ひとりの少女を守るために70億の命を犠牲になんてできないから、ひとりの少女を犠牲にしてみた結果、事態がさらに悪化した件。

あめの みかな

文字の大きさ
29 / 123

第3章 第10話

しおりを挟む
「アリステラの軍事力を支えていたエーテルは、人の意思に感応し、炎や氷、風や土、雷を自在に操ることが可能でした。
 アリステラでは『エーテライズ』と呼ばれていましたが、あなた方の言葉では魔法と呼ばれるものにとても近いでしょう。
 滅亡を間近に控えた頃、当時の女王は自らの体内に残ったわずかなエーテルを使い、王族の末裔の血が途絶えることになった際には、天変地異によってホモサピエンスが滅亡するように、森羅万象をエーテライズしたのです」

 それがあらゆる災厄のからくりだという。

「この10万年間、アリステラの王族と民の末裔は、ホモサピエンスと交じり、子を遺して命を繋いできました。
 元の世界に帰ることもかなわなかった我々は、この世界で生きることしかできなかったのです。
 女王の末裔は、ミトコンドリアにわずかなエーテルを宿し、女王となる資格を持つ女子にだけエーテルが引き継がれていくように。
 民の末裔は、アリステラの再興の準備のためにその生涯を捧げてきました。それは、ホモサピエンスによって失われたアリステラの文明をエーテルを用いずに再現すること。
 それが、災厄が訪れる前までにあなたがたが享受していた文化や芸術、学問、科学なのです。
 そして、14年前、この世界で世紀の大発見をしたひとりの女性科学者が現れました。
 こちらの女性に見覚えがある方も多いはずです」

 小久保ハルミが再びテレビに映し出された。

「彼女が発見した千年細胞は、10万年前に純血のアリステラ人が持っていた不老長寿の細胞にとてもよく似ていました。
 しかし彼女の発見は、一部の権力者たちだけが独占するために、その存在自体が否定されてしまいました。彼女は学会を終われ、希代の詐欺師と揶揄されるようになりました。
 我々アリステラは、彼女に接触し、協力を仰ぎました。
 彼女の身体の中に生きる千年細胞を分け与えてもらい、純血のアリステラ人に限りなく近い身体を取り戻したのです。
 そして、彼女は更なる大発見をアリステラのためにしてくれました。
 千年細胞を元に、より強力な力を持ち、決して枯渇することがない新たなエーテルを生み出してくれたのです」

 すべての準備が整った4年前、アリステラは局地的な大災害や疫病をエーテライズし、ホモサピエンスの恐怖を煽った。
 そこに、アリステラの王族の末裔の血筋を絶てば、あらゆる災厄は終わりを告げるというデマを拡散し、ホモサピエンスはまんまとそれにひっかかった。

「あなた方ホモサピエンスが、アリステラを滅亡に追いやった。
 アリステラは確かに一度はあなた方を支配しました。
 しかし、最初に攻めてきたのはあなた方ホモサピエンスなのです。
 この10万年の間、我々が世界各地に何度文明を築いても、ホモサピエンスによって滅ぼされてきました。
 その度に我々は文明を一から作り直してきました。
 ですから、野蛮なホモサピエンスのあなた方には、我々が味わった10万年の屈辱をぜひご堪能頂きたいとわたしは考えています」

 我々が味わった10万年に比べれば、あなた方の屈辱や苦痛は一瞬です、と女王は言った。

「あなた方は間もなく滅亡を迎えることになるからです。
 それでようやく、あらゆる災厄は終わりを告げ、あなた方の数十億の屍の上に新生アリステラ王国は建国されるのです」


 一条刑事がタカミとショウゴが住むマンションを訪れたのは、無料通話アプリでの通話から3時間後のことだった。

 タカミが予想した通り、車のカーナビにも新生アリステラ王国の再興を宣言する映像が映っており、ガス欠のはずの車のエンジンもかかったそうだ。
 だが、数年振りに取り戻した移動手段は、道路に転がる無数の屍の妨害を受け、思ったよりも時間がかかってしまったらしい。

「本当にあの日から、この雨は止まずにずっと降り続けているんだな」

 地下駐車場に愛車の赤いオープンカー、マツダ・ロードスターを停めて、玄関ロビーに入ってきた彼は、悲しげな表情でそう言った。
 あの日を思い出したのだろう。あの日もこの車だった。この車にユワの死体と泣きじゃくるショウゴを乗せた。

 一条刑事は、「観ていたか?」とタカミに尋ねた。
 お前は信じられるか?あんな荒唐無稽な話、と。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...