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「今日をもって、私は魔王としての役目を終える」
………。驚きすぎて声が出ないってこういうことを言うんだな。生きているうちの魔王引退など前代未聞だ。ポカーンとしてしまった。
国民の方も相当驚いたのだろう。シーンとした後、ザワザワと困惑している様子が伝わってきた。
父上が右手をあげる。静かにしろという合図だ。
「皆が驚くのも分かる。此処で魔王引退を報告した者はいないだろう。ただ私は勇者に剣で貫かれた身だ。それによって魔力がだいぶ減ってしまった。今、勇者と闘ったところで勝てる見込みがなくなってしまった」
まさか、勇者の剣にそんな力があったなんて…俺があの剣をぶった斬ってやりたい。出来ないだろうけど……出来たところで、人神に新しく作られるだけなんだけどね。
「しかし、後任となるリエルは違う。若く、力がある。たまにリエルとカイトの闘っているところを見ている私が、リエルの強さを保証しよう」
リエルは強い、それには同意しよう。ついつい頷いてしまう。
「明日より、魔王となるリエルより挨拶を…今後の魔国の発展を願い、私はこれで下がらせてもらう」
父上がバルコニーから出て行った。
その背中がいつもより、なんか大きく見えた。
「…魔王となるリエルだ。皆、戸惑いが大きいと思う。それを払拭できるように、この魔国を発展させて守れるよう、これから頑張っていくと誓おう」
今までで1番の声援があがった。
凄いなって思って隣のリエルを見た。
その時、気づいてしまった。手に強く力を入れすぎて、白い手袋が赤くなっていることを…それは、突然言ってきた父上への怒りか、不安や戸惑いからか。
俺も父上にならって、右手をあげる。すると、ちゃんと声援がおさまった。
「王族の一員として私も少しでもリエルの…いや、この国の助けになるように、全力で頑張ると誓おう」
声援が響き渡った。よかった…これは前の俺には無理だっただろう。此処まで俺への信頼を築き上げてくれたのは、きっとリエルだ。その恩返しをするのは、今からだ…そう思った。
リエルの固く握られた手を包むと、力が抜けていくのが分かった。
「ありがとう、カイト兄上」
心なしか、リエルの笑顔が自然体になった。
2人で国民に向かって手を振って、バルコニーをあとにした。
➖ー➖ー➖ー➖ー➖ー➖ー➖
「「父上!!」」
バルコニーをあとにして、父上を探すと、裏の庭園の方にいた。
「リエル、カイト…私は今日のうちに此処を発つ」
「「えっ?」」
なんでなんだ。父上は魔王を引退したとしても、そばで見守ってくれると思っていたのに…
「私がいつまでも此処にいても、余計な争いが起きる」
確かに此処に父上がいると、また父上を魔王にさせようとする者が出るだろう。
「どこに行かれるんですか?」
もう会えないなんて嫌だ。だけど、今の父上はもう違うどこかを見ていた。
「私が嫌になったときの、避難場所であったところだ。此処の庭園は雰囲気が似ている。なんでだろうな…凄く落ち着く」
此処は母上が大切にしていた庭園だった。亡くなってからは、誰かが守ってくれたのだろう…綺麗なままだ。
その時、急に母上との出来事を思い出した。あれは、唯一俺が城の外へ出た記憶だ。
そこは、街外れにある小さな民家だった。だけど、誰も住んでいない。
『カイトもね、何か嫌なことがあったら此処に来るといいわ。誰も住んでないけど、魔法で綺麗に保たれたままでしょ?
