【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第1章 復讐の魔女

第18話 教会

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 ビオレール城のすぐ隣に隣接する女神フェロニアを祭る教会は、清廉かつ荘厳な建造物であった。
 壁は白く塗られた石造りだが、汚れやひび割れはほとんどなく、定期的に手入れされていることが窺える。
 屋根は青一色で統一されており、その色はフェロニアの加護を象徴している。

 教会の入り口には2人の門番が立ち、来訪者の身分と目的を確認するための検問所が設けてあり、その脇には小さな小屋がある。

 ただ、街や城に入る時と違い、チェックは厳しくなく、入場料も取られない。

 教会への訪問は自由なのだ。

 ただ、一つだけ注意すべきことがある。
 それは司祭やシスターに近づかれて、長話に巻き込まれないこと。
 彼らの話は長いので、話しかけられたら用件を伝え、1分以内で切りあげるのがベストだ。

「ふうん、これが教会なのね。ロック鳥がいた教会と違って、綺麗で立派な建物ね」

 教会を見上げながら呟くベレニス。
 その隣ではリョウも興味深そうに観察している。

「ビオレールは、古い時代から激戦地になることが多かったんだ。魔王軍とは3度にわたる激しい攻防があったし、ベルガー王国建国の際にも、侵略してきたダーランド王国との防衛戦の最前線になった場所なの。だから、教会もそれに見合うだけ立派なものにしたんだと思う」

 歴史あるこの教会の成り立ちを簡単に説明する。

「ちなみに現在のビオレール城が建ったのは700年前。歴史のある街って素敵。北にはスノッサの森、南は山岳地帯やとこしえの森で魔物や魔獣が蔓延ってるから、街を守るために冒険者への仕事も豊富だし、東西の平坦な道は人や物の流通が盛ん。王都ベルンや商業都市アウルム、それにソルトの港町と比較すると小さい街だけど、立地的にはベルガー王国の最重要都市なんだよねえ。あ、それからビオレールといえば」

「……ローゼ。なんか司祭やシスターに話しかけられる前に、ローゼから話がどんどん出てくるんだけど……ひょっとして、ローゼって歴女ってやつ? 目の輝き方が違うわよ?」

 ベレニスに指摘を受けて私はハッとした。

 しまった! つい興奮して語っちゃった!
 リョウも目を丸くして私を見ている。
 いや、これは恥ずかしいぞ……

「そうね。今はそれより目的っと」

 私たち3人は教会の扉を開いたのだった。

 教会の扉を開くとヒンジの軋む音が響き渡る。
 扉を開けて中に足を踏み入れると、そこは静かで清浄な空気に満ちた空間だった。
 教会の内部は綺麗に磨き上げられた大理石の床で、壁にあるステンドグラスから淡い光が降り注いでいた。
 まるで女神像から後光のように差し込んだ光は、女神フェロニアを照らすように優しく照らしている。

 受付には誰もいないが祭壇に置かれた燭台に、蝋燭の火が灯っていて仄かな明かりが揺らめいている。
 そして室内を見渡せば青い修道服を纏い、清潔で質素な身なりをしたシスターたちが数人、教会の清掃に精を出している様子が見えた。
 皆忙しそうにしているが、私たちの姿を見つけると手を止めて、ニコリと微笑み挨拶してくる。

 どうやら怪しまれたり、警戒されたりしてはいないようだ。
 旅人や冒険者が教会を訪れるのは珍しいことでもないのだ。
 祈りを捧げる時間でもないし、私たち以外の外部の人間らしいのは数人しかいなかった。

 礼拝堂には中央通路の左右に長椅子が並び、その先には祭壇が設置されている。
 その祭壇の上に女神フェロニア像があった。
 金色の髪に澄んだ瞳と、白い肌の少女の姿の女神像は、衣装も清楚で華やかだが、無駄な装飾は一切ない。
 ただ教会に信仰する女神としての威厳と神々しさが表現されている。

「伝説によると女神フェロニアは大陸を創り、人を創造したとされている。そして大陸の平和を見守るため、その身を天に還した今尚、私たち大陸に住まう者を庇護している。ってのが信者以外にも広く知られた伝説なのよね。教会はその崇拝を奨励して、教会関係者でなくても参拝出来るようにしているの」

