「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

文字の大きさ
167 / 271
【第二部 異世界転移奇譚 RENJI 2 】「気づいたらまた異世界にいた。異世界転移、通算一万人目と10001人目の冒険者。」

第167話 イミテーションズ

しおりを挟む
「我々」の本拠地である巨大な要塞は、アメノトリフネの接近を簡単に許した。

 一切攻撃をしかけてくることはなく、それどころか、その甲板では富嶽サトシと大和ショウゴが手を降っていた。

 イルルはショウゴをなんとかして説得しようとしていたし、ブライはサトシとの100年に渡る騙し合いの決着をつけようとしていたから、正直拍子抜けした。

 罠かもしれないと思ったが、こんなあからさまな罠はないだろうと思った。

 念のため、レンジとピノア、イルル、そしてブライの4人だけが、先行してその甲板に降りたつことにした。

 だが、やはり何の襲撃もなかった。

 サトシもショウゴも武器を持ってはいなかった。

「すまなかったな、レンジ、ブライ。
 だけど、ようやく、ぼくがこの世界ですべきことは終わった」

 そう言った父の身体は消滅しかけていた。

「あのとき、大人しくリバーステラに帰ってくれてたら、父さんはリサや母さんに会えたし、じいちゃんやばあちゃんにも会えた。死なずにだってすんだのに」

 レンジは悔しくてたまらなかった。

「俺もサトシさんも、人質をとられてたんだ。リバーステラにいる家族をな。
 だから、『我々』に従うしかなかった」


 カーズウィルスは、遺伝子に犯罪因子を持つ者だけを間引くウィルスだったという。
 犯罪因子とは、人間関係や金銭問題などといった様々な要因において、極限状態に置かれた際に、犯罪を犯してでもそれを脱することを選ぶ者が持つ因子だという。

「ゴールデン・バタフライ・エフェクトで、そんなのどうにだってなるのに……」

「そういう発想ができないのが、『我々』なんだ。
 それに、リバーステラの人口は増えすぎていた。
 彼らがしたことを肯定するつもりはないが、100年以上もの時間や、何千兆円という金をかけて、軌道エレベーターやスペースコロニーやテラフォーミングに今から取りかかっても、おそらく先にエネルギーが枯渇し、食糧危機が起きる。
 そうなれば、完成しないまま人類は滅亡する可能性もあった。
 それに比べたら、ウィルスを使って人口を間引いた方が、はるかに早いし、低コストだった」

 カーズウィルスは一年もかからずに人類の半数を間引いたし、ウィルスを生み出すのにかかった金もせいぜい億単位ですんだだろう。
 実に、効率性を重視するリバーステラの人間らしいやり方だとレンジは思った。


「俺たちは、レンジが勝ち残った最初のデスゲームに巻き込まれた被害者に過ぎなかった。レンジもそうだ。
『我々』ですらなかった」

「精霊のふりをして君たちのそばにいた連中がこの中にいる。
 だが、彼らはぼくと同じでカオス細胞を持っている。
 この要塞も結晶化したダークマターで作られている。
 君たちが手を下さずとも、間もなく消える運命にある」

「問題は、奴らをこの世界に転移させてしまったことで、奴らの狙いがジパングのふたりの女王を手に入れ、太陽の巫女の力を使って、リバーステラにアカシックレコード自体を招くことになってしまったことだ」

「我々」が消滅するまでの間、マヨリとリサを守りきれば、すべてが終わる。

 だが、守りきれなければ、別の意味ですべてが終わる。

 そういうことだった。

「父さんとショウゴを連れて、ここを離れよう」

 レンジは言った。


 だが、

「それはやめたほうがいいと思う」

 ピノアは言った。

「同感だ、ピノア。この男はサトシではない」

「本物のショウゴを連れ戻したかったけど、あのとき手足を引きちぎってでも行かせるべきではなかったみたいだね」

 ブライとイルルが続いた。


「ほう。その三人は実に優秀な人材だな」

「まったくです。ぜひサンプルとして回収し、『我々』の手駒としましょう」


 ふたりの口から信じられない言葉が飛び出した。


「偽物の秋月蓮治は、レンジを見た瞬間に自らの使命を思い出した。
 そして、偽物の大和ショウゴと富嶽サトシもまた同じように作られた」

「レンジ、君さえいなければ、偽物とはいえぼくたちは、富嶽サトシと大和ショウゴとして生きられた。秋月蓮治もそうだ」


『お前が悪いんだぞ、レンジ』


 その言葉が合図であったかのように、先ほどまでレンジたちと行動を共にしていた精霊たちもまたその場に姿を現した。


「ぼくたちはダークマターを使わずとも精霊の魔法を使いこなせる。
『我々』が自らに似せて作り、精霊の力を与えた、偽物の精霊だからね」

「11対4では、さすがに君たちも分が悪いだろう?
 いくらでも援軍を呼びたまえ」

「ぼくたちが負けることはないだろうけれど、たとえ負けたとしても、最後のひとりが死ぬ直前に、時を巻き戻す」

「『我々』がジパングのふたりの女王を手にするまで、何度でも繰り返させてもらうよ」

 偽物の精霊たちは、そう言った。


「お前らは馬鹿か?」

 空から声がした。
 アンフィスがアメノトリフネから舞い降りてきていた。

「お前ら『我々』というグループだけを対象とした大厄災の魔法くらい、ピノアのためなら編み出せちまうのが、アンフィス・バエナ・イポトリルって男だ。
 よく覚えておけ」


『ディサピアランス』


「すぐ消えちまうけどな」


 アンフィスは、言葉通り「我々」だけを消滅させたが、

「よく覚えておくよ。アンフィス・バエナ・イポトリル」

 時がすでに巻き戻されてしまっていた。


「君こそ、よく覚えておいてほしいな。
 その力は、元々『我々』が作り出した者だ。
 だから、君の存在だけを消すことなど容易いんだよ。
 単体用の大厄災の魔法がこれだ」


『ラディーレン』


 アンフィスは、その存在がこの世界からだけでなく、前の世界からも消滅した。


「これで、彼は前の世界に戻ることはできない。
 かわいそうなピノア・カーバンクル。
 彼が君とした約束は、永遠に果たされることはなくなってしまったね」


 精霊にそう言われたピノアは、


「誰のことを言ってるの?」


 アンフィスのことを忘れていた。


 彼の存在そのものが、前の世界の歴史から消えてしまったからだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

処理中です...