21 / 123
第3章 第2話
しおりを挟む
テレビに映る新生アリステラ王国の女王アリステラピノアは、かつてのユワである。
だが、そのユワはショウゴが殺した。
アリステラピノアの言葉は大きく矛盾していた。
ショウゴがユワを殺したから、アリステラピノアが生まれた、ということだろうか。
だが、その場合、ユワの死は精神的、人格的なものでなければならないはずだ。
肉体的な死からは別人格は生まれない。
タカミには理解できないことばかりだった。
きっと今頃、一条刑事も困惑していることだろう。スマホが使えず、連絡が取れないことが歯がゆかった。
いや、もしかしたら使えるのかもしれない。
ショウゴを一瞬でもひとりにするのは不安だったが、タカミは自室にスマホを取りにいくことにした。
もう何年も触れることすらしなかったスマホを一体どこに置いたのか記憶になかったが、すぐに見つかった。スマホもタブレットも、パソコンのそばにあった。
電源ケーブルが抜かれたパソコンのモニターにも、同じ映像が流れていた。モニターだけではなくパソコン自体が起動していた。
スマホの画面にも同じだ。
だがスマホ充電は0%のままだった。充電されているわけではないが、電力とは別の方法で起動しているということだ。おそらくテレビやパソコンもまた。
4G回線にもWi-Fiにも繋がってはいないが、映像は何らかの手段で送られてきている。
だからといって、送ることができるかどうかは別問題だ。この通信手段はこちらが受けとることが可能なだけの一方的なものかもしれない。
だが、試してみる価値はあった。
ホームアイコンに触れると、映像からホーム画面に切り替わった。ハッキングされていて、映像を見ることしかできない可能性もあったが、どうやらそこまではされていないようだった。
無料通話アプリを開くと、一条刑事やユワだけでなく、懐かしい名前がそこにあった。
タカミにハッカーとしてのイロハを教えてくれた小久保ハルミだ。
直接会ったことはなかったが、彼女は一時期世間を賑わせた有名な科学者であり、本人である証明としてビデオ通話をしてくれたこともあった。タカミの初恋の相手だった。
ユワから紹介されたマヨリやリンという友達の名前もあった。
「わたしは皆さんに謝罪しなければいけないことがあります。
それは、数年前から起きている世界中のあらゆる災厄についてです」
パソコンのモニターやタブレットでは、アリステラピノアの演説は続いていた。
懐かしさに耽っている場合ではなかった。
『一条さん、テレビかスマホを観ているか?』
タカミは一条刑事にチャットメッセージを送信した。
すぐに既読になり、返事があった。
『観ている。まさかスマホが使えるとは思わなかった。君の柔軟な発想には毎度驚かされるよ』
チャットだけでなく通話も可能だったが、一条刑事にも何が起きているのか全くわからないということだった。
警察という組織自体がもはやあってないようなものであるため、警視庁公安部の所属であった彼は今、実家に戻り自警団のような活動を個人でしているという。
無給で暴徒を鎮圧し、か弱い人々を助けているということだろう。赤の他人のために無給で命をかけられる彼を、タカミは心から尊敬した。
「同じ県内だ。少し時間はかかるだろうが、一度そちらに向かう」
「もし車のカーナビにも映像が映っていたら、たぶん車も動くと思う」
「そうか。一度試してみる」
一条刑事はそう言って通話を切り、タカミはスマホを片手にリビングに戻った。
ショウゴはテレビにかじりつくようにして、アリステラピノアの演説を聞いていた。
「災厄は、確かに数百年前に滅亡を迎えたアリステラ王国が仕組んだものでした。
そして、雨野ユワは間違いなくアリステラの王族の最後の末裔でした。
しかし、雨野ユワを殺し、アリステラの王族の血を途絶えさせればあらゆる災厄が終わるというのは、わたしの部下たちが流したデマです」
いつの間にか、彼女のそばにはひとりの女が立っていた。
その女をタカミは知っていた。
電力もなしでテレビやパソコンを起動させる方法はともかく、世界中の映像端末を同時にハッキングするくらいのことは、彼女にとっては容易いことだろう、と納得してしまう自分がいた。
彼女が、現代人ではなくアリステラの側についた理由も理解できた。
「アリステラの王族の最後の末裔の死によって、あらゆる災厄は加速し、肥大化し、世界は終焉を迎える。
それが、滅亡を間近に控えたアリステラが仕組んだプログラムでした。
あなたたちにこれまで通りこの世界を任せるか、アリステラが再び世界を治めるか、一体どちらがふさわしいか。
それを見定めるために、我々はあなたたちにひとつの選択を迫り、あなたたちの資質を試したのです」
それが、ひとりの少女のために70億の命を犠牲にするか、あるいは70億の命のためにひとりの少女を犠牲にするかという選択だったということだろう。
「この世界の誰もが、ひとりの少女の死を望みました。
犠牲になる少女が、もし自分であったなら、もし自分の家族や恋人が犠牲にならなければいけなくなったなら、とは考えもしなかった。
あなたたちひとりひとりが、犠牲になる少女やその恋人、家族の立場に立って考えるということを放棄した」
あなたたちは自ら滅びの選択をしたのです、
とタカミがよく知る女性は語った。
アリステラと彼女が仕掛けたブービートラップに、現代人はまんまと引っ掛かってしまったというわけだ。
