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【第二部 異世界転移奇譚 RENJI 2 】「気づいたらまた異世界にいた。異世界転移、通算一万人目と10001人目の冒険者。」
第167話 イミテーションズ
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「我々」の本拠地である巨大な要塞は、アメノトリフネの接近を簡単に許した。
一切攻撃をしかけてくることはなく、それどころか、その甲板では富嶽サトシと大和ショウゴが手を降っていた。
イルルはショウゴをなんとかして説得しようとしていたし、ブライはサトシとの100年に渡る騙し合いの決着をつけようとしていたから、正直拍子抜けした。
罠かもしれないと思ったが、こんなあからさまな罠はないだろうと思った。
念のため、レンジとピノア、イルル、そしてブライの4人だけが、先行してその甲板に降りたつことにした。
だが、やはり何の襲撃もなかった。
サトシもショウゴも武器を持ってはいなかった。
「すまなかったな、レンジ、ブライ。
だけど、ようやく、ぼくがこの世界ですべきことは終わった」
そう言った父の身体は消滅しかけていた。
「あのとき、大人しくリバーステラに帰ってくれてたら、父さんはリサや母さんに会えたし、じいちゃんやばあちゃんにも会えた。死なずにだってすんだのに」
レンジは悔しくてたまらなかった。
「俺もサトシさんも、人質をとられてたんだ。リバーステラにいる家族をな。
だから、『我々』に従うしかなかった」
カーズウィルスは、遺伝子に犯罪因子を持つ者だけを間引くウィルスだったという。
犯罪因子とは、人間関係や金銭問題などといった様々な要因において、極限状態に置かれた際に、犯罪を犯してでもそれを脱することを選ぶ者が持つ因子だという。
「ゴールデン・バタフライ・エフェクトで、そんなのどうにだってなるのに……」
「そういう発想ができないのが、『我々』なんだ。
それに、リバーステラの人口は増えすぎていた。
彼らがしたことを肯定するつもりはないが、100年以上もの時間や、何千兆円という金をかけて、軌道エレベーターやスペースコロニーやテラフォーミングに今から取りかかっても、おそらく先にエネルギーが枯渇し、食糧危機が起きる。
そうなれば、完成しないまま人類は滅亡する可能性もあった。
それに比べたら、ウィルスを使って人口を間引いた方が、はるかに早いし、低コストだった」
カーズウィルスは一年もかからずに人類の半数を間引いたし、ウィルスを生み出すのにかかった金もせいぜい億単位ですんだだろう。
実に、効率性を重視するリバーステラの人間らしいやり方だとレンジは思った。
「俺たちは、レンジが勝ち残った最初のデスゲームに巻き込まれた被害者に過ぎなかった。レンジもそうだ。
『我々』ですらなかった」
「精霊のふりをして君たちのそばにいた連中がこの中にいる。
だが、彼らはぼくと同じでカオス細胞を持っている。
この要塞も結晶化したダークマターで作られている。
君たちが手を下さずとも、間もなく消える運命にある」
「問題は、奴らをこの世界に転移させてしまったことで、奴らの狙いがジパングのふたりの女王を手に入れ、太陽の巫女の力を使って、リバーステラにアカシックレコード自体を招くことになってしまったことだ」
「我々」が消滅するまでの間、マヨリとリサを守りきれば、すべてが終わる。
だが、守りきれなければ、別の意味ですべてが終わる。
そういうことだった。
「父さんとショウゴを連れて、ここを離れよう」
レンジは言った。
だが、
「それはやめたほうがいいと思う」
ピノアは言った。
「同感だ、ピノア。この男はサトシではない」
「本物のショウゴを連れ戻したかったけど、あのとき手足を引きちぎってでも行かせるべきではなかったみたいだね」
ブライとイルルが続いた。
「ほう。その三人は実に優秀な人材だな」
「まったくです。ぜひサンプルとして回収し、『我々』の手駒としましょう」
ふたりの口から信じられない言葉が飛び出した。
「偽物の秋月蓮治は、レンジを見た瞬間に自らの使命を思い出した。
そして、偽物の大和ショウゴと富嶽サトシもまた同じように作られた」
「レンジ、君さえいなければ、偽物とはいえぼくたちは、富嶽サトシと大和ショウゴとして生きられた。秋月蓮治もそうだ」
『お前が悪いんだぞ、レンジ』
その言葉が合図であったかのように、先ほどまでレンジたちと行動を共にしていた精霊たちもまたその場に姿を現した。
「ぼくたちはダークマターを使わずとも精霊の魔法を使いこなせる。
『我々』が自らに似せて作り、精霊の力を与えた、偽物の精霊だからね」
「11対4では、さすがに君たちも分が悪いだろう?
