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最終章 第10´話(レインルート)
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タカミの問いに答えることなく、レインは部屋から逃げるように出ていってしまった。
彼が部屋のドアを閉めようとすると、
「そんなに心配しなくても、この世界のどこかには生き残ってる人たちがいると思うよ」
ドアの外にいたユワが、彼にそう告げた。
--いくら子孫を残さなければいけないとはいえ、レインはぼくに抱かれることができるの?
--無理しなくていい。ぼくにも忘れられない人はいるから。
そんなことを彼女と話していたのを、妹に聞かれてしまっていたのかと思うと恥ずかしかった。
おまけに逃げられるところまで見られてしまった。
別に彼女に迫っていたわけではなかったから、構わないと言えば構わないのだが。
「ぼくたちは以外にもいるの? 生き残ってる人」
「たぶんだけどね。確かめようもないけど。
でも、世界中の全部がここみたいに荒野になったわけじゃないと思うから。
高い山に住んでる人たちとか、現代文明とは無縁の暮らしをしてる人たちとかは、案外まだ普通に暮らしてたりするんじゃないかな。
あとは、地下シェルターに逃げ込んだ偉い人たちとか」
言われてみればその可能性は十分にあった。
パソコンを手に入れるか、エーテルから作るかすれば、人工衛星にハッキングして見つけられるかもしれなかった。
「そんなことよりも、あの人の体のことを心配した方がいいよ。たぶんもうすぐだめになっちゃうから」
と、ユワは言った。レインの名前ではなく、あの人、という呼び方から、ユワが彼女に対しあまりよくない感情を持っているのがよくわかった。
「もうすぐだめになる? どういうこと?」
「お兄ちゃんも薄々感づいてると思うけど、あの人がわたしに機械の身体を与えたの」
「だろうね」
それはなんとなくわかっていた。それ以外考えられなかった。
ユワの記録は、レインが持つ知恵の館という場所にしかなかったからだ。
だから、ユワは彼女に対してあまり良い感情を抱くことができないのだろう。
「あの人、わたしが偶数翼の強硬派の仲間になったことを知って、だいぶ責任を感じてたみたい。
だから、自分は奇数翼の穏健派に入って、わたしを止めようとしたの。
わたしは奇数翼の女王たちだけじゃなくて、たくさん人を殺してたから」
ユワの背中に翼があり、それが偶数枚であったことから、彼女が人類を滅ぼす側についていたことはわかっていたことだった。
――たくさん人を殺してたから。
だが、ユワの口から直接聞かされるとさすがにショックが大きかった。
聞きたくなかったし知りたくなかった。曖昧なままにしておいてほしかった。
ユワとは数時間前に、生前の彼女と何も変わらない会話をしたばかりだったが、今の彼女はもうタカミが知るかわいい妹というだけではなくなっているのだと改めて気づかされた。
ユワは、この3年間でためらいなく人を殺せてしまうようになっていたのだ。
タカミがユワとレインと再会したとき、ふたりは殺し合っていた。
レインは防御に徹しており、ユワに攻撃する気はなかったように見えたが、ユワは間違いなくレインを殺そうとしていた。
「偶数翼も奇数翼も、翼を持てるのは歴代の女王だけなの。
わたしは一応、一回死んじゃった後に勝手に死体をいじくられて、新生アリステラの女王になってたみたいだから翼を持つ権利があったし、機械の身体もあったけど、あの人はいくらすごい魔法が使えたって所詮は生身でしょ」
レインは、ユワと同じでアリステラの王族の最後の末裔だったが、ユワとは異なり「アリステラの真の最後の女王」となる存在だった。
だが、機械の身体を手に入れることが出来たのは、歴代の女王たちやユワのように、死んでしまいレインの頭の中にある知恵の館という場所に記録されている死者たちだけだった。
「あの人はまだ生きてるから、機械の身体になることもできなかった。
強硬派には、女王になる資格を持ってた人たちがたくさんいたの。その人たちは翼がなくて『無翼の誰々さん』って呼ばれてたんだけど、あの人は生身じゃ翼を持つ女王たちどころか、無翼の人たちにも力が及ばなかったの。勿論わたしにもね」
