魔王召喚 〜 召喚されし歴代最強 〜

四乃森 コオ

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ザッザッザッザッザッ ──────── 。


「ん?」


ザッザッザッザッザッ ──────── 。

足音が聞こえる。
それも一人二人ではない。


「1…2…3… ────── 8か」


戦局を伝える伝令係は鳥獣が担っているため伝令ではない。
敵軍に押し込まれ後退したにしては数が少なすぎる。
あれこれと可能性を考え思考を巡らせた結果 ──────── 門を守る戦士たちは迫り来る者たちを敵であると結論づける。


「すでに各自気付いていると思うが、もうすぐここに敵と思われる輩がやって来る。その数、八名。その内一名は我らと同じニオイがすることから同族とみて間違いない」

「なるほど。裏切り者ってことですね隊長」

「たった八人で来るとは馬鹿な連中だ。こっちは五十を超えるってのに死にたがりどもが」


隊長と呼ばれる者の声に応えるように雄叫びを上げ始める戦士たち。
前線に出ることはなくとも獣王国が誇る屈強な戦士であることに変わりはない。
むしろ今回戦場から遠ざけられたことによってかなりのフラストレーションが溜まっている。
もちろん王城を守ることも重要なことであり、今まさに敵の別動隊が現れ攻め込もうとしており、それに備えておくことも必要なことである。
だがしかし、溜まるものは溜まるのだ。
そんな彼らにようやく訪れた戦いの場。
燃え上がるのも当然である。


「たかが八人と侮るな!我々が王城を守る最終防衛であると心得よ!敵は必ず全員殲滅するのだ!!」

「「「「「 ウオォォォォォ!!! 」」」」」



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


ザッザッザッザッザッ ──────── 。

山道を一気に駆け下りながら木々をすり抜けるように走る。
前方に見えるのは獣王国ビステリアの王城。
そして、その入口である門の前には五十近くの戦士たちが待ち構えている。
それでも立ち止まるわけにはいかない。
目指すは獣王ゼリックと聖騎士長アーサーが戦う闘技場。


「ハッ…ハッ…ハッ…。門が見えてきたっす」

「雄叫びなんて上げちゃって、あちらさんもやる気満々のようね。相手にとって不足無し!」

「それでは作戦通り僕たち三人が先に突っ込みますね。ラーニャとセスリーは援護をおね ──────── 」

「まずはわっちの魔法で蹴散らしてやるのじゃ! ───── 炎の弾丸ファイアバレッド


ドドドドドドドドドッ ──────── 。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


ドッ…ドッ…ドッ…ドッ…。


「ん?なんだ?」

「馬鹿野郎!魔法攻撃だ!回避、回避ーーーーー!!」


──────── ヒューンッ。

──────── ヒューンッ。

──────── ヒューンッ。

──────── ヒューンッ。

前方から迫り来る真っ赤な塊たち。
燃え盛るそれは真っ直ぐ自分たちに向かって飛んできている。
陣形の先頭に立つ者からの回避の言葉に従い全員が姿勢を低くして次々に飛んでくる炎弾を回避する。
しかし、威力・速度・数としっかり調整された攻撃は見事城門に直撃し、城壁を一切傷つけることなく門だけを破壊したのであった。

ドゴーーーーーン ───── ガラガラガラガラ 。


「よっしゃー!一気に攻め込むわよ」

「ワーッハッハッハッ。見たか、完璧にコントロールされたわっちの魔法を」

「さすがラーニャちゃん」

「今の攻撃で相手の陣形が崩れました。ミリア、シャムロム、行きますよ」

「「 了解(っす)!! 」」


突然の攻撃に虚を突かれた獣人たちは一時的な混乱をみせたものの、すぐさま臨戦態勢を整えミリアたちを迎え撃つ。


「来るぞ!迎え撃てーーー!!」

「「「「「ウオォォォォォ!!!」」」」」


ギィーーーーーン!!

開戦の合図ともいえる最初の攻撃を放ったのはマクスウェルであった。
師匠であるアーサーが負けるはずなどないという思いと不安や心配といったネガティブな思いが入り混じっている中でも目の前の戦いに集中して剣を振るう。

タタタタタッ ─── ガッ、ヒュンッ ──────── スタッ。


「アンタたちが何だか知らないけど、アタシはここまでずっと我慢させられっぱなしでめちゃくちゃストレス溜まってんのよ!八つ当たりに付き合いなさい ───── 炎転 」


敵と剣を交えているマクスウェルの肩を使い空高く舞い上がったミリア。
太陽の光を背にして敵陣のど真ん中に着地すると自身の身体を軸に回転し、周囲360度に向けて炎の斬撃を放つ。

ブウォンッ ──────── 。


「「「うがぁぁぁぁぁ」」」

「さぁ~どんどんいくわよ」

「この女…ふざけやがって」


ブンッ ───── ギィーン。

ミリアの背後から振り下ろされた刃は彼女に届くことなく目前で止められてしまう。
ヒト族と比べて圧倒的に身体能力に優れおり、腕力で負けるはずがない獣人族の一撃であったとしても宿り木が誇る鉄壁の前では意味を成さない。


「そう易々とやらせはしないっすよ!」

「助かったわシャムロム」

「背後は任せてミリアは思いっきり暴れるっす」

「OK!それなら思う存分やらせてもらうわ」


ドーーーーーン!!

