【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第8章 砂漠の英雄

第13話 南部戦線異状あり

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「お、おう? どうした兄ちゃん、あんた目つき鋭いからビビるぜ」

「その情報の出どころ、旅のシスターとお引き合わせ願えないでしょうか?」

「あん? 又聞きだけじゃ信用できないってのかい。疑り深え兄ちゃんだな」

「わっはっは、ケントよお、俺らも信用できねえぞ。おめえさん、金貨欲しさに、マリーナから聞いたって言えば説得力ある作り話になるって思ってんだろ?」

 客の野次に、ケントは激昂する。

「ちげえよ! ガチで義姉ちゃんから聞いたんだって! ノイズ・グレゴリオが生きてるって話をな!」

「え? どういうこと⁉」

 カランコロンと鈴のついた酒場のドアが開き、入ってすぐに聞こえた酔っぱらいの声に、私は驚いて叫んでしまう。

「……ん? えへへ、こいつは可愛いお嬢さんがた、いらっしゃいませ。……うん? 護衛君のところに集まるってどういうこと?」

 何をわけわからんこと口走ってるんだ、この酔っぱらいの青年は。

「リョウ、ヘクターさん、何かあったんですか? この人が叫んでた、ノイズ生存の話って信用できるんですか?」

 ノイズとは人が入れば二度と出られない迷いの森と有名な、とこしえの森の深遠で、私たち、エルフの里にリザードマンの里の住人、ファインダ王ラインハルト、さらに千年前の七英雄の残滓であるエルフの女王フォレスタの協力のもと、一旦全滅の憂き目を経て倒した。
 フォレスタの奇跡がなければ、私たちの旅はそこで終了だったほどの相手なのだ。

「金髪碧眼ショートヘア……尖った耳、ロリっ子、深青色のロングヘア、灰髪ショートヘア、赤髪ロングヘア……全員美少女……んで、リョウ? うああああああ! あんたがあのハーレムクソ野郎かよおおおおおお!」

 ええい、何を驚いているんだ? んなこといいから、とっとと話の続きせい!
 と、思ってたら、私たちだけじゃなく、別の人もイラッときたのか、そいつの背後からゲンコツが飛んだ。

「な~に騒いでるんだい? 悪いねえお客さんたち。ほら、店を手伝いな!」

「っつ~! いきなり殴ることねえだろ義姉ちゃん! つーか、帰ってたのかよ!」

「店で大声出すのが悪い! ほら、せっかく来店した美少女一行、水の準備ぐらいしな!」

 おお! カッコいい女の人だ。髪色はブラウンで着ているのも質素な給仕服だけど、なんていうか、この酒場で一番偉いのはこの人って瞬時に悟るくらいオーラ出ているよ。
 オシャレポイントの青いイヤリングが、彼女のカッコよさを引き立ててるね。

「へーい。ったく、人がせーっかく儲け話してたのによ」

「待ってくれケント殿。ノイズの話をした旅のシスターはどこに?」

 リョウがケントと呼んだ酔っぱらいは、またもや女の人から拳骨をくらう。

「あんた、その話はまだすんなって言っただろ! 与太かもしれないんだからさ! ごめんなさいね、義弟がアホで」

「ヘッヘッヘ、マリーナちゃん、俺らも耳にしたぜえ? 本当なんかい?」

 酒場の酔っぱらい客たちも、愉快そうに騒いで楽しんでいる。

「ったく、この子はもう」

「マリーナとやら、弟君を責めないでくれ。何か情報ないかと、金を払って聞いたのは俺です。彼は報酬分だけ働こうとしたんですよ」

 さりげなくフォローを入れるヘクターさん。
 なるほど、私たちも状況を理解できた。それで出てきた情報がノイズの話ってわけか。
 
「マリーナ殿、俺はリョウ・アルバースと申します。聞いたというノイズの話を詳しく教えてくれませんか」

「殿なんてよしてくれよ、柄じゃあない」
 
 リョウが剣気を隠しきれず訊く様子に、酒場の空気がピリッとするが、マリーナさんは怪訝な表情でいなす。

「もう、リョウ! 冷静に! すみませんマリーナさん。私はローゼと言います。よければ私たちに知っていることを教えてくれませんか?」

「おや、ご丁寧に。私はマリーナ。この人の奥さんやってる、まあ、酒場の女将ってやつさ」

 その返答に、ちょっと驚く。酒場のマスターをこの人って言ったよね? でもマスターさん、厳つくて40代ぐらいに見えるんだけど? マリーナさんは20代前半じゃね?

「……俺は25歳。さっきのケントは俺の弟だ。俺はステイク」

 私の表情で察したのか、マスターが低く小さく、お皿を洗いながら呟いてくる。
 ……なんか、すみません。

「ノイズの話だっけ? 今日のついさっきさ。夕飯前の混む前に、シスター服着たオレンジ色の髪の娘が来てさ。どっから来たんだいって聞いたら南部って言うから、へえ? よく来たね。たまに国境沿いに死体が転がってるけど、まだまだ戦乱終わりそうにないかい? って聞いたのさ。……すると」

『イリス・アーシャやボルド・アルバース、ハトリ・コーデリアら冒険者や傭兵の英雄が多すぎるのさ。部族長たちは連中を利用したり煮え湯を飲まされたりで、一進一退。まーったく、大部族のシャハール族に力を貸せばいいのによ』

