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6.気分が良い夜
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「うちの子ホンッットにかわいくってぇ…」
「酔ってますよね…!?」
「酔ってないでぇす」
さっきもこのやり取りした気がする。まぁいいや。目の前のシェネリ様はため息をついた。
「フォールド家に酒を飲ませるなっていうのは本当だったのですね…」
何やら呆れているような気がするけど気にしない。だって今、今までにないくらい気分が良い。ふわふわする。何でだろうと思い返してみると、メイレンさんの挨拶が頭をよぎった。
✻
「…それでは、皆様の成人をお祝いして、乾杯!」
「乾杯!」
成人式。
20歳になった人々の、これまでの人生と、これからの人生を称え、祝い、激励するパーティー。この国では王宮で行われる。
そこで何よりも特別なのは、アルコールだ。初めてその不思議な味を舌に乗せたとき、何とも言えない刺激が体中に走った。これ美味しいのか?美味しいか。みんな結構飲んでるし。俺ももう一杯、と思ったところでアンドレに止められた。
「ソラは辞めとけよ」
「は?なんで」
「お前んちが酒に格別弱ぇのは結構有名な話だ」
「はぁ~?俺はそうとは限らないだろ」
「いやいや~」
「やめとけって」
「気持ち悪くなっても知らないよぉ」
アンドレを筆頭に少々陽気になった友達たちに邪魔され、心なしか対抗心が湧いた。
「俺は飲める。見てろよお前ら」
えぇ~と立ち尽くすいう友人らを強引に押しのけて、追加の酒を注いでもらった。ピリピリする。心地良いかもしれない。
「もー全然よゆー。まだ飲める」
「お前なぁ、」
「ふへへ、おめぇらさっきの言葉取り消す準備しとけよな~?」
「コイツ放っといていい?」
「いいよ、こうなると面倒だ」
「じゃ、ソラ。お前が飲めることは分かったから、程々にはするんだぞ。じゃあな」
勢いのある俺に圧倒されたのか、アンドレたちは顔を見合わせ、そして俺に手を振って行ってしまった。なんだ、つまんねぇ、張り合いねぇの。
まぁ2杯目を飲み干した時にはそんな感情もなくなってかなりハイだった。楽しい。
ただ3杯目、飲み干す前から軽く目眩。チカチカする。楽しい。しんどい。気持ちいい。気持ち悪い。何だコレ。
一旦外に出よう。夜風を浴びよう。
そう思って中庭のテラスの丸テーブルで休んでいたら、いつの間にか水の入ったグラスを持ったシェネリ様が目の前に居た、という訳だ。
✻
「旅行行ったときもずぅっっとかわいくってぇ…魔法博物館行って目ぇキラッキラさせてぇ」
「はぁ」
「でっかいパフェ食べたとき口周りにいっぱいクリームつけちゃったりしてぇ」
「さっきも聞きましたよそれ」
「ははぁっ、かわいい…誰が育てたの~?俺~~~!?」
「親バカって酒のおかげでここまで露見するんですね」
シェネリ様は呆れたように頬杖をついた。
「あー、行儀悪いですよ姫」
「貴方だからその惚気も許しているのですよ、これくらい見逃して下さい。というか明日には忘れてるでしょう」
見逃します。今気分が良いので。
まぁこの様子を誰かに見られたら俺の首が危ういなぁ、というぼんやりとした危機感も無いわけではない。それはいけないので少し姿勢を正す。だって家でハルが待ってる。
今頃何してるかな、流石に寝てるかな。
さっきからかわいいと連呼しているあの顔を思い浮かべると自然と口角が上がる。引き取ってよかったと思う。だってこんなに毎日が楽しい。
「ずっと居てくれねぇかな…」
ほとんど心の声のようなそれをシェネリ様は聞いたのか聞こえなかったのか、すっくと立って手を叩いた。
「さ、早く帰ってあげたらどうでしょう。かわいいハルが待ってるのでは?」
「たしかに…」
「夜道は危ないので馬車を出しますね。最近は魔物も増えているみたいですし」
「助かります…」
そうと決まれば、とシェネリ様は馬屋へ向かってくれた。
グラスの水を飲み干す。気持ち悪さはマシになった。
✻
お気をつけて、と見送られ、馬車に揺られること数十分。森の馴染んだ風が小窓から吹き込んだとき急にハルに会いたくなった。
寝てるだろうから、また寝顔を見ようか。
「ここまでで大丈夫です。後は歩きます」
「了解です。おやすみなさい」
あまり馬車で近づくと音で起きちゃうだろうから、という考えだ。
しかしいざ家を見ると、一階の明かりが目に入った。
まだ起きてるのか?
少し早足になる。あぁ鍵なんてなかったらいいのに。早く開け。
「ハルっ…?」
「ぁ…おかえりなさい」
テーブルに突っ伏していたのだろう、俺を見ると眠たげな目を擦ってふらっと立ち上がった。
「もしかして、待ってた?」
「はい…。暗い家に帰るのって、寂しい、ので…」
「ハ、ハル~っ!」
「うわっなんですか、てか酒臭っ」
俺が寂しくならないように待ってたなんて、なんていい子。飛び付いて頭をワシャワシャと撫で回す。
「こんな時間まで起きてること、怒られるかなって思ってたんですけど」
「怒んない怒んない、いい子だよお前は~」
「酔っ払い面倒くさいな…」
みんなしてこの呆れ顔するけど全然構わない。なぜって?もちろん気分が良いから。
ふふふ、ハルのお陰様で全然寂しくないよ~~…………………
✻
翌朝、頭が痛くて起きた。これがいわゆる二日酔いか~なんてぼんやりしていると少々イライラしながら朝ごはんを並べていたハルが声を上げた。
「あの、散々撫で回してそのまま寄りかかって寝ないでください」
「え、ごめん…。でもさ、その…記憶がない」
「でしょうね!今後お酒には気を付けてくださいよ」
「はい…。反省します…」
フォールド家に酒を飲ませるな。の真実を身をもって知った。なんだかシェネリ様にもご迷惑をかけた気がするので謝りに行こうと思う。
「酔ってますよね…!?」
「酔ってないでぇす」
さっきもこのやり取りした気がする。まぁいいや。目の前のシェネリ様はため息をついた。
「フォールド家に酒を飲ませるなっていうのは本当だったのですね…」
何やら呆れているような気がするけど気にしない。だって今、今までにないくらい気分が良い。ふわふわする。何でだろうと思い返してみると、メイレンさんの挨拶が頭をよぎった。
✻
「…それでは、皆様の成人をお祝いして、乾杯!」
「乾杯!」
成人式。
20歳になった人々の、これまでの人生と、これからの人生を称え、祝い、激励するパーティー。この国では王宮で行われる。
そこで何よりも特別なのは、アルコールだ。初めてその不思議な味を舌に乗せたとき、何とも言えない刺激が体中に走った。これ美味しいのか?美味しいか。みんな結構飲んでるし。俺ももう一杯、と思ったところでアンドレに止められた。
「ソラは辞めとけよ」
「は?なんで」
「お前んちが酒に格別弱ぇのは結構有名な話だ」
「はぁ~?俺はそうとは限らないだろ」
「いやいや~」
「やめとけって」
「気持ち悪くなっても知らないよぉ」
アンドレを筆頭に少々陽気になった友達たちに邪魔され、心なしか対抗心が湧いた。
「俺は飲める。見てろよお前ら」
えぇ~と立ち尽くすいう友人らを強引に押しのけて、追加の酒を注いでもらった。ピリピリする。心地良いかもしれない。
「もー全然よゆー。まだ飲める」
「お前なぁ、」
「ふへへ、おめぇらさっきの言葉取り消す準備しとけよな~?」
「コイツ放っといていい?」
「いいよ、こうなると面倒だ」
「じゃ、ソラ。お前が飲めることは分かったから、程々にはするんだぞ。じゃあな」
勢いのある俺に圧倒されたのか、アンドレたちは顔を見合わせ、そして俺に手を振って行ってしまった。なんだ、つまんねぇ、張り合いねぇの。
まぁ2杯目を飲み干した時にはそんな感情もなくなってかなりハイだった。楽しい。
ただ3杯目、飲み干す前から軽く目眩。チカチカする。楽しい。しんどい。気持ちいい。気持ち悪い。何だコレ。
一旦外に出よう。夜風を浴びよう。
そう思って中庭のテラスの丸テーブルで休んでいたら、いつの間にか水の入ったグラスを持ったシェネリ様が目の前に居た、という訳だ。
✻
「旅行行ったときもずぅっっとかわいくってぇ…魔法博物館行って目ぇキラッキラさせてぇ」
「はぁ」
「でっかいパフェ食べたとき口周りにいっぱいクリームつけちゃったりしてぇ」
「さっきも聞きましたよそれ」
「ははぁっ、かわいい…誰が育てたの~?俺~~~!?」
「親バカって酒のおかげでここまで露見するんですね」
シェネリ様は呆れたように頬杖をついた。
「あー、行儀悪いですよ姫」
「貴方だからその惚気も許しているのですよ、これくらい見逃して下さい。というか明日には忘れてるでしょう」
見逃します。今気分が良いので。
まぁこの様子を誰かに見られたら俺の首が危ういなぁ、というぼんやりとした危機感も無いわけではない。それはいけないので少し姿勢を正す。だって家でハルが待ってる。
今頃何してるかな、流石に寝てるかな。
さっきからかわいいと連呼しているあの顔を思い浮かべると自然と口角が上がる。引き取ってよかったと思う。だってこんなに毎日が楽しい。
「ずっと居てくれねぇかな…」
ほとんど心の声のようなそれをシェネリ様は聞いたのか聞こえなかったのか、すっくと立って手を叩いた。
「さ、早く帰ってあげたらどうでしょう。かわいいハルが待ってるのでは?」
「たしかに…」
「夜道は危ないので馬車を出しますね。最近は魔物も増えているみたいですし」
「助かります…」
そうと決まれば、とシェネリ様は馬屋へ向かってくれた。
グラスの水を飲み干す。気持ち悪さはマシになった。
✻
お気をつけて、と見送られ、馬車に揺られること数十分。森の馴染んだ風が小窓から吹き込んだとき急にハルに会いたくなった。
寝てるだろうから、また寝顔を見ようか。
「ここまでで大丈夫です。後は歩きます」
「了解です。おやすみなさい」
あまり馬車で近づくと音で起きちゃうだろうから、という考えだ。
しかしいざ家を見ると、一階の明かりが目に入った。
まだ起きてるのか?
少し早足になる。あぁ鍵なんてなかったらいいのに。早く開け。
「ハルっ…?」
「ぁ…おかえりなさい」
テーブルに突っ伏していたのだろう、俺を見ると眠たげな目を擦ってふらっと立ち上がった。
「もしかして、待ってた?」
「はい…。暗い家に帰るのって、寂しい、ので…」
「ハ、ハル~っ!」
「うわっなんですか、てか酒臭っ」
俺が寂しくならないように待ってたなんて、なんていい子。飛び付いて頭をワシャワシャと撫で回す。
「こんな時間まで起きてること、怒られるかなって思ってたんですけど」
「怒んない怒んない、いい子だよお前は~」
「酔っ払い面倒くさいな…」
みんなしてこの呆れ顔するけど全然構わない。なぜって?もちろん気分が良いから。
ふふふ、ハルのお陰様で全然寂しくないよ~~…………………
✻
翌朝、頭が痛くて起きた。これがいわゆる二日酔いか~なんてぼんやりしていると少々イライラしながら朝ごはんを並べていたハルが声を上げた。
「あの、散々撫で回してそのまま寄りかかって寝ないでください」
「え、ごめん…。でもさ、その…記憶がない」
「でしょうね!今後お酒には気を付けてくださいよ」
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