〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。

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3.伯爵令嬢リンシアは共同戦線を張る

12話:準備完了!後は機を狙うだけですわ

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「もしかして、色々と親切にしてくださったのはそれが理由、ですの?」

思えば私は、ルーズヴェルト卿には色々とお世話になりっぱなしだ。カウニッツ伯爵家の調査もそうだし、無効化の魔道具作りもそう。力添えしていただいて有難い限りだわ、と思っていたのだけど、もしかして私への好意があったから、なのだろうか。ふとそんなことを考えて尋ねると、しかしルーズヴェルト卿が首を傾げて問い返してきた。

「それとは?」

「えっ!?ですから、恋心……」

まさか聞かれるとは思わなかったので、素っ頓狂な声が出る。戸惑いながらも答えると、彼が苦笑した。

「すみません。少しからかいました。私のことで悩んでくださるあなたが、とても可愛らしかったので」

「えっ」

(かわい……いえ、からかっ……!?!?)

ルーズヴェルト卿と【からかう】という単語が上手く結びつかない。更に困惑した私の頭の片隅に、宇宙の光景が広がった。唖然としていると、ルーズヴェルト卿は今度こそ回答を口にする気になったのだろう。彼は端的に答えた。

「その答えは、『半分正解』です。依頼の件や、魔道具の件は、たとえあなたでなくてもヴィンセントの指示なら請け負っていました。……ですが、確かに、いつも以上に力を入れていたかもしれません。好きな女性に、格好いいところを見せたかったものですから」

ルーズヴェルト卿は、ハッキリとそう言った。もう隠すつもりはないらしい。
呆気に取られていると、さらに彼は言葉を続けた。

「それに私は……あなたと、あの男の縁が一刻も早く切れて欲しいと思っていました。それもあって、いつも以上に動いていたかもしれません。ヴィンセントにはお見通しだったようですがね。……自己的な理由で、幻滅させてしまったでしょうか」

夜会で交わす言葉遊びとは違う。ルーズヴェルト卿の言葉は真っ直ぐだ。ハッキリしていて、ブレがない。彼の灰青の瞳は落ち着いていて、真っ直ぐに私を見つめている。
だから、落ち着かないのだと思う。言葉遊びなら、いくらでもかわせるもの。
だけど、ルーズヴェルト卿の言葉は、真っ直ぐすぎて、どう答えたらいいのか分からない。
動揺は仕草に現れた。私はあちこち視線を彷徨わせた後、彼を見て、ひとまず今判明している気持ちを口にすることにした。

「幻滅は、しませんわ。お気持ちも、嬉しいです」

それに、ルーズヴェルト卿が微笑んだ。まるで、今はこれ以上の関係は望んでいない、と言うように、彼は落ち着いた様子だった。

「答えは今すぐでなくて構いません。今のあなたには、NOイイエという選択肢しかないでしょうから。……少しで構いません。私に、夢を見させてくれませんか」

「……ルーズヴェルト卿は」

「はい、何でしょう?」

そう答える彼の声が、いつもより優しく聞こえるのは──私の気のせい、だろうか。落ち着かない。私は深く息を吐いた。

(……今はともかく、セリーナの件が最優先だわ)

他の何を置いても、本日中に魔道具の最終調整を終えらなければならない。明日にはエルドラシアを出立する必要があるからだ。
思考を切りかえようとした私は、だけどどうしても引っかかっていたことがあって顔を上げた。そして、ルーズヴェルト卿を見て言った。

「最初から思わせぶりな方だと思ったのですけど……思わせぶりでは、なかったのですね」

私の言葉に、今度はルーズヴェルト卿が目を丸くする番だった。

その時、扉が前触れもなく開かれた。お互い、疚しいことをしていたわけでもないのに、弾かれたようにそちらを見る。
すると、そこにはびっくりした顔のクラインベルク様がいた。

「申し訳ありません、取り込み中でしたか?」

「そんなことありませんわ!!ちょうど先程、魔道具が出来たのです。作業を進めましょう!」

そう言って、私は思考を切替えることにした。まず今は、何を置いてもこの魔道具の最終調整済ませるのが先だ。思考をふわふわさせている暇などないのである。



私は首飾りを手にして、二人に改めて説明した。

「これは、これを身につけた人の魔法を一律で無効化する魔道具ですわ。魔道具の効果も同様に無効化されるようになっています」

ブルームーンストーンの首飾りをテーブルに戻すと、今度はルーズヴェルト卿が手に取った。
私はそれを見ながら、言葉を続けた。

「検証作業に移りたいのですけれど、違法魔道具の魔封じを外して実際に確かめるのはあまりにリスクが高すぎますわ。ですから、魔法学院に置いてある魔道具を使っ……て……」

検証を行おうと思うんですの、と続けようとした私は、しかしそこで言葉を止めることとなった。
なぜなら──。
私は、目を開いた。

「…………えっ!?エルフ!?!?」

思わず、悲鳴のような声が出た。
私の視線の先、首飾りを手にしたルーズヴェルト卿に変化が起きていた。彼の耳は、エルフのように尖っていたのだ。

(あの特徴的な耳は、エルフ……よね!?物語にしかいない存在だと思っていたのだけど!?まさか実在するの!?)

