【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第8章 砂漠の英雄

第22話 宣戦布告

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 爆音は鼓膜を突き破り、衝撃波が壁を揺るがす。
 一瞬、世界から音が消え、次に襲ってきたのは熱風と石と木片が砕け散る破壊の嵐だ。

 咄嗟に展開した魔法障壁が砕け散る寸前、ベレニスの風が衝撃を逸らし、ヴィレッタの聖なる光が私たちを破片から守る。
 フィーリアとヘクターさんが投げた魔石が残りの威力を吸収し、辛うじて直撃を免れた。
 けれど執務室は地獄のように、黒い煙と舞い上がる粉塵に覆い尽くされていた。
 喉を焼く焦げ臭い匂いと、石灰の乾いた味が口の中に広がる。

「みんな無事⁉」

「ええ!」「はいっす」「無事です」「うん」「大丈夫です!」「ああ、俺も大丈夫だ!」

 仲間たちの咳き込む声が、暗闇の中で安堵の響きとなって返ってくる。
 しかし、足りない。2人の声が。

「リョウ! シオンさん!」

 焦りを滲ませた私の叫びに、間髪入れずリョウの声が返ってくる。

「無事だ! が……」

 リョウの声に含まれた苦渋の色に、心臓が嫌な音を立てる。
 ゆっくりと粉塵が晴れ、窓から差し込む光が筋となって室内を照らし出す。
 そこに広がっていたのは、悪夢のような光景だった。
 私たちはみんなの連携のお陰で奇跡的に無傷だった。腰を抜かしたシオンさんも震えているだけで怪我はない。
 ……だが。

「ロメーロと衛兵3名は即死だ」

 リョウの無念を滲ませた呟きが、静寂に突き刺さる。
 先ほどまで生きていた4つの身体が、床に無残な肉塊となって転がっていた。
 彼らの瞳は、虚空を見開いたまま固まっていた。
 守れなかった。すぐ目の前で、助けを求めようとした命が奪われた。
 込み上げる吐き気と無力感に、私は唇を噛み締める。
 ヴィレッタは拭いきれない悔しさを滲ませながら、胸の前で十字を切り、失われた魂に祈りを捧げていく。

「爆発じゃなく、剣か」
 
「ええ、一撃ですね」

 ヘクターさんとリョウが冷静に死体を検分している。
 その言葉に私はハッとした。たしかにロメーロたちの傷は鋭利な刃物による斬殺痕。爆発は実行犯を隠すための偽装……!

 ドタドタドタ!
 廊下から複数の荒々しい靴音が響き、武装した衛兵たちがなだれ込んできた。

「ロメーロ様! 一体何が⁉」
 
「おのれ! 賊か! この爆発、貴様らの仕業か!」

 抜かれた剣の切っ先が、一斉に私たちに向けられる。
 仲間を殺された怒りと、目の前の惨状への混乱が彼らの瞳を殺気で染めている。
 無理もない。城の執務室で死んだのは領主側だけ。私たちは無傷。これで疑うなという方が酷だ。
 それでも、ここで刃を交えるわけにはいかない。私は怒りを必死に飲み込み、冷静さを装って一歩前に出た。

「いえ、魔女の仕業です。相当な手練れの魔女が、この城に潜んでいます。ロメーロさんは魔女ヴィルマの死を私たちに告げ、現在のマーイン領を影から支配している魔女の名を告げようとしました。それが口封じの原因でしょう」
 
「な、何を⁉ 魔女とは貴様だろ……」
 
「また口封じが起きる恐れがあります。安全を確保するためにも、この城にいる全ての方々を集めてはいただけませんか?」

 これ以上の犠牲は出させないという決意だけが、私を奮い立たせる。
 衛兵たちが動揺し、互いに顔を見合わせていると……。

「これほどの騒ぎで領主や縁者が駆けつけないのは、いくら病床とはいえ領主失格ですね! これは我らへの宣戦布告と受け取ります! 私はレオノール・ファインダ! ベルガー王国の同盟国、ファインダの姫として、領主テオ・マーインにお目通りをお願いします!」

 レオノールが羽織っていた商人服をバッと脱ぎ捨てる。
 現れた白銀の鎧が、凄惨な室内に眩い光を放った。
 
 まずい、外交問題になるって! まだ明かすタイミングじゃない!
 同盟国の王女暗殺未遂事件になったら、せっかくの友好ムードが台無しになっちゃうって!

 私が狙われたに軌道修正しないと、と考えているとヴィレッタが一呼吸して、揺るぎない声でレオノールの後に続く。

「……コホン。わたくしはベルガー王国より自由騎士を拝命しております、ヴィレッタ・レスティアと申します。わたくしも領主へのお目通りを要求します。これほどの惨事が起きた以上、見過ごすわけにはいきません」
 
 ヴィレッタ……全て諦めたな。一瞬ヴィレッタもバッと商人服脱ぐかと思ったけど、佇まいがいつも通りでホッとするよ。
 
 彼女の凛とした佇まいが、城兵たちに更なる緊張感をもたらしたのがわかる。
 もう、後戻りはできない、か。
 ヴィレッタの機転でベルガー国内の問題にして、レオノールの直情でこちらの背後にファインダ王国があると伝えることはできた。
 国家権力を振りかざすようで少し後ろめたいが、切れるカードは使い切るのも、また必要不可欠なこと。

「影の魔女にもお伝えください。私の名は魔女ローゼ……私は、全ての罪を背負う覚悟がある、と」

 私も覚悟を決める。ここで、このマーイン領の問題にケリをつけてやる。

「その必要はねえぜ」

 不意に響いた低い声に、全員の視線が扉口に集中する。
 そこに立っていたのは、隻眼の衛兵、クレバスだ。
 彼のただ一つの瞳が、氷のように冷たく私たちを射抜いてくる。

「不幸な事故だ。……みんな、ロメーロ様たちは所持していた魔導具が暴発して死んだ。……そうだろ?」

 クレバスの言葉は命令のように響く。彼の圧力が他の衛兵たちを支配するかのように。
 
「ああ、そうだな」「クレバスの言う通りだ」「そういえばロメーロ様は、魔導具を収集していたもんな」

 さっきまでの殺気はどこへやら、彼らは次々とクレバスの言葉に同調していった。
 明らかな嘘に、ベレニスはしかめっ面だ。

「巻き込んでしまい申し訳ありません。いずれこの詫びはします。今日のところは、お引き取り願えませんか。……死者の弔いと、後片付けをしなければなりませんので」

 丁寧な物言いとは裏腹に、クレバスから放たれる濃密な殺気が肌に突き刺さる。

「暴発する魔導具っすか。……どんな形状で、用途は何だったのか気になるっすね。……購入したお店も教えてほしいっす」

 フィーリアの皮肉めいた挑発が、静寂に響く。
 
「……お引き取りを」

 けれど返ってくるのは、殺意を増した沈黙だけ。

「はっ! 人間の悪い癖ね。都合の悪いことは見て見ぬふり。精霊が泣いているわよ。あんたたちには見えなくても、精霊たちはこの一部始終を見ている。それを忘れないことね」

 ベレニスの吐き捨てるような言葉に、何人かの衛兵が視線を逸らした。

「私は、とある方にこう言われました。『誰もが知っている真実を、タブー視して語らせない国家に未来はない』と。規模は違えど、ここマーイン領は一つの国と同じです。どうか、これ以上の悲劇が起きないことを祈っています」

 テシウスさんの言葉を借りて、私は彼らの良心に訴えかけてみた。

 リョウとクリスは未だ警戒を解かず、いつでも抜剣できるよう腰に手を当てたまま、私たちを守るように立っている。
 シオンさんはへたり込んだまま、予想だにしなかった展開にただただ震えるばかりだ。

 クレバスの氷の視線は揺るがない。
 ……これ以上、ここにいても無駄か。

 私たちは燃え盛る怒りと無力感を胸にしまい込み、無言で踵を返す。
 背後で閉ざされていく扉の音が、この街の深い闇を象徴しているように響いていった。
 
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