だからレインは無理矢理翼をつけることにしたのだという。
死んだと思われていたタカミに代わり、ユワを止めるため、機械の身体を持つ女王たちと対等に戦える力を求めたのだという。
「あの翼はただの飾りじゃなくて、インプラント手術って言ったかな、ちゃんと空が飛べるように、生身の身体の肩甲骨から機械の翼が生えているような形で無理矢理繋げてあるみたいなの。
それも翼一枚でも十分に飛べたり、空中でバランスを保てるような、すごく複雑な構造のもの。
あの翼はね、大気中のエーテルの消費が激しいだけじゃなくて、あの人自体の消費カロリーもすごく多い、燃費がめちゃくちゃ悪い翼なんだ」
だが、それ自体は別に大した問題ではないとユワは言った。
レインの身体がもうすぐだめになってしまう理由は別にあるのだという。
「ヒヒイロカネはエーテルを結晶化させたものだけど、一応金属になるから、武器や防具として使うくらいならいいけど、人体に埋め込んだりしたら酷い金属アレルギーを起こすの。
ピアスを開けたり、つけっぱなしにしてたりしてなっちゃうのとは、全然レベルが違うみたいなんだよね」
ユワによれば、レインはおそらく、翼を埋め込む手術を受けた後、すぐにではないにしろ激しい金属アレルギーを起こしたに違いないという。
アナフィラキシーショックを起こさないよう、薬を飲んでいたにちがいないと。
だが、その薬もおそらくもうないのだという。
奇数翼の穏健派も偶数翼の強硬派もすでに壊滅しており、人類も新生アリステラも、生き残りはどこかにいるかもしれないが、薬を生産できる文明がこの世界にはもう存在しないからだった。
「あの人が、もしお兄ちゃんの子どもを産むことを選んだとしても、赤ちゃんが産まれるより前に、あの人が先に死んじゃうと思う。
今の健康状態で赤ちゃんができるかどうかも怪しいんじゃないかな」
だからね、お兄ちゃん、とユワは言い、
「あの人を死なせたくなかったら、今すぐにでも千年細胞を分けてあげたほうがいいよ。
人類の最後のひとりかもしれないからって、今の身体のままにしてたら、あの人すぐに死んじゃうよ」
タカミにそう告げると、「じゃあね、おやすみ」と、自分の部屋に戻っていった。
彼が部屋のドアを閉めようとすると、
「そんなに心配しなくても、この世界のどこかには生き残ってる人たちがいると思うよ」
ドアの外にいたユワが、彼にそう告げた。
--いくら子孫を残さなければいけないとはいえ、レインはぼくに抱かれることができるの?
--無理しなくていい。ぼくにも忘れられない人はいるから。
そんなことを彼女と話していたのを、妹に聞かれてしまっていたのかと思うと恥ずかしかった。
おまけに逃げられるところまで見られてしまった。
別に彼女に迫っていたわけではなかったから、構わないと言えば構わないのだが。
「ぼくたちは以外にもいるの? 生き残ってる人」
「たぶんだけどね。確かめようもないけど。
でも、世界中の全部がここみたいに荒野になったわけじゃないと思うから。
高い山に住んでる人たちとか、現代文明とは無縁の暮らしをしてる人たちとかは、案外まだ普通に暮らしてたりするんじゃないかな。
あとは、地下シェルターに逃げ込んだ偉い人たちとか」
言われてみればその可能性は十分にあった。
パソコンを手に入れるか、エーテルから作るかすれば、人工衛星にハッキングして見つけられるかもしれなかった。
「そんなことよりも、あの人の体のことを心配した方がいいよ。たぶんもうすぐだめになっちゃうから」
と、ユワは言った。レインの名前ではなく、あの人、という呼び方から、ユワが彼女に対しあまりよくない感情を持っているのがよくわかった。
「もうすぐだめになる? どういうこと?」
「お兄ちゃんも薄々感づいてると思うけど、あの人がわたしに機械の身体を与えたの」
「だろうね」
それはなんとなくわかっていた。それ以外考えられなかった。
ユワの記録は、レインが持つ知恵の館という場所にしかなかったからだ。
だから、ユワは彼女に対してあまり良い感情を抱くことができないのだろう。
「あの人、わたしが偶数翼の強硬派の仲間になったことを知って、だいぶ責任を感じてたみたい。
だから、自分は奇数翼の穏健派に入って、わたしを止めようとしたの。