唖然として目を見開いていると、私の声に驚いたクラインベルク様が「あちゃぁ」という顔をした。それを見るに、彼は知っていたのだろう。

ということは。ということは……!?!?

私は思わず、ルーズヴェルト卿ににじり寄っていた。

「ええ!?えっ。待ってくださいませ。それ、本物なんですの!?首飾りを手にして変化した、ということは何かしらの魔法が解けたということですもの。つまり、そのお耳は生来のもの!?えっ。エルフでいいんですわよね!?精霊!?!?…………あっ!魔道具!!」

混乱のあまり弾丸のようにまくし立てた私は、連想ゲームさながらの勢いであることを思い出した。あれは、エルドラシアに出発する前、ルーズヴェルト卿の同行が決まった日のことだったわ。
魔法管理部の研究室で、確か彼は言っていたはず。


『私は代々ルーズヴェルト公爵家に伝わる魔道具を身につけています』
『まじないのようなものですので、効果はあまり期待できません』
『家訓なんです。代々、当主ならびにその次期当主は、この魔道具を身につけるように、という家訓がルーズヴェルト公爵家にはあります』


(あっ…………あれね~~~~!?)

なるほど!謎は全て解けたわ!私は名探偵になった気持ちで顔を上げた。ルーズヴェルト卿は、私の勢いに圧倒されて目を白黒させている。

「お家事情って、つまり、ルーズヴェルト公爵家はエルフのお家だった……ということですの!?」

なんてメルヘン!なんてロマン!
最っ高じゃないの……!!

感極まる私に、ルーズヴェルト卿はしばらく呆然としていたようだったけど、やがて我に返ったらしい。慌てたように自身の手で耳に触れている。
それから、魔道具の効果が失せていることを察したのだろう。観念したように彼はため息を吐いた。そして、彼は肯定した。つまり、エルフだと自白したのだ。

「エルフ……の混血です。先祖に、そういう血がいたと聞いています」

「ッ……!!」

叫びたい気持ちを必死に押し殺す。
しかし内心、私は歓喜乱舞だった。

(きゃっ……きゃああああああ!!!!!)

エルフ!?嘘でしょ、本当に!?エルフって実在するのね!!
ものすごく耳に触りたいわ!感触はあるの?聴覚は一般的な人間とそう変わらないのかしら!?心からお耳に触れたくなかったが、さすがにそれはだめでしょう…………!!だめよね!?そう思う程度の理性はまだ残っているわ……!!

私は必死に、その場で踊り出したい気持ちを懸命に押えた。
OKOK。ものすごく気になるわ。根掘り葉掘り、モグラを叩き起す勢いで聞きたいわ。聞きたすぎる……!!

でも……今はそれよりも!!

(……ええい!!しっかりしなさい、リンシア・リンメル!!今やるべきことは何!?無効化の魔道具造りが最優先でしょう!!)

自分の頬を平手打ちする勢いで強く自戒した私は、深い、とても深いため息を吐いた。そして、ルーズヴェルト卿に笑顔を向ける。若干、ヤケっぱちではあるけれど。

「ひとまず、今ので検証は完了!!ですわね。望む効果を得られて満足……ですわ!」

とりあえず、無効化の魔道具の起動に問題はない。
となると、残るは──首飾りへの、仕掛けだ。

私は溜息を吐いて、思考を切り替えた。ちらりと見ると、ルーズヴェルト卿は既に無効化の魔道具から手を離している。

(そういえば、さっきの彼……魔力が飛躍的に上がっていたわ)

恐らく、ルーズヴェルト卿が身につけている魔道具は、魔力量を偽装するものなのだろう。もう今は平均的な魔力量しか察知できないけれど……さっきの彼の魔力量は、恐らくセリーナに匹敵する。

(……どおりで、早駆けの腕輪を使用しても顔色ひとつ変わらないわけだわ)

私は、ようやく引っかかっていた疑問への答えを得たのだった。



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