「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

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【第二部 異世界転移奇譚 RENJI 2 】「気づいたらまた異世界にいた。異世界転移、通算一万人目と10001人目の冒険者。」

第166話 ルティーヤー

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 アカシックレコードから突如テラへと転移させられた『我々』は、混乱の中にいた。

「何が起きた?」

「まさかアリスがやったのか?」

 彼らは、草詰アリスを閉じ込めるためにだけに用意した偽物の秋月蓮治が、原初のテラから消えていることはすでに察知していた。

「我々」がアカシックレコードに本拠地を置いたのは、偽物の秋月蓮治と草詰アリスがいた原初のテラ(ファースト・テラ)から現在のテラ(イレブンス・テラ)までの、すべてのテラを常に自分たちの監視下に置くためだったからだ。


 その本拠地を「我々」は「ルティーヤー」と呼んでいた。

 ルティーヤーは、大東洋の半分を占めるほど巨大であり、魚のような、クジラのような形をした要塞であった。

 テラに存在するオリハルコンや結晶化したエーテル「ヒヒイロカネ」よりもはるかに硬い、まだテラには存在しない物質である、結晶化したダークマター「アキシオン」によって作られていた。

 エテメンアンキの管理システムであった「リヴァイアサン」は、ルティーヤーの半身とも言うべき存在であった。
 リヴァイアサンが戻るまでは便宜上「ベヒモス」と呼ばれていたが、現在はその機能をすべて取り戻していた。

 だが、ルティーヤーを構成するアキシオンは、テラに転移した瞬間から黄金の蝶の群れに浄化され始め、崩壊が始まっていた。
 彼らの肉体もまた崩壊が始まっていた。


 本物の秋月レンジが現れることによって、秋月蓮治は『我々』の一員としての使命を思い出し、彼を始末しようとして失敗した。

「所詮イミテーションではオリジナルにはかなわないということか」

 原初のテラには、草詰アリスの反応もなかった。
 秋月レンジが11番目のテラに連れていったのだろうとわかった。

「いや、アリスにはこのような力はなかったはずだ」

「そうだ。彼女は人の身を持ちながらも優れた力を持ってはいるが、彼女がエーテルを産み出したわけではない。
 エーテルは『我々』が与えた。
 あの真っ白な何もない世界を、自然溢れる世界にしたのも『我々』だ。
 彼女には無から何かを生み出す力はない」

「では、ジパングのふたりの女王の力ということか。
 世界の理さえも変えてしまう、太陽の巫女の力が、まさかここまでのものとはな」

「テラを作ったのは間違いではなかった。
 放射性物質を廃棄する場所を作れば、そしてそこに人を繁栄させておけば、必ず浄化する術(すべ)を編み出す者が現れる。
 だが、それだけでは人という種はいずれ訪れるであろう脅威に対抗することはできない」

「だから、人の誕生から大厄災までの歴史を何度も繰り返させた。
 それはすべてアカシックレコードに記録されてきた。
 もうすぐあの力が我々のものになる!!
 あのふたりさえ手に入れればアカシックレコードさえもリバーステラに呼べる!!!」



「悠長にしてていいのか?
 奴らはすぐにここに攻めてくるぞ」

 大和ショウゴは言った。
 だが、彼らにはショウゴの声は聞こえてはいなかった。

「ショウゴくん、人は毎日悲惨な事件や事故のニュースを目にしていても、自分が事件に巻き込まれたり事故にあって死ぬことはないと思う生き物だろう?」

 富嶽サトシは、ショウゴに言った。

「カーズウィルスのような恐ろしいウィルスによる世界規模のパンデミックが起きても、自分がそれに感染することはないと思うのが人間だ」

 その通りだと思った。

「彼らは、この要塞が崩壊しかかっており、テラのあらゆる世界から集まった聖者たちが攻めてこようとしているのに、自分たちが死ぬことはないと思っている」

「自分たちが神だからですか」

「そう。リバーステラにおいて、百年先の技術を研究する、一研究機関の研究者に過ぎなかった彼らは、不幸にもアカシックレコードにたどり着き、世界さえも創造する力を手に入れてしまった。
 そして、カオス細胞を手に入れ、不老不死の体を手に入れることによって、自らを神だと思い込んでしまった」

 かわいそうな連中だな、とショウゴは思った。
 だからといって情けをかけるような相手ではなかったが。

「リバーステラにおいて、かつて外宇宙から飛来した『アンサー』という存在がいたそうだよ」

「そのアンサーとは、古代宇宙飛行士のことですか?
 ナスカの地上絵やピラミッドのような、当時の技術では作ることが不可能だったものを作り出したという……」

「おそらくね。そして、アンサーと呼ばれるその存在は複数存在していたらしい。
 それぞれが、『匣』と呼ばれる72個の超小型大容量記憶端末を遺していったそうだよ。
 リバーステラの人の歴史は戦争の歴史だったけれど、戦争はすべて匣の奪いあいのために行われたものだったらしい」


 そして、00年代に起きた戦争によって、リバーステラのある国は、すべての匣を手にしたという。
 その国の研究機関に属していたのが彼らなのだという。


「リバーステラにおいて、神とは、異星人に過ぎなかった。
 だから彼らは神になろうとしたんだろうね」

 匣は、「我々」がすべて所有しており、ルティーヤーの内部にあった。
「我々」にとって、匣はもはや不要な存在であり、隠すこともなく乱雑に置かれていたという。
 富嶽サトシは、すでにそのすべてを破壊していた。


「あなたが、レンジがずっと信じ続けていたように、まともな人でよかったですよ」

 ショウゴは言った。

「ぼくはまともじゃないさ。
 友を騙し続け、裏切り、息子さえも利用して、大厄災を起こしたんだよ。
 それにこの身体は、彼らと同じカオス細胞で出来ている。
 ぼくも彼らと共に」

「家族を人質に取られてたら、そうするしかないです。
 俺もそうですから」

『我々』は、アカシックレコードにまでたどり着き、異世界を作り出すだけの技術を有しながらも、愚かな人のままだった。

「レンジたちは彼らのことを?」

「えぇ、奴らのコピーと行動を共にしていたはずですから」

「彼ら自身もオリジナルかどうかは怪しいものだけどね」


 ふたりの目の前にいたのは、精霊たちと同じ顔をした者たちだった。


「いつから彼らは、精霊のふりをしていたんだろうね」

「たぶん、4000年前にピノアの前に現れたときからじゃないかと」

「なるほど。よく思い付いたものだ。
 たまたま大厄災を生き延びたピノアを見つけて、自分たちも同じように生き延び精霊になっただなんて設定。
 しかも、精霊の力をダークマターを使わずとも無断拝借し、レンジたちをだまし続けていたのだからね」

「でも、嘘は必ずばれます。
 俺やあなたがレンジたちについた嘘も」


『我々』は精霊たちのふりをしてレンジたちと行動を共にしていた者たちであり、そしてふたりは『我々』などではなかった。


「行こうか、ショウゴくん。レンジたちを出迎えに」

「そうですね」


 ふたりは、愚かな神たちを残し、ルティーヤーの艦橋へと向かっていった。
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