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第8章 砂漠の英雄
第12話 噂話
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「ところでリョウとヘクターさんは?」
話題を変え、私は男組の動向を聞く。
リョウは長風呂するタイプじゃないから、どうせどこかに行ってるんでしょ。
「先に酒場に向かっております。『飯と酒を飲みながら客たちの話を聞く』とヘクターさんは仰ってました」
「感謝しなさい。私も早くご飯食べたいのに、あんたたちが来るのを待っててあげたんだからね♪ 今日は奢りなさいよ」
「ベレニスさん、どうせ買食いしてたから、そんなにお腹が減ってないってオチっすね。奢りについては、自分やクリスさん、レオノールさんより多く食べれたらいいっすよ」
「望むところよフィーリア!」
こらこら~、ベレニスをからかって遊ぶなってフィーリア。
ベレニスも勝ち目のない戦い、受けて立つな~。
「酒場で情報収集は王道イベントですね! そこで何か得ても得られなくても、男はエッチなお店に行く生物だと母上が言っておられました! はっ! 姉様大変です! 早く行かないと、師匠はヘクターさんと一緒にエッチなお店に行くかもしれません!」
「何を妄想してるんだレオノール! それよりも、何を娘に教えてるんだマーガレット叔母様は!」
「あっそっか~。リョウっていつも私たちと一緒だったもんね~。行きたいけど我慢してたんだ~。私たちがいないからチャンスだもんね~」
「チャンスってなんだクリス! 私は別にリョウの行動制限したりしてないぞ!」
「ヘクターさん。昔はよく娼館行ってたっす。結婚したとはいえ奥さんは遠くの地に、酒に酔った状態、独身の男と一緒……当然何も起こらないはずがなく……っす」
「なに名推理みたく言ってるんだフィーリア! てかその文脈、あらぬ方向を連想しちゃうんだけど⁉」
「……アリね」
「アリじゃないわベレニス! 仲間をそっちの目で見るんじゃなーい!」
ゼエゼエ……ツッコみが追いつかん。みんなリョウがいない場だと、好き勝手言うのいつものこととはいえ疲れるぞ。
あっ、リョウがいても好き勝手言ってたわ。
「コホン。それはわたくしが許しませんので、安心してくださいまし。もし手遅れなら、わたくしが責任を持ってちょん切ります」
「何を微笑んで口走ってるんだヴィレッタああああああ! 内心激怒してるの丸わかりなんだけど⁉ 現実ではまだ何も起きてないんだから、いつもの穏やかなヴィレッタに戻ってえええええ!」
ヴィレッタは本気でやりかねないから全力で止めておかないと。
「と、ともかく、私たちも酒場に行こ!」
こうして私たちも宿から一旦退出するのだった。
……はあ、どっと疲れが出てきたよ。
***
マーインの酒場は他の街同様に喧騒に包まれている。
「酒と、この店で一番の料理を二つ」
ヘクターとリョウはカウンター席に座り、酒場のマスターに注文する。
「はいよ」
出てきたのは肉の塊にサーベルが刺された皿。
「駱駝肉を丸ごと焼いて、香草でまぶしたって感じか。……うん、美味い。酒も美味しい。こいつは当たりだ。リョウ、お前さんは飲まんのか?」
「酒は苦手ですので遠慮します」
「お前さん、18だろ? 職業柄、飲めるようになっておかないと苦労するぜ?」
酒の席で依頼人や情報屋の本性を暴くことを、ヘクターは幾度となくしてきた。
妻との出会いも酒場で腹の探りあいだったのだ。あの時、酒を飲まなかったら今の運命にならなかったとしみじみ思う。
「今は任務中ですので。暇な時に特訓しておきます」
リョウの回答に、ヘクターは酒を特訓と言うようじゃ、こいつは一生呑兵衛にならんなと心の内で苦笑しながら、カウンターの奥に目を向ける。
