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2.伯爵令嬢リンシアは魔道具作りが楽しい
20話:長年の夢が叶ったのだもの
しおりを挟む魔法管理部は、城とは別棟の棟にある。
入口の扉は魔力感知器が搭載されており、登録された魔力に反応して、扉が開く仕組みだ。
魔力登録の手続きを済ませて中に入ると、すぐに階段が現れた。
ちなみにクラインベルク様は、王太子殿下に仕える従僕のためここを訪れる機会が多いらしい。
そのため、彼は魔法管理部の人間では無いが、特例として魔力を登録しているとのことだった。
階段を登りきると、両開きの扉が現れた。それを、ルーズヴェルト卿が扉を開け、中に入るよう促してくれる。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
お礼を言って中に入ると、そこは応接室のようだった。
ルーズヴェルト卿は、応接室を横切ると、続き扉を開けた。促されて、私もそちらに向かう。
「ここは……事務室ですの?」
「はい。これをあなたに渡さなければ、と思っていたんです」
彼が真っ直ぐに向かったのは、壁際に設置された棚だった。ルーズヴェルト卿はその棚に手をかざして──恐らくそれも、魔力で解錠する仕組みなのだろう。
引き出しから、あるものを取り出した。それは、ベルベット生地に包まれた小箱のようだ。
(何かしら……?)
不思議に思って彼の行動を見守っていると、ルーズヴェルト卿が戻ってきた。
それを手渡される。
「これは?」
首を傾げて、彼に尋ねた。
すると、ルーズヴェルト卿は、自身の胸元──ジャケットの襟に刺しているピンバッジを示した。
「魔法管理部印章です。ご存知でしょう?」
「──!」
思わず、小箱を落としそうになった。
マナ・クレスト。魔法管理部所属を意味するピンバッジである。
(まさか……本当に!?)
小箱を開くと、確かにそこには、黄金のピンバッジが収められていた。国花を魔法陣が囲うデザインは、魔法管理部唯一無二のものだ。
「…………」
それを見て、言葉を失った。
呆然と、ピンバッジを見つめる。ついで、込み上げてきたのは、歓喜、だった。
私は、ひたすらじっと、黄金に輝くピンバッジを見つめた。様々な思いが、駆け巡る。
思い出すのは、このために奔走してきた過去の日々だった。
(私……本当に、魔法管理部に合格したのね)
今更、そんなことを考える。
今まで、急展開だったからだろうか。あまり実感がわかなかったのだ。しかし今、この憧れのピンバッジを手にしてようやく、実感が湧いた。
文官になるために、魔法管理部に所属するために、ずっと勉強してきた。
文官合格試験に合格するために、寝る間も惜しんで机にかじりついてきたのだ。文官登用試験の勉強をして、魔法学を独学で学んだ。
お父様に掛け合って、エルドラシア魔法学院の入試試験に向けて、必死で勉強してきた。
とになく、時間が惜しくて、淑女レッスンの合間を縫って、睡眠時間を削って、少しでも長く、勉強時間を確保しようと努めた。
エルドラシア魔法学院も、文官登用試験も、一発で合格しなければ、次のチャンスはないと分かっていたから。……とにかく必死だったのだ。
それが──ようやく。
このピンバッジは、私の夢の形だった。
私の希望であり、願いだった。
実物を前にして、感情が昂った。涙が滲む。
その時、冷静なルーズヴェルト卿の声が聞こえてきた。
「それで、先程の件ですが」
「…………」
途端、現実に引き戻される。
(……そうよ、ここは自室ではないのよ)
冷静な頭で思う。
気が緩みすぎたわ。私は、気を落ち着かせるために一度深呼吸をした。
涙は既に引っ込んでいた。
顔を上げると、ルーズヴェルト卿がさらに疑問を投げかけてくる。
「なぜ、聖女を黒だと思ったのかお聞きしても?」
「……もちろんですわ。ですが、あの」
そこで言葉を切ると、私は小箱に収められたピンバッジにそっと触れた。
ルーズヴェルト卿は不思議そうに首を傾げている。
私は彼を見ると、おずおずと申し出た。
「その前に、これをつけてもよろしいでしょうか……!?」
実物を前にして抑えが効かなかったのだ。
(だって、長年、夢に見ていたのだもの……!!)
すぐにでも身につけたい。
本当に夢のようだ。
うずうずしてそう言うと、予想外の言葉にルーズヴェルト卿は驚いたようだった。
その後、マナ・クレストを身につけた私はクラインベルク様に手鏡を貸してもらい、意気揚々と鏡面を覗き込んだ。そこには当然だけど、魔法管理部のピンバッジをつけた自分が映っている。
(わあ……!)
魔法で綺麗な格好をさせてもらったシンデレラはこんな気持ちだったのかしら。あるいは、メイクを施してもらった少女漫画のヒロインの気持ち?
とにかく今の私の気持ちはまさに
『これが、私……!?』というものだった。
鏡に映る自分は、夢の体現。
私はマナ・クレストにそっと触れた。冷たい感触が、紛れもない現実だと知らせてくる。
「~~~~っ……!」
じわじわと、喜びが込み上げてくる。
その喜びを噛み締めて、私は今一度、自身を戒める。
(この嬉しさは、邸に戻って、部屋で噛み締める、として!)
私はコホン、と咳払いをした。
「──失礼しました。はしゃぎすぎてしまいましたわ」
「は、しゃいでたんですか?」
私の言葉に、ルーズヴェルト卿が目を丸くして尋ねてきた。それに、愛想笑いを浮かべる。
(今更だけど……!あんなに感極まった姿を見られたのはものすごく恥ずかしいわね……!!どうにかして今のは忘れてくれないかしら。よし、念じましょう)
一縷の望みにかけてそんなことを願いながら、私はふたたび咳払いをした。話を変えるためだ。
「とにかく、先程のお話ですが」
「良ければ、記念写真でも撮りますか?」
「えっ!?撮りた…………じゃ、なくて!!」
ルーズヴェルト卿の言葉に、思わず身を乗り出してしまう。
話の転換がうまくいかず、私は思わずノリツッコミのような真似をしてしまうのだった。
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