魔王召喚 〜 召喚されし歴代最強 〜

四乃森 コオ

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先を急ぐゆえ

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「通行…止め…?」

「ええ、只今ゼリック様は真剣勝負の最中です。それを邪魔されては困るんですよ。ですから、怪我をされない内にお友達と一緒にお帰りください」


あれは本当に自分が知っているドラーなのか。
いつも気怠そうな雰囲気を醸し出しながらのらりくらりと面倒事には関わらないようにしている“適当”や“軽薄”といった言葉が似合うような男。
ユニにとってドラーとはそのような印象であり、なぜこのような男が近衛隊の隊長をしているのか不思議でならなかった。
しかし、今この場においてそれは完全に消えて無くなってしまった。
いつも通りのヘラヘラした笑みと態度ではあるのだが、その表面とは対照的に冷たく鋭い空気をぶつけてくる。


「ハァ…ハァ…ハァ…」


《息苦しい…。怖い…。あれが本当のドラーなの…。息が…上手く…出来ない…》


「・・・ん。・ニ・ん。・ニさん。ユニさん!!」

「ハッ!? ────── スズネ…さん?」


急に様子がおかしくなったユニを見てその異変を感じたスズネが大きな声で呼び掛ける。
そして、それに気付いたユニは何が起こっているのか分からない様子で、目を大きく見開き驚いた表情をしながら隣に立つ少女を見る。


「私を見てください」

「はい…。見ています」

「大丈夫ですから。ユニさんは一人じゃないですから、私たちが付いていますからね。大丈夫です!」


この少女はいったい何を言っているのだろう。
突然名前を呼ばれたかと思ったら自分のことを見ろと言い、大丈夫だと笑顔を向けてくる少女。
それに対して呆然とした表情を返すことしか出来ないユニに少女の隣に立つ男が言葉をかける。


「おい、獣人の女。少しは落ち着いたか?」

「えっ?」

「あんな雑魚の気に当てられてんじゃねーよ」


気に当てられる・・・。

ハッとした表情をみせるユニ。
周囲がよく見える。
先程まで感じていた息苦しさもない。
ただ、両の手のひらには薄っすらと汗が残っている。
そこで初めてユニは自分がドラーを恐れ、極度の緊張状態にあったのだと気付いたのだった。


「ありがとうスズネさん。もう大丈夫よ」

「良かった。もうひと息だから頑張ろう!」


二人の間に穏やかな空気が流れる
それでもドラーは殺気を飛ばし続けている。
そして、その後ろで大人しくしてはいるものの、近衛隊の隊員たちはいつでも戦闘に入れるように臨戦態勢を崩さない。
相手はたった三人。
対する自分たちは獣王国ビステリアの中でも手練れを揃えた精鋭部隊である。
そんな自分たちが負けることなど万が一にもあるはずがない。
そんな思いがドラーに余裕を与え、さらに彼を饒舌にさせた。


「ユニ様、そろそろお帰りになった方がいいですよ?うちの隊員たちは血の気も多く気性の荒い連中ですので、いくら隊長とはいえ抑えるのも大変なんです」

「私の考えは変わりません!ドラー、あなたこそ早く隊員たちを下げさせて道を開けなさい」


ドラーの脅しとも取れる忠告にも屈することなく、ユニは改めて自分の意思を口にする。
その態度に余裕たっぷりであったドラーが初めてイライラとした感情をのぞかせる。


「はぁ~・・・。ゼリック様の許嫁だからと下手に出ていれば調子に乗りやがって」

「えっ!?」

「いつまでもチヤホヤしてもらえると思うなよ。オイラたちはお前のご機嫌取りじゃないんだからな。あんまり調子に乗ってると ───── 殺しますよ?」


ゾクゾクゾクゾクッ ──────── 。

一瞬のうちに背筋が凍るような感覚を覚える。
これまでの殺気とは全く異なる純粋なる殺意。
そんなものをこれまでの人生においてただの一度として向けられたことのなかったユニにとって、それは理解することの出来ない恐怖であった。


ガタガタガタガタッ ──────── 。

ブルブルブルブルッ ──────── 。


《怖い…怖い…怖い…怖い…怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い》


恐怖のあまりユニは何も考えられなくなってしまう。
頭の中には『恐怖』の二文字しかなくなってしまい、あっという間にそれに押し潰されそうになる。
そんな彼女の心を蝕み支配しようとするモノを再びこの男が吹き飛ばす。


「おい!俺たちは先を急いでんだよ。さっさと失せろ」

「なんだ?お前は。女の前だからといって良い格好しようとするなよ。この人数が目に入っていないのか?獣王国ビステリアが誇る精鋭部隊だぞ。お前の方こそ殺されたくなかったらさっさと消えろ」

「あぁ?獣風情のクソ雑魚が誰に意見してんだ?貴様らごときがこの俺様に指図してんじゃねぇーよ。殺すぞ?」


魔王様はかなりお怒りのご様子。
『王』だの『最強』だのと思い違いをした不届き者どもに鉄槌を浴びせに行こうとしている最中に、自分の実力も知らぬ愚か者に絡まれたのだ。
挙げ句の果てに命令までされる始末。
この怒り・・・どうやって晴らしてやろうか ──────── 。


「クロノ!殺したらダメだよ」

「おいおい、俺たちは先を急ぐんだろ?それを邪魔してんのはあのバカどもだぜ?多少痛めつけてもいいだろ。まぁ~あいつらは俺様を怒らせたからな。手加減出来るかどうかは分かんねぇ~けどな」

「ダメ!私たちは戦争を止めに来たんだからね。少しだけ、少し痛い目を見てもらうだけだよ。命を奪うのは無し!!」

「お前は、いつもいつも・・・」


突然始まった痴話喧嘩。
緊迫した場面には似つかわしくないものなのだが、二人のことを知る者からするといつも通りの平常運転である。
そのような光景を見せられ、ユニの中から少しずつ恐怖心が薄れていく。
そんな状況の中、ドラーがあることに気付く。


「クロノ? ─────── クロノ…クロノ…クロノ・・・。貴様、魔王クロノか?」


ゴロゴロゴロゴロ ──────── バリバリバリバリッ!!!!!

ドガァーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!


ドラーたちの目の前に巨大な雷が落ちる。
そして、そのあまりの威力に近衛隊の中に動揺が走る。


「あぁ?俺が誰かなんてお前らが知る必要はぇーんだよ。俺様はこの先にいるバカ野郎どもに用があって急いでんだ。道を開けんのか、この場で皆殺しにされんのか、さっさと決めろ」


その圧倒的な存在感と威圧感。
そして何よりも放たれた魔法の威力。
どうやら本物の魔王で間違いないようである。
そうして、ブチ切れ寸前のクロノによって発せられた言葉を聞き、それまで余裕綽々であったドラーの笑みが引き攣ったものへと変化したのであった。




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