ひとりの少女を守るために70億の命を犠牲になんてできないから、ひとりの少女を犠牲にしてみた結果、事態がさらに悪化した件。

あめの みかな

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最終章 第9´話(レインルート)

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「小久保ハルミさんという方は、千年細胞を持っていましたよね?
 一条さんという方との間に出来たというお子さんが、3年前のあの場所に……」

「うん、いたね。あのソウジという少年は、銀髪で瞳は赤く、肌もすごく白かった。
 彼はたぶんアルビノだったんだと思う。
 ぼくたちは、千年細胞を持つ者と持たざる者との間に出来た子の一例を見ただけだけれど、その一例がアルビノだったというのが、ぼくにはどうしてもひっかかるんだ」

 アルビノは、2万人にひとりの確率でしか生まれない。
 小久保ソウジは、千年細胞を持つ者と持たざる者との間に出来た子というだけで十分すぎるほど稀有な存在だった。
 そんな稀有な存在が、さらに2万人にひとりの稀有な存在であるアルビノとして生まれる確率は、2万人にひとりという確率ではすまないのではないだろうか。
 あるいはその逆かだ。

「千年細胞を持つ者と持たざる者との間に出来る子は、アルビノになる可能性が高いかもしれない……?
 もしかしたら全員がそうなってしまう可能性も……」

 その可能性を否定する材料を、タカミもレインも持ってはいなかった。
 あまりにもデータが少なすぎた。
 だからと言って、データを得るために子作りを試すわけにもいかなかった。

「わたくしはアルビノの方にはお会いしたこともありませんが、短命だと聞いたことがあります」

 そう。だからこそ、試すわけにはいかなかった。

 アルビノの人間にとって、天敵となるのは太陽光と迷信だ。

 アルビノは先天性の遺伝子疾患であり、紫外線の害から体を守ってくれるメラニン色素が生まれつき薄いため、皮膚で紫外線を遮断できず、紫外線に対する耐性が極めて低い。
 また、生まれつき弱視であったり、光を非常に眩しく感じたりもするという。

 日焼けをした部位はすぐに赤くなり熱を持ち、ひどいときは腫れ上がってしまい、水ぶくれになる。症状としてはやけどに近い状態になる。
 その後、皮膚がちりちりになってはがれ落ちち、完治するまでにも時間がかかる。
 アルビノの人が、海水浴に行けば、全身水ぶくれになって苦しむことになる。
 皮膚がんになりやすいとも言われ、早い人だと20歳くらいでがんになってしまう。繰り返し日焼けすることで、そのリスクをさらに高める。
 人間ならば日焼け止めクリームである程度は対策できる。
 しかし植物の場合は、光合成を行うことすらできず、種子の中の栄養を使い切ってしまった時点で枯死してしまうという。

「わたくしが言うのもおかしな話ですが、不思議な力を持っていると聞いたこともありますわ」

 確かに、レイン以上に不思議な力を持つ者はいないだろうが、

「マンガやアニメの印象があるから、余計にそう感じるのかもしれないね」

 そうでなくとも、美しい外見から神秘性を感じる気持ちはなんとなく理解できる。

 マンガやアニメでは、髪の色が真っ白であったり水色や灰色のキャラクターが不思議な力を持った人物として描かれることが多々あるが、実在するアルビノの人間にはそういった力はない。

 だが、アフリカなどでは昔からアルビノの身体を呪術に用いることで、幸福をもたらすとの迷信が信じられており、現代においてもアルビノというだけで殺害され、切り取られた身体が闇マーケットにおいて高値で取引されていた。

 災厄の時代が訪れてからの数年間は、災厄から逃れ幸福を得るためにアルビノの身体を呪術を用いた人々が多かったのではないだろうか。

 アルビノが短命だと言われるのは、太陽と同じ人間が天敵として存在するからだった。


「でも、彼は3年前のあの日、南海トラフ地震が起きる直前に、はじめて雨野市に来たばかりのはず……
 災厄の時代をどうやって生き延びていたのでしょうか?」

 それはタカミも気になっていた。
 あの少年がそれまでどこにいて、どうやって雨野市にたどり着いたのかはわからないが、仮に東京から徒歩で何日もかけて歩いてきたのだとしたら、日焼け止めクリームも手に入らないような災厄の時代に、400キロ以上も歩いてきたことになる。
 いくら秋とはいえ、全身水ぶくれになっていてもおかしくなかった。

「もしかしたら、千年細胞を持っていれば、太陽光が天敵になることはなかったのかもしれない」

 千年細胞は失った手足を再生するほどの驚異的な再生力を持っている。
 日焼けをしても、水ぶくれややけどのような症状が起きる前に、皮膚を元通りに再生できたのかもしれなかった。
 それに千年細胞は元々がん細胞を無毒化することによって産み出されている。だから皮膚がんになることはない。

「でしたら、産まれる子がたとえアルビノであったとしても特に問題はないのではないでしょうか?」

 そうかもしれなかった。
 だが、タカミには確かめておかなければいけないことがあった。

 タカミは、仮にぼくたちが人類の新たな始祖となるとして、と前置きした上で、

「いくら子孫を残さなければいけないとはいえ、レインはぼくに抱かれることができるの?」

 彼はレインにそう訊ねた。

 レインはきっと、まだショウゴのことを忘れられないでいる。
 タカミにはそんな気がしていたのだ。

 それに、自分が人から好かれない性格であることもよくわかっていた。
 ついさっきユワからも言われたばかりだった。

「わたくしは……」

 彼女は何かを言おうとして、黙ってしまった。

「無理しなくていい。ぼくにも忘れられない人はいるから」

 タカミは、小久保ハルミのことを思い出していた。

 3年前の戦いで、レインはショウゴを、タカミはハルミを目の前で失っていた。

 それは、医療ポッドの中で3年間眠りについていたタカミにとっては、まだ数週間前の出来事でしかなかった。

 レインに自分に抱かれることができるのか、と訊ねながら、タカミは自分にレインを抱くことができるのか、と問うていたのだ。
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