【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第2章 英雄の最期

第10話 説得

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 フィーリアが、何かを荷物から取り出して投げつけた。

 煙幕⁉ いや、違う。
 直撃を浴びたリョウとヘクターはふらりとして倒れた。

「リョウ⁉」

 駆け寄ると、どうやら寝ているだけ?
 毒ではなさそうでホッとするけど……

「何投げたの? フィーリア」

「眠り薬っすよ。ただ、すぐに効果は切れるっすけどね」

「ベレニスまで寝てるんだけど」

 パタリと倒れているが、気持ち良さそうに寝息を立てているベレニスが目に入る。

「まあ、ローゼさんが眠らないほうが異常なんすが。……それはともかく、ヘクターさんを縛るっす。後は自分に任せてくださいっす」

 フィーリアはテキパキとヘクターを縛り、目覚めるのを待った。
 リョウとヘクターが目覚めたのは数分後のことだった。

「ちっ。やっぱとんでもない女だなあ。フィーリアよ」

 縛った縄も魔導具なんだろう。
 ヘクターは抵抗の姿勢を見せたがすぐに諦め、真正面に陣取るフィーリアに悪態をつく。

 リョウは、私の手の動きで状況を理解してくれたみたいだ。剣を鞘へ納める。

 ベレニスはまだ夢の中だけど。

「で? どうするんだ? ここに縛って放置するか? それともとどめを刺すか? そいつが賢明だぜ? 何せ生かしておいたら今後もリョウ・アルバースを狙い続けるからなあ」

「ヘクターさん、話をするっす。自分としては、ハンセン商会に戻って商人をやっているヘクターさんと、大きくなったら再会するつもりでいたっすから」

「へっ! 辞めたよ。ビオレールに向かう商会に入ったのは、楽に国境を越えられるからよ。アランの傭兵、リョウ・アルバースを殺すためにな!」

「それはヘクターさんの都合で、自分はぶっちゃけどうでもいい話っすね」

「ほう? なら縄を解いて、殺し合いの続きをさせてくれるのか?」

「そんなわけないっす。……自分は、ヘクターさんが商人として真面目に働いていたのを知っていたっすから」

 フィーリアの声色はどこまでも優しくて、私は戦いに高ぶっていた心が落ち着くのを感じていた。
 ヘクターもそうだったのだろう。
 少しずつ力が抜けていた。

「縄を解くっす。ヘクターさん、リョウ様、戦っちゃ駄目っすよ」

 フィーリアはヘクターの縄を解くと、リョウに向き直る。
 そして……深く頭を下げた。

「ここは自分に免じて許してくださいっす。リョウ様への詫びと、ヘクターさんへの落とし前もつけるっす」

「俺は構わん。別に襲撃されたからと衛兵に突き出すつもりもない」

「リョウ様は、そういうところも駄目っすよ。こういうのはケリをつけとかなきゃ駄目っす」

 何故か説教されたと思ってそうだ。
 ポリポリと頬を掻くリョウは居心地悪そうにしている。

 フィーリアは、ヘクターに向き直った。

「それで? 俺をどうするんだ?」

「ヘクターさんには今後、剣を持ってはいけない誓約を交わすっす」

 フィーリアの手には、いつの間にか魔導具の指輪があった。

 あれは盟約の指輪か。
 貴重な品ではあるが流通量はそこそこある。

 たまに婚約指輪代わりに使用され、浮気しない盟約を無断でさせられるのに利用されている。
 そういったのは、大体おっかない事件に発展しているけど。

 昔、とある魔女が金儲けで世界にバラ撒いたという、魔女の評判を落