「ところでマスター、ここら辺に事情通っているかい?」
「なんの事情だ?」
「なんでもさ。街の人々に今流行っていることから困っていること。目と鼻の先の隣国についてでもいい。王都の体制が変わってどう思っているか、なんて些細なことでもいいのさ」
「それなら俺がよ~く知ってるぜ!」
不意に背後から軽妙な男の声が響く。
振り向くとリョウと似た年頃の赤ら顔の青年がいた。
「あんたら今日、マーインに着いた商人と護衛者だろ? へへへ、お代は高くつきますぜ、旦那」
「おう、威勢がいいのは好きだぜ。何を教えてくれる?」
「そうだなあ、何から話すかなあ?」
チラッチラッ、と焦らす青年にヘクターは苦笑しながら金貨を指で弾いて渡す。
「おお! さっすが大商人! いきなり金貨はビビるぜ……」
威勢のいい声はどこへやら。青年は貰った額の大きさに声を震えだした。
「そんだけ払ったんだ。一番のとっておきの情報くれよ?」
「じょ、上等だ! 誰も知らないホッカホカの情報くれてやらあ!」
ニヤリと笑うヘクターに、青年は空元気に胸を叩く。
「おいおいケント、大きく出たじゃねえか? 穀潰しのおめえが知ってることなんて、街の誰もが知ってるぜ」
「その金貨がなくなるまで俺たちに奢りな。そうすりゃ助けてやるぜ~」
他の客たちが囃し立てる中、ケントと呼ばれた青年は「うっせー! てめえらだって同じようなもんだろ! ハハハ、残念だったなあ! 俺は誰もが驚く、とっておきの情報持ってんのよ!」と捲し立てる。
「それじゃ、聞かせてもらおうか? そのとっておきをな」
「……お、おう。実はな……」
喧騒が静まる酒場。マスターが皿を洗うキュッ、キュッという音だけが響いている。
「……この街に今、あの有名な傭兵、ハーレムクソ野郎こと、リョウ・アルバースが来ているそうだぜ」
ブフォ!
リョウの口から、含んでいた水が飛んだ。
「おう、驚いてくれて何よりだぜ兄ちゃん。そりゃ驚くよな。そいつの噂は天下に響いてるからな! あちこちで女をナンパしては四六時中侍らせて、旅に同行させてる鼻持ちならねえ野郎さ。『漆黒の髪の男を見たら要注意!』『アランの黄土色の鎧見たら一目散に逃げろ!』『漆黒の剣を抜いたら女を隠せ!』って噂のリョウ・アルバースだもんな!」
「お、おう。続けてくれ」
隣でリョウが曇天の真下にいるように沈んでいるのをチラ見し、ヘクターはケントを促す。
「死んだと思われてたローゼマリー姫、伝説のエルフの女、ちびっ子商人、王様の婚約者だった公爵令嬢様も、褒賞代わりに要求して自分の物にしたもんさ。ファインダでも、お姫様と宰相の娘を誑かしたって話だぜ?」
もう、リョウは自らを精神空間に置いている。
見ざる言わざる聞かざるの精神だ。
「まあ、たしかに女好きの悪い噂は多い奴だ。でも剣の腕は確かだぜ。ダーランドの麻薬戦争の殊勲者だし、王都の薄気味悪い事件も解決した。ファインダでは大陸最悪の人物、ノイズ・グレゴリオを討ち、リオーネでも邪教の魔女を倒したっつー英雄に相応しい働きをしているんだ。女好き以外は完璧な奴さ。……どうだ? 役に立ったか? そういや、護衛の人、黒髪で黄土色の鎧だな。ハハハ、女連れてたら間違えられるぜ、兄ちゃん!」
「ガッハッハ、ケント、んなの赤ん坊だって知ってるがな。この街にいるってのも門兵が言ってたの俺だって知ってるわ!」
「うっせー! てめえに教えてねえよ!」
酒場の客の1人の野次に、ケントは真っ赤な顔をさらに真っ赤にする。
「う~ん、残念だが、金貨1枚分に足らんな。他に何か知ってるか?」
「おっと、慌てなさんなって旦那。まだ俺と義姉ちゃんしか知らねえとっておきを教えてやるぜ。そのリョウ・アルバースが現れたって聞いて、俺ぁピンときたね。義姉ちゃんが聞いた情報、間違いねえって」
「ほう、そいつはなんだ?」
