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86話 元・お義父様の絶体絶命
しおりを挟む父上はもう、領主として、取り返しのつかないことをした。領主に相応しい存在じゃない。
「あれは!ファンファンクラン子爵家の更なる繁栄のためだ!ルーフェス公爵家に代わり武力を示し、皇帝陛下からの信頼を勝ち取れば、爵位も上がり、領土も増える!そうすればーー」
「そうすれば?なんです?自分の地位が確立されると?息子の俺に、爵位を奪われずにすむと?」
自分本位の身勝手な考えに、クラウドは大きく溜め息を吐いた。
「本当にガッカリです父上」
魔物はその間にも、ファンファンクラン様の周りを取り囲んだ。でもその場にいる誰も、1歩も彼を助けようと動き出す者はいなかった。
「ひぃ!お、お願いです!助けて下さい!死にたくない!」
彼の実力で、この場を乗り切ることは不可能。ルーフェス公爵家が手を貸さなければ、命は無い。
命乞いを必死に請う父親の姿を、クラウド様はどんな気持ちでご覧になっているんだろう……。
「ルーフェス公爵家に代わって武力を示すんだろう?面白い、やってみればいい」
「それーーは!今はまだ!万全の状態では無くー!」
「今、成果を上げなければ、皇帝陛下に命を取り下げるよう願い出るのは出来なくなるけど?ほら、さっさとしなよ」
息子に爵位を渡すよう皇帝陛下に命じられたにも関わらず、ファンファンクラン様は逃げるようにマルクス領に来て、悪足掻きを続けた。
「ファンファンクラン子爵、俺は話の通じない馬鹿と話すのは嫌いなんだよね。お前が子爵の座にいる限り、お前の失態はファンファンクラン家の失態になる」
「たたたた助け、本当にっっ!」
話している間にも、魔物の牙が容赦無くファンファンクラン子爵の体を傷付けた。
死が身近に迫り、体はガタガタ震えてる。
「皇帝陛下の命には逆らえない。潔く、子爵の座をクラウドに明け渡し、ファンファンクラン子爵夫人との離婚を受け入れるんだね」
「ーーーっ!分かりました!分かりました!すぐに子爵の座をクラウドに渡します!妻との離婚も応じます!!だから、助けーーー」
「おい!ファンファンクラン子爵!話が違うぞ!」
……あら、生きておられたんですね。残念。
壊れかけの玄関ホールから顔を出すのは、元・お義父様お義母様。それに、カインにエレノア。
絶妙のタイミングで現れてくれましたね。なんたるお邪魔虫……。
「何がルーフェス様よりも戦いの才能があるだ!魔物の数を見ただけで逃げ出しやがってーー!お前に幾ら払ったと思ってるんだ?!」
場の空気も読まずギャンギャン騒ぎ立てる元・お義父様は、こんな目に合われても意外と元気なようですね。
でもーーーエレノアや元・お義母様には、強烈なお灸になったみたい。
いつも身なりを綺麗に整えているハズの服はボロボロ。ご自慢の綺麗なお肌も傷だらけ。いつも元気で悪態をつく妹と元・お義母様は、ガクガクと恐怖で震えてる。
なんてお可哀想……いい気味ね。
「う、五月蝿い!今はそれどころでは無いんですーー!この状況を見たら分かるでしょう?!」
魔物に囲まれていて、どこからどう見ても、力の無い貴方達にとって、絶体絶命の場面。
「ふん、何を大袈裟な!どういった経緯か知らんが、ルーフェス様がここにいるんだから何の問題も無いだろうが!」
ーーー何故あなた達は、こんなにも無礼な態度をとっておきながら、助けてもらえるのが当然だと思っているんでしょう?
「さぁ、さっさとこの役立たずに代わって、魔物を退治して下さいルーフェス様!」
こんな状況になってまで自身の立場を顧みないなんてーーー元・お義父様のなんて愚かなこと。
「断る」
「何ですと?!」
私達は聖人君子じゃない。こんな失礼で上から目線の勘違い馬鹿男の元・お義父様を、メトが助けるワケが無い。
「そんーーな!ルエル!」
助けを請うように私の名前を呼ぶカイン。
私を頼らないでくれません?私は何の力も無いんですから、ここでは役立たたずです。
「ーーあ、そうだ、ルーフェス様!ルエルを貴方にあげます!だから、その代わりに僕達を助けて下さい!」
ーーは?私を、メトにあげる?
私が無視をしていると、何を血迷ったのか、カインは斜め上の意味がわからない台詞を次から次へとメトに告げた。
「ルエルの告白を、僕は受け取りません!悲しいけれど……ルエルを、ルーフェス様の妻に差し上げます!ルエルはまだ僕が好きだから、ルエルには辛い選択になってしまうけど……愛する僕が死んでしまう方が、ルエルには耐えられないと思うからっ!だから!僕はルエルの想いに応えない!応えられない!」
ーーー意味不明過ぎて頭が痛いーーーほら、見て下さい、ラットやクラウド。ヴェルデにサンスまで、冷めた表情を浮かべてるじゃないですか!
ああ!こんな奴の元・妻だった過去を消し去りたい!!
「…………いっその事そのまま死ねばいい」
「どうしてですか?!こんなに良い話は無いじゃないですか!僕がルエルの気持ちに応えなければ、ルーフェス様はルエルを失わなくて済むんですよ!?」
もう、その私が貴方を好きって前提で話すのを止めてよね!全っっく好きじゃないんです!もう大嫌いなんです!憎悪の対象なんです!私は、貴方の不幸を何より望んでるんです!
「カイン様……マジで痛い奴だったんだな」
「俺、こんな奴を敬愛してたのかよー!」
ヴェルデ、サンス。気持ちは分かりますよ。私も同じ気持ちです。自分の男を見る目の無さに凹みます。
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