いくらでも援軍を呼びたまえ」
「ぼくたちが負けることはないだろうけれど、たとえ負けたとしても、最後のひとりが死ぬ直前に、時を巻き戻す」
「『我々』がジパングのふたりの女王を手にするまで、何度でも繰り返させてもらうよ」
偽物の精霊たちは、そう言った。
「お前らは馬鹿か?」
空から声がした。
アンフィスがアメノトリフネから舞い降りてきていた。
「お前ら『我々』というグループだけを対象とした大厄災の魔法くらい、ピノアのためなら編み出せちまうのが、アンフィス・バエナ・イポトリルって男だ。
よく覚えておけ」
『ディサピアランス』
「すぐ消えちまうけどな」
アンフィスは、言葉通り「我々」だけを消滅させたが、
「よく覚えておくよ。アンフィス・バエナ・イポトリル」
時がすでに巻き戻されてしまっていた。
「君こそ、よく覚えておいてほしいな。
その力は、元々『我々』が作り出した者だ。
だから、君の存在だけを消すことなど容易いんだよ。
単体用の大厄災の魔法がこれだ」
『ラディーレン』
アンフィスは、その存在がこの世界からだけでなく、前の世界からも消滅した。
「これで、彼は前の世界に戻ることはできない。
かわいそうなピノア・カーバンクル。
彼が君とした約束は、永遠に果たされることはなくなってしまったね」
精霊にそう言われたピノアは、
「誰のことを言ってるの?」
アンフィスのことを忘れていた。
彼の存在そのものが、前の世界の歴史から消えてしまったからだ。
一切攻撃をしかけてくることはなく、それどころか、その甲板では富嶽サトシと大和ショウゴが手を降っていた。
イルルはショウゴをなんとかして説得しようとしていたし、ブライはサトシとの100年に渡る騙し合いの決着をつけようとしていたから、正直拍子抜けした。
罠かもしれないと思ったが、こんなあからさまな罠はないだろうと思った。
念のため、レンジとピノア、イルル、そしてブライの4人だけが、先行してその甲板に降りたつことにした。
だが、やはり何の襲撃もなかった。
サトシもショウゴも武器を持ってはいなかった。
「すまなかったな、レンジ、ブライ。
だけど、ようやく、ぼくがこの世界ですべきことは終わった」
そう言った父の身体は消滅しかけていた。
「あのとき、大人しくリバーステラに帰ってくれてたら、父さんはリサや母さんに会えたし、じいちゃんやばあちゃんにも会えた。死なずにだってすんだのに」
レンジは悔しくてたまらなかった。
「俺もサトシさんも、人質をとられてたんだ。リバーステラにいる家族をな。
だから、『我々』に従うしかなかった」
カーズウィルスは、遺伝子に犯罪因子を持つ者だけを間引くウィルスだったという。
犯罪因子とは、人間関係や金銭問題などといった様々な要因において、極限状態に置かれた際に、犯罪を犯してでもそれを脱することを選ぶ者が持つ因子だという。
「ゴールデン・バタフライ・エフェクトで、そんなのどうにだってなるのに……」
「そういう発想ができないのが、『我々』なんだ。
それに、リバーステラの人口は増えすぎていた。
彼らがしたことを肯定するつもりはないが、100年以上もの時間や、何千兆円という金をかけて、軌道エレベーターやスペースコロニーやテラフォーミングに今から取りかかっても、おそらく先にエネルギーが枯渇し、食糧危機が起きる。
そうなれば、完成しないまま人類は滅亡する可能性もあった。
それに比べたら、ウィルスを使って人口を間引いた方が、はるかに早いし、低コストだった」
カーズウィルスは一年もかからずに人類の半数を間引いたし、ウィルスを生み出すのにかかった金もせいぜい億単位ですんだだろう。
実に、効率性を重視するリバーステラの人間らしいやり方だとレンジは思った。
