ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子

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102話 最初で最後の里帰り

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 *****


 ルーフェス公爵邸ーーー。


「……捨てて」
「へーい」

 封も開けず、差出人の名前を見ただけで、読む価値無しと判断し、ラットに突き返した。
 1週間前から懲りもせずに何通も何通も送られてくる手紙。

「また愛のラブレターか。一度も返信してねーのに、あの夫婦、揃って懲りねーな」

 差出人は、カイン。手紙の内容は、私への安っぽい愛を語った言葉。
 エレノアが家出しているのと関係あるのか知らないけど、何故かその辺りから、毎日届くようになった気持ち悪い手紙……。最初は、何だろう、と思って読んでしまったけど、すぐに読んで後悔した。

『ルエルが愛しい。ルエルを抱きしめたい。ルエルと一緒に苦楽を共にしたいーーールエルに僕のために、お金を稼がせてあげる。ルエルに僕のために、家事をさせてあげる。僕と生きる未来のために、エレノアと僕の子供を、一緒に育てて行こうーーー愛してるよ、僕と再婚しよう』

 ふっっっざけんなよ!誰が再婚するか!!ボケ!!と、つい、あまりにもふざけた内容に、口が悪くなってしまいました……。
 こんな感じの身も蓋もない手紙が、毎日、昼夜、届く。

「ノイローゼになりそう……」

 愛してるとか、都合のいいこと書いてるけど、要約すると、家が財政難に陥って、経営も上手くいかず、家事や子育てをするメイドもいなくて、全部が大変だから、私にやれ。と長々と書いてる。
 マジふざけんなよ!誰がするか!!

「メトに言えばいーじゃん。一発で解決するぜ」

「……そうなんだけど、今、メトには別件をお願いしてるから、あんまり負担をかけたくなくて……」

「俺は黙ってて後でバレる方がメトの機嫌が悪くなって大変だと思うけどなー」

 流石、幼馴染み……真実味がありますね。

「ちょっと、告げ口しないでよ」
「まー、しねーけどさ。普通にうざくね?自分で捨てた女に復縁なんて、どの面下げてって感じ」
「そんな倫理観の備わってる人なら良かったのですけどね、残念ながら、非常識の塊のような人ですから」

 そんな非常識男の元・妻だった事が、私の人生最大の汚点です。はい。


「……お前、またいたのか」
「お、お帰りー!もーすぐ帰ってくるって聞いたからさ。ルエルと待ってたんだよ」

 パタンっと扉を開けて中に入って来たのは、この部屋の主である、メトだった。

「お帰りなさい、メト」

 今日はいつもに比べると、とても早いお帰り。
 これなら、久しぶりに一緒に夕食もとれそう!嬉しい!
 旦那様の早いご帰宅が嬉しくて、ニコニコと笑顔でお迎えする私に、メトは何故か、不機嫌そうな表情を浮かべていた。

「ただ今………ねぇルエル、いくらラットといえど、部屋で男と2人っきりは止めて欲しいんだけど?」

「それ前もその前もそのその前も言ってたけど、お前が帰ってくる5分前までは、ちゃんと女のメイドもいるっての!てか、俺がルエルに何かするワケねーじゃん!俺まだ殺されたくねーよ!」

 ……ラットと二人で部屋にいると、いつも言いますよね。ラットは一応、ルーフェス公爵家の執事なのですけど……。

「冗談はさておき」
「冗談に聞こえねーよ」

 メトは鞄から、1枚の写真と、1枚の紙切れを、私に手渡した。

「手配して下さったんですね」
「ああ。これで、君の望む地獄に、エレノアを落とす事が出来るよ」

 写真に写る人物は、私も、よく知る人物ーーちょっと言い方が違うかしら?正確には、どんな人かを、詳しく調べた人。
 エレノア……貴女は、私だけじゃなく、シャインの命まで脅かそうとした。絶対に許せない。

 私がこの手で地獄に叩き落としてあげる。



 *****


 次の日ーーークリプト伯爵邸ーーー

 マルクス伯爵家を家出したエレノアは、お父様が長期視察で家を空けているのを利用して、ずっと、クリプト伯爵家で過ごしているらしい。
 街中で見た着飾ったエレノアの服やアクセサリーは、どれも見た事が無い物ばかりで、新作だったから、きっといつもの様にお母様がエレノアを甘やかして、何でも欲しい物を買ってあげているのでしょう。

「……」

 実家に戻るのは……メトとの結婚報告をした時以来。それから一度も、クリプト伯爵邸には近寄ってもいない。
 建前で実家と呼んでいるけど、私には、赤の他人の家のように感じる。それくらい、私にとってここは、馴染みのない、温かみの無い、寂しくて辛い思い出しかない場所。
 ここに戻って来るとーーー家族に蔑ろにされた記憶が蘇ってきて、無意識に体が強ばってしまう。

「ルエル?」

「……はは。ごめんなさい、私……緊張してしまってーーー」

「心配する必要は無い」

 メトはそう言うと、私の手を握った。

「ルエルには俺がいる。俺ほど最強な夫は他にいない。存分に使えばいい」
「ーーふふ、はい。分かりました」

 震えていた手が、メトの温かさで止まった。

 そうね、今の私には、貴方という最強の旦那様がいる。何も恐れることは無い。恐れるのは、あちらであって、私じゃない。

 さ、旦那様を連れて、久しぶりの里帰りに行きましょう。
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