「大陸最悪の人物ノイズ・グレゴリオ。デリムで少年兵率いて叛乱したり、ファインダ王都に奇襲したり、魔獣戦争引き起こした、あの、な。どうもそいつが生きてるらしいんだよ。南部で見たって旅のシスターが言ってたらしいんだわ。リョウはそいつを追って、この街に立ち寄ったのさ」
ケントの低く囁くように呟いた言葉を聞き、リョウは椅子をガタリと音を立てて立ち上がった。
話題を変え、私は男組の動向を聞く。
リョウは長風呂するタイプじゃないから、どうせどこかに行ってるんでしょ。
「先に酒場に向かっております。『飯と酒を飲みながら客たちの話を聞く』とヘクターさんは仰ってました」
「感謝しなさい。私も早くご飯食べたいのに、あんたたちが来るのを待っててあげたんだからね♪ 今日は奢りなさいよ」
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「望むところよフィーリア!」
こらこら~、ベレニスをからかって遊ぶなってフィーリア。
ベレニスも勝ち目のない戦い、受けて立つな~。
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「チャンスってなんだクリス! 私は別にリョウの行動制限したりしてないぞ!」
「ヘクターさん。昔はよく娼館行ってたっす。結婚したとはいえ奥さんは遠くの地に、酒に酔った状態、独身の男と一緒……当然何も起こらないはずがなく……っす」
「なに名推理みたく言ってるんだフィーリア! てかその文脈、あらぬ方向を連想しちゃうんだけど⁉」
「……アリね」
「アリじゃないわベレニス! 仲間をそっちの目で見るんじゃなーい!」
ゼエゼエ……ツッコみが追いつかん。みんなリョウがいない場だと、好き勝手言うのいつものこととはいえ疲れるぞ。
あっ、リョウがいても好き勝手言ってたわ。
「コホン。それはわたくしが許しませんので、安心してくださいまし。もし手遅れなら、わたくしが責任を持ってちょん切ります」
「何を微笑んで口走ってるんだヴィレッタああああああ! 内心激怒してるの丸わかりなんだけど⁉ 現実ではまだ何も起きてないんだから、いつもの穏やかなヴィレッタに戻ってえええええ!」
ヴィレッタは本気でやりかねないから全力で止めておかないと。
「と、ともかく、私たちも酒場に行こ!」
こうして私たちも宿から一旦退出するのだった。
……はあ、どっと疲れが出てきたよ。
***
マーインの酒場は他の街同様に喧騒に包まれている。
「酒と、この店で一番の料理を二つ」
ヘクターとリョウはカウンター席に座り、酒場のマスターに注文する。
「はいよ」
出てきたのは肉の塊にサーベルが刺された皿。
「駱駝肉を丸ごと焼いて、香草でまぶしたって感じか。……うん、美味い。酒も美味しい。こいつは当たりだ。リョウ、お前さんは飲まんのか?」
「酒は苦手ですので遠慮します」
「お前さん、18だろ? 職業柄、飲めるようになっておかないと苦労するぜ?」
酒の席で依頼人や情報屋の本性を暴くことを、ヘクターは幾度となくしてきた。
妻との出会いも酒場で腹の探りあいだったのだ。あの時、酒を飲まなかったら今の運命にならなかったとしみじみ思う。
「今は任務中ですので。暇な時に特訓しておきます」
リョウの回答に、ヘクターは酒を特訓と言うようじゃ、こいつは一生呑兵衛にならんなと心の内で苦笑しながら、カウンターの奥に目を向ける。
「ところでマスター、ここら辺に事情通っているかい?」
「なんの事情だ?」
「なんでもさ。街の人々に今流行っていることから困っていること。目と鼻の先の隣国についてでもいい。王都の体制が変わってどう思っているか、なんて些細なことでもいいのさ」
「それなら俺がよ~く知ってるぜ!」
不意に背後から軽妙な男の声が響く。
振り向くとリョウと似た年頃の赤ら顔の青年がいた。
