〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。

文字の大きさ
35 / 61
2.伯爵令嬢リンシアは魔道具作りが楽しい

21話:キャピキャピ


せっかくなのでルーズヴェルト卿のご好意に甘え、記念写真を撮った。

その後、私たちは隣の応接室に移動した。クラインベルク様に紅茶を勧められたが、気持ちだけいただおいておく。何せ先程、執務室で紅茶を飲んだばかりだ。しかも、王太子殿下の策略に嵌ったことでヤケを起こし、数杯も飲んでしまった。
胃がタプタプでこれ以上は飲めないわ……。



私は、クラインベルク様とルーズヴェルト卿の対面のソファに腰を下ろすと、本題を切り出した。

「まず、ルーズヴェルト卿、クラインベルク様。お二人共にご存知かと思いますが、違法魔道具は、魔道具に悪魔の魂を宿したものですわ」

人差し指をピンと立てて改めて違法魔道具の説明を行う。それぞれ頷いて答える2人に、私はさらに補足を重ねる。

「悪魔は、精霊と対を成す存在。精霊がいるからこそ、悪魔がいて、悪魔がいるからこそ、精霊がいる。……というのは、魔法学において初歩中の初歩ですわね」

この認識は、エルヴァニア独自のものではなく、世界共通のものだ。
魔法行使の際、精霊の力があるからこそ、人々は魔法を使うことが出来る。精霊と魔力の関係は各国によって諸説異なるが、エルヴァニアでは人が精霊に協力を仰いでいる、という形を取っている。

マリア先生の手紙に
【違法魔道具というのはとても繊細な生き物です】
……と書かれていたのは、文字通り悪魔の魂を宿しているから。

精霊と対を成す、悪魔という生き物。
違法魔道具は、いわば降霊術のそれに近い。
悪魔を呼び寄せ、それを魔道具に住み着かせるのだ。
違法魔道具が厳しく取り締まられているのは、違法魔道具の核が悪魔だからだ。
悪魔は、最終的に人間の魂を食らう。

私は、先程のセリーナの様子を口にする。

「『悪しき魔物に魅入られないよう、僭越ながら私から忠告ですわ』……とお伝えした時の彼女の顔色は、とても悪いものでしたわ」

収穫祭は、豊穣を願う催しでもあるが、同時に悪魔払いの意味もある。
私の言葉に、何ともルーズヴェルト卿が微妙そうな顔をした。

(あれだわ……!買い物に来たはいいけれど、商品がどこにあるか分からず、さりとて店員さんに尋ねるのも申し訳ない……と思って、躊躇している顔に似ている)

私がそんなことを考えていると、実に言いにくそうにしながら、ルーズヴェルト卿がコメントした。

「……それは、それ以前の会話が関係しているのでは?」

「確かに多少、脅迫めいた忠告はしましたけれど……。ですが、それだけであそこまで様子がおかしくなるは思えませんわ。つまり、彼女には【悪魔】という単語に、心当たりがあったのです。あるいは、既にその悪魔に魅入られているから、挙動不審になったのかと思いましたわ」

「なるほど。一理ありますね」

クラインベルク様が頷いた。
ルーズヴェルト卿も、確かにその可能性がある、と考えたのだろう。
私はさらに言葉を続けた。

「聖女セリーナが、何らかの違法魔道具を使っている、あるいは、悪魔と何らかの関係があるのは、ほぼ間違いないと思いますわ」

彼女のあの反応は顕著だった。
突然血の気が引いたように顔が真っ青になった。あれは、何かしら理由がないと説明がつかない。

ふと、そこでルーズヴェルト卿が顔を上げた。

「ずいぶん仕掛けるな、と思ったのですが、なるほど。聖女の本音を引き出すのが理由でしたか」

「……えっ」

いえ、そういう意図はない。ただ、抑えられなかっただけで。本人を前にしたら、考えるより先に言葉が出てしまったのである。

しかし、ルーズヴェルト卿は先程の熾烈な口撃を、作戦のひとつと考えたらしい。わざわざ否定するのも何だかな、と思ったので私は沈黙を選んだ。

ルーズヴェルト卿は先程のことを思い出しているのか、頷きながら言葉を続ける。

「精霊が、まるで演劇鑑賞のように固唾を飲んで見守っていましたよ。彼らは聖女が嫌いですから、きらきらとした目であなたを見ていた。くるくる踊ってるものまでいました」

「踊っ……!?」

何それ。精霊って踊るの!?
見たすぎるわ。ぜひ、絵に描き起こしてくださらないかしら……!!
思わず好奇心が刺激されるが、次の彼の言葉に、私はピクリと固まった。

「しかしあなたは、ことごとく私の想像を超えますね。初めてあなたを見た時からは予想もしませんでした」

「あら。……うふふ」

(想像を超えるって、絶対あれよね!?さっきのことを言ってるのよね!?)

瞬間的に察したが、私は取り繕うように淑やかに笑みを浮かべる。
もはや、今更のような気もするけれど。

「貴族令嬢にあるまじき姿をお見せしてしまいましたわね。……好戦的で驚きました?」

「いえ、それは……」

ルーズヴェルト卿は言い淀んだが、しかしその通りだったのだろう。
彼が困ったように首を横に振る。

「……誤解なさらないでください。悪い意味ではありません」

「ですが、お恥ずかしい姿をお見せしてしまいましたわね」

まあ、後悔はしていないけれど。
ルーズヴェルト卿の言葉に、クラインベルク様から困惑した視線を向けられる。
その顔にはハッキリ『何言ったんだ、この人』と書かれている。少し注意しただけよ。

肩を竦める私に、ルーズヴェルト卿が眉を寄せた。

「いえ本当に、悪い意味ではないんです。ただ……あなたは、もっと、こう……可愛い一辺倒、といいますか、キャピキャピしているイメージがありましたので……」

私は笑みを浮かべて答えた。

「ありがとうございます。褒め言葉として受け取っておきますわ」

「…………悪い意味ではありません。本当です」

ため息を吐き出すようにして、ルーズヴェルト卿が言った。

恐らく、上手く言葉にならなかったのだろう。
だけど、ルーズヴェルト卿の言いたいことはなんとなく伝わってきた。

私は、人に誤解されやすい容姿だ。
口を閉じれば途端、あざといだの、異性に媚びているだの、陰口を叩かされやすい見目でおる。

髪も瞳の色もピンク、というのも理由の一つかもしれない。私は、お母様とお揃いのこの髪も目の色も、とても気に入っているのだけど。

私は苦笑を浮かべると、話を戻した。

「……それで、ルーズヴェルト卿。先程のお話ですけど、私に見せたいというものというのは何でしょう?それに、あなた方に聖女の違法魔道具の影響が出ていない理由も気になりますわ」

回廊で尋ねた疑問をふたたび口にする。
それに、ここに呼び出した理由を思い出したのだろう。ルーズヴェルト卿が頷いて答えた。

「ええ。まず、あなたにお見せしたいと言ったものはこちらです」
感想 30

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」 新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。 それもそのはず。 2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。 でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。 美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。 だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。 どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったレオノールに、やがてクラウディオの心は……。 すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?  焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。