36 / 61
2.伯爵令嬢リンシアは魔道具作りが楽しい
22話:魔道具の話ならリンシアにお任せ
しおりを挟むルーズヴェルト卿の案内で、応接室を出る。廊下の突き当たりに進むと、部屋がいくつかあった。
その中の一室の前で彼は足を止めると、ルームナンバーの前で手をかざした。ここも、魔力認証で扉が開く仕組みのようだ。
彼に促されて私も部屋に入ると、そこは真っ白な部屋だった。一面真っ白な壁に、前世、理科の実験室で見たような白い机がいくつも置かれている。椅子が木製なところも、実験室に酷似していた。
部屋の広さと、壁際に置かれた棚の上に並ぶ魔道具の数々に、思わず歓声が出た。
「わあ……!」
見慣れない魔道具がたくさんあるわ!!
(あれはどう使うのかしら?作成者は誰かしら。エルヴァニア産よね?)
すぐにでも駆け寄って、じっくり拝見したいところだけど──流石に新人という立場だもの。そこまで自由な振る舞いはできない。ぐっと堪えて、目を皿のようにして見つめる。
見慣れない魔道具の数々を凝視しながら私は、ルーズヴェルト卿に尋ねた。
「ここは?」
「魔法管理部が所有する研究室です。ひとり一部屋、割り当てられます」
「こんなに広い部屋を、ですの!?」
「ええ。魔法管理部は毎年合格者数が少なすぎて、部屋が常に余っているんです。それに、長期任務で国外に出ている文官も少なくなく、使用されていない研究室は結構あるんですよ」
ここがあなたの研究室です、と説明を受けて、私はおずおずと、しかし迷いのない口調で彼に尋ねた。
「……では、あちらの魔道具を見てもよろしいでしょうか?」
ものすごく気になっていたのだ。
(あの、ウサギによく似た魔道具は何かしら!?)
近くに置いてある、髪飾りのような魔道具は?
効果は?魔法式は?構造は?どこの国の様式なのかしら?
気になることが山ほどあって、落ち着かない。
魔道具には、造り手の性格が現れる、と言われている。それは、魔道具に埋め込んだ魔法式にその人の色が出るからなのだとか。
私は、魔法学自体を独学で学んできたのもあって、結構特殊な魔法式を構成しているかもしれない。
私の申し出に、ルーズヴェルト卿は目を瞬いたが、すぐに苦笑した。
「ええ。ですがその前に、よろしいですか?」
「はい。何でしょう?」
「レディ・リンシア。まず、先程のあなたの質問にお答えします。我々──つまりフェリクスとヴィンセントと私の三人が、聖女の影響を受けていない理由は、ひとえに、私たちの魔力量の高さが理由かと思います」
思わぬ回答に、目を瞬いた。
そして、ふたたび疑問を口にする。
「……つまり、御三方には強い魔力抵抗があるから、ということですの?」
魔力値が高ければ高いほど、その分、魔力抵抗も高くなる。私の言葉に、ルーズヴェルト卿が頷いた。
「恐らく。ですが、万が一があってはいけないので、ヴィンセントは聖女となるべく顔を合わせないようにしています。コンラートも同じです」
「私の魔力量は、ごくごく平均値ですので」
クラインベルク様が頷いて答えた。
それに、ルーズヴェルト卿が補足するように言葉を重ねる。
「そして、私は代々ルーズヴェルト公爵家に伝わる魔道具を身につけています」
そう言うと、ルーズヴェルト卿は左手を示した。よく見れば、その中指には銀の指輪が嵌められている。
(指輪なんてしていたのね……)
全く気が付かなかったわ。意識して見ていなかったからだと思うけど。
ルーズヴェルト卿が、続けて言った。
「……気休めのようなものですがね」
「その魔道具は一体、どういうものですの?効果の程は?……と、お聞きしてもよろしいものなのかしら」
矢継ぎ早に尋ねると、ルーズヴェルト卿が困ったように私を見た。
「まじないのようなものですので、効果はあまり期待できません」
「…………」
(それなら、あまりつけていても意味は無いのではないかしら……)
私の考えを察して、ルーズヴェルト卿が苦笑した。
「家訓なんです。代々、当主ならびにその次期当主は、この魔道具を身につけるように、という家訓がルーズヴェルト公爵家にはあります。うちにはこれが、あと数個あるんですよ」
「予備が沢山あるのは、いいことですわね」
適当に私は相槌を打った。
(つまりお家事情、というやつね)
OK、それなら触れずにおきましょう。
人にはそれぞれ事情があるものだしね。そう思っていると、ルーズヴェルト卿が顔を上げた。
「それで、レディ・リンシア。これが本題なのですが……あなたに頼みたいことがあります」
「頼みたいこと?何でしょう?」
首を傾げると、彼は自身の手首を示した。
「あなたが今、身につけている魔道具。先程ヴィンセントに紹介した金の腕輪です。あれを、私の魔力に対応するよう改良することは、可能でしょうか?」
思いがけない要望に、私は目を瞬いた。
2,215
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
婚約者に突き飛ばされて前世を思い出しました
天宮有
恋愛
伯爵令嬢のミレナは、双子の妹キサラより劣っていると思われていた。
婚約者のルドノスも同じ考えのようで、ミレナよりキサラと婚約したくなったらしい。
排除しようとルドノスが突き飛ばした時に、ミレナは前世の記憶を思い出し危機を回避した。
今までミレナが支えていたから、妹の方が優秀と思われている。
前世の記憶を思い出したミレナは、キサラのために何かすることはなかった。
【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう
楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。
目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。
「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」
さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。
アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。
「これは、焼却処分が妥当ですわね」
だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる