。」

第112話 2周目の一万人目と10001人目の転移者

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 秋月レンジと大和ショウゴは、ゲートをくぐった。

 ゲートは、リバーステラの日本、彼らが住む町に繋がっていたはずだった。

 しかし、ふたりは、エウロペの城下町の商店街のはずれにいた。
 かつて転移してきたときと同じように。
 ふたりとも高校指定の制服姿だった。

「どういうことだ? ここは、エウロペの城下町だろ?」

 ショウゴに尋ねられたレンジは、制服のポケットからスマホを取り出した。
 画面に表示されていた日付は2020年11月11日だった。
 午後4時32分。

 レンジはショウゴに、スマホの画面を見せた。

「ぼくがこの世界に転移してきた日付と時間だよ。
 ゲートをくぐれば、リバーステラに辿り着くのは一瞬のはずだ。
 その一瞬の間に、時が巻き戻されたとしか考えられない」

 レンガが敷き詰められたその通りの先には広場があり、大きな噴水が見えていた。
 その噴水に、明日の朝、魔装具鍛冶のレオナルドの死体が浮かぶことをレンジは知っている。

 そのさらに向こうに、中世ヨーロッパの城のようなものが見えた。古代の神殿や宮殿のようにも見えるそれは、エウロペ城だ。
 だが、その城はジパングの城のように結晶化したエーテルによって作られていた。

「ただ時を巻き戻されただけじゃないみたいだな」

 ショウゴは城を見て言った。

「エウロペの城は、あんな色をしていなかった」


 空には大航海時代のような船が浮かんでいた。飛空艇だ。
 だがオルフェウスではない。民間用のものだ。
 オルフェウスは、城のまわりに魔法研究所や魔術学院同様浮かんでいた。

 鳥ではない、もっと大きな、翼竜とでも呼ぶべきものが空を飛んでいた。
 ドラゴンだ。
 その背に何者かが股がっていたことになぜあのとき気づかなかったのだろう。
 気づいたとしても、そういう存在がいるんだろうなと思っただけであっただろうが。

「ぼくがあのとき見たのはランスの竜騎士だったのか」

 まずいな、とレンジは思った。

「ぼくたちはとんでもない勘違いをしていたのかもしれない」

「どういう意味だ?」

「今この世界には、エウロペの大賢者ブライ・アジ・ダハーカだけではなく、9999人のコピー・ブライが存在している。
 ランスにもゲルマーニにもアストリアにも、もしかしたらペインやギリス、ジパングにも、世界中の国家や大都市の中枢にコピー・ブライはいるんだ。
 あの竜騎士はおそらくランスにいるコピー・ブライの部下だ」


 秋月レンジと大和ショウゴは気づいたら、再び異世界にいた。
 転移したわけではない。転生したわけでもない。時を巻き戻されたのだ。


 ふたりともこの世界に以前転移してきたときと同様、学校指定のボストンバッグを持っていた。
 顔には、スポンジ製の洗って何度も使い回せるマスクをしたままだった。

「やっとマスクなしで生活できる日常を取り戻したと思ったのにな」

 ショウゴはマスクをはずした。
 レンジもまたそのマスクをはずしながら、

「ぼくたちがリバーステラからカーズウィルスを死滅させた事実は変わってないと思う」

 そう言った。

「ふたつの世界が切り離されたからか?」

 レンジはうなづいた。

 だがそれは願望だった。
 すべてが巻き戻されたわけではないと信じたかっただけだった。

 レンジはスマホにインストールした覚えのないアプリが入っているかどうかを確かめた。
 そこには魔法使いが持つ魔道書のようなものの絵が書かれたアイコンがあり、「異世界転移アプリ」と書かれているはずだった。
 だが、アプリは入っていなかった。
 ショウゴのスマホにも異世界転移アプリはなかった。

 もっとやっかいなことがあった。

 ふたりの目の前にあるはずのATMがなかったのだ。

 レンジはそのATMに、財布の中にあったゆうちょ銀行のカードを試しに入れてみることによって、大金を手にし、魔装具を手に入れることができた。
 だが、今回はそれができないのだ。


 商店街では、エプロンをした若い女性が道行く人々に声をかけていた。
 あのときは言葉がわからなかったが、今はわかった。
 やはり店の呼び込みだった。

 あのときは城下町には、見慣れない文字ばかりが並び、聞こえてくるのは聞き覚えのない言葉ばかりだったが、今はちゃんとわかる。
 それはショウゴも同じだった。

 ふたりとも、大気中のエーテルによるこの世界の順応化は既に済んでいたからだ。

 だから、商店街を抜ける瞬間に、目眩を覚えることはなかった。

 だが、それは、あのときよりも奇妙な感覚だった。


 そして、クラッカーのようなものが彼らの左右から放たれた。パンという渇いた音ではなく、ポンという手品のような音だった。

『コングラッチュレ~ショ~ン!!』

 ふたりの左右からそんな声がした。

 左から聞こえる声は、レンジが苦手とするクラスカーストの上位にいる女子たちと同じテンションのもののはずだった。
 右から聞こえる声は、それとは真逆の、彼と同じようにひとりで休み時間を読書をして過ごすような女子のもののはずだった。


「異世界「リバーステラ」とのゲート開通から今年で100年!」

「通算一万人目と10001人目のお客さんがただいまご到着だ!!」


 だが、そこにいたのは、エブリスタ兄弟だった。


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