〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。

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2.伯爵令嬢リンシアは魔道具作りが楽しい

5話:私にも譲れないものがある

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伯爵邸に戻り、お母様に呼ばれた私は、執務室へと向かった。お父様は不在だ。

お父様は、ここ最近──例の契約書の存在が露呈した翌日から、邸を開けることが多くなった。
何をしているのか分からないが、この状況だ。何かしら動いていると思われる。

(これで、本当に意味の無いことをしていたらもう見限るわ)

比喩ではなく、私は本気だった。


執務室に向かうと、お母様から手紙を差し出された。
お母様は眉間に深い皺を刻んでいた。

「カウニッツ伯爵家からのお手紙……?」

「読んでごらんなさい」

お母様のその反応な嫌な予感を覚えながらも目を通した私はサッと紙面に視線を走らせた直後、思わずそれを破きそうになっていた。

「なっ──」

何かしら、これ!?!?

目を見開く私に、お母様が深いため息を吐いた。

「本当に、とことんバカにしてくれているわよね……」

「お母様!!この件、エリオノーラには!?」

「言ってないわ。あの子の性格上、知ったら気に病んでしまうでしょう?」

その返答に、私は心底安堵した。
というのも、カウニッツ伯爵家からの手紙、というのが──

『婚約は解消・・しても構わない。ただし、婚約解消後、貴家のご令嬢エリオノーラ・リンメルとの婚約が条件である』

……という、とんでもなくこちらを馬鹿にしたものだったからだ。

「一応、あなたに見せておこうと思ったのよ」

「…………」

「リンシア?大丈夫よ。気にせずとも、あなたとカウニッツ伯爵家との婚約は破棄するし、契約の方も何とかするわ。これも念の為伝えておこうと思っただけ」

「……るわ」

「え?」

ぽつりと呟いた声は、あまりに小さすぎて、どうやらお母様には聞こえなかったようだ。
私は、聞き返すお母様に今度はハッキリと口にした。

「エリオノーラがあんな男と結婚するくらいなら、私がするわ」

迷いを一切感じさせない口調でそう言い切ると、お母様は目を見開いた。私がそんなことを言うとは思わなかったようだ。

思わず、手紙を掴む手に力が入る。ぐしゃり、と掴んでいる箇所にシワがよる。
それに構わず、私はお母様を見つめて言った。

「もし、万が一、億が一、エリオノーラがあんな下衆と結婚することになるのなら。私がした方が一億倍マシというものよ。お母様、私、今決めたわ」

いつになく、強い口調だからかお母様が困惑したように首を傾げた。私と同じ桃色の髪がふわりと揺れる。

「決めた、というのは?」

「それはもちろん」

私はにっこりと笑った。
そして、今度は、先程とは打って変わって丁寧に、手紙のシワを伸ばし、畳んでいく。

「婚約破棄だけでは、足りないわ。こんな舐め腐った真似をしてくださったんですもの。相応のお礼は、しなければならないわよね?お母様。私ね、とっても礼儀正しいのよ」

感情がぐちゃぐちゃだった。
めちやめちゃになった情緒は、一回転して笑顔というところで落ち着いたらしかった。
満面の笑みを浮かべる私に、お母様が戸惑った様子を見せる。

「リンシア……だけど」

「お母様、お願い。カミロは私の婚約者だわ。私の婚約者がしたことの責任くらい、私に取らせて欲しいの」

言外に、私にやらせてくれなければ腹の虫が収まらない、と告げる。

お母様は眉を寄せ、沈黙した。
それから、とても長いため息を吐いた。

お母様は、私の性格をよく知っている。
そして私は、お母様によく似ている。

例えば……そう。
一度決めたことは、絶対に覆さないところ、とか。

「…………分かったわ。だけど、期限は設けさせてちょうだい」

お母様の言葉に、私は笑顔を浮かべた。

「もちろんよ」

「半年、半年よ。半年以内に、あなたは相応の責任・・・・・とやらを果たしなさい。それが出来なければ、お母様がこの件は預かります」

「半年も要らない。三ヶ月でいいわ」

「本気?何をするつもり?」

「私に考えがあるの。……もし、期限までに私が何とかできなかったら、その時は三ヶ月分の利息を支払うわ」

「とんでもない額になるわよ」

お母様は目を細めて私に言った。
頭ごなしに反対しないあたり、お母様には既に返済のあてがあるのだろう。
お母様は、出来ないことは口にしない人だ。
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