【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第8章 砂漠の英雄

第12話 噂話

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「ところでリョウとヘクターさんは?」

 話題を変え、私は男組の動向を聞く。
 リョウは長風呂するタイプじゃないから、どうせどこかに行ってるんでしょ。

「先に酒場に向かっております。『飯と酒を飲みながら客たちの話を聞く』とヘクターさんは仰ってました」

「感謝しなさい。私も早くご飯食べたいのに、あんたたちが来るのを待っててあげたんだからね♪ 今日は奢りなさいよ」

「ベレニスさん、どうせ買食いしてたから、そんなにお腹が減ってないってオチっすね。奢りについては、自分やクリスさん、レオノールさんより多く食べれたらいいっすよ」

「望むところよフィーリア!」

 こらこら~、ベレニスをからかって遊ぶなってフィーリア。
 ベレニスも勝ち目のない戦い、受けて立つな~。

「酒場で情報収集は王道イベントですね! そこで何か得ても得られなくても、男はエッチなお店に行く生物だと母上が言っておられました! はっ! 姉様大変です! 早く行かないと、師匠はヘクターさんと一緒にエッチなお店に行くかもしれません!」

「何を妄想してるんだレオノール! それよりも、何を娘に教えてるんだマーガレット叔母様は!」

「あっそっか~。リョウっていつも私たちと一緒だったもんね~。行きたいけど我慢してたんだ~。私たちがいないからチャンスだもんね~」

「チャンスってなんだクリス! 私は別にリョウの行動制限したりしてないぞ!」

「ヘクターさん。昔はよく娼館行ってたっす。結婚したとはいえ奥さんは遠くの地に、酒に酔った状態、独身の男と一緒……当然何も起こらないはずがなく……っす」

「なに名推理みたく言ってるんだフィーリア! てかその文脈、あらぬ方向を連想しちゃうんだけど⁉」

「……アリね」

「アリじゃないわベレニス! 仲間をそっちの目で見るんじゃなーい!」

 ゼエゼエ……ツッコみが追いつかん。みんなリョウがいない場だと、好き勝手言うのいつものこととはいえ疲れるぞ。
 あっ、リョウがいても好き勝手言ってたわ。

「コホン。それはわたくしが許しませんので、安心してくださいまし。もし手遅れなら、わたくしが責任を持ってちょん切ります」

「何を微笑んで口走ってるんだヴィレッタああああああ! 内心激怒してるの丸わかりなんだけど⁉ 現実ではまだ何も起きてないんだから、いつもの穏やかなヴィレッタに戻ってえええええ!」

 ヴィレッタは本気でやりかねないから全力で止めておかないと。

「と、ともかく、私たちも酒場に行こ!」

 こうして私たちも宿から一旦退出するのだった。
 ……はあ、どっと疲れが出てきたよ。

 ***

 マーインの酒場は他の街同様に喧騒に包まれている。

「酒と、この店で一番の料理を二つ」
 
 ヘクターとリョウはカウンター席に座り、酒場のマスターに注文する。

「はいよ」

 出てきたのは肉の塊にサーベルが刺された皿。

「駱駝肉を丸ごと焼いて、香草でまぶしたって感じか。……うん、美味い。酒も美味しい。こいつは当たりだ。リョウ、お前さんは飲まんのか?」

「酒は苦手ですので遠慮します」

「お前さん、18だろ? 職業柄、飲めるようになっておかないと苦労するぜ?」

 酒の席で依頼人や情報屋の本性を暴くことを、ヘクターは幾度となくしてきた。
 妻との出会いも酒場で腹の探りあいだったのだ。あの時、酒を飲まなかったら今の運命にならなかったとしみじみ思う。

「今は任務中ですので。暇な時に特訓しておきます」

 リョウの回答に、ヘクターは酒を特訓と言うようじゃ、こいつは一生呑兵衛にならんなと心の内で苦笑しながら、カウンターの奥に目を向ける。

「ところでマスター、ここら辺に事情通っているかい?」

「なんの事情だ?」

「なんでもさ。街の人々に今流行っていることから困っていること。目と鼻の先の隣国についてでもいい。王都の体制が変わってどう思っているか、なんて些細なことでもいいのさ」

「それなら俺がよ~く知ってるぜ!」

 不意に背後から軽妙な男の声が響く。
 振り向くとリョウと似た年頃の赤ら顔の青年がいた。

「あんたら今日、マーインに着いた商人と護衛者だろ? へへへ、お代は高くつきますぜ、旦那」

「おう、威勢がいいのは好きだぜ。何を教えてくれる?」

「そうだなあ、何から話すかなあ?」

 チラッチラッ、と焦らす青年にヘクターは苦笑しながら金貨を指で弾いて渡す。

「おお! さっすが大商人! いきなり金貨はビビるぜ……」

 威勢のいい声はどこへやら。青年は貰った額の大きさに声を震えだした。

「そんだけ払ったんだ。一番のとっておきの情報くれよ?」

「じょ、上等だ! 誰も知らないホッカホカの情報くれてやらあ!」

 ニヤリと笑うヘクターに、青年は空元気に胸を叩く。

「おいおいケント、大きく出たじゃねえか? 穀潰しのおめえが知ってることなんて、街の誰もが知ってるぜ」

「その金貨がなくなるまで俺たちに奢りな。そうすりゃ助けてやるぜ~」

 他の客たちが囃し立てる中、ケントと呼ばれた青年は「うっせー! てめえらだって同じようなもんだろ! ハハハ、残念だったなあ! 俺は誰もが驚く、とっておきの情報持ってんのよ!」と捲し立てる。

「それじゃ、聞かせてもらおうか? そのとっておきをな」

「……お、おう。実はな……」

 喧騒が静まる酒場。マスターが皿を洗うキュッ、キュッという音だけが響いている。

「……この街に今、あの有名な傭兵、ハーレムクソ野郎こと、リョウ・アルバースが来ているそうだぜ」

 ブフォ!

 リョウの口から、含んでいた水が飛んだ。

「おう、驚いてくれて何よりだぜ兄ちゃん。そりゃ驚くよな。そいつの噂は天下に響いてるからな! あちこちで女をナンパしては四六時中侍らせて、旅に同行させてる鼻持ちならねえ野郎さ。『漆黒の髪の男を見たら要注意!』『アランの黄土色の鎧見たら一目散に逃げろ!』『漆黒の剣を抜いたら女を隠せ!』って噂のリョウ・アルバースだもんな!」

「お、おう。続けてくれ」

 隣でリョウが曇天の真下にいるように沈んでいるのをチラ見し、ヘクターはケントを促す。

「死んだと思われてたローゼマリー姫、伝説のエルフの女、ちびっ子商人、王様の婚約者だった公爵令嬢様も、褒賞代わりに要求して自分の物にしたもんさ。ファインダでも、お姫様と宰相の娘を誑かしたって話だぜ?」

 もう、リョウは自らを精神空間に置いている。
 見ざる言わざる聞かざるの精神だ。

「まあ、たしかに女好きの悪い噂は多い奴だ。でも剣の腕は確かだぜ。ダーランドの麻薬戦争の殊勲者だし、王都の薄気味悪い事件も解決した。ファインダでは大陸最悪の人物、ノイズ・グレゴリオを討ち、リオーネでも邪教の魔女を倒したっつー英雄に相応しい働きをしているんだ。女好き以外は完璧な奴さ。……どうだ? 役に立ったか? そういや、護衛の人、黒髪で黄土色の鎧だな。ハハハ、女連れてたら間違えられるぜ、兄ちゃん!」

「ガッハッハ、ケント、んなの赤ん坊だって知ってるがな。この街にいるってのも門兵が言ってたの俺だって知ってるわ!」

「うっせー! てめえに教えてねえよ!」

 酒場の客の1人の野次に、ケントは真っ赤な顔をさらに真っ赤にする。

「う~ん、残念だが、金貨1枚分に足らんな。他に何か知ってるか?」

「おっと、慌てなさんなって旦那。まだ俺と義姉ちゃんしか知らねえとっておきを教えてやるぜ。そのリョウ・アルバースが現れたって聞いて、俺ぁピンときたね。義姉ちゃんが聞いた情報、間違いねえって」

「ほう、そいつはなんだ?」

「大陸最悪の人物ノイズ・グレゴリオ。デリムで少年兵率いて叛乱したり、ファインダ王都に奇襲したり、魔獣戦争引き起こした、あの、な。どうもそいつが生きてるらしいんだよ。南部で見たって旅のシスターが言ってたらしいんだわ。リョウはそいつを追って、この街に立ち寄ったのさ」

 ケントの低く囁くように呟いた言葉を聞き、リョウは椅子をガタリと音を立てて立ち上がった。
 
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