「あんたら今日、マーインに着いた商人と護衛者だろ? へへへ、お代は高くつきますぜ、旦那」
「おう、威勢がいいのは好きだぜ。何を教えてくれる?」
「そうだなあ、何から話すかなあ?」
チラッチラッ、と焦らす青年にヘクターは苦笑しながら金貨を指で弾いて渡す。
「おお! さっすが大商人! いきなり金貨はビビるぜ……」
威勢のいい声はどこへやら。青年は貰った額の大きさに声を震えだした。
「そんだけ払ったんだ。一番のとっておきの情報くれよ?」
「じょ、上等だ! 誰も知らないホッカホカの情報くれてやらあ!」
ニヤリと笑うヘクターに、青年は空元気に胸を叩く。
「おいおいケント、大きく出たじゃねえか? 穀潰しのおめえが知ってることなんて、街の誰もが知ってるぜ」
「その金貨がなくなるまで俺たちに奢りな。そうすりゃ助けてやるぜ~」
他の客たちが囃し立てる中、ケントと呼ばれた青年は「うっせー! てめえらだって同じようなもんだろ! ハハハ、残念だったなあ! 俺は誰もが驚く、とっておきの情報持ってんのよ!」と捲し立てる。
「それじゃ、聞かせてもらおうか? そのとっておきをな」
「……お、おう。実はな……」
喧騒が静まる酒場。マスターが皿を洗うキュッ、キュッという音だけが響いている。
「……この街に今、あの有名な傭兵、ハーレムクソ野郎こと、リョウ・アルバースが来ているそうだぜ」
ブフォ!
リョウの口から、含んでいた水が飛んだ。
「おう、驚いてくれて何よりだぜ兄ちゃん。そりゃ驚くよな。そいつの噂は天下に響いてるからな! あちこちで女をナンパしては四六時中侍らせて、旅に同行させてる鼻持ちならねえ野郎さ。『漆黒の髪の男を見たら要注意!』『アランの黄土色の鎧見たら一目散に逃げろ!』『漆黒の剣を抜いたら女を隠せ!』って噂のリョウ・アルバースだもんな!」
「お、おう。続けてくれ」
隣でリョウが曇天の真下にいるように沈んでいるのをチラ見し、ヘクターはケントを促す。
「死んだと思われてたローゼマリー姫、伝説のエルフの女、ちびっ子商人、王様の婚約者だった公爵令嬢様も、褒賞代わりに要求して自分の物にしたもんさ。ファインダでも、お姫様と宰相の娘を誑かしたって話だぜ?」
もう、リョウは自らを精神空間に置いている。
見ざる言わざる聞かざるの精神だ。
「まあ、たしかに女好きの悪い噂は多い奴だ。でも剣の腕は確かだぜ。ダーランドの麻薬戦争の殊勲者だし、王都の薄気味悪い事件も解決した。ファインダでは大陸最悪の人物、ノイズ・グレゴリオを討ち、リオーネでも邪教の魔女を倒したっつー英雄に相応しい働きをしているんだ。女好き以外は完璧な奴さ。……どうだ? 役に立ったか? そういや、護衛の人、黒髪で黄土色の鎧だな。ハハハ、女連れてたら間違えられるぜ、兄ちゃん!」
「ガッハッハ、ケント、んなの赤ん坊だって知ってるがな。この街にいるってのも門兵が言ってたの俺だって知ってるわ!」
「うっせー! てめえに教えてねえよ!」
酒場の客の1人の野次に、ケントは真っ赤な顔をさらに真っ赤にする。
「う~ん、残念だが、金貨1枚分に足らんな。他に何か知ってるか?」
「おっと、慌てなさんなって旦那。まだ俺と義姉ちゃんしか知らねえとっておきを教えてやるぜ。そのリョウ・アルバースが現れたって聞いて、俺ぁピンときたね。義姉ちゃんが聞いた情報、間違いねえって」
「ほう、そいつはなんだ?」
「大陸最悪の人物ノイズ・グレゴリオ。デリムで少年兵率いて叛乱したり、ファインダ王都に奇襲したり、魔獣戦争引き起こした、あの、な。どうもそいつが生きてるらしいんだよ。南部で見たって旅のシスターが言ってたらしいんだわ。リョウはそいつを追って、この街に立ち寄ったのさ」
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