ひとりの少女を守るために70億の命を犠牲になんてできないから、ひとりの少女を犠牲にしてみた結果、事態がさらに悪化した件。

あめの みかな

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第9章 第1話

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 2026年10月31日午前6時36分、南海トラフ大地震が発生した。

 気象庁がかつて全国各地に設置していた計測震度計は、静岡県から宮崎県にかけての一部で震度7、それに隣接する周辺の広い地域でも震度7、その他の地域も日本列島すべての計測震度計が震度7の強い揺れを計測した。

 だが、実際の揺れは静岡県から宮崎県にかけては震度10を超えていただろう。隣接する周辺の広い地域は震度9以上、その他の地域もすべて震度8以上はあったと思われた。

 すべての計測震度計が震度7を計測したのは、災厄の時代が訪れる前の気象庁の資料によれば「震度7は最大級の被害をもたらすものと認識されており、防災対応も最大級の措置が取られるため、それ以上の震度を出しても意味がない」とされており、震度7以上の震度は設定されていなかったからだった。
 そのため「震度7」には上限がない。
 どんなに強い揺れが発生しても、「震度7」になってしまうのだ。

 新生アリステラが起こした天変地異であろうこの巨大地震は、気象庁がかつて想定していた南海トラフ巨大地震をはるかに上回るものであり、その数分後には東海大地震や東南海地震を誘発し、三連動巨大地震を引き起こした。

 これにより、本州は東西に真っ二つに割れた。
 関東地方から九州地方にかけての太平洋沿岸の広い地域に30mを超える大津波が襲来し、日本列島はその大半が海に沈んだ。

「まるで太陽の黙示録、いや日本沈没だな」

 雨野タカミは、マンションの最上階のリビングの窓からその光景を眺めていた。
 彼がそんなふうにその光景を漫画や映画に例えながら冷静に眺めていられたのは、すでに世界中で超巨大地震や大津波による災厄が起きていたからであり、いつかは日本もそうなるかもしれないとあらかじめ覚悟していたからでもあったが、最大の理由は、

 何故か雨野市だけはこの超巨大地震を免れていたからだった。
 津波も雨野市だけを避けていってしまった。

「どういうことなのかな? こんなに大きな地震が起きてるのに、少しも揺れやしないなんて。
 うちのじいさんやばあさんが子どもの頃に起きた伊勢湾台風の後、堤防がしっかり作られたとは聞いてたけど」

 タカミの隣で、同じ光景を眺めていたショウゴが疑問を口にした。

 何故雨野市だけがこの超巨大地震を免れたのか、タカミには新生アリステラの気まぐれとしか思えなかった。
 天変地異を起こすだけでなく、その範囲内に含まれる土地の一部だけを範囲から外すなんて芸当は、もはや神の御業だ。
 雨野市は、その住人だけを乗せる方舟のようだった。

 ショウゴの言う堤防も、半世紀以上前に作られたものであり、スーパー堤防と呼ばれるものではなく、当然30mを超える大津波に耐えられるようなものではなかった。
 雨野市は、そのほとんどが海抜ゼロメートル以下の土地であり、ひとたび津波に襲われれば半世紀前の堤防など一瞬で粉々に破壊され、街は数分もかからずに壊滅していただろう。

「簡単なことですわ。雨野市は4年間ずっと、災厄が起き続けているんですもの」

 ふたりの後ろで、レインがいつも通りの口調で明るく言った。
 まるで地震や津波、本州分断、沈没などには興味がないとでも言うかのように、ソファーに寝転がり4年以上前のファッション雑誌を読んでいた。

「どういう意味だい?」

「この街は4年前に雨野ユワさんが亡くなったときから、雨がずっと降り続けていますでしょ?
 この雨は、アンナが死の間際に発現させた『他者の肉体への憑依』と同じで、ユワさんが死の間際に発現させた『天候を操る能力』なんです。
 ユワさんは、この街に雨が降り続け止むことがない代わりに、他のどんな災厄も起こらなくしたんです」

「だからこの街じゃ疫病も流行らなかったし、雨以外の局地的な大災害も起こらなかったってこと?」

 ショウゴの問いにレインは頷いた。

「ユワさんはきっと、ショウゴさんやタカミさんを死なせたくなかったんでしょうね。
 能力の発現には多分無自覚で無意識に、だったんだと思います。
 アリステラの女王の末裔だけが体内に持つ純正のエーテルを使って起こした災厄は、千年細胞から作られたまがい物のエーテルを使った災厄などとは、比べ物にならないほど強い呪いのようなもの。
 この雨は、どんな災厄も跳ね返すほどの強い災厄なんです」

「どうして君がそんなことを知ってるんだ?」

 タカミの問いに、レインはぽかんとした顔をした。

「どうしてでしょう?」

「それを聞いてるんだけどね」

「何故だかわかってしまうんです」

 わかってしまうというよりは、知っている、知識があり、記憶があり、経験があるのだと、レインは言った。
 昨日までそんなものは彼女にはなかったらしい。確かにそんな素振りは一度も見せたことはなかった。
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