だが、そのユワはショウゴが殺した。
アリステラピノアの言葉は大きく矛盾していた。
ショウゴがユワを殺したから、アリステラピノアが生まれた、ということだろうか。
だが、その場合、ユワの死は精神的、人格的なものでなければならないはずだ。
肉体的な死からは別人格は生まれない。
タカミには理解できないことばかりだった。
きっと今頃、一条刑事も困惑していることだろう。スマホが使えず、連絡が取れないことが歯がゆかった。
いや、もしかしたら使えるのかもしれない。
ショウゴを一瞬でもひとりにするのは不安だったが、タカミは自室にスマホを取りにいくことにした。
もう何年も触れることすらしなかったスマホを一体どこに置いたのか記憶になかったが、すぐに見つかった。スマホもタブレットも、パソコンのそばにあった。
電源ケーブルが抜かれたパソコンのモニターにも、同じ映像が流れていた。モニターだけではなくパソコン自体が起動していた。
スマホの画面にも同じだ。
だがスマホ充電は0%のままだった。充電されているわけではないが、電力とは別の方法で起動しているということだ。おそらくテレビやパソコンもまた。
4G回線にもWi-Fiにも繋がってはいないが、映像は何らかの手段で送られてきている。
だからといって、送ることができるかどうかは別問題だ。この通信手段はこちらが受けとることが可能なだけの一方的なものかもしれない。
だが、試してみる価値はあった。
ホームアイコンに触れると、映像からホーム画面に切り替わった。ハッキングされていて、映像を見ることしかできない可能性もあったが、どうやらそこまではされていないようだった。
無料通話アプリを開くと、一条刑事やユワだけでなく、懐かしい名前がそこにあった。
タカミにハッカーとしてのイロハを教えてくれた小久保ハルミだ。
直接会ったことはなかったが、彼女は一時期世間を賑わせた有名な科学者であり、本人である証明としてビデオ通話をしてくれたこともあった。タカミの初恋の相手だった。
ユワから紹介されたマヨリやリンという友達の名前もあった。
「わたしは皆さんに謝罪しなければいけないことがあります。
それは、数年前から起きている世界中のあらゆる災厄についてです」
パソコンのモニターやタブレットでは、アリステラピノアの演説は続いていた。
懐かしさに耽っている場合ではなかった。
『一条さん、テレビかスマホを観ているか?』
タカミは一条刑事にチャットメッセージを送信した。
すぐに既読になり、返事があった。
『観ている。まさかスマホが使えるとは思わなかった。君の柔軟な発想には毎度驚かされるよ』
チャットだけでなく通話も可能だったが、一条刑事にも何が起きているのか全くわからないということだった。
警察という組織自体がもはやあってないようなものであるため、警視庁公安部の所属であった彼は今、実家に戻り自警団のような活動を個人でしているという。
無給で暴徒を鎮圧し、か弱い人々を助けているということだろう。赤の他人のために無給で命をかけられる彼を、タカミは心から尊敬した。
「同じ県内だ。少し時間はかかるだろうが、一度そちらに向かう」
「もし車のカーナビにも映像が映っていたら、たぶん車も動くと思う」
「そうか。一度試してみる」
一条刑事はそう言って通話を切り、タカミはスマホを片手にリビングに戻った。
ショウゴはテレビにかじりつくようにして、アリステラピノアの演説を聞いていた。
「災厄は、確かに数百年前に滅亡を迎えたアリステラ王国が仕組んだものでした。
そして、雨野ユワは間違いなくアリステラの王族の最後の末裔でした。
しかし、雨野ユワを殺し、アリステラの王族の血を途絶えさせればあらゆる災厄が終わるというのは、わたしの部下たちが流したデマです」
いつの間にか、彼女のそばにはひとりの女が立っていた。
その女をタカミは知っていた。
電力もなしでテレビやパソコンを起動させる方法はともかく、世界中の映像端末を同時にハッキングするくらいのことは、彼女にとっては容易いことだろう、と納得してしまう自分がいた。
彼女が、現代人ではなくアリステラの側についた理由も理解できた。
「アリステラの王族の最後の末裔の死によって、あらゆる災厄は加速し、肥大化し、世界は終焉を迎える。
それが、滅亡を間近に控えたアリステラが仕組んだプログラムでした。
あなたたちにこれまで通りこの世界を任せるか、アリステラが再び世界を治めるか、一体どちらがふさわしいか。
それを見定めるために、我々はあなたたちにひとつの選択を迫り、あなたたちの資質を試したのです」
それが、ひとりの少女のために70億の命を犠牲にするか、あるいは70億の命のためにひとりの少女を犠牲にするかという選択だったということだろう。
「この世界の誰もが、ひとりの少女の死を望みました。
犠牲になる少女が、もし自分であったなら、もし自分の家族や恋人が犠牲にならなければいけなくなったなら、とは考えもしなかった。
あなたたちひとりひとりが、犠牲になる少女やその恋人、家族の立場に立って考えるということを放棄した」
あなたたちは自ら滅びの選択をしたのです、
とタカミがよく知る女性は語った。
アリステラと彼女が仕掛けたブービートラップに、現代人はまんまと引っ掛かってしまったというわけだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる