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【第二部 異世界転移奇譚 RENJI 2 】「気づいたらまた異世界にいた。異世界転移、通算一万人目と10001人目の冒険者。」
第170話 救厄の魔法
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ジパングのふたりの女王は、ブライがサトシもどきを倒すであろうと信じていた。
だから、サトシもどきによって前の世界での最終決戦時の身体に時を進まされたブライが、逆にその身体の時を巻き戻すのを待ってから、太陽の巫女の力で時の精霊の魔法を、その存在自体を消した。
これでもう、「我々」が時を巻き戻すことはない。
同時に、レンジたちもまた時を巻き戻すことはできない。
レンジたちを信じるしかなかった。
ステラは、レンジやピノアや父が必死で戦っているというのに、何もできない自分が歯がゆかった。
自分が戦うことを誰も望んではいないことはわかっていた。
それでも共に戦いたかった。
「ステラ、わたしたちもあなたと同じ気持ちです」
マヨリは、そんなステラに声をかけた。
「マヨリ……」
「そうだよ。わたしたちが一番強いとまでは言わないけど、あんな奴らくらい念じるだけで木っ端微塵にできるのにさ。
あいつらの目的がわたしたちを手に入れることだから、ここで留守番とかむかつく」
「リサ……」
「わたしたちは今、あなたのお父上から依頼を受け、この世界から一時的に時の精霊の魔法を、その存在自体を消滅させました。
『我々』が時を巻き戻すことはできなくなりましたが、同時にレンジたちもまた時を巻き戻すことや止めることはできなくなってしまいました」
「わたしたちもステラも、ほんとならあそこで戦ってなきゃいけない。それくらい強い。超強い。
でも、わたしたちにも、ステラにも戦えない理由があるわけじゃん?
普通なら二軍選手がバックアップにまわるところを、超一軍わたしたちがバックアップしてあげられるって考えてみて」
「ステラには、わたしたちにはできないことができるんじゃないかと、わたしたちは思うのです」
わたしにしかできないこと。
そんなことがあるのだろうか。
「あなたは、アンフィス・バエナ・イポトリルという者を覚えていますか?」
マヨリの問いに、ステラは「誰のこと?」と思うと同時に、なぜかその名前に聞き覚えがあるような気がした。
だが、思い出そうとすると、霧のようなもやのようなものが頭の中にかかったようになってしまい、頭が割れるように痛くなった。
「彼は先ほどまでここにいました。
そして、あの戦いの場に向かい、『我々』が持つ力によって、その存在自体がなかったことにされてしまいました」
「だから、アンフィスのことを覚えてるのは、わたしたち以外だとレンジだけっぽい。
あいつら、前の世界の大厄災の魔法を、範囲をひとりの人間に絞って撃てるみたいなんだよね」
「わたしたちはシャーマンであるため、魔法というものがよくわかりませんが、ステラなら大厄災の魔法がどんなものか把握しているはず」
大厄災の魔法とは、火、水、風、土、雷、光、六柱の精霊の力を掛け合わせた極大消滅魔法だった。
「消滅させられた者は、時の精霊の魔法で時を巻き戻したとしても、すでにその存在自体が歴史からなかったことになっているため、戻らないそうです。
ですが、消滅には対義語があります」
「発生とか、あとは出現とかかな。
大厄災の魔法のからくりがわかってて、しかもテラで一番の魔法使いのステラなら、大厄災の逆の、救厄の魔法が編み出せるんじゃない?」
救厄の魔法?
