120 / 123
最終章 第9´話(レインルート)
しおりを挟む
「小久保ハルミさんという方は、千年細胞を持っていましたよね?
一条さんという方との間に出来たというお子さんが、3年前のあの場所に……」
「うん、いたね。あのソウジという少年は、銀髪で瞳は赤く、肌もすごく白かった。
彼はたぶんアルビノだったんだと思う。
ぼくたちは、千年細胞を持つ者と持たざる者との間に出来た子の一例を見ただけだけれど、その一例がアルビノだったというのが、ぼくにはどうしてもひっかかるんだ」
アルビノは、2万人にひとりの確率でしか生まれない。
小久保ソウジは、千年細胞を持つ者と持たざる者との間に出来た子というだけで十分すぎるほど稀有な存在だった。
そんな稀有な存在が、さらに2万人にひとりの稀有な存在であるアルビノとして生まれる確率は、2万人にひとりという確率ではすまないのではないだろうか。
あるいはその逆かだ。
「千年細胞を持つ者と持たざる者との間に出来る子は、アルビノになる可能性が高いかもしれない……?
もしかしたら全員がそうなってしまう可能性も……」
その可能性を否定する材料を、タカミもレインも持ってはいなかった。
あまりにもデータが少なすぎた。
だからと言って、データを得るために子作りを試すわけにもいかなかった。
「わたくしはアルビノの方にはお会いしたこともありませんが、短命だと聞いたことがあります」
そう。だからこそ、試すわけにはいかなかった。
アルビノの人間にとって、天敵となるのは太陽光と迷信だ。
アルビノは先天性の遺伝子疾患であり、紫外線の害から体を守ってくれるメラニン色素が生まれつき薄いため、皮膚で紫外線を遮断できず、紫外線に対する耐性が極めて低い。
また、生まれつき弱視であったり、光を非常に眩しく感じたりもするという。
日焼けをした部位はすぐに赤くなり熱を持ち、ひどいときは腫れ上がってしまい、水ぶくれになる。症状としてはやけどに近い状態になる。
その後、皮膚がちりちりになってはがれ落ちち、完治するまでにも時間がかかる。
アルビノの人が、海水浴に行けば、全身水ぶくれになって苦しむことになる。
皮膚がんになりやすいとも言われ、早い人だと20歳くらいでがんになってしまう。繰り返し日焼けすることで、そのリスクをさらに高める。
人間ならば日焼け止めクリームである程度は対策できる。
しかし植物の場合は、光合成を行うことすらできず、種子の中の栄養を使い切ってしまった時点で枯死してしまうという。
「わたくしが言うのもおかしな話ですが、不思議な力を持っていると聞いたこともありますわ」
確かに、レイン以上に不思議な力を持つ者はいないだろうが、
「マンガやアニメの印象があるから、余計にそう感じるのかもしれないね」
そうでなくとも、美しい外見から神秘性を感じる気持ちはなんとなく理解できる。
マンガやアニメでは、髪の色が真っ白であったり水色や灰色のキャラクターが不思議な力を持った人物として描かれることが多々あるが、実在するアルビノの人間にはそういった力はない。
だが、アフリカなどでは昔からアルビノの身体を呪術に用いることで、幸福をもたらすとの迷信が信じられており、現代においてもアルビノというだけで殺害され、切り取られた身体が闇マーケットにおいて高値で取引されていた。
災厄の時代が訪れてからの数年間は、災厄から逃れ幸福を得るためにアルビノの身体を呪術を用いた人々が多かったのではないだろうか。
アルビノが短命だと言われるのは、太陽と同じ人間が天敵として存在するからだった。
「でも、彼は3年前のあの日、南海トラフ地震が起きる直前に、はじめて雨野市に来たばかりのはず……
災厄の時代をどうやって生き延びていたのでしょうか?」
それはタカミも気になっていた。
あの少年がそれまでどこにいて、どうやって雨野市にたどり着いたのかはわからないが、仮に東京から徒歩で何日もかけて歩いてきたのだとしたら、日焼け止めクリームも手に入らないような災厄の時代に、400キロ以上も歩いてきたことになる。
いくら秋とはいえ、全身水ぶくれになっていてもおかしくなかった。
「もしかしたら、千年細胞を持っていれば、太陽光が天敵になることはなかったのかもしれない」
