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2.伯爵令嬢リンシアは魔道具作りが楽しい
21話:キャピキャピ
しおりを挟むせっかくなのでルーズヴェルト卿のご好意に甘え、記念写真を撮った。
その後、私たちは隣の応接室に移動した。クラインベルク様に紅茶を勧められたが、気持ちだけいただおいておく。何せ先程、執務室で紅茶を飲んだばかりだ。しかも、王太子殿下の策略に嵌ったことでヤケを起こし、数杯も飲んでしまった。
胃がタプタプでこれ以上は飲めないわ……。
私は、クラインベルク様とルーズヴェルト卿の対面のソファに腰を下ろすと、本題を切り出した。
「まず、ルーズヴェルト卿、クラインベルク様。お二人共にご存知かと思いますが、違法魔道具は、魔道具に悪魔の魂を宿したものですわ」
人差し指をピンと立てて改めて違法魔道具の説明を行う。それぞれ頷いて答える2人に、私はさらに補足を重ねる。
「悪魔は、精霊と対を成す存在。精霊がいるからこそ、悪魔がいて、悪魔がいるからこそ、精霊がいる。……というのは、魔法学において初歩中の初歩ですわね」
この認識は、エルヴァニア独自のものではなく、世界共通のものだ。
魔法行使の際、精霊の力があるからこそ、人々は魔法を使うことが出来る。精霊と魔力の関係は各国によって諸説異なるが、エルヴァニアでは人が精霊に協力を仰いでいる、という形を取っている。
マリア先生の手紙に
【違法魔道具というのはとても繊細な生き物です】
……と書かれていたのは、文字通り悪魔の魂を宿しているから。
精霊と対を成す、悪魔という生き物。
違法魔道具は、いわば降霊術のそれに近い。
悪魔を呼び寄せ、それを魔道具に住み着かせるのだ。
違法魔道具が厳しく取り締まられているのは、違法魔道具の核が悪魔だからだ。
悪魔は、最終的に人間の魂を食らう。
私は、先程のセリーナの様子を口にする。
「『悪しき魔物に魅入られないよう、僭越ながら私から忠告ですわ』……とお伝えした時の彼女の顔色は、とても悪いものでしたわ」
収穫祭は、豊穣を願う催しでもあるが、同時に悪魔払いの意味もある。
私の言葉に、何ともルーズヴェルト卿が微妙そうな顔をした。
(あれだわ……!買い物に来たはいいけれど、商品がどこにあるか分からず、さりとて店員さんに尋ねるのも申し訳ない……と思って、躊躇している顔に似ている)
私がそんなことを考えていると、実に言いにくそうにしながら、ルーズヴェルト卿がコメントした。
「……それは、それ以前の会話が関係しているのでは?」
「確かに多少、脅迫めいた忠告はしましたけれど……。ですが、それだけであそこまで様子がおかしくなるは思えませんわ。つまり、彼女には【悪魔】という単語に、心当たりがあったのです。あるいは、既にその悪魔に魅入られているから、挙動不審になったのかと思いましたわ」
「なるほど。一理ありますね」
クラインベルク様が頷いた。
ルーズヴェルト卿も、確かにその可能性がある、と考えたのだろう。
私はさらに言葉を続けた。
「聖女セリーナが、何らかの違法魔道具を使っている、あるいは、悪魔と何らかの関係があるのは、ほぼ間違いないと思いますわ」
彼女のあの反応は顕著だった。
突然血の気が引いたように顔が真っ青になった。あれは、何かしら理由がないと説明がつかない。
ふと、そこでルーズヴェルト卿が顔を上げた。
「ずいぶん仕掛けるな、と思ったのですが、なるほど。聖女の本音を引き出すのが理由でしたか」
「……えっ」
いえ、そういう意図はない。ただ、抑えられなかっただけで。本人を前にしたら、考えるより先に言葉が出てしまったのである。
しかし、ルーズヴェルト卿は先程の熾烈な口撃を、作戦のひとつと考えたらしい。わざわざ否定するのも何だかな、と思ったので私は沈黙を選んだ。
ルーズヴェルト卿は先程のことを思い出しているのか、頷きながら言葉を続ける。
「精霊が、まるで演劇鑑賞のように固唾を飲んで見守っていましたよ。彼らは聖女が嫌いですから、きらきらとした目であなたを見ていた。くるくる踊ってるものまでいました」
「踊っ……!?」
何それ。精霊って踊るの!?
見たすぎるわ。ぜひ、絵に描き起こしてくださらないかしら……!!
思わず好奇心が刺激されるが、次の彼の言葉に、私はピクリと固まった。
「しかしあなたは、ことごとく私の想像を超えますね。初めてあなたを見た時からは予想もしませんでした」
「あら。……うふふ」
(想像を超えるって、絶対あれよね!?さっきのことを言ってるのよね!?)
瞬間的に察したが、私は取り繕うように淑やかに笑みを浮かべる。
もはや、今更のような気もするけれど。
「貴族令嬢にあるまじき姿をお見せしてしまいましたわね。……好戦的で驚きました?」
「いえ、それは……」
ルーズヴェルト卿は言い淀んだが、しかしその通りだったのだろう。
彼が困ったように首を横に振る。
「……誤解なさらないでください。悪い意味ではありません」
「ですが、お恥ずかしい姿をお見せしてしまいましたわね」
まあ、後悔はしていないけれど。
ルーズヴェルト卿の言葉に、クラインベルク様から困惑した視線を向けられる。
その顔にはハッキリ『何言ったんだ、この人』と書かれている。少し注意しただけよ。
肩を竦める私に、ルーズヴェルト卿が眉を寄せた。
「いえ本当に、悪い意味ではないんです。ただ……あなたは、もっと、こう……可愛い一辺倒、といいますか、キャピキャピしているイメージがありましたので……」
私は笑みを浮かべて答えた。
「ありがとうございます。褒め言葉として受け取っておきますわ」
「…………悪い意味ではありません。本当です」
ため息を吐き出すようにして、ルーズヴェルト卿が言った。
恐らく、上手く言葉にならなかったのだろう。
だけど、ルーズヴェルト卿の言いたいことはなんとなく伝わってきた。
私は、人に誤解されやすい容姿だ。
口を閉じれば途端、あざといだの、異性に媚びているだの、陰口を叩かされやすい見目でおる。
髪も瞳の色もピンク、というのも理由の一つかもしれない。私は、お母様とお揃いのこの髪も目の色も、とても気に入っているのだけど。
私は苦笑を浮かべると、話を戻した。
「……それで、ルーズヴェルト卿。先程のお話ですけど、私に見せたいというものというのは何でしょう?それに、あなた方に聖女の違法魔道具の影響が出ていない理由も気になりますわ」
回廊で尋ねた疑問をふたたび口にする。
それに、ここに呼び出した理由を思い出したのだろう。ルーズヴェルト卿が頷いて答えた。
「ええ。まず、あなたにお見せしたいと言ったものはこちらです」
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