「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

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【第三部 異世界転移奇譚 RENJI 3 - PINOA - 】「やったね!魔法少女ピノアちゃん大活躍!!編」

第194話 山汐メイ≠夏目凛 ②

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 凛が高校一年のとき、家に帰ると母が自殺していた。

 頼れるのは、父や祖父しかいなかったが、唯一の肉親も、暴力団同士の抗争で死んでしまっていた。

 凛には、家出少女が泊め男を探す神待ち掲示板に書き込み、一宿一飯の見返りに体を差し出すしか生きていくすべがなかった。

 そんな日々を毎日繰り返し、ひどく疲れていた凛は、すべてがどうでもよくなり、幼いメイにすべてを押し付け、頭の中に閉じ籠った。

 そんなときにミカナがメイを見つけてくれた。

 ミカナとタカミは、メイだけでなくツムギや凛、他の別人格たちを、ひとりの人間として扱ってくれた。

 それだけではなく、ハッカーだったタカミは、通話中の携帯電話が発する強力な電磁波を利用して、凛をはじめとするすべての人格をプログラムに変換し、携帯電話やパソコンに移し、管理することができるシステムを作ってくれた。

 別人格たちが、凛の脳の中で入れ替わるだけでなく、同じ場所に同時に存在し会話が可能な仮想空間を作ってくれた。


 異世界にはタカミとミカナ、メイだけでなく、彼のパソコンやメイが人格の数だけ所持していた携帯電話の中にいた凛たちもまた転移していた。

 そして、タカミはこの世界に戻ってくると、人格ひとりひとりに身体をくれた。

 かつて山汐メイとして異世界に行った身体は、現在は凛のものであり、メイは凛の身体をベースにした五歳年下の別の身体を持っていた。

 それによりタカミは手に入れた力をすべて使いきってしまった。


 凛もツムギも、ミカナやタカミでさえも誰も知らなかったが、メイは異世界でタカミと同じ力を手にしていた。

 それを23年も隠していたのは、タカミはきっと異世界で与えられた役割を果たすことにより力を失うことになるが、ミカナの力は残り、この世界に戻ってきても彼女の力を狙う者が現れるのではないか、とメイはずっと危惧していたからだった。

 そのときにミカナを守れるのは自分しかいない。
 そう考えていたからだった。

 そんな時が来ないことをずっと祈ってはいたが、真依からピノアがこの世界に来たと連絡があった瞬間、やっぱり来ちゃったか、とメイは思った。


 真依とLINEのやりとりをしながら、メイはツムギや凛たちに、すべてを話した。

 皆は驚いていたが、

「あのときのミカナがメイを見つけてくれなかったら、わたしたちはきっと死んでたよね……」

「タカミがどんどんひどくなっていく凛の病気を、なんとかしてくれた。
 それだけじゃなくて、わたしたちが兄妹として普通に会話できるような場所まで作ってくれた」

「ミカナとタカミは、ぼくたちひとりひとりを、ひとりの人間として、ひとつの命として、友達として、家族として、大事にしてくれた」

「わたしたちに身体までくれて、住む家だけじゃなく、会社を作って仕事もくれた。
 戸籍まで、なんとかしてくれた。
 わたしたちが持ってなかったものを何もかもくれた」

「メイは、ふたりに恩返しをしたいんだね」

「メイがしたいことをしたらいいよ」


 皆はそう言ってくれた。

 だが、メイは、ミカナの偽物を作らなければいけなかった。

 その偽物のミカナは、ミカナの代わりに殺されるためだけに産み出される存在だった。

 自分たちは凛が産み出した別人格に過ぎなかったのに、人として生きることができるようにしてもらった。

 そんな自分が、ミカナを守るために、ミカナの代わりに殺されるためだけのミカナの偽物を作ることには抵抗があった。


「メイが何を悩んでるかくらいわかるよ。
 だからメイが作るのは……」

「まずは、ミカナが持つ力を持たない、ミカナにそっくりの身体」

「でも、そのミカナは最低限の記憶を持ってなきゃいけない。
 ミカナの殺して命を奪おうとする者が話しかけてきたときに、会話が可能なようにしなきゃいけない。
 それは、自我を持つ命になってしまう」

「じゃあ、偽物を作るのはやめよう。
 メイはぼくをミカナの姿にするんだ」 

「それじゃツムギお兄ちゃんが死んじゃう!
 そんなことをしてミカナを助けても、ミカナもタカミお兄ちゃんもわたしたちも誰も喜ばない!!」

「メイが持ってる力は、ぼくを死なない身体にもできる力だよね?
 たとえ首をちぎられたり、心臓を潰されたとしても」

 可能だった。

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