9 / 123
第2章 第1話
しおりを挟む
きっと雨野タカミは、自分が真夜中に出かけていることに気づいているだろう。雨合羽を着て街に出た少年は、そんなことを考えた。
いくら何もすることがないとはいえ、まだ二十代後半の彼が、毎晩10時に規則正しく就寝するはずがないからだ。入院患者でも消灯と同時には寝ない。
むしろ眠れない夜を過ごしているはずだった。いつも目の隈がひどかったし、数日に一度、まるで意識を失うように、どこ彼かまわず倒れるように眠りにつくことがあった。きっとあれ以外では眠ることができないのだろう。
兄は嘘が下手だと、少女からも聞いていた。やましいことがあるときは顔を見ればすぐにわかる、と。
彼はそういう人だった。
この雨野市では、一年中降り続く雨のおかげで、市外に比べ疫病の感染率が低く、ほとんどゼロに近い。
疫病の感染は気にする必要がなく、街を出歩く際に気を付けなければいけないのは暴徒だけだった。
少年はマンションから5分ほど歩いたところにあるコインロッカーの前で足を止めると、首にかけたネックレスの先についた鍵で、コインロッカーのひとつを開けた。
中にはサバイバルナイフと拳銃、そのふたつを納められる手製のガンベルトが入っている。少年は雨合羽の下にすばやくそれを装着した。
護身用などという甘いものではなく、少年は明確な殺意を持って、それを身につけていた。
雨合羽も、一見武装していることがわからないようにするためであり、雨を避けるためのものではなく、血渋きを避けるためのものだった。
タカミは少年が真夜中に街で何をしているかまでは知らないだろう。
だが、薄々勘づいてはいるはずだった。
夏場に首元の広いタンクトップを着ていた少年が前屈みになったとき、タカミの目の前でコインロッカーの鍵がこぼれ落ちたことがあったからだ。
あのとき、きっと何かしらには気づいたはずだ。
街に出かけた際に使用しており、部屋には持ち帰れず、コインロッカーに隠さなければいけないものがあるのだと。
少年はいつも首に、シルバーのチェーンに少女と買ったペアリングをふたつ引っ掛け、ネックレスにしてかけていた。
たまに、今夜のように、そのネックレスのチェーンが二重になっていることがある。
そんな夜は、少年が狩りをする夜だった。
暴徒は食糧を求めて人間を狩る。
その暴徒を狩るのが少年だ。
少年は、人間は大きく二種類に分けられると知っていた。
金や食糧に困ったときに、他者から奪ってでもそれを手に入れようとする者と、そんな状況下にあっても決してそうはしない者だ。
少年が愛した少女を生け贄に捧げようとした人々は前者であり、彼らは今暴徒と化している。
生け贄になるのが、少女から別の対象に移っただけだ。
少年は、暴徒化するような人間が心から憎かった。
誰ひとり生かしておこうとはどうしても思えなかった。
だから、見つけ次第ためらいなく射殺する。あるいは心臓を一突きする、頸動脈を切り裂くと決めていた。
いくら何もすることがないとはいえ、まだ二十代後半の彼が、毎晩10時に規則正しく就寝するはずがないからだ。入院患者でも消灯と同時には寝ない。
むしろ眠れない夜を過ごしているはずだった。いつも目の隈がひどかったし、数日に一度、まるで意識を失うように、どこ彼かまわず倒れるように眠りにつくことがあった。きっとあれ以外では眠ることができないのだろう。
兄は嘘が下手だと、少女からも聞いていた。やましいことがあるときは顔を見ればすぐにわかる、と。
彼はそういう人だった。
この雨野市では、一年中降り続く雨のおかげで、市外に比べ疫病の感染率が低く、ほとんどゼロに近い。
疫病の感染は気にする必要がなく、街を出歩く際に気を付けなければいけないのは暴徒だけだった。
少年はマンションから5分ほど歩いたところにあるコインロッカーの前で足を止めると、首にかけたネックレスの先についた鍵で、コインロッカーのひとつを開けた。
中にはサバイバルナイフと拳銃、そのふたつを納められる手製のガンベルトが入っている。少年は雨合羽の下にすばやくそれを装着した。
護身用などという甘いものではなく、少年は明確な殺意を持って、それを身につけていた。
雨合羽も、一見武装していることがわからないようにするためであり、雨を避けるためのものではなく、血渋きを避けるためのものだった。
タカミは少年が真夜中に街で何をしているかまでは知らないだろう。
だが、薄々勘づいてはいるはずだった。
夏場に首元の広いタンクトップを着ていた少年が前屈みになったとき、タカミの目の前でコインロッカーの鍵がこぼれ落ちたことがあったからだ。
あのとき、きっと何かしらには気づいたはずだ。
街に出かけた際に使用しており、部屋には持ち帰れず、コインロッカーに隠さなければいけないものがあるのだと。
少年はいつも首に、シルバーのチェーンに少女と買ったペアリングをふたつ引っ掛け、ネックレスにしてかけていた。
たまに、今夜のように、そのネックレスのチェーンが二重になっていることがある。
そんな夜は、少年が狩りをする夜だった。
暴徒は食糧を求めて人間を狩る。
その暴徒を狩るのが少年だ。
少年は、人間は大きく二種類に分けられると知っていた。
金や食糧に困ったときに、他者から奪ってでもそれを手に入れようとする者と、そんな状況下にあっても決してそうはしない者だ。
少年が愛した少女を生け贄に捧げようとした人々は前者であり、彼らは今暴徒と化している。
生け贄になるのが、少女から別の対象に移っただけだ。
少年は、暴徒化するような人間が心から憎かった。
誰ひとり生かしておこうとはどうしても思えなかった。
だから、見つけ次第ためらいなく射殺する。あるいは心臓を一突きする、頸動脈を切り裂くと決めていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる