〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。

文字の大きさ
20 / 61
2.伯爵令嬢リンシアは魔道具作りが楽しい

6話:伯爵令嬢リンシアの本領発揮

しおりを挟む

私は頷いて答えた。

「私名義の貯金だけでは足りないというのなら、その時はお金を工面するわ。だからどうか、お願い。お母様」

お母様はじっと私を見つめた。
確かめるような、私と同じ一重梅色の瞳。私も負けじと、お母様を見つめ返す。

互いに互いを推し量るような視線のやり取りが続いたが──先に諦めたのは、お母様だった。

「……仕方ないわね。分かったわ」

「っ!!本当!?」

「ええ。だけど期限は三ヶ月。あなたが解決できなかった場合は、その間の利息を支払ってもらうわ。後で無理だと言っても聞かないわよ」

「絶対言わないわ!ありがとう、お母様!これは……これだけは、絶対私の手でやりたかったの」

私は、そこで言葉を切った。
まつ毛を伏せて、思ったことをそのまま口にする。

「私のことはいいわ。今更だし、私個人の問題だもの。……でも、エリオノーラは違うでしょう?」

「……そうね」

長い沈黙の後、お母様はつぶやくように言った。
きっと、お母様も言いたいことがあるのだろう。だけど彼女は私の言おうとしていることは察し、口を噤んでくれたのだ。

その気遣いが、ありがたいと思う。

私はカミロが嫌いだ。昔から、苦手だった。

婚約してすぐの頃はまだ、猫を被っていたようだけど、その猫も早々に脱走した。

結婚したら、これからもカミロの顔色を窺い、こびへつらう日々が続くのだ。機嫌を損ねわないように意識する毎日。

それを、エリオノーラに?

(冗談じゃないわ)

先日の騒ぎ──王城での最終試験で、カミロはもう、私との婚約続行は難しいと思ったのだろう。

それで、今度はエリオノーラ?

(……馬鹿にしてるわ)

私のことも、エリオノーラのことも。

結局、カウニッツ伯爵家は、リンメル伯爵家を金蔓程度にしか思っていないのだろう。

私やリンメルの名誉はともかくとして。エリオノーラの人生まで踏みにじろうとするその根性は、許せない。

(相応のお返しは、させてもらわなければね)

二十年……だったかしら?
十分、リンメルは尽くしただろう。
今度は、カウニッツの番だ。




執務室を出た私は、足早に自室へと向かっていた。

(王太子殿下に例の話しておいて良かったわ……)

セリーナの件で協力を要請されたのは想定外だったけれど、こちらの希望を通せたのは大きい。私も、相応の働きを見せなければ。

部屋に戻った私は、フローラが淹れてくれたハーブティーに口をつけると、彼女に便箋を用意してもらった。
宛先は、エルドラシアでお世話になった恩師だ。
豊富な知識を持つ彼女なら、何か知っているかもしれない。

そう思いながら、私はペンを走らせた。







そして、数日後。
教授からの返信より先に、私は思いもしない報告を受けることになる。
それも、弟のレオナルドから。



(うーん……やっぱり、うちの蔵書室にはなさそうね)

私はその日、リンメル伯爵邸の蔵書室から、魔道具関連の本を全て自室に持ち込んで、手早く内容を確認していた。
もしかしたら、どこかに違法魔道具に関連する記載がないかと一縷の望みで確認することにしたのである。
しかし、パッと見たところ、やはりなさそうだ。

(それもそうよね。そもそも、違法魔道具に関連する本は例外なく発禁指定を受ける。あるとしたら、王城か……あるいは、宝物庫?)

どちらにせよ、王太子殿下か、その側近2人のどちらかに聞いた方がいいだろう。

エルドラシアへの手紙は送った。
現在、教授からの返事待ちの状況だけどその間を無為に過ごすわけにもいかない。

そう思った私は、まず国内で集められる情報を収集することにしたのだ。

王太子殿下の方でも確認しているだろうけれど、自分の目でも確かめたい。

そう思って、私は蔵書室の本を検めていたのだった。

(少なくとも、リンメル伯爵邸ここにはないわね)

私がそう思い、本を戻すために腰を上げようとした、まさにその時だった。

部屋の扉が叩かれたのは。

部屋を訪ねてきたのは、レオナルドだった。

(あら、珍しい……)

成人が近づいてきて、大人の自覚が芽生えたのだろう。レオナルドは昔のように私に甘えてくることはなくなっていた。それは少し寂しかったが、彼もいつまでも子供というわけではないのだ。
これも、必要なことなのだと自分に言い聞かせたのが、つい最近の出来事だった。

エリオノーラとレオナルドは、お父様と同じ銀髪だ。
扉を開けると、そこにはまだ大人になりきれていない少年の姿があった。

「レオナルド、どうかしたの?」

私が水を向けると、レオナルドは躊躇いがちに顔を上げた。
見れば、彼の後ろにはエリオノーラの姿もあった。エリオノーラは、『さっさと早く言いなさいよ』とでも言わんばかりにレオナルドに視線を向けている。

「……姉上。今お時間よろしいですか?」

「構わないけど……。そうだ、そしたらレオナルド、エリオノーラ。」本を戻すのを手伝ってもらえるかしら?1人じゃ大変だと思っていたのよ」

本当は、力持ちの従僕を呼ぶつもりだったのだけど、何だかレオナルドは緊張しているようだったのだ。
だから、気をほぐすためにもそう言うと、レオナルドはぎこちなく頷いた。

「……大丈夫です」

「私もやるわ!」

そうして、2人に手伝ってもらい、蔵書室に向かったのだけど──蔵書室の机の上に本を置くと、先に口火を切ったのはエリオノーラだった。

「ねえお姉様!?レオナルドったらね、聖女様に声をかけられてるのよ!」
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

婚約破棄されて去ったら、私がいなくても世界は回り始めました

鷹 綾
恋愛
「君との婚約は破棄する。聖女フロンこそが、真に王国を導く存在だ」 王太子アントナン・ドームにそう告げられ、 公爵令嬢エミー・マイセンは、王都を去った。 彼女が担ってきたのは、判断、調整、責任―― 国が回るために必要なすべて。 だが、それは「有能」ではなく、「依存」だった。 隣国へ渡ったエミーは、 一人で背負わない仕組みを選び、 名前が残らない判断の在り方を築いていく。 一方、彼女を失った王都は混乱し、 やがて気づく―― 必要だったのは彼女ではなく、 彼女が手放そうとしていた“仕組み”だったのだと。 偽聖女フロンの化けの皮が剥がれ、 王太子アントナンは、 「決めた後に立ち続ける重さ」と向き合い始める。 だが、もうエミーは戻らない。 これは、 捨てられた令嬢が復讐する物語ではない。 溺愛で救われる物語でもない。 「いなくても回る世界」を完成させた女性と、  彼女を必要としなくなった国の、  静かで誇り高い別れの物語。 英雄が消えても、世界は続いていく―― アルファポリス女子読者向け 〈静かな婚約破棄ざまぁ〉×〈大人の再生譚〉。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです

天宮有
恋愛
 子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。  数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。  そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。  どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。  家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...