31 / 123
第4章 第2話
しおりを挟む
「君のことだ。アリステラがあの放送をどこから流していたのか、すでに調べはついているんだろう?」
「当然だよ」
タカミと一条のそのやりとりは、かつて共にいくつものテロを未然に防いだときと変わらないものだった。
複数の海外サーバーを経由しているため発信源の特定は困難、そんな言葉が災厄前の刑事ドラマなどではよく飛び交っていた。
だが、あんなものは物語上の都合か、現実でもそういうことがあったのだとしたら、サイバー犯罪課に所属していた技術者の能力が低かったのかのどちらかでしかない。
たとえ世界中のサーバーを無数に何重も経由していようが、発信源を特定することはあみだくじをゴールからスタートへと遡るのと同じだ。その迷路が単純か複雑かの違いしかないからだ。
「とはいえ、敵は10万年前の超古代文明か……」
一条は遠い目をすると、一筋縄じゃいかないな、と苦笑した。
「この国だけじゃなく世界中の軍隊が壊滅状態だ。俺たちにできるのは君のハッキングくらいか」
「ハッキングでどうにかなる相手ならいいけどね。アリステラ人が全員電脳化してくれてるとか」
「攻殻機動隊か。懐かしいな。
まぁ、軍隊が残っていたところで、現代の軍隊じゃ到底相手にならないだろうな」
「そうだね、敵は災害や疫病を自在に起こせる」
それも、この4年間で世界中から法治国家がすべて機能しなくなるほどのレベルで、だった。
「アリステラとこっちとでは、そもそも軍事力というもののとらえ方が違うんだ。
奴らは軍や兵器といったものを必要としていない。エーテルという万能物質と、それを扱えるアリステラ人さえいればいいんだ」
10万年前はどうだったかまではわからない。
英雄アンフィスが13人のネアンデルタール人の弟子と軍を従えて、と言っていたから、アリステラの言葉でエーテライズというらしい魔法のようなものを主流とした戦いをしていたのだろうとは思う。
だが、敵は今、そういう戦争をしかけてきている。
「野蛮なホモサピエンスに出来ることは、エーテルの使い手を始末することくらいだろうね」
それはもしかしなくとも、ユワに瓜二つのあの女王を殺す、ということだった。
そんなことはタカミには出来るはずもなかった。ショウゴはもちろん一条にも、誰にもさせたくはなかった。
タカミは一条を自室に案内した。
パソコンのモニターは3面あり、そのひとつには、すでにアリステラによる放送の発信源が示されていた。
別のモニターでは、生前のユワや時の人として扱われていた時代の小久保ハルミの写真や映像と、アリステラの放送のふたりが同一人物であるかどうかの解析結果が出ていた。
同一人物である可能性は、どちらも99.14159265359%と表示されていた。
「やはり同一人物か」
今はそう信じざるを得なかった。
「発信源はヤルダバの首都アルコンだな」
ヤルダバは中東にある小さな国だが、ノーベル賞受賞者を数多く排出し、産業革命以後現代に至るまで、常に科学で世界を牽引し続けてきた国だった。
その領土は決して広くはなく、それに比例し人口も多くはないものの、鉱物資源に非常に恵まれた土地であり、かつては鉄やアルミ、銅などのベースメタルの世界一の産出国であり、現代になると希少なレアメタルやレアアースの世界一の産出国となっていた。
この四年でヤルダバがどうなっているのかは情報がないからわからないが、災厄前は世界で最も文明が進んでいるとされていた国のひとつだ。
「確か近親婚が多いから、天才が生まれやすいと言われている国だったな」
一条の言う通りだったが、近親婚が多くの国で禁止される原因である、死産や遺伝性疾患の罹患率の上昇が、この国では全く見られないという。
そのことから、宗教的観点から「近親婚が唯一許された現人神の住まう国」と呼ばれることもあれば、科学的、あるいは都市伝説的観点から「太古から遺伝子操作技術を持つ禁忌の国」と呼ばれることもある謎の多い国でもあった。
「核分裂反応を最初に発見したのも、確かこの国の三人の化学者だったな」
「ラーガル・アザトスにレオナルド・スカニヤ、それからブライ・グノシス。
核兵器と原子力発電の始祖、ヤルダバの三賢人だよ」
化学者たちの名前を口にして、タカミは違和感を覚えた。
それは一条も同じだったようだ。
「ブライ? あの女王もその名前を口にしていなかったか?」
アリステラの父、ブライ。確か女王はそう言っていた。
女王が手にしていた古文書のひとつもまたブライ聖典というものだった。
名前の一致などよくあることだ。ただの偶然だと片付けることもできるだろう。
だが、アリステラと何の関係もない場所からあの放送が発信されていたとも思えなかった。
「10万年前にアリステラが国ごと異世界から転移してきたのが、ヤルダバの地だったのかもしれないね」
「異世界の土地が含まれていたから、鉱物資源に富み、科学で世界を牽引することができたというわけか」
その可能性は十分にあった。
「それに、ヤルダバは、一年前にユワの遺体を輸送中だった飛行機がその消息を絶ったところだよ」
間違いなかった。
ユワとハルミは今、ヤルダバにいる。
「当然だよ」
タカミと一条のそのやりとりは、かつて共にいくつものテロを未然に防いだときと変わらないものだった。
複数の海外サーバーを経由しているため発信源の特定は困難、そんな言葉が災厄前の刑事ドラマなどではよく飛び交っていた。
だが、あんなものは物語上の都合か、現実でもそういうことがあったのだとしたら、サイバー犯罪課に所属していた技術者の能力が低かったのかのどちらかでしかない。
たとえ世界中のサーバーを無数に何重も経由していようが、発信源を特定することはあみだくじをゴールからスタートへと遡るのと同じだ。その迷路が単純か複雑かの違いしかないからだ。
「とはいえ、敵は10万年前の超古代文明か……」
一条は遠い目をすると、一筋縄じゃいかないな、と苦笑した。
「この国だけじゃなく世界中の軍隊が壊滅状態だ。俺たちにできるのは君のハッキングくらいか」
「ハッキングでどうにかなる相手ならいいけどね。アリステラ人が全員電脳化してくれてるとか」
「攻殻機動隊か。懐かしいな。
まぁ、軍隊が残っていたところで、現代の軍隊じゃ到底相手にならないだろうな」
「そうだね、敵は災害や疫病を自在に起こせる」
それも、この4年間で世界中から法治国家がすべて機能しなくなるほどのレベルで、だった。
「アリステラとこっちとでは、そもそも軍事力というもののとらえ方が違うんだ。
奴らは軍や兵器といったものを必要としていない。エーテルという万能物質と、それを扱えるアリステラ人さえいればいいんだ」
10万年前はどうだったかまではわからない。
英雄アンフィスが13人のネアンデルタール人の弟子と軍を従えて、と言っていたから、アリステラの言葉でエーテライズというらしい魔法のようなものを主流とした戦いをしていたのだろうとは思う。
だが、敵は今、そういう戦争をしかけてきている。
「野蛮なホモサピエンスに出来ることは、エーテルの使い手を始末することくらいだろうね」
それはもしかしなくとも、ユワに瓜二つのあの女王を殺す、ということだった。
そんなことはタカミには出来るはずもなかった。ショウゴはもちろん一条にも、誰にもさせたくはなかった。
タカミは一条を自室に案内した。
パソコンのモニターは3面あり、そのひとつには、すでにアリステラによる放送の発信源が示されていた。
別のモニターでは、生前のユワや時の人として扱われていた時代の小久保ハルミの写真や映像と、アリステラの放送のふたりが同一人物であるかどうかの解析結果が出ていた。
同一人物である可能性は、どちらも99.14159265359%と表示されていた。
「やはり同一人物か」
今はそう信じざるを得なかった。
「発信源はヤルダバの首都アルコンだな」
ヤルダバは中東にある小さな国だが、ノーベル賞受賞者を数多く排出し、産業革命以後現代に至るまで、常に科学で世界を牽引し続けてきた国だった。
その領土は決して広くはなく、それに比例し人口も多くはないものの、鉱物資源に非常に恵まれた土地であり、かつては鉄やアルミ、銅などのベースメタルの世界一の産出国であり、現代になると希少なレアメタルやレアアースの世界一の産出国となっていた。
この四年でヤルダバがどうなっているのかは情報がないからわからないが、災厄前は世界で最も文明が進んでいるとされていた国のひとつだ。
「確か近親婚が多いから、天才が生まれやすいと言われている国だったな」
一条の言う通りだったが、近親婚が多くの国で禁止される原因である、死産や遺伝性疾患の罹患率の上昇が、この国では全く見られないという。
そのことから、宗教的観点から「近親婚が唯一許された現人神の住まう国」と呼ばれることもあれば、科学的、あるいは都市伝説的観点から「太古から遺伝子操作技術を持つ禁忌の国」と呼ばれることもある謎の多い国でもあった。
「核分裂反応を最初に発見したのも、確かこの国の三人の化学者だったな」
「ラーガル・アザトスにレオナルド・スカニヤ、それからブライ・グノシス。
核兵器と原子力発電の始祖、ヤルダバの三賢人だよ」
化学者たちの名前を口にして、タカミは違和感を覚えた。
それは一条も同じだったようだ。
「ブライ? あの女王もその名前を口にしていなかったか?」
アリステラの父、ブライ。確か女王はそう言っていた。
女王が手にしていた古文書のひとつもまたブライ聖典というものだった。
名前の一致などよくあることだ。ただの偶然だと片付けることもできるだろう。
だが、アリステラと何の関係もない場所からあの放送が発信されていたとも思えなかった。
「10万年前にアリステラが国ごと異世界から転移してきたのが、ヤルダバの地だったのかもしれないね」
「異世界の土地が含まれていたから、鉱物資源に富み、科学で世界を牽引することができたというわけか」
その可能性は十分にあった。
「それに、ヤルダバは、一年前にユワの遺体を輸送中だった飛行機がその消息を絶ったところだよ」
間違いなかった。
ユワとハルミは今、ヤルダバにいる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる