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7話、ジャイアントスコーピオン(7)“ごはんパート”
しおりを挟む焚火の横には机代わりの大きな岩盤、その上には木皿が規則正しく並べられている。
「良い石が見つかってよかったわ、重くなかったの?」
「んっ? 全然問題ないよ? これくらいなら片手でも充分!」
まるで空のダンボールを持つかのように軽々と岩を二つ抱えるラーナ。
その岩を椅子代わりに机を挟みこむように置くと、今度はリリが自分で持てるサイズの石を置き、フワリと座り込んだ。
「匂いだけでも幸せな気分になるわー」
「はやく、はやくー! 食べよーよ!」
「焼き具合は……丁度よさそうね! オッケー盛り付けましょー!」
「ちょっとまってねー!」
ササッと取り分けたラーナは、リリの向かい側に座った。
二人は満面の笑みで向かい合う、表情から期待感がハッキリと見て取れる。
「「いただきます!!」」
元気で大きな二人の声が、日が沈み薄暗くなった洞窟内に響き渡った。
“一品目:ジャイアントスコーピオンの腕肉の香草焼き”
バギッ! っという音から一拍遅れて、ラーナの声が洞窟内に木霊した。
「んんーーー!! 上手! いい匂い! サイコー!!」
一口齧っては勢いよく地団駄を踏み、また改めて齧りつくと、また地団駄を踏む。
「殻付きって……豪快というか何というか……」
「んっ? リリどうしたの、美味しいよ?」
「っあ、いやっ、痛くないの?」
ラーナはキョトンとした表情で「何が?」と首を傾げて答えた。
(……まっいっか、ラーナの大きな反応は見ていて可愛いしねぇ)
「わたしも食ーべよっと」
腕肉はローズマリーの枝を焼く際に焚べたことによって、良い匂いがリリの身体を包む。
「……ぉお!」
(物凄い良い香り、こっちのローズマリーは質がいいのかしら?)
食べてみると更に香りが身体を突き抜け、まるで森の中にいるような錯覚をするほどだった。
「想像以上に香りがいいわ」
「っね!」
「しかも、生で食べた時より味が濃い」
「不思議だねー、焼いただけなのに」
「ねー」
(余分な水分が抜けたからだと思うけど、ここで言うのは無粋よね)
あまりの美味しさに手が止まらない、もう一口、もう一口と手が伸びる。
「カニよりも、プリプリで高級感があるわね」
「カニ? はよく分からないけど、この噛むと弾ける感じは最高だねぇ」
齧りついた殻を、ほっぺたに付けながらラーナは笑顔で答えた。
(夢中になっちゃって、カワイイ!!)
”2品目:ジャイアントスコーピオンの棘肉の悪魔風”
「次も多分、美味しいわよ」
「本当に?」
「頭の中では完璧!!」
石の机に置かれたスキレットからは棘肉と共に炒めたニンニク、タイム、オレガノの香りが複雑に混ざり立ち昇っていた。
先程の森の様な香りとは打って変わり、地中海のカラッと爽やかな風が吹き抜けるような香りだ。
(地球的に言うなら[ロブスターの悪魔風グリル]だもの、これは美味しいに決まっているわ!)
「うぁあー、楽しみぃー!!」
「さぁさぁ、食べましょ、食べましょ」
「イェーイ!」
思っていたよりも一品目が美味しかったので、テンションがおかしくなった二人。
机に置かれたスキレットに同時に手を伸ばす。
「「………っ!!」」
棘肉は全体的にはモッチリとした食感だが、焼か固めた表面はカリッと心地のいい音を鳴らす。
独特な食感と音を暫く楽しむ二人は、一緒に飲み込むと、全く違った反応を見せた。
「辛っ!!」
「ボク、これ好きー!!」
リリは舌を出し、ラーナは両手でほっぺたを手で包む。
お互いが真反対の反応をした、二人はそれぞれがビックリとした表情で向き合う。
「確かに美味しいけど……辛過ぎない?」
「っえ? このピリピリするのが良いんじゃんかー」
「ひゃあー、後からまた来たー、舌どころか喉もヒリヒリするー」
(わたし、割と辛い物には強いと思っていたんだけど……鷹の爪入れすぎたかな?)
前世と感じ方の違う身体、考えたところで解決策などあるわけもない。
何よりも、ヒリヒリする舌と喉に気を取られ、リリはあっさりと思考を手放した。
(まぁ種族が違えばそんなこともあるわよね?)
その一瞬のためらいに、ラーナはそっと水を差し出すと優しく申し訳なさそうな顔をして聞いた。
「大丈夫? 水、のむ?」
「あ、ありがとう、ラーナー」
「辛いもの、苦手だった? ボク、唐辛子入れすぎちゃったかな?」
「そんなつもりはなかったんだけど……」
ゴクゴクと水を流し込むと、リリの口から辛さが薄れていくのを感じる。
水を流し込むリリに、ラーナは腕を組み、話しかける。
「ピクシーが辛いもの食べてるイメージって無いもんねぇ」
「プハーッ……確かに、ないわね」
(モンスターを食べている時点で、イメージもなにも無いんだけどね)
「ごめんね」
「いいのいいの! わたしも食べられると思っていたんだし」
「そう?」
「想像より辛かったってだけだもの!」
元々、辛味が強い棘肉と鷹の爪の辛さが合わさることで、予想よりも刺激的な味になっていた。
(辛いのが食欲を誘うわね、まぁ今の身体には合わなかったみたいだけど……)
「パンがあれば食べられるかな? むしろ白ワインがほしい!!」
「リリ贅沢ー、でも……」
注意をするラーナだが、キラキラとした目で上を見ている。
パンや白ワインで食べる想像を膨らませているようだ。
「ラーナ、よだれ!」
「アハハ、ごめんごめん、ついつい」
「食いしん坊さんね」
(ラーナの口には合ったみたいで本当に良かった)
”3品目:尻尾肉のしゃぶしゃぶ”
「最後は尻尾肉よ!」
「えー、これは生でしょ? イヤだなー」
「そんなことを言っていいの? まぁ見てなさい」
リリは尻尾肉を針で刺し、出汁を取った鍋で軽く湯がく。
そして、あらかじめ削っておいた岩塩につけて、口に入れた。
「んー、プリップリ!」
「なにー? その食べ方?」
怪訝な顔をしつつも、ワクワクが隠せないラーナは、右手にはもう針を握っている。
やり方を聞きたくて仕方がないといった感じだ。
「しゃぶしゃぶって言うの」
「シャ、ブ、シャブ?」
「わたしの秘密の食べ方よ! ラーナにだけ内緒で教えちゃう!!」
リリは人差し指を口の前に置き、シーッとポーズを取る。
内緒という言葉を聞いたラーナの目は更にキラキラと輝きが増す。
「どうやるの? シャブシャブってどうやるの?」
期待感が高すぎて、ラーナはリリを急かすように聞く。
「こうやってね、鍋のお湯には2、3回くぐらせるの」
「こ、こう?」
見本を見せながら食べるリリを、少したどたどしい手つきでラーナが真似をする。
「そうそう、あとは少しだけ塩をつけてー、食べる!!」
(あぁーうまい! 実家に帰りたくなるー)
ホームシックになるほどに懐かしく美味しい味がする。
感慨に拭けるリリの横で、次々と口に運ぶラーナ。
「ほぇ、なるほどぉ。これは面白いなぁん、うんうん」
何かに納得しながら食べるラーナ。
リリにはそれが可愛らしく見えてクスッと笑みがこぼれた。
「満足してくれたみたいで良かったわ!」
(でもなんだか不思議な感覚ね、味はカニしゃぶなのに太い繊維を薄切りにしているから、食感が独特だわ)
「カニというよりも……どちらかというとハリのあるお肉のような、いやっ! 固めのわらび餅? 柔らかいコンニャク? 食感が独特で面白いわね」
二人とも、ボソボソと思い思いの独り言を言いながら舌鼓を打つ。
そんな中で、リリには一つだけ小さな不満があった。
(塩以外の調味料が欲しいわー、ポン酢が欲しい!!)
そんな事を考えていたリリの横で、おもむろにラーナはバックから小瓶を取り出す。
傾けると中からはドロリとした真っ黒な液体が出てきた。
その未知の液体にしゃぶしゃぶをつけながら改めて口に運ぶ。
「ラーナ、それって……」
「さっき取った毒!」
「やっぱり!! なんで食べてるの?」
ごくごく普通な質問をするリリに、ラーナも当り前な口ぶりで返した。
「今回は新鮮なのがたくさん取れたからねー、昔に買った古いのは捨てる予定だったけど、捨てなくてよかった!」
「いやいやいや、そんなことよりも毒よ? 食べて大丈夫なの?」
「なんで?」
キョトンとした表情でラーナが聞き返す。
自然過ぎる素振りに、リリの方が間違っているのかと錯覚さえ起きそうなほどだ。
(あれっ? わたしが間違ってる?)
「なんでって……毒よ?」
「耐性は持ってるし、自分の致死量も把握してるから」
「そういう問題?」
「それに結構、古いやつだからね毒性も弱まってるよ? リリも一緒に食べる?」
笑顔で差し出すラーナにリリは真顔で返す。
「満面の笑みで勧めてきても、わたしは食べませんよ?」
「すーっごい、美味しいのにー」
「美味しくてもいらない!」
「高級なんだよー?」
「お金の問題じゃない!」
「特別に、新鮮な方を出そうか?」
ラーナの一貫した態度にリリの心が一瞬揺らぐ。
(フグも、毒があるかも知れない肝臓が美味しいって言うものね……いやっ、なにを考えているのよわたし、毒なんて食べたら大変なことになる!)
「さすがにわたしはまだ死にたくない!」
首を横に大きく振り叫ぶリリ、ラーナはニコッと笑うとからかう様に答えた。
「リリはちっちゃいもんねー」
ラーナの態度に、リリ負けじと言い返す。
「ラーナもでしょ!」
「まぁね」
「んもぅ」
良い香りと共に夜が更けていく
、、、、
、、、
、、
、
真っ暗になった死の荒原で似合わない笑い声が響く、洞窟の入り口からは微かな焚き火の光と、明るい笑い声が響いていた。
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