拾った異世界の子どもがどタイプ男子に育つなんて聞いてない。

おまめ

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7.いつも通りのはずでした。

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寒い。

寒くて目が覚めた。はみ出ていたつま先を布団に仕舞う。
こんなに寒いはずはない。そう思い手元の暖房のリモコンを見ると、画面には何も表示されていなかった。

カチ、カチ。カチカチカチ。

ボタンを押す音だけが虚しく響いた。
嘘だろ。壊れた。付かない。 
暖炉から暖房に変えたのは数年前だ。まだ寿命には早い。

「うぅ…冷た…」
故障かどうか確認するため、仕方ないので布団を被りながらベッドを降りた。つま先立ちでも体中に床の冷たさが伝わってくる。


待て、今何時だ。窓の外がまだ暗い。
「4時…」
マジか。二度寝しようにもこんなに寒くちゃできっこない。

暖房のコンセントはちゃんと差されていた。差し直して見ても動かない。
ただ、原因を探すより部屋を暖かくして寝直すことが優先なので、暖炉に向かった。
が。

「薪が…ない…」
ピンチ。俺の安眠のピンチ。
こんな時間に申し訳ないがハルを頼るしかない。2階は暖かいだろうし何とかなる。よし、と階段を上がろうとすると、上から布団に包まれたままのハルが降りてきた。
「ハ、ハル?」
「寒い…。暖房が切れてて…付かなかったんです…」
階段を降りきって、あぁ助かるんだという表情が一転。俺を振り返り唇をブルブルと震わせた。

布団を着た2人の間には冷ややかな朝4時5分の空気。



「もっと大きくできたり…」
「しないですね。家ごと焚き火にしますか?」
「ごめんなさい…」

暖房に変えたせいで数年間薪割りをしていない。おかげで倉庫にもちょっと湿気た薪しかなかった。
なのでハルの炎魔法で暖を取っている。その火は2人がちゃんと暖まるには小さすぎた。

「あの、こんな小さい火でも魔力は消耗しちゃうんですけど、いつまでこうしてるんですか」
「うん、だよな、ごめん考える」
「お願いします…僕は今頭を動かせそうにないです」

魔法はハルに任せているから、これからどうするかは俺が考えないと。
うーん、うーん…………


「散歩でも行く?」
「頼った僕が悪かったです」
「動いた方があったかくなれそうじゃん」
「割と本気で言ってたんですか」
「どうせなら日の出とか見に行こう」
「…ふふ」

冷ややかに俺を見つめていた眠たげな双眸は、根負けしたように緩んだ。
「負けました。こうなるとソラさん強引ですし、もう眠気も覚めちゃったし。行きましょうか」



コートにマフラーに手袋にブーツ。防寒対策は完璧だ。
「じゃあ、開けますね」
「うん、お願いします」

玄関の扉を4分の1ほど、そっと開けたところで凍てつくような風が部屋に飛び込んで、ハルは勢いよくドアノブを引き戻した。
「やめませんか、寒すぎる」
「ここまで準備して?」
「凍死は御免です」
「ここに居たって変わらないだろ」
「死期を早めたくない」
「どうせなら日の出を拝んで逝こうぜ、ほら」
「やだ~~あーーー強引!」

尻込みするハルのもふもふの手を強引に引いて、極寒の世界へのドアをくぐった。
雪が若干積もっていて、静かな森には風と2人分の足音だけ。時々ハルのため息が混じった。

「なんで急に暖房壊れちゃったんですかね」
「他の家電は動いてたからなー」
「最近扱いが雑だったから、とか」
「もっと労ってあげなきゃいけなかったかぁ」
「帰ったら他の家電にも優しくしてあげましょうね」
「ふ、そうだな」
「なんで笑うんですか」
「いやぁ」
「最近ソラさんは僕に対しても雑です」
「労ったほうがいい?」
「家電より」
「ハハ」

笑って吐いた息は白くなって消える。それを見送っていると、ふとハルの顔が自分より上にあることに気付いた。具体的には俺の目の位置にハルの鼻がある。
もうすぐ15歳だもんな、毎日見てるとあんま気付かないもんなんだなぁ。


「あっソラさん危ないっ!!」
「えっ」

ぼんやり歩いていたから反応に遅れた。気付いたときはもう遅い、というやつ。今やハルの頭は数メートル上。
滑り落ちた。軽く崖の上から。

「大丈夫ですか!?ケガは?」
「大丈夫!雪でなんとか」
手元の雪を掴んでみる。これが無かったらちゃんとケガしてたな。

「んー、ちょっと高いですね…。ツタとか探してみます」
「ありがとう、助かる」

すっかり頼もしくなったなぁ。王宮での訓練のおかげで身体つきも良くなったから力持ちで重いものもラクラク。思えば声も低くなった。成長が嬉しいよソラさんは。
ただ背が伸びたせいでしばらく頭を撫でてないな、と考えると少し寂しくもある。後で撫でてやろうかな。

「ソラさん、いい感じのツタありました!掴めますか?」
「おお、いける!」
「ちゃんと掴みました?あげますよ」
「はーい」
「せぇ、のっ!」

ぐっと体が浮く。ズルズルと引き揚げられて、崖の上が見える所まで来た。
「俺の腕、掴んでください。引きますよっ、っと」
ツタから腕に持ち替えると、最後は一気に前へ。ドサッと倒れ込むように這い上がった。

「助かった…」
「よかった、もう、気を付けてくださいね」
「ありがとな~ハル、っ、」
安堵のため息をつくハルに駆け寄って、その頭を撫でようと手を出したとき。
少し驚いた、よく見慣れたはずの顔。サラサラと揺れる前髪。通った鼻筋。薄く色付いた唇。そして俺を見つめる深い黒の瞳。すべていつも通りのはず。
「どうしたんですか…?」
「ぅ、えっ?いや…」

何だコレ。おかしい。毎日見てるだろこの顔は。
「変な顔。どうしちゃったんですかホント」
ふふ、という木漏れ日のような笑顔がトドメの一撃となった。
 


どタイプだ。



「だから、さっきから何なんですかその顔。やっぱり頭とか打っちゃいました…?」
「いやぁ…」

別にこういう子が好き!みたいなタイプって今までなかった。大体男の顔でこんな事になるのも初めて。ただこの顔が心の変な所に刺さってしまって抜けないのだ。これがタイプだったのか俺。新発見だ。

「あ、もうすぐじゃないですか?」
「んー、そこ曲がったらすぐかなー」

返事もそこそこに、ちょっとワクワクな顔を見つめる。
好きとかではないと思う。なんか良い。なんか永遠に見てられる。癖になる。

「うわ…!」
ハルの顔が陽に照らされて明るくなったことで目的地に着いたことを理解した。綺麗。瞳でオレンジ色が深い黒に溶けて、太陽の縁のように輝く。

「すごい、寒い中来てよかったですね!」
「うん、すっごいよかった」
「わぁ、空がどんどん明るくなってる」 
「綺麗だなぁ」
「ホント、ナイスアイデアです。散歩」

キャッキャとはしゃぐハル。
ねぇ、今、俺とお前で違う話をしてるよ。
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