「でも、そいつらのおかげで女子供が犠牲になったり誘拐されたりしてないんだろ? 民からすれば万々歳じゃない? 英雄だって部族長から出ないのが悪いのさ。って言い返したのさ。……そしたら」

『ここだけの話……シャハール族に超大物が加わったっていうより、乗っ取ったぜ。英雄かって言われたら微妙だが、歴史の勝者が英雄になるから、後世の歴史書には、そいつが英雄って記されるんだろうな。……名前? 聞いて驚け。あの悪名高いノイズ・グレゴリオさ』

「とまあ、こんな感じ。どうだい? 役に立ったかい?」

「そのシスターはどちらに?」

 マリーナさんの話が終わるや否や、間髪入れずリョウが訊く。

「さあ? ここは酒場だしな。宿泊してるかは宿屋、旅立ってるかなら門番兵に聞きな」

 一礼して酒場を出ようとするリョウの腕を、私が掴む。

「待って、リョウ。ジーニアの可能性が高い。1人で行動しないで」

「ローゼの言う通りです。真偽不明の噂話、まずは情報の整理をすべきです」

「どんな人だったっすかね? 髪色とか、若い女性かとか、シスター服以外で目立つ品を所持してたとかっす」

 私とヴィレッタでリョウを説得してる中、フィーリアがマリーナさんにシスターの容姿特徴を訊く。

「髪はオレンジ色で、一つ結びのおさげの若い子だよ。そうそう! 腰に重そうな剣を差してたね。今の御時世、旅するのに必須とはいえ、シスター服に剣だから印象に残ったよ」

 特徴は完全にジーニア。……でも、なんだろう? 違和感がある。

「嘘は言ってないわね。あいつなら撹乱目的に噂を流すし、別の罠への誘導ってのも考えられるわ。けど……う~ん。な~んか、ジーニアっぽくないのよね」

 ベレニスも、私と同じ違和感を感じてるようだ。
 そう……ジーニアらしくない。ノイズが生きているなんて情報、彼女が私たちに渡るように告げるなら、もっと絶望的状況にして、真偽不明じゃなく確定的な物証も示すはず。

「他にシスター見た人いないの~?」

 クリスの質問に、酒場の人たちは見ていないと口を揃えて言う。

「俺も買い出しに行って、帰ってきたら皿を片付けているマリーナを見ただけだ」

 ステイクさんも見ていないと言う。

「どうして夫ではなく、夫の弟さんにだけ、その話をしたのでしょうか?」

「それは簡単だな。俺は料理の仕込みで忙しかったからな。夕飯前は戦場よ」

 レオノールの質問に答えたのもステイクさん。マリーナさんとケントって男の人は、私たちと喋って仕事していなかった分を取り戻すべく、慌ただしく動いている。

「悪かったねえ。詫びと言っちゃなんだが、ハリラを馳走するよ」

 テーブルに着いた私たちにマリーナさんが告げると、酔客たちから「マリーナちゃんのハリラは天下一品さ!」なんて声が耳に届く。

 ほほう? シチューみたいなものか。
 んんん~。ホッペが蕩け落ちる。スパイスやハーブの匂いが鼻腔を刺激して無限に食べられそうだよ。
 女性陣、みんな舌鼓中。これはもう、この街にいる間の食事はハリラ一択になりそう。

「……ジーニアか。あいつはベルガー王国全土に手配されているが、地方じゃ、まあこんなもんだろ」

 私たちの食事も一息ついたところで、ヘクターさんが嘆息した。

「それで? どうするリョウ? 一刻も早く南部入りしてノイズを見つけたいって顔してるぜ?」

 そんなヘクターさんの確認に、私たちも不安気にリョウを見る。

「……いえ。この街の件が片付くまで、ヘクター殿の協力をします」

 おお! 復讐に生き、ノイズを自らの手で殺すことしか興味なかったリョウが、そんな発言をするなんて……心の底から感動するよ。

「そうだよ、リョウ。行くときは私も一緒だからね!」

「フン! 傭兵のくせに成長したじゃない。女の子の扱いは、まったく成長してないけど」

「正直、リョウ様が飛び出さないかハラハラしてたっす。ノイズの少年兵だったリョウ様にとって、奴に少年兵仲間を皆殺しにされた過去は拭いきれるもんじゃないっすから」

「リョウ様。わたくしは嬉しく思います。そうです。あなたはローゼの側を離れてはなりません。いついかなる時も、ローゼを優先するべきなのです。そうなってくれて、感無量です」

「師匠! お任せください! とこしえの森での戦いから私たちも成長してます! とことん頼ってください!」

「リョウが突っ走らなくてよかったよ~。準備もしないでこのまま南部へ行ったら、非常食のフタエゴとバラオビを食べるしかなくなるもんね~」

 ……なんか、宿の厩舎にいるはずの馬2頭のくしゃみが聞こえた気がするクリスの発言はともかく、私たちは全員高揚していたのだ。
 リョウの判断、態度、決断に。
 ……なのに、この男ときたら。

「いや、ノイズについてはリオーネを旅立つ直前、トール殿から聞いて知っていた」

「「「「「「はあああああああああ⁉」」」」」」

 感極まっていた私たちのリョウへの感情は、超プラス値から、一気にマイナスへと振り切ったのだった。
 なぜにそんな重要情報、私たちに内緒にしてたんだ? いつもいつもこの男は~。
 
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