「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

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【第二部 異世界転移奇譚 RENJI 2 】「気づいたらまた異世界にいた。異世界転移、通算一万人目と10001人目の冒険者。」

第168話 ショウゴとイルル

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 ニーズヘッグやケツァルコアトル、アルマやヨルムンガンドらもまた次々と、アメノトリフネから降りたった。

 だが、誰ひとり、アンフィスのことを覚えてはいなかった。

 覚えていたのはレンジだけだった。

 だが、なぜだ?
 前の世界で大厄災が起きた際、ピノアはひとりだけ生き残り、大厄災前の記憶を持っていたはずだ。


「大厄災を起こしたときの富嶽サトシは、そこにいるイミテーションではなく、オリジナルだった。
 あれ? 君がすでにいなかったからもしかしたら、イミテーションだったかな?」

 からかうように、フォラスもどきは言った。
 レンジの心が読めるのか、それともレンジだけが疑問を抱くであろうということを知っているのだ。
 おそらくは後者だった。

「どちらにせよ、富嶽サトシは大厄災を起こす際に、たったひとりだけ消滅を免れるようにし、大厄災前の世界の記憶を持つようにした。
 そして、そのたったひとりにピノア・カーバンクルを選んだ。
 彼女の出自を知る者ならば、彼女が消滅を免れたとしても、おかしくはないと考えるだろうからね。
 彼女自身も疑わなかった。
 まぁ、彼女は『我々』の嘘を信じただけとも言えるがね」

 つまり精霊たちは、原初のテラから9番目のテラにおいて、ピノアのようにして産まれたために大厄災を逃れ精霊となったわけではないということだった。

 そして、アンフィスを消滅させた際には、レンジだけがアンフィスの存在を忘れさせないようにしたということだった。


「ちなみに、『我々』に時を巻き戻させたところで、すでに存在自体が消滅した者は戻らないよ」

「そうだ、こういうのはどうかな?
『我々』の攻撃は、先ほどフォラスが使った『ラディーレン』だけにするっていうのは」

「いいね、彼らが『我々』に時を巻き戻させることができるとはとても思えないが、時を巻き戻すたびにこの戦いは、一からやり直しになる。
『我々』はひとりもかけることはないが、君たちの仲間は確実に減っていくというわけだ」


 レンジは、彼らの言葉に耳を傾けることをやめた。
 耳障りな羽音だと思うことにした。

 そう思うことができれば、偽物の秋月蓮治との戦いのときのように、いくら偽物とはいえ父やショウゴを殺さなければいけなくなっても涙を流さずにすむ。
 今は、涙を流している暇があったら、ひとりでも多くの敵を殺すべきだった。でなければ、アンフィスのような犠牲を出してしまう。


 レンジは、アンフィスを消したフォラスもどきの顔に剣を突き立てていた。
 殺すべき相手と守るべき相手を認識し、身体が勝手に動いていた。

 オロバスもどきがピノアに向けて『ラディーレン』を放つのがわかった。

 だからレンジは、フォラスもどきの顔に突き刺した剣を即座に真っ直ぐ下に下ろし、その体を真っ二つにし、次の瞬間にはピノアの前にいた。
『ラディーレン』を、ふたふりの剣で斬るのでもなければ弾くのでもなく、魔法剣としてまとわせた。

 それを、オロバスもどきとフェネクスもどきに投げつけた。
 ふたりは簡単に消滅した。

 自分は、草詰アリスが愛してくれた秋月蓮治でなくていい。
 ステラやピノアや仲間たち、そして、この世界を守れればそれでよかった。


「レンジ、わたしのことを守ろうとしなくても大丈夫だよ。
 もうあの魔法は使えるし、相殺もできるから」

 ピノアの言葉に、レンジは「わかった」とだけ言うと、背中の大剣を手に取り、二重魔法剣「時元」を発動させた。

 オロバスもどきとフェネクスもどきに投げつけたふたふりの剣の前には、ショウゴもどきが合体銃剣を構え、レンジを手招きしていた。
 彼はショウゴの力を持つだけで、ラディーレンは使えないのだろう。
 レンジが剣を拾いにくるのがわかっていたのだろう。

「お前がレオナルドが作ったショウゴの魔装具を使うなよ」

 ショウゴもどきに向かっていく途中でニーズヘッグと交戦中だったキマリスもどきを、魔法剣で次元の彼方の時の牢獄に送った。
 ニーズヘッグのそばには、フォカロルもどきがすでに倒れていた。
 さすがはニーズヘッグだと思った。

 レンジの大剣は、魔法剣に特化した代物だった。
 だから、キマリスもどきを次元の彼方の時の牢獄に送った後も、大剣にまとわせた魔法は消えてはいなかった。

 ショウゴもどきは合体銃剣の二丁拳銃を乱射してきたが、大剣にまとわせた魔法が弾丸をすべて次元の彼方の時の牢獄へと送り、レンジはショウゴもどきに大剣を突き刺した。
 はずだった。

「悪いね、レンジ。ボクは彼と共に行くことにするよ」

 大剣はショウゴもどきだけではなく、彼をかばうようにして前に立ち塞がっていたイルルをも貫いていた。

「イルル…… どうして……」

「少しだけ時を止めさせてもらった。
 彼はショウゴの偽物だが、ボクなら時間をかければ『我々』に与えられた使命を忘れさせてあげられる。
 キミのいない場所でなら、ショウゴに戻れるんだ。
 自分でも馬鹿なことをしているのはわかってるよ。でもボクは」

 イルルが言い終える前に、彼女は次元の彼方の時の牢獄に送られてしまった。

 だが、

「いい魔装具だな、これは。
 まさか魔法剣まで無効化してくれるとは思わなかったぜ」

 ショウゴもどきはそう言うと、足元のふたふりの剣を蹴飛ばした。

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