千年細胞は失った手足を再生するほどの驚異的な再生力を持っている。
日焼けをしても、水ぶくれややけどのような症状が起きる前に、皮膚を元通りに再生できたのかもしれなかった。
それに千年細胞は元々がん細胞を無毒化することによって産み出されている。だから皮膚がんになることはない。
「でしたら、産まれる子がたとえアルビノであったとしても特に問題はないのではないでしょうか?」
そうかもしれなかった。
だが、タカミには確かめておかなければいけないことがあった。
タカミは、仮にぼくたちが人類の新たな始祖となるとして、と前置きした上で、
「いくら子孫を残さなければいけないとはいえ、レインはぼくに抱かれることができるの?」
彼はレインにそう訊ねた。
レインはきっと、まだショウゴのことを忘れられないでいる。
タカミにはそんな気がしていたのだ。
それに、自分が人から好かれない性格であることもよくわかっていた。
ついさっきユワからも言われたばかりだった。
「わたくしは……」
彼女は何かを言おうとして、黙ってしまった。
「無理しなくていい。ぼくにも忘れられない人はいるから」
タカミは、小久保ハルミのことを思い出していた。
3年前の戦いで、レインはショウゴを、タカミはハルミを目の前で失っていた。
それは、医療ポッドの中で3年間眠りについていたタカミにとっては、まだ数週間前の出来事でしかなかった。
レインに自分に抱かれることができるのか、と訊ねながら、タカミは自分にレインを抱くことができるのか、と問うていたのだ。
一条さんという方との間に出来たというお子さんが、3年前のあの場所に……」
「うん、いたね。あのソウジという少年は、銀髪で瞳は赤く、肌もすごく白かった。
彼はたぶんアルビノだったんだと思う。
ぼくたちは、千年細胞を持つ者と持たざる者との間に出来た子の一例を見ただけだけれど、その一例がアルビノだったというのが、ぼくにはどうしてもひっかかるんだ」
アルビノは、2万人にひとりの確率でしか生まれない。
小久保ソウジは、千年細胞を持つ者と持たざる者との間に出来た子というだけで十分すぎるほど稀有な存在だった。
そんな稀有な存在が、さらに2万人にひとりの稀有な存在であるアルビノとして生まれる確率は、2万人にひとりという確率ではすまないのではないだろうか。
あるいはその逆かだ。
「千年細胞を持つ者と持たざる者との間に出来る子は、アルビノになる可能性が高いかもしれない……?
もしかしたら全員がそうなってしまう可能性も……」
その可能性を否定する材料を、タカミもレインも持ってはいなかった。
あまりにもデータが少なすぎた。
だからと言って、データを得るために子作りを試すわけにもいかなかった。
「わたくしはアルビノの方にはお会いしたこともありませんが、短命だと聞いたことがあります」
そう。だからこそ、試すわけにはいかなかった。
アルビノの人間にとって、天敵となるのは太陽光と迷信だ。
アルビノは先天性の遺伝子疾患であり、紫外線の害から体を守ってくれるメラニン色素が生まれつき薄いため、皮膚で紫外線を遮断できず、紫外線に対する耐性が極めて低い。
また、生まれつき弱視であったり、光を非常に眩しく感じたりもするという。
日焼けをした部位はすぐに赤くなり熱を持ち、ひどいときは腫れ上がってしまい、水ぶくれになる。症状としてはやけどに近い状態になる。
その後、皮膚がちりちりになってはがれ落ちち、完治するまでにも時間がかかる。
アルビノの人が、海水浴に行けば、全身水ぶくれになって苦しむことになる。
皮膚がんになりやすいとも言われ、早い人だと20歳くらいでがんになってしまう。繰り返し日焼けすることで、そのリスクをさらに高める。
人間ならば日焼け止めクリームである程度は対策できる。
しかし植物の場合は、光合成を行うことすらできず、種子の中の栄養を使い切ってしまった時点で枯死してしまうという。
「わたくしが言うのもおかしな話ですが、不思議な力を持っていると聞いたこともありますわ」
確かに、レイン以上に不思議な力を持つ者はいないだろうが、
「マンガやアニメの印象があるから、余計にそう感じるのかもしれないね」
そうでなくとも、美しい外見から神秘性を感じる気持ちはなんとなく理解できる。
