「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

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【第二部 異世界転移奇譚 RENJI 2 】「気づいたらまた異世界にいた。異世界転移、通算一万人目と10001人目の冒険者。」

第169話 シン・ブライ・アジ・ダハーカ 急

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 ブライ・アジ・ダハーカは、サトシもどきと対峙していた。

「サトシとの100年に渡る騙し合いの決着をつけたかったのに残念だよ。
 サトシじゃない君には何の魅力も感じない」

「君は何かを勘違いしている。
 勝ち負けの問題などではなかっただろう?
 君はぼくの手駒に過ぎなかった。あまり優秀とは言えなかったがね」

「そうかい。じゃあ、その手駒に君はこれから殺されるわけだ。
 かなり屈辱的だろうね」

 テラにはすでに、世界中にゴールデン・バタフライ・エフェクトが放たれていた。
 そして、サトシもどきの身体はカオス細胞で構成されており、徐々にその身体は消滅しかかっていた。

 ブライは黄金の蝶に向かって、両手の指先から十筋の光線を放った。
 光線は蝶の群れの中で乱反射を繰り返し、サトシもどきの身体を貫き始めた。

「ゴールデン・バタフライ・エフェクト&ブライズビームスってところかな。
 悪いが、君に構ってる暇はない。
 さっさと消えてくれ」

 ブライは、一時的にだが前の世界の愚かな自分の記憶を持っていたから、その技からは逃れるすべがないことは知っていた。

「まったく、自分がなぜダークマターに手を出してしまったのか、理解に苦しむよ。
 そんな身体になったところで、何も得られるものはなかっただろうに。
 まぁ、この時代でステラやピノアの役には立てたし、元の時代に戻っても私がダークマターに手を染めることはないから良しとしておこう」

 ブライは仲間たちに目を向けた。

 ピノアはムルムルもどきと交戦中であり、ニーズヘッグとアルマはオリアスもどきとアガレスもどきと交戦中だった。
 レンジはショウゴもどきと交戦中であった。

 だが、イルルの姿はどこにもなかった。

 これは戦争だ。
 だから犠牲が出るのは仕方がないことではあったが胸が傷んだ。

 時さえ戻されることがなければ、この戦いには勝てる。
 敵はいつでも時を巻き戻すことができる。
 それも、時の精霊の許可を得る必要もなければ、ダークマターを触媒とするわけでもなく、だ。

 それを止められる存在は、世界の理さえも変えることができる者だけだった。

 ブライは、ジパングのふたりの女王に、伝書鳩の魔法ではなく、直接頭に語りかけることにした。
 時の精霊の魔法を封じるようにと。


「君は本当に、間抜けだな」

 だが、サトシもどきは無数の光線に貫かれながらもブライの足をつかみ、

「時の精霊の魔法が、時を巻き戻すためだけにあるんじゃないことを忘れているんじゃないのか?
 君の身体の時を死の間際にまで進ませたら、どうなるかを考えたことはなかったのか?」

 しまった。
 そう思った瞬間には、ブライの身体は、サトシもどきと同じカオス細胞で構成される身体にされてしまっていた。

「なぜ君がダークマターに手を染めたのか。
 それは、ここまでがぼくの手の内だったからだ。
 アンフィス・バエナ・イポトリルにピノア・カーバンクルとの約束を守る未来がなかったように、君がダークマターに魅了されない未来もまたない。
 一緒に死んでもらうよ、ブライ」


 ブライは、サトシもどきと共にその身体のすべてのカオス細胞が死滅するまで、自らが放ったブライズビームスに貫かれ続けた。


 この時代にいるステラやピノアともっと話がしたかった。

 元の時代に帰ったら、百数十年後に生まれてくるふたりの自慢の父になりたかった。

 だが彼は、ジパングふたりの女王に、伝えるべきことを伝えることができた。

 だから死を受け入れること

「など、できるわけがないだろう」

 自らの身体のカオス細胞を触媒として、その身体の時を元に巻き戻した。

「サトシならまだしも、偽物の君にだけは負けたくないんだよ。
 悪いが、君だけ死んでくれ」

 ブライは業火連弾を両手から放ち、サトシもどきを跡形もなく完全に焼き尽くした。


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