ひとりの少女を守るために70億の命を犠牲になんてできないから、ひとりの少女を犠牲にしてみた結果、事態がさらに悪化した件。

あめの みかな

文字の大きさ
89 / 123

第10章 第2話

しおりを挟む
 女王の間へと続く道は、新生アリステラの兵士たちの死体が教えてくれた。
 無論、死体がしゃべりタカミに道順を教えてくれたというわけではない。

 城塞戦車への侵入に成功した者から、兵士たちは女王を守ろうと必死に警護を固めた結果、逆に女王の間へ続く道を教えてしまることになってしまったのだ。
 次々と侵入者の憑依能力の犠牲になり、脳を破壊された兵士たちの亡骸は、今度はタカミという侵入者にも女王の間へと続く道を教えてしまっていた。
 おそらくショウゴやレインにも。

 レインが話してくれたクルヌギアのおとぎ話にあった王族の末裔と4人の賢者の話が実話であったなら、遣田ハオトは1万2000年前に、アトランティスやムー、レムリアといった、おそらくはアリステラ人の末裔が築いたであろう古代文明を滅亡させている。
 ただ滅亡させただけではない。
 遣田は、他の3人の賢者たちをそそのかし、ゲートによってそれらの古代文明ごとアリステラの母星に帰還させるよう仕向けた。実際には8万年も前の超新星爆発に巻き込まれ、すでに宇宙の散りと化し、母星などどこにもない宇宙空間に3人の賢者たちと3つの古代文明を放り出すといった非道な手段を取った。
 そんな男が、この10万年もの間に栄えた他のいくつもの文明の滅亡に関与していないはずがなかった。
 人類やアリステラの末裔の歴史を裏でずっと操り続けてきた可能性があった。
 新生アリステラの設立や、小久保ハルミや国際テロ組織「九頭龍獄」の残党がそれに組みしていることも、遣田が仕組んだ可能性も大いにあるのではないだろうか。

 アンナを殺し、一条の体を奪っただけでなく、新生アリステラも人類も滅ぼし、この星に自分だけの王国を築こうとしているあの男だけはタカミは許すことができなかった。


 無数の屍を乗り越えて、タカミは女王の間にたどりついた。
 ショウゴやレインもまた、すでにその場所にたどりついていた。

「タカミさん……」

「タカミさんも来てくださいと言いましたが、あなたはここに来てはいけなかったかもしれませんわ」

 ふたりはタカミの顔を見ると、暗い表情でそう言った。

 玉座には、新生アリステラの女王が座っていた。
 ゴシックロリータにスチームパンクを掛け合わせたようなドレスを身にまとった、あの放送のときと同じ格好の女王は、脚を組み、ひじ掛けに右ひじを置いて、その手の甲に顔をもたれかけさせており、いかにも退屈そうにしていたが、タカミの姿を見るや否や立ち上がった。

「ようこそ、雨野タカミさん。
 あなたが来てくださるのを、先ほどからずっとお待ちしていたんですよ。
 大和ショウゴさんやアナスタシアさんにも待って頂いていました」

 女王は立ち上がり、ユワのきれいな顔に下卑た笑顔を浮かべながら、ユワの声を使って、タカミの来訪を喜んだ。

「遣田ハオトだな?」

 女王の間へと続く道の途中、無数の兵士の屍を見ていたから、ユワかあるいは小久保ハルミの体に遣田が憑依しているであろうことはある程度覚悟はしていた。
 覚悟していたことだったが、実際に目の前にすると、タカミははらわたが煮えくり返る思いだった。

 女王のまわりには、他の兵士たちとは明らかに異なる形状の甲冑をまとった親衛隊らしき者たちの死体が転がっていた。
 女王の他にいた生者は、ショウゴやレインを除けば、小久保ハルミだけだった。
 ハルミは部屋の隅の床に腰を下ろし、顔を伏せていた。遣田の口からタカミの名前が上がっても、それに反応を示すことはなかった。

「遣田ハオト? ああ、あなたたちにはまだ、私の本当の名をお教えしていませんでしたね」

「そのうっとうしい喋り方は、フリーザ様かゲマでも意識してるのか?」

 タカミは慣れない仕種で鞘から剣を引き抜くと、剣先を遣田に向けた。

「あんたの本当の名前なんてどうでもいい。今すぐその体から出ていってくれないか。こっちはあんたを殺したくて、さっきからうずうずしてるんだよ」

 彼のその声も口調も、ショウゴやレインが一度も聞いたことのない、冷たく暗い、凄みを感じさせるものだった。

「どうでもいいとは酷いですね。でも、いいんですか?
 私の憑依能力は不完全でしてね、一度憑依した相手から別の憑依対象に移るときに、どうやら脳を焼き切ってしまうようなんですよ」

 城内に無数の兵士たちの死体が転がっていたのは、そういう理由だったというわけだ。

「たまーに、憑依した瞬間に精神を焼き切ってしまうこともあるんですがね。
 その場合は、脳を焼き切ることなく自由に出入りさせてもらうことができるんですよ」

 一条ソウマさんがそうでした、と遣田は笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...