わたしは奇数翼の女王たちだけじゃなくて、たくさん人を殺してたから」
ユワの背中に翼があり、それが偶数枚であったことから、彼女が人類を滅ぼす側についていたことはわかっていたことだった。
――たくさん人を殺してたから。
だが、ユワの口から直接聞かされるとさすがにショックが大きかった。
聞きたくなかったし知りたくなかった。曖昧なままにしておいてほしかった。
ユワとは数時間前に、生前の彼女と何も変わらない会話をしたばかりだったが、今の彼女はもうタカミが知るかわいい妹というだけではなくなっているのだと改めて気づかされた。
ユワは、この3年間でためらいなく人を殺せてしまうようになっていたのだ。
タカミがユワとレインと再会したとき、ふたりは殺し合っていた。
レインは防御に徹しており、ユワに攻撃する気はなかったように見えたが、ユワは間違いなくレインを殺そうとしていた。
「偶数翼も奇数翼も、翼を持てるのは歴代の女王だけなの。
わたしは一応、一回死んじゃった後に勝手に死体をいじくられて、新生アリステラの女王になってたみたいだから翼を持つ権利があったし、機械の身体もあったけど、あの人はいくらすごい魔法が使えたって所詮は生身でしょ」
レインは、ユワと同じでアリステラの王族の最後の末裔だったが、ユワとは異なり「アリステラの真の最後の女王」となる存在だった。
だが、機械の身体を手に入れることが出来たのは、歴代の女王たちやユワのように、死んでしまいレインの頭の中にある知恵の館という場所に記録されている死者たちだけだった。
「あの人はまだ生きてるから、機械の身体になることもできなかった。
強硬派には、女王になる資格を持ってた人たちがたくさんいたの。その人たちは翼がなくて『無翼の誰々さん』って呼ばれてたんだけど、あの人は生身じゃ翼を持つ女王たちどころか、無翼の人たちにも力が及ばなかったの。勿論わたしにもね」
だからレインは無理矢理翼をつけることにしたのだという。
死んだと思われていたタカミに代わり、ユワを止めるため、機械の身体を持つ女王たちと対等に戦える力を求めたのだという。
「あの翼はただの飾りじゃなくて、インプラント手術って言ったかな、ちゃんと空が飛べるように、生身の身体の肩甲骨から機械の翼が生えているような形で無理矢理繋げてあるみたいなの。
それも翼一枚でも十分に飛べたり、空中でバランスを保てるような、すごく複雑な構造のもの。
あの翼はね、大気中のエーテルの消費が激しいだけじゃなくて、あの人自体の消費カロリーもすごく多い、燃費がめちゃくちゃ悪い翼なんだ」
だが、それ自体は別に大した問題ではないとユワは言った。
レインの身体がもうすぐだめになってしまう理由は別にあるのだという。
「ヒヒイロカネはエーテルを結晶化させたものだけど、一応金属になるから、武器や防具として使うくらいならいいけど、人体に埋め込んだりしたら酷い金属アレルギーを起こすの。
ピアスを開けたり、つけっぱなしにしてたりしてなっちゃうのとは、全然レベルが違うみたいなんだよね」
ユワによれば、レインはおそらく、翼を埋め込む手術を受けた後、すぐにではないにしろ激しい金属アレルギーを起こしたに違いないという。
アナフィラキシーショックを起こさないよう、薬を飲んでいたにちがいないと。
だが、その薬もおそらくもうないのだという。
奇数翼の穏健派も偶数翼の強硬派もすでに壊滅しており、人類も新生アリステラも、生き残りはどこかにいるかもしれないが、薬を生産できる文明がこの世界にはもう存在しないからだった。
「あの人が、もしお兄ちゃんの子どもを産むことを選んだとしても、赤ちゃんが産まれるより前に、あの人が先に死んじゃうと思う。
今の健康状態で赤ちゃんができるかどうかも怪しいんじゃないかな」
だからね、お兄ちゃん、とユワは言い、
「あの人を死なせたくなかったら、今すぐにでも千年細胞を分けてあげたほうがいいよ。
人類の最後のひとりかもしれないからって、今の身体のままにしてたら、あの人すぐに死んじゃうよ」
タカミにそう告げると、「じゃあね、おやすみ」と、自分の部屋に戻っていった。
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