〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。

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4.伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

2話:悪魔の代償

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私の視線に気がついたルーズヴェルト卿が、ハッとしたように私を見て──咳払いをした。

「コホン、失礼。レディ・リンシア。私が贈った首飾りをつけてくださったのですね」

ルーズヴェルト卿に続き、フェルスター卿もキザな笑みとともに褒め言葉を口にする。

「それ、ブルームーンストーンだよね?すごく似合ってるよ。レディ・リンシアは肌が白いし、髪も淡い桃色だ。透明な石はあなたの清らかさや愛らしいさをよく引き立てる。これ、ルシアンが贈ったの?妬けちゃうなぁ」

……と、もちろんこれは作戦のうちである。しかし、さすがフェルスター卿。キザな言葉も手馴れている。私は愛想笑いを浮かべながらそっとセリーナを窺った。彼女は、突然取り巻き(と思っていた二人)が口々に私を褒め始め、おまけにルーズヴェルト卿が私に贈り物をしたという事実に唖然としていた。
もちろん、そんな事実は無い。
このブルームーンストーンはエルドラシアで私が制作した魔道具だ。
つまり、魔法無効化の魔道具。

私はそっと、首飾りに触れる。控えめに、淑やかに見えるように、まつ毛を伏せて謙遜してみせる。
ただし、周りに聞こえるようにお腹に力は入れておく。腹式呼吸だ。

「ええ……!!文官としてお仕事をしたまでですのに、まさかこんなものをいただいてしまうなんて……!エルドラシア魔法学院にたくさん予備があったとはいえ、申し訳ない限りですわ~~!!」

(腹式呼吸、難しいわ!!)

最後は若干叫ぶようになってしまったが、これで周囲の招待客にもおおよその予想はついただろう。つまり、これはルーズヴェルト卿からの個人的な贈り物ではなく、仕事の褒賞である…………という、ポーズだ。

この場にいる招待客のほとんどがエルドラシアに行ったことがなければ、魔法学院がどういう環境なのかも知らないはず。だから、それらしく言ってしまえばこちらのものなのである。
こういうのは、堂々と言ってしまえばそれっぽく聞こえるものなのよ。

私の言葉に劇的な反応を見せたのは、目の前のセリーナだった。彼女は信じられないものを見る目で私を……もっといえば、首飾りを見ている。

もはや、私よりも、ルーズヴェルト卿から贈られた、ということが彼女にとっては重要なのだろう。彼女が本当にターゲットをルーズヴェルト卿にしているなら、この手は有効だと踏んだ。そして私の推測はどうやら──正解だったようだ。

私はさりげなく首飾りに触れると、素早くチェーンネックレスの繋ぎ目をを外した。元々、脆く作っていたのである。
わざと、落とすために。

首飾りが外れて、床に落ちる。それは毛足の長い絨毯に落ちたため、音は吸収された。

「あら……落ちてしまいましたわ。どうしてかしら」

わざとらしく言って拾うために屈もうとしたところで、先にセリーナが動いた。

「あなたには勿体ないってことじゃないかしら!?これ、とっても素敵ね!私の方がよく似合──」

(かかった……!!)

私は思わず、周囲に気付かれないように微かな笑みを浮かべた。
セリーナが、落ちたブルームーンストーンの首飾りを拾った。つまり、魔道具に触れたのだ。もし本当にセリーナが違法魔道具を使用しているのなら、その効果は無効化されるはずだ。
そして──

『ぎゃああああああ!!』

その場に、嗄れた男性のような声が大きく響いた。
声の大きさに思わず目を見開く。その声はさらに続く。

『嫌だああああ!!何だこれはああああ!?!?オデッ……オデの力が!!食われるうううう!!!!ぎゃあああああ!!!!』

凄まじい叫び声を上げて、その場に勢いよく何かが転がり始める。それは、セリーナの足元から飛び出したようだ。咄嗟にそれを目で追って、その形状に息を呑んだ。

(あれは、蔦……!?)

金をそのまま溶かしたような液体に、手足のような蔦が伸び、カーペットを這っている。特徴的なのは中央の人の目玉のようなものだろう。それがギョロギョロと動いて、目の当たりにした招待客の悲鳴があちこちから響く。
目の色は緑。瞳孔のような中央の黒がなければエメラルドにも見える。そこで私は、思い当たった。

「アンクレット……!!形態はアンクレットだったのね!」

セリーナが身につけていた違法魔道具は、アンクレットタイプだったのだ。

(なるほど……!人目につかなかったのも納得がいくわ!)

違法魔道具には自律性がある。召喚者や所有者の魂を食らったあと、次のターゲットを求めて自ら動き出すのだ。だから、今動いているこれは違法魔道具で間違いないだろう。

無効化の魔道具を付与すれば、それに耐えかねた違法魔道具が動き出すと踏んでいた。違法魔道具に宿っているのは悪魔で、通常の魔道具には宿っているのは精霊の力だ。
悪魔と精霊は水と油といってもいいくらい相容れない存在。だから、精霊の力で無理に無効化されたら、悪魔が暴れる可能性は非常に高いと踏んだのだ。
地下の禁書室で知ったことだけど、違法魔道具には自我があるようだもの。

(最終手段は、セリーナごと聖水に沈める……じゃなくて、聖水で満たした簡易プールのようなものの中に入れるつもりだったけど、手間が省けたわ!!)

違法魔道具の暴れっぷりを見るに、私の読みは正解だったようだ。

彼女の違法魔道具使用はもはや決定的だ。そう思って彼女を振り向いた私だが、次の瞬間、言葉を失った。

「な──」

「何よう!?なんだっていうの!?私は知らない!何も知らないわよぉ!!」

セリーナは未だ、自身に起きた変化に気がついていないのだろう。だけど話しにくいか、もごもごと口を動かしており、声が聞き取りにくい。
私と同じようにルーズヴェルト卿もフェルスター卿も、そして招待客の面々もみな、セリーナを見て唖然としている。

なぜならそこにいたのは、青いドレスに身を包んだ老婆だったからだ。
なぜかは分からないけれど、セリーナはこの短時間に八十近い歳を取っていた。
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