そんなこと、ステラは考えたこともなかった。
「ジパングの陰陽師は精霊の力を借りているわけではありませんが、陰と陽とは、精霊でいうならば闇と光です。
それに、水の精霊の力は、攻撃魔法としても治癒魔法としても使えたはず。
同じ精霊の力でも、陰と陽、闇と光があるのではないですか?」
「同じ六柱の精霊の力をかけあわせて、消滅という陰の力とは逆の、陽にその力をもっていけば……
できるかもしれない……」
「前の世界まで、大厄災は、それを起こす者が現れるから止める、防ぐということしか考えられていませんでした。
ですがステラ、あなたはすでに二度大厄災を止めています。
10番目のテラに生まれながら、この11番目にも存在するあなたなら、大厄災を止めるだけでなく、きっとそれ以上のことができるはず」
「わたしたちが持つアカシックレコードを閲覧する権限をステラに貸すよ。
あそこには、これまでのテラの情報が全部あるから」
ステラのそばには、先ほどからずっとアリスがいた。
アリスは何も話しかけてくることもなく、ぼんやりと空を眺めていた。
アリスが知る空には、3つあったはずの月が、この時代にはひとつしかなかった。
彼女は自分が何のために生まれてきたのかわからなくなっていた。
元いた時代に帰っても、そこには彼女が愛した秋月蓮治はもういない。
秋月レンジが来なければ、彼が偽物だと気づくことはなかった。
だが、レンジが来てくれたおかげで、アリスとアレンとイリスは、カインを失わずにすんだ。
カインは、ルルワとアベルと共に、偽物であったとはいえ秋月蓮治と彼女が望んでいたような世界をきっと作っていってくれる。
あの世界には蓮治もレンジもいないが、大切な家族がいる。
自分が帰ればきっと喜んでくれる。
幸せに暮らしていけるはずだ。
だが、自分が「我々」に属する者でありながらも、秋月蓮治に肩入れをしてしまった結果、「我々」は自分を閉じ込めるためだけにこの世界を作り、偽物の蓮治までをも用意した。
この世界で起きている不幸は、すべて自分が発端なのだ。
そんな自分が幸せになっていいのだろうか?
そんな権利があるのだろうか?
魔法人工頭脳と魔痩躯という身体を持つこの世界で最初に産まれたアンドロイドが、アリスと次元の精霊を犠牲にすればアカシックレコードにある「我々」の本拠地にたどり着けると言ったとき、アリスは正直それもいいかなと思った。
だからあのとき、何も言わなかった。
だが、レンジはそれを許さなかったし、彼はすべてが終わった後、自分と共に自らを次元の彼方の時の牢獄に閉じ込めようとしているのがわかってしまった。
それはレンジが、アリスが知る秋月蓮治だからこその選択だった。
「わたしも、何かがしたい……」
アリスは、ふたりの女王と、そしてステラに言った。
「わたしなら、その『救厄の魔法』をステラと一緒に作れると思う」
「じゃあ、お願いできる?」
ステラの言葉に、アリスは大きく、うん、とうなづいた。
だから、サトシもどきによって前の世界での最終決戦時の身体に時を進まされたブライが、逆にその身体の時を巻き戻すのを待ってから、太陽の巫女の力で時の精霊の魔法を、その存在自体を消した。
これでもう、「我々」が時を巻き戻すことはない。
同時に、レンジたちもまた時を巻き戻すことはできない。
レンジたちを信じるしかなかった。
ステラは、レンジやピノアや父が必死で戦っているというのに、何もできない自分が歯がゆかった。
自分が戦うことを誰も望んではいないことはわかっていた。
それでも共に戦いたかった。
「ステラ、わたしたちもあなたと同じ気持ちです」
マヨリは、そんなステラに声をかけた。
「マヨリ……」
「そうだよ。わたしたちが一番強いとまでは言わないけど、あんな奴らくらい念じるだけで木っ端微塵にできるのにさ。
あいつらの目的がわたしたちを手に入れることだから、ここで留守番とかむかつく」
「リサ……」
「わたしたちは今、あなたのお父上から依頼を受け、この世界から一時的に時の精霊の魔法を、その存在自体を消滅させました。
『我々』が時を巻き戻すことはできなくなりましたが、同時にレンジたちもまた時を巻き戻すことや止めることはできなくなってしまいました」
「わたしたちもステラも、ほんとならあそこで戦ってなきゃいけない。それくらい強い。超強い。
でも、わたしたちにも、ステラにも戦えない理由があるわけじゃん?
普通なら二軍選手がバックアップにまわるところを、超一軍わたしたちがバックアップしてあげられるって考えてみて」
「ステラには、わたしたちにはできないことができるんじゃないかと、わたしたちは思うのです」
わたしにしかできないこと。
そんなことがあるのだろうか。
「あなたは、アンフィス・バエナ・イポトリルという者を覚えていますか?」
マヨリの問いに、ステラは「誰のこと?」と思うと同時に、なぜかその名前に聞き覚えがあるような気がした。
だが、思い出そうとすると、霧のようなもやのようなものが頭の中にかかったようになってしまい、頭が割れるように痛くなった。
「彼は先ほどまでここにいました。
そして、あの戦いの場に向かい、『我々』が持つ力によって、その存在自体がなかったことにされてしまいました」
「だから、アンフィスのことを覚えてるのは、わたしたち以外だとレンジだけっぽい。
あいつら、前の世界の大厄災の魔法を、範囲をひとりの人間に絞って撃てるみたいなんだよね」
「わたしたちはシャーマンであるため、魔法というものがよくわかりませんが、ステラなら大厄災の魔法がどんなものか把握しているはず」
大厄災の魔法とは、火、水、風、土、雷、光、六柱の精霊の力を掛け合わせた極大消滅魔法だった。
「消滅させられた者は、時の精霊の魔法で時を巻き戻したとしても、すでにその存在自体が歴史からなかったことになっているため、戻らないそうです。
ですが、消滅には対義語があります」
「発生とか、あとは出現とかかな。
大厄災の魔法のからくりがわかってて、しかもテラで一番の魔法使いのステラなら、大厄災の逆の、救厄の魔法が編み出せるんじゃない?」
救厄の魔法?
そんなこと、ステラは考えたこともなかった。
「ジパングの陰陽師は精霊の力を借りているわけではありませんが、陰と陽とは、精霊でいうならば闇と光です。
それに、水の精霊の力は、攻撃魔法としても治癒魔法としても使えたはず。
同じ精霊の力でも、陰と陽、闇と光があるのではないですか?」
「同じ六柱の精霊の力をかけあわせて、消滅という陰の力とは逆の、陽にその力をもっていけば……
できるかもしれない……」
「前の世界まで、大厄災は、それを起こす者が現れるから止める、防ぐということしか考えられていませんでした。
ですがステラ、あなたはすでに二度大厄災を止めています。
10番目のテラに生まれながら、この11番目にも存在するあなたなら、大厄災を止めるだけでなく、きっとそれ以上のことができるはず」
「わたしたちが持つアカシックレコードを閲覧する権限をステラに貸すよ。
あそこには、これまでのテラの情報が全部あるから」
ステラのそばには、先ほどからずっとアリスがいた。
アリスは何も話しかけてくることもなく、ぼんやりと空を眺めていた。
アリスが知る空には、3つあったはずの月が、この時代にはひとつしかなかった。
彼女は自分が何のために生まれてきたのかわからなくなっていた。
元いた時代に帰っても、そこには彼女が愛した秋月蓮治はもういない。
秋月レンジが来なければ、彼が偽物だと気づくことはなかった。
だが、レンジが来てくれたおかげで、アリスとアレンとイリスは、カインを失わずにすんだ。
カインは、ルルワとアベルと共に、偽物であったとはいえ秋月蓮治と彼女が望んでいたような世界をきっと作っていってくれる。
あの世界には蓮治もレンジもいないが、大切な家族がいる。
自分が帰ればきっと喜んでくれる。
幸せに暮らしていけるはずだ。
だが、自分が「我々」に属する者でありながらも、秋月蓮治に肩入れをしてしまった結果、「我々」は自分を閉じ込めるためだけにこの世界を作り、偽物の蓮治までをも用意した。
この世界で起きている不幸は、すべて自分が発端なのだ。
そんな自分が幸せになっていいのだろうか?
そんな権利があるのだろうか?
魔法人工頭脳と魔痩躯という身体を持つこの世界で最初に産まれたアンドロイドが、アリスと次元の精霊を犠牲にすればアカシックレコードにある「我々」の本拠地にたどり着けると言ったとき、アリスは正直それもいいかなと思った。
だからあのとき、何も言わなかった。
だが、レンジはそれを許さなかったし、彼はすべてが終わった後、自分と共に自らを次元の彼方の時の牢獄に閉じ込めようとしているのがわかってしまった。
それはレンジが、アリスが知る秋月蓮治だからこその選択だった。
「わたしも、何かがしたい……」
アリスは、ふたりの女王と、そしてステラに言った。
「わたしなら、その『救厄の魔法』をステラと一緒に作れると思う」
「じゃあ、お願いできる?」
ステラの言葉に、アリスは大きく、うん、とうなづいた。
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