 祭壇の前で女神像を見上げながら語り出す私に、ベレニスがうんうんと頷いている。

 リョウはと言うと全然信じていないように、何か依頼内容に沿う違和感がないかと周囲を探っている。

「リョウ、何かある?」

「……わからん。教会なんて初めて来たからな」

「罰当たりねえ。だから傭兵は傭兵なのよ。ま、私も里に教会なんてなかったから初めてだけどね」

 ベレニスの言葉に苦笑しながら礼拝堂を見渡すが、特に怪しい感じはしない。
 まあ実は私も10年以上ぶりで、書物の知識しかないんだけど。

「あ、奥にも部屋があるのね。司祭の部屋かしら」

 礼拝堂の奥は小さな扉があり、ベレニスが開けようとすると、中からシスターがひょこっと顔を出してきた。
 そして私たちを見ると驚いたような顔をする。

「申し訳ございませんお客様。こちらは立入禁止でございます。……何か、お困りですか?」

 申し訳なさそうな顔で頭を下げるシスターに、私は慌てていえいえと首を振ってみせる。
 突然入ろうとした私たちが悪いんだから、このシスターが謝る必要なんてないのに。

 頭を下げて詫びるシスターは若く、10代半ばくらいの少女だ。
 オレンジ色の長い髪を一つにまとめておさげにした、清楚な修道服を纏っている、少しタレ目の女の子。

「もしよろしければ、女神様についてお話しましょうか?」

「歴史オタクがここにいるから、要らないわ」

 おいベレニス、なんで呆れたように指を差してくるのだ。

「では失礼します。何かお聞きになりたいことなどございましたら、いつでもお声がけ下さいね」

 ベレニスにそう伝えると、またペコリとお辞儀して扉を閉めた。
 ……あれ? 何か違和感があるような。
 私は首を傾げながら扉を見るが、特に何も感じない。
 気のせいかな?
 でも何だろうこの感じは……

「……教会内のシスターたちの視線が俺たちに集まってる。どうやらこの扉の前にいてほしくないようだ」

 リョウの指摘に、私はハッとして顔を上げる。

「当たりはこの部屋? でも無理やり入ったら逆に怪しまれるわよ」

 ベレニスの言う通りかも。
 礼拝堂にいたシスターたちは私とリョウの視線が交錯すると、慌てて視線を逸らした。
 何か隠しているのか?
 それとも本当に、ただの立ち入り禁止の部屋なのか?

 その時である。
 外の扉から司祭がやってきて、シスターたちに指示を出しているのが聞こえてきた。

「お客様方、申し訳ございません。領主様がお見えになりますので、本日の礼拝はここまでとさせて頂きます。大変申し訳ございません」

 シスターの1人の謝罪の言葉にガッカリする人もいれば、領主に会って嫌な思いをしたくないと、そそくさ出ていく人もいた。
 そして数人のシスターは、礼拝堂の燭台や蝋燭などを片付けたり、奥の部屋に何か運んだりしていた。
 私はそんな教会内の様子を一通り観察しつつ、他の礼拝客と共に退出していく。

「城から距離もないのに馬車で来るのね。傭兵! トールなんちゃらが乗ってて我を忘れて暴走しないでよ! そしたらローゼ、また睡眠魔法かけてよね!」

「その心配はないようだ。供の数からして領主だけだろう」

 そう言ってリョウは、近づいてくる馬車から背を向けていく。

「まだビオレールにいるみたいって、ギルドで噂話してる人たちがいたけど……」

「ひと月は滞在するのが通例らしい」

「……やっぱりまだ復讐は諦めてない?」

「当然だ。……だがローゼが言った、相手の事情を知る。俺もそうすると誓おう」

 私はそう話すリョウを、横目で見ながら小さく頷いた。

 そして礼拝客たちが教会から出ると、その馬車は礼拝堂の扉の前で止まった。
 司祭が扉を開けると、中からマントを羽織った壮年の男が出てくる。

 長身痩躯の金髪。冷たい印象を持たせる目は青。
 この領地の領主、ハインツ・ビオレール。
 冒険者のアンナさんを我が物にしようとしたり、配下に女漁りをさせたクズ野郎だ。

「どうすんのローゼ? 今日はこれでおしまいにでもする?」

 領主が教会に入っていく様子を遠目に観察しつつ、ベレニスが聞いてくる。

「まさか、祭事や儀式なんて用でもないのに教会に来て、人払いまでしてるんだから、気にしないほうが無理ね。それに司祭やシスターたちの視線も気になるし」

「フッ、それでこそローゼね。でも入口には衛兵がいるわよ。さっきまで立ってた人たちと違って、見つかればただじゃ済まないわね」

 ベレニスはそう言いながらも楽しそうに笑っている。

「無音で倒すのは厳しいな。ここから歩いて近づくだけで警戒するだろう」

 リョウも乗り気のようで、私の顔を見て何か考えがあるんだろ? と言いたげな目をしている。

「そうね。睡眠魔法で眠らすと、倒れた時の鎧のガチャガチャ音で気づかれるかもだし、ここはアレで行こうかな」

 私は2人に目配せし、教会から離れるように歩き出す。
 そんな私たちを気にする通行人は誰もいなかった。

 何者かが水晶球で覗いている。
 その存在に気づいている者も、誰もいなかった。
 
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