「俺たちは、レンジが勝ち残った最初のデスゲームに巻き込まれた被害者に過ぎなかった。レンジもそうだ。
『我々』ですらなかった」
「精霊のふりをして君たちのそばにいた連中がこの中にいる。
だが、彼らはぼくと同じでカオス細胞を持っている。
この要塞も結晶化したダークマターで作られている。
君たちが手を下さずとも、間もなく消える運命にある」
「問題は、奴らをこの世界に転移させてしまったことで、奴らの狙いがジパングのふたりの女王を手に入れ、太陽の巫女の力を使って、リバーステラにアカシックレコード自体を招くことになってしまったことだ」
「我々」が消滅するまでの間、マヨリとリサを守りきれば、すべてが終わる。
だが、守りきれなければ、別の意味ですべてが終わる。
そういうことだった。
「父さんとショウゴを連れて、ここを離れよう」
レンジは言った。
だが、
「それはやめたほうがいいと思う」
ピノアは言った。
「同感だ、ピノア。この男はサトシではない」
「本物のショウゴを連れ戻したかったけど、あのとき手足を引きちぎってでも行かせるべきではなかったみたいだね」
ブライとイルルが続いた。
「ほう。その三人は実に優秀な人材だな」
「まったくです。ぜひサンプルとして回収し、『我々』の手駒としましょう」
ふたりの口から信じられない言葉が飛び出した。
「偽物の秋月蓮治は、レンジを見た瞬間に自らの使命を思い出した。
そして、偽物の大和ショウゴと富嶽サトシもまた同じように作られた」
「レンジ、君さえいなければ、偽物とはいえぼくたちは、富嶽サトシと大和ショウゴとして生きられた。秋月蓮治もそうだ」
『お前が悪いんだぞ、レンジ』
その言葉が合図であったかのように、先ほどまでレンジたちと行動を共にしていた精霊たちもまたその場に姿を現した。
「ぼくたちはダークマターを使わずとも精霊の魔法を使いこなせる。
『我々』が自らに似せて作り、精霊の力を与えた、偽物の精霊だからね」
「11対4では、さすがに君たちも分が悪いだろう?
いくらでも援軍を呼びたまえ」
「ぼくたちが負けることはないだろうけれど、たとえ負けたとしても、最後のひとりが死ぬ直前に、時を巻き戻す」
「『我々』がジパングのふたりの女王を手にするまで、何度でも繰り返させてもらうよ」
偽物の精霊たちは、そう言った。
「お前らは馬鹿か?」
空から声がした。
アンフィスがアメノトリフネから舞い降りてきていた。
「お前ら『我々』というグループだけを対象とした大厄災の魔法くらい、ピノアのためなら編み出せちまうのが、アンフィス・バエナ・イポトリルって男だ。
よく覚えておけ」
『ディサピアランス』
「すぐ消えちまうけどな」
アンフィスは、言葉通り「我々」だけを消滅させたが、
「よく覚えておくよ。アンフィス・バエナ・イポトリル」
時がすでに巻き戻されてしまっていた。
「君こそ、よく覚えておいてほしいな。
その力は、元々『我々』が作り出した者だ。
だから、君の存在だけを消すことなど容易いんだよ。
単体用の大厄災の魔法がこれだ」
『ラディーレン』
アンフィスは、その存在がこの世界からだけでなく、前の世界からも消滅した。
「これで、彼は前の世界に戻ることはできない。
かわいそうなピノア・カーバンクル。
彼が君とした約束は、永遠に果たされることはなくなってしまったね」
精霊にそう言われたピノアは、
「誰のことを言ってるの?」
アンフィスのことを忘れていた。
彼の存在そのものが、前の世界の歴史から消えてしまったからだ。
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