マンガやアニメでは、髪の色が真っ白であったり水色や灰色のキャラクターが不思議な力を持った人物として描かれることが多々あるが、実在するアルビノの人間にはそういった力はない。
だが、アフリカなどでは昔からアルビノの身体を呪術に用いることで、幸福をもたらすとの迷信が信じられており、現代においてもアルビノというだけで殺害され、切り取られた身体が闇マーケットにおいて高値で取引されていた。
災厄の時代が訪れてからの数年間は、災厄から逃れ幸福を得るためにアルビノの身体を呪術を用いた人々が多かったのではないだろうか。
アルビノが短命だと言われるのは、太陽と同じ人間が天敵として存在するからだった。
「でも、彼は3年前のあの日、南海トラフ地震が起きる直前に、はじめて雨野市に来たばかりのはず……
災厄の時代をどうやって生き延びていたのでしょうか?」
それはタカミも気になっていた。
あの少年がそれまでどこにいて、どうやって雨野市にたどり着いたのかはわからないが、仮に東京から徒歩で何日もかけて歩いてきたのだとしたら、日焼け止めクリームも手に入らないような災厄の時代に、400キロ以上も歩いてきたことになる。
いくら秋とはいえ、全身水ぶくれになっていてもおかしくなかった。
「もしかしたら、千年細胞を持っていれば、太陽光が天敵になることはなかったのかもしれない」
千年細胞は失った手足を再生するほどの驚異的な再生力を持っている。
日焼けをしても、水ぶくれややけどのような症状が起きる前に、皮膚を元通りに再生できたのかもしれなかった。
それに千年細胞は元々がん細胞を無毒化することによって産み出されている。だから皮膚がんになることはない。
「でしたら、産まれる子がたとえアルビノであったとしても特に問題はないのではないでしょうか?」
そうかもしれなかった。
だが、タカミには確かめておかなければいけないことがあった。
タカミは、仮にぼくたちが人類の新たな始祖となるとして、と前置きした上で、
「いくら子孫を残さなければいけないとはいえ、レインはぼくに抱かれることができるの?」
彼はレインにそう訊ねた。
レインはきっと、まだショウゴのことを忘れられないでいる。
タカミにはそんな気がしていたのだ。
それに、自分が人から好かれない性格であることもよくわかっていた。
ついさっきユワからも言われたばかりだった。
「わたくしは……」
彼女は何かを言おうとして、黙ってしまった。
「無理しなくていい。ぼくにも忘れられない人はいるから」
タカミは、小久保ハルミのことを思い出していた。
3年前の戦いで、レインはショウゴを、タカミはハルミを目の前で失っていた。
それは、医療ポッドの中で3年間眠りについていたタカミにとっては、まだ数週間前の出来事でしかなかった。
レインに自分に抱かれることができるのか、と訊ねながら、タカミは自分にレインを抱くことができるのか、と問うていたのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
怪奇蒐集帳(短編集)
naomikoryo
ホラー
この世には、知ってはいけない話がある。
怪談、都市伝説、語り継がれる呪い——
どれもがただの作り話かもしれない。
だが、それでも時々、**「本物」**が紛れ込むことがある。
本書は、そんな“見つけてしまった”怪異を集めた一冊である。
最後のページを閉じるとき、あなたは“何か”に気づくことになるだろう——。
異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――
黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。
ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。
この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。
未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。
そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる