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最終章 第6話
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夜になりユワが寝たら、レインの部屋を訪ねてみようかと思っていた。
だが、ユワはリビングでずっと何か考え事をしているようだった。その表情は真剣そのもので、怖いくらいだった。
適当に声をかけるにしろ、気づかれないように素通りするにしろ、妹のそばを通り、真夜中に女の子の部屋を訪ねるというのは、その気がなくても気が引けた。
「眠れないのか?」
タカミはレインの部屋を訪ねるのは諦めることにした。
ユワが邪魔でレインの部屋を訪ねることができないからではなかった。
ユワが何かに悩んでいることに気づいたからだった。
「この3年間、ちゃんと眠れたことなんて一度もないよ。
ご飯も食べられないし、お水も飲めないの。ほら、今のわたし、こんな体だから」
「そっか……」
機械の体はどうやら食事も睡眠も必要としないらしい。脳や体が疲れるということもないそうだ。
だが、きっと心が疲れてしまうことはあるだろう。精神が擦りきれてしまうようなことや、狂ってしまうこともあるかもしれない。
そのときは、ショウゴがやってみせたように、自分もユワを殺すことができるだろうか。
タカミにはできる気がしなかった。
ユワの体は、大気中にエーテルさえあれば、それが自動的に魔導人工頭脳や魔操躯(まそうく)と呼ばれる機械の体に取り込まれ、燃料となる仕組みらしい。
「永久機関とまではいかないけど、半永久機関みたいな感じなんだな……
スリープモードみたいなのはついてないのか?」
「ちょっと! パソコンやゲームみたいに言わないでよ」
「あ、ごめん。ごめんな、ほんと」
どうしたらユワがゆっくり眠れるのかを真剣に考えるあまり、体は機械になってしまっても、心は人間の女の子のままだということを、タカミはすっかり忘れてしまっていた。
「お兄ちゃんはほんと、昔からデリカシーがないんだから」
そう言って、ユワが笑ってくれたから救われた気がした。
昔から兄妹仲は悪くなかった。むしろ仲が良すぎて両親が心配していたくらいだった。ふたりは血が繋がっていなかったからだ。
けれど、タカミはいつも妹に謝ってばかりだった気がした。彼は両親と不仲であったから、妹にだけは嫌われないようにと、そればかり考えていたような気がする。
謝るのが癖になっていて、ありがとうと言えば良い時ですら、ごめんと謝っていた。
「わたしがいなかった間、ちゃんとショウゴくんとうまくやれてたの? 一緒に住んでたんでしょ」
「どうかな……ぼくなりに頑張ってたつもりだったけど」
「そっか。じゃあ、彼女は? マヨリとかリンとか、わたしの友達だった子を紹介してあげたりしたよね?」
「ぼくに彼女が出来ると思う?」
「全然思わない」
もしタカミが、「彼女? あぁ、いたよ」と答えていたら、ユワは「それは彼女さんも大変お気の毒に」と言うつもりだったらしい。まったくひどい妹がいたものだった。
タカミに好意を寄せてくれていたであろう女性はいた。
7翼のアシーナだ。
だが彼女はもう、この世界にはいないだろう。レインのバイトゥルヒクマにも彼女の記録はおそらく存在しない。
「よく、そんな兄貴を友達に紹介するよな」
「わたしにとっては、ショウゴくんと同じくらいいい男だったからね」
ドキリとさせられた。
妹に恋愛感情のようなものを抱いたことは一度もなかったはずだが、それでも女性に免疫のないタカミにとっては破壊力抜群の台詞だった。
「お兄ちゃんのことを理解するのは、ちょっと? いや、かなり? うん、やっぱりかなり、時間がかかるからね。
精神と時の部屋に入って丸2日経っても足りなくて、部屋から出られなくなるレベルだから」
「まじか、そんなにひどいのか」
「マジだから。だからね、低身長童顔ロリ巨乳が売りのリンはともかく、マヨリみたいに面倒見がすごくいい子がおすすめだったんだけど」
「9歳も年下の子と何を話したらいいかわからなかったからなぁ」
「わたしも! 9歳! 年下だからね!? それにマヨリがいっぱい話を振ってくれてたでしょ?」
確かにそうだった気がした。
もう4年以上も前のことだったが、この子となら、恋人にはなれなくても、友達くらいにはなれるんじゃないか、そんな風に思えていたような気がする。
紹介されてから1ヶ月もしないうちに、ユワの命を世界中が狙うような事態にさえならなければ、きっと仲良くなれていただろう。
パラレルワールドが本当に存在するのなら、そんな世界もどこかにあるのかもしれない。
「わたし、ショウゴくんと出会わなかったら、たぶんお兄ちゃんと付き合ってたんじゃないかな」
そんな世界もまた、どこかにあるのかもしれなかった。
「ね、お兄ちゃん、7年ぶりに話すっていうのに、なんだか全然そんな気がしないね」
「7年ぶり? 4年ぶりだろ?」
「7年ぶりだよ。わたしが死んだのが2022年で、機械の体で黄泉返ったのが2026年だし」
「今はその2026年だろ? ぼくが医療ポッドに入ってる間に、年を越しちゃったかもしれないけど」
タカミの言葉に、「えっ?」とユワは驚いていた。
「今は2029年だよ……?」
今度はタカミがユワの言葉に驚かされた。
「ぼくは3年も医療ポッドの中にいたのか……」
だとしたら、この3年間で、人類や世界は一体どうなってしまったのだろう。
ふたつの勢力に別れた、アリステラの歴代の女王たちは? 新生アリステラは?