ドーーーーーン!!

ドーーーーーン!!

ドーーーーーン!!

あちこちで爆発音と共に炎の柱が立ち上る。
そして、悲鳴と怒号が飛び交う大混戦となっている中、赤い髪をなびかせた少女は嬉々として敵を斬り伏せていく。


「す…凄いですね…」


あまりの猛者ぶりに驚きを隠せないユニ。
自分よりも年下の少女がまさか自国の勇猛な戦士たちをバタバタと薙ぎ倒していくことなど想像もしていなかったのだろう。
しかし、それを見守るスズネたちにはそのようなものはない。
まさにいつも通り、通常運転である。


「いや~今日のミリアはいつも以上に気合が入ってるね」

「あ…あの…私たちの援護は必要なのかな?」

「う~~~。わっちの出番がなくなるのじゃ!もう一発デカいのをぶっ放したちのじゃ!!」


ミリアによる獅子奮迅の活躍によってあっという間に三分の一近くが討たれた獣王国軍。
その様子を見ていた仲間たちは喜びに湧いたものの、一部では(ラーニャに限る)不満も噴出していた。


「はぁ~…ラーニャ、先ほどの魔法はなかなか良かったぞ。威力・速度・狙いも悪くなかった。今は次に備えて魔力を練っておけ」


褒められた。
魔法の極地ともいえる頂に立つ者からのその言葉は、魔法を極めんと研鑽を積む彼女にとって最上級のものである。


「フフッ…フフフフフッ。まぁ~旦那様がそういうのであれば、わっちとしても無駄撃ちはしたくはないからのう。今はミリアたちに任せておいてやろう」


少女はご満悦である。
チョロい、チョロすぎるぞ。
それでいいのかラーニャ。
何処からかそんな声が聞こえてきそうではあるが、彼女にとってクロノ以外の言葉など取るに足らない程度の瑣末なもの。
案外クロノもラーニャの扱いに慣れてきたのかもしれない。

そんなことをしている内に前線ではさらなる動きが起こる。
ミリアたち三人による想像を超えた奮闘により、思っていたよりも早く城内への道が開かれたのだ。
そして、それを確認したマクスウェルが急いで後方で待機していたスズネたちに向けて声を上げる。


「お待たせしました!今です!!」

「よし!それじゃ、ユニさん、クロノ、行くよ!!」


駆け出した三人。
多勢に無勢の状況にも関わらず文句一つ言わずに戦い続ける仲間たちに目もくれず必死になって駆け抜ける。
その途中で何人かの獣人に襲われそうにもなったが、後方から放たれたラーニャとセスリーの援護によって難を逃れる。
そして、ついに ──────── 。

無事に城門を突破したスズネたち。
しかし立ち止まっている暇などない。
それは仲間たちも十分理解している。
それでもスズネは黙って行くことが出来なかった。


「みんな、ありがとう!絶対に二人の戦いを止めて、戦争を終わらせるからーーー」

「ここはアタシたちに任せて、アンタはさっさと行って止めてこい!!」


頼もしい仲間たちの後押しを受けて再び走り出したスズネ。
もうあとは闘技場へ向かうだけ。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


ダッダッダッダッダッ ───────── 。


「ハァ…ハァ…ハァ…」


城門を突破してから十分ほど走り続けた頃、スズネたちはようやく闘技場の姿をその目に捉えていた。


「お二人とも、もうすぐで闘技場です」


あと少し。
あと少し。
そんな思いを抱えながら三人が走っていたその時、突如として前方に十数名の獣人族が姿を現す。


「止まってください」


ユニの指示によって足を止めたスズネとクロノ。
眼前で陣形を組んでいる者たちはどう見ても迎えの者ではなく、明らかな敵意をもってその場にいる。


「これはこれはユニ様。こんな所まで何用でしょうか?」

「ドラー・・・」

「後ろの方々は獣人族ではなさそうですが・・・今は戦争中ですよ?いくらユニ様といえど許されることではありませんが」

「そこを退きなさい!私たちは獣王に用があるのです。いくらあなたたちが獣王を守る近衛隊だとしても邪魔立てはさせません」

「なるほど。邪魔はさせないと・・・。で?たった三人で我々の相手をするおつもりですか?」


ブルブル ──── ブルブル ──── 。


「フゥー・・・フゥー・・・」

「ご無理はお止めください。震えているではありませんか。ここから先は通行止めです。大人しくお帰りください」


余裕の笑みをみせるドラー。
彼に率いられる近衛隊は獣王国でもトップクラスの精鋭たちで構成されている組織である。
そのことを知っているからこそ、ユニは震える身体を止めることが出来なかった。
そして、その心情を見抜いていたからこそ、ドラーはその笑みと共に不気味な殺気を三人に向けて放つのであった。




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