ひとりの少女を守るために70億の命を犠牲になんてできないから、ひとりの少女を犠牲にしてみた結果、事態がさらに悪化した件。

あめの みかな

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第8章 第12話

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 生前の彼女は決してこんな女性ではなかったということは勿論わかっていた。
 知識の館が有する情報の一部になってしまったために、彼女の意識が消滅してしまっただけだ。

「これ以上はもういいですわ、お姉様、お母様、叔母様」

 いずれ、アンナや母、叔母たちも、こんな風になってしまうのだ。
 彼女たちにとってもあまり見たい光景ではないだろう。

「わたくしが間違っていました。
 やはりわたくしは今のユワさんにはお会いするべきではありませんでしたね」

 レインがそう言い終えると、ユワの姿が消えた。
 消える瞬間、わずかにユワの表情が変わったように見えた気がしたが、たぶん気のせいだろう。

「それでは、レイン、はじめましょうか」

「えぇ、お姉様」

「アリステラの歴代の女王と」

「すべての女王の資格を持つ者たちの知識と記憶、経験を」

「「「「アリステラの真の最後の女王に」」」」

 アンナや母、叔母たちの言葉と共に、アリステラと地球の10万年に渡る歴史の記憶が、レインの頭の中に流れ込んできた。


「紀元前98,000年頃、ブライ暦2022年、機械仕掛けの魔女ディローネにより、天の川銀河の中心から約26,000光年離れた、オリオン腕の中に位置する太陽系第3惑星地球が移住先の候補に上がる。
 1000年前に大賢者ピノアによって、すでに確立されていた移住方法であるエーテライズ・ゲートにより、アリステラ王国の首都ブライアと12の周辺都市が地球への移住に成功。
 地球のユーラシア大陸の中東への移住後まもなく、アリステラは近隣諸国の攻撃を受ける。
 そのため、アリステラは近隣諸国から迫害や虐殺を受けていた亜人ら(ネアンデルタール人ら)と同盟関係を結ぶ。
 アリステラの軍人アンフィスが、亜人らから13人の弟子を取り、アリステラの大気と共に地球にやってきたエーテルの扱い方を教え、アリステラと亜人らの同盟軍を指揮する。
 ブライ暦2026年、アリステラはユーラシア大陸全土を支配。アンフィスは女王から英雄の称号を、13人の弟子は賢者の称号を与えられる。
 ブライ暦2029年、英雄アンフィスとその弟子である賢者5人が謎の自害を遂げる。
 ブライ暦2108年、アリステラ王国のエーテルが枯渇しはじめる。城塞戦車キャッスルチャリオットや飛翔艇オルフェウス、人造人間サタナハマアカなどに搭載された魔導人工頭脳シドはその活動を次々と停止。
 アリステラの軍事力の低下が始まる。
 ブライ暦2109年、エーテルの枯渇を知ったアリステラの支配下にあった108の国家が、アリステラに対し反旗を翻す。
 ブライ暦2113年、アリステラ王国滅亡。女王をはじめとする王族関係者、4人の賢者、軍の将軍らが処刑される。皇女ひとりと4人の賢者が処刑を免れ行方不明となる。
 108の国家において、アリステラ人やアリステラの血を引く者たちへの拷問や虐殺が始まる。純粋アリステラ人は後にヤルダバと呼ばれるようになる地に逃れ、アリステラの血を引く者たちは、ユーラシア大陸以外の土地に移民を開始する」

 レインの前から姿を消した後も、雨野ユワは抑揚のない声で、アリステラの歴史を暗唱し続けていた。

 知恵の館バイトゥルヒクマが崩壊を始めていたが、ユワがそれを気にする様子はなかった。

 ただ、

「ショウゴくん……」

 と、懐かしむように生前に恋人だった少年の名を呼んだ。

「さっきの女の人、今ショウゴくんやお兄ちゃんと一緒にいるんだ……」

 いいな、うらやましいな、とユワは崩壊していく知恵の館の中で、

「あの人が、生け贄にされればよかったのに」

 最後にそう思い、そして彼女の精神は知恵の館と共に完全に消滅した。


 なんだか、とても長い夢を見ていた気がする。
 目を覚ましたレインは、そう思った。

 どんな夢を見ていたのかさえ、彼女は覚えてはいなかった。
 だが、不思議と涙がこぼれてきた。
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