ふふっ、懐かしいわ。私もね、昔此処に住んでいたの。あの人も何か嫌なことがあったら、すぐ此処に来たわ。
今じゃ、すぐ近くに居るのに…遠く感じるようになってしまったわね』
そう言っていた。母上から父上の話はなかなか聞いたことがなかった。だから、鮮明に覚えている。
「…父上。俺も何か嫌なことが会ったらあの場所へ行ってもいいですか?」
すると父上が驚いた顔をして、こちらを見てくれた。
「カイトは、場所を知っているのか?」
「えぇ、一度母上に連れて行ってもらったんです」
「そうか、ナタリーが」
父上は何処かを見て微笑んだ。まるで何か愛おしい者を見る目だ。その顔を見ると、2人はちゃんと愛しあっていたんだなと思った。
「私も絶対に行きます!」
ずっと黙っていたリエルが声を上げた。
そうだな、そのときはリエルと一緒に行こう。
「あぁ、2人とも来てくれ。そのときは、いろいろな場所を案内しよう」
それは楽しみだ。俺は王宮以外の場所を全然知らないからな。
「では、またな」
父上が転移魔法を起動した。
「「また…」」
これが、父上と王宮で交わした最後の言葉だった。
これからは、父上と母上の思い出の場所で言葉を交わすのだろう。
………。驚きすぎて声が出ないってこういうことを言うんだな。生きているうちの魔王引退など前代未聞だ。ポカーンとしてしまった。
国民の方も相当驚いたのだろう。シーンとした後、ザワザワと困惑している様子が伝わってきた。
父上が右手をあげる。静かにしろという合図だ。
「皆が驚くのも分かる。此処で魔王引退を報告した者はいないだろう。ただ私は勇者に剣で貫かれた身だ。それによって魔力がだいぶ減ってしまった。今、勇者と闘ったところで勝てる見込みがなくなってしまった」
まさか、勇者の剣にそんな力があったなんて…俺があの剣をぶった斬ってやりたい。出来ないだろうけど……出来たところで、人神に新しく作られるだけなんだけどね。
「しかし、後任となるリエルは違う。若く、力がある。たまにリエルとカイトの闘っているところを見ている私が、リエルの強さを保証しよう」
リエルは強い、それには同意しよう。ついつい頷いてしまう。
「明日より、魔王となるリエルより挨拶を…今後の魔国の発展を願い、私はこれで下がらせてもらう」
父上がバルコニーから出て行った。
その背中がいつもより、なんか大きく見えた。
「…魔王となるリエルだ。皆、戸惑いが大きいと思う。それを払拭できるように、この魔国を発展させて守れるよう、これから頑張っていくと誓おう」
今までで1番の声援があがった。
凄いなって思って隣のリエルを見た。
その時、気づいてしまった。手に強く力を入れすぎて、白い手袋が赤くなっていることを…それは、突然言ってきた父上への怒りか、不安や戸惑いからか。
俺も父上にならって、右手をあげる。すると、ちゃんと声援がおさまった。
「王族の一員として私も少しでもリエルの…いや、この国の助けになるように、全力で頑張ると誓おう」
声援が響き渡った。よかった…これは前の俺には無理だっただろう。此処まで俺への信頼を築き上げてくれたのは、きっとリエルだ。その恩返しをするのは、今からだ…そう思った。
リエルの固く握られた手を包むと、力が抜けていくのが分かった。
「ありがとう、カイト兄上」
心なしか、リエルの笑顔が自然体になった。
2人で国民に向かって手を振って、バルコニーをあとにした。
➖ー➖ー➖ー➖ー➖ー➖ー➖
「「父上!!」」
バルコニーをあとにして、父上を探すと、裏の庭園の方にいた。
「リエル、カイト…私は今日のうちに此処を発つ」
「「えっ?」」
なんでなんだ。父上は魔王を引退したとしても、そばで見守ってくれると思っていたのに…
「私がいつまでも此処にいても、余計な争いが起きる」
確かに此処に父上がいると、また父上を魔王にさせようとする者が出るだろう。
「どこに行かれるんですか?」
もう会えないなんて嫌だ。だけど、今の父上はもう違うどこかを見ていた。
「私が嫌になったときの、避難場所であったところだ。此処の庭園は雰囲気が似ている。なんでだろうな…凄く落ち着く」
此処は母上が大切にしていた庭園だった。亡くなってからは、誰かが守ってくれたのだろう…綺麗なままだ。
その時、急に母上との出来事を思い出した。あれは、唯一俺が城の外へ出た記憶だ。
そこは、街外れにある小さな民家だった。だけど、誰も住んでいない。
『カイトもね、何か嫌なことがあったら此処に来るといいわ。誰も住んでないけど、魔法で綺麗に保たれたままでしょ?
ふふっ、懐かしいわ。私もね、昔此処に住んでいたの。あの人も何か嫌なことがあったら、すぐ此処に来たわ。
今じゃ、すぐ近くに居るのに…遠く感じるようになってしまったわね』
そう言っていた。母上から父上の話はなかなか聞いたことがなかった。だから、鮮明に覚えている。
「…父上。俺も何か嫌なことが会ったらあの場所へ行ってもいいですか?」
すると父上が驚いた顔をして、こちらを見てくれた。
「カイトは、場所を知っているのか?」
「えぇ、一度母上に連れて行ってもらったんです」
「そうか、ナタリーが」
父上は何処かを見て微笑んだ。まるで何か愛おしい者を見る目だ。その顔を見ると、2人はちゃんと愛しあっていたんだなと思った。
「私も絶対に行きます!」
ずっと黙っていたリエルが声を上げた。
そうだな、そのときはリエルと一緒に行こう。
「あぁ、2人とも来てくれ。そのときは、いろいろな場所を案内しよう」
それは楽しみだ。俺は王宮以外の場所を全然知らないからな。
「では、またな」
父上が転移魔法を起動した。
「「また…」」
これが、父上と王宮で交わした最後の言葉だった。
これからは、父上と母上の思い出の場所で言葉を交わすのだろう。
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