タカミは、レインが危惧していた通り、本当に何も知らなかった。
だが、ユワはリビングでずっと何か考え事をしているようだった。その表情は真剣そのもので、怖いくらいだった。
適当に声をかけるにしろ、気づかれないように素通りするにしろ、妹のそばを通り、真夜中に女の子の部屋を訪ねるというのは、その気がなくても気が引けた。
「眠れないのか?」
タカミはレインの部屋を訪ねるのは諦めることにした。
ユワが邪魔でレインの部屋を訪ねることができないからではなかった。
ユワが何かに悩んでいることに気づいたからだった。
「この3年間、ちゃんと眠れたことなんて一度もないよ。
ご飯も食べられないし、お水も飲めないの。ほら、今のわたし、こんな体だから」
「そっか……」
機械の体はどうやら食事も睡眠も必要としないらしい。脳や体が疲れるということもないそうだ。
だが、きっと心が疲れてしまうことはあるだろう。精神が擦りきれてしまうようなことや、狂ってしまうこともあるかもしれない。
そのときは、ショウゴがやってみせたように、自分もユワを殺すことができるだろうか。
タカミにはできる気がしなかった。
ユワの体は、大気中にエーテルさえあれば、それが自動的に魔導人工頭脳や魔操躯(まそうく)と呼ばれる機械の体に取り込まれ、燃料となる仕組みらしい。
「永久機関とまではいかないけど、半永久機関みたいな感じなんだな……
スリープモードみたいなのはついてないのか?」
「ちょっと! パソコンやゲームみたいに言わないでよ」
「あ、ごめん。ごめんな、ほんと」
どうしたらユワがゆっくり眠れるのかを真剣に考えるあまり、体は機械になってしまっても、心は人間の女の子のままだということを、タカミはすっかり忘れてしまっていた。
「お兄ちゃんはほんと、昔からデリカシーがないんだから」
そう言って、ユワが笑ってくれたから救われた気がした。
昔から兄妹仲は悪くなかった。むしろ仲が良すぎて両親が心配していたくらいだった。ふたりは血が繋がっていなかったからだ。
けれど、タカミはいつも妹に謝ってばかりだった気がした。彼は両親と不仲であったから、妹にだけは嫌われないようにと、そればかり考えていたような気がする。
謝るのが癖になっていて、ありがとうと言えば良い時ですら、ごめんと謝っていた。
「わたしがいなかった間、ちゃんとショウゴくんとうまくやれてたの? 一緒に住んでたんでしょ」
「どうかな……ぼくなりに頑張ってたつもりだったけど」
「そっか。じゃあ、彼女は? マヨリとかリンとか、わたしの友達だった子を紹介してあげたりしたよね?」
「ぼくに彼女が出来ると思う?」
「全然思わない」
もしタカミが、「彼女? あぁ、いたよ」と答えていたら、ユワは「それは彼女さんも大変お気の毒に」と言うつもりだったらしい。まったくひどい妹がいたものだった。
タカミに好意を寄せてくれていたであろう女性はいた。
7翼のアシーナだ。
だが彼女はもう、この世界にはいないだろう。レインのバイトゥルヒクマにも彼女の記録はおそらく存在しない。
「よく、そんな兄貴を友達に紹介するよな」
「わたしにとっては、ショウゴくんと同じくらいいい男だったからね」
ドキリとさせられた。
妹に恋愛感情のようなものを抱いたことは一度もなかったはずだが、それでも女性に免疫のないタカミにとっては破壊力抜群の台詞だった。
「お兄ちゃんのことを理解するのは、ちょっと? いや、かなり? うん、やっぱりかなり、時間がかかるからね。
精神と時の部屋に入って丸2日経っても足りなくて、部屋から出られなくなるレベルだから」
「まじか、そんなにひどいのか」
「マジだから。だからね、低身長童顔ロリ巨乳が売りのリンはともかく、マヨリみたいに面倒見がすごくいい子がおすすめだったんだけど」
「9歳も年下の子と何を話したらいいかわからなかったからなぁ」
「わたしも! 9歳! 年下だからね!? それにマヨリがいっぱい話を振ってくれてたでしょ?」
確かにそうだった気がした。
もう4年以上も前のことだったが、この子となら、恋人にはなれなくても、友達くらいにはなれるんじゃないか、そんな風に思えていたような気がする。
紹介されてから1ヶ月もしないうちに、ユワの命を世界中が狙うような事態にさえならなければ、きっと仲良くなれていただろう。
パラレルワールドが本当に存在するのなら、そんな世界もどこかにあるのかもしれない。
「わたし、ショウゴくんと出会わなかったら、たぶんお兄ちゃんと付き合ってたんじゃないかな」
そんな世界もまた、どこかにあるのかもしれなかった。
「ね、お兄ちゃん、7年ぶりに話すっていうのに、なんだか全然そんな気がしないね」
「7年ぶり? 4年ぶりだろ?」
「7年ぶりだよ。わたしが死んだのが2022年で、機械の体で黄泉返ったのが2026年だし」
「今はその2026年だろ? ぼくが医療ポッドに入ってる間に、年を越しちゃったかもしれないけど」
タカミの言葉に、「えっ?」とユワは驚いていた。
「今は2029年だよ……?」
今度はタカミがユワの言葉に驚かされた。
「ぼくは3年も医療ポッドの中にいたのか……」
だとしたら、この3年間で、人類や世界は一体どうなってしまったのだろう。
ふたつの勢力に別れた、アリステラの歴代の女王たちは? 新生アリステラは?
タカミは、レインが危惧していた通り、本当に何も知らなかった。
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