「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

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【第三部 異世界転移奇譚 RENJI 3 - PINOA - 】「やったね!魔法少女ピノアちゃん大活躍!!編」

外伝「ピノアとミカナ」⑥ー2

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「あ、でも、一番驚いたのは世界中に神話がたくさんあることかも」

 確かに異世界には神話は救厄聖書しか存在していなかったな、とミカナは思った。
 救厄聖書自体も、彼女が「世界の理を変える力」によって生み出したものでしかなかったから、あの世界は本当は神話も宗教もひとつも存在しない世界だったのだ。
 改めて、いくら力に無自覚であったとはいえ、自分がしでかしてしまった罪の大きさをミカナは思い知らされた。

「最近、わたし思うんだよね。魔法が使えるわたしなら、こっちの世界のアンフィス、えっと、キリストだっけ? その人みたいに、新しい宗教の教祖になれるんじゃないかって」

 またこの子はとんでもないことを言い出したな、とミカナは思った。

「どんな宗教? 名前とかもうあるの?」

 だが、少し興味もあった。

 ピノアはアルビノの魔人という、異世界の人々の中でも、千年に一度生まれるかどうかという、人の何十倍も何百倍も優れた存在であったからだ。
 DNAの情報量が桁違いであるだとか、同じ景色を見ていても、その目に映る情報量が、魔人と人とでは全く異なっていると聞いていた。
 ピノアは異世界の精霊たちと一体化したこともあったらしい。
 もはや神の子や預言者と呼ばれる人たちと同等かそれ以上の存在ではないだろうかと思ったのだ。

「『アカシャの門』か『千のコスモの会』で悩んでる」

 ピノアはそう答えた。

「どっちも、うさんくささが半端ないな……」

 すでにそういう名前の新興宗教がありそうだとすら思えた。


「雨野ミカナさん、あなたには知りたい真実というものはありませんか?」


 ピノアは突然、口調や声色を変えてそう言った。
 普段の彼女とは全く違う、おごそかなものだった。
 顔を彼女の方に向けると、その表情もまた女神や聖母のように神々しく見えた。
 それもそのはずで、彼女は光を司る精霊の魔法で後光をまとっていたからだったのだが、ミカナがそれに気づいたのはこの一連のくだりが終わってからであった。


「わたしは、あなたが知りたいと願う真実だけでなく、世界中の人々が知りたいと願う真実を知ることができます。それらを知ることができる場所に、わたしはアクセスすることができるのです。
 ミカナさんはアカシックレコードというものをご存知ですか?
 宇宙の誕生から現在に至るまでのあらゆる事象が記録されているその場所ならば、どんな真実も情報として記録されているのです。
 データベースでしかなかったアカシックレコードに自我が生まれ、その自我が肉体を持ち、現世に顕現したのが、このわたし、アリステラピノアです。
 わたしは、世界中に無数に存在する神話の、創造主であるとされている神々よりも、より上位の存在。
 その証拠として、ミカナさん、あなたが知りたい真実を、わたしはひとつだけお教えしましょう」


 ミカナは、ピノアの言葉に吸い込まれてしまいそうになっている自分に気付き、慌てて頭を横に振った。
 洗脳されるということはこういうことか、と思った。危うく洗脳されそうになっていた。

 どうやら今回はただの冗談ではなさそうだ、と思ったのだが、

「だから、わたしといっしょに宗教やろうぜ!」

 うん、ただの冗談だった。

「いやいや、そんなバンドに誘うみたいに簡単に言われても」

「やろうよー、いっしょに宗教やろうよー」

「駄々っ子みたいに言ってもダメ。だって絶対お金目的だもん、ピノア」

 ピノアはむーっとかわいく頬を膨らますと、

「だってプレステ5とスイッチ欲しいんだもん」

 と言った。

「そんなことのために宗教はじめようとすんな。お前、この世界の宗教の勢力図的なもの、絶対塗り替える気だろ」

 日本にヴァチカン市国的なものを作りかねなかった。

「ちぇー、せっかくミカナをその気にさせるために、その服用意したのに」

「その気にならないから、そんなんじゃ。てか、この魔法少女服、2着でいくらしたの?」

「え、5万くらい?」

「プレステ5は無理でも、スイッチは余裕で買えるじゃん」

「ほ、ほんとだ……」

 ちなみに、支払いはピノアを養女にしたサトシのクレジットカードだそうだ。
 せっかくもらったから、月一くらいで着てみようとミカナは思った。

「でもね、ミカナが知りたい真実を、わたしが知っているのは本当だよ」

 ピノアはそう言い、

「あの世界の誰も、ミカナがしちゃったことを怒ったり憎んだりなんかしてないよ。確かに世界の理を変えたのはミカナかもしれない。だけど、その理の中で、みんな自分が正しいと信じることを選択して生きてきたし、今も生きてる。もう大厄災も起こらない。だから、ミカナはもう悩まなくていいんだよ」

 ミカナの顔を見て微笑んだ。
 その言葉だけで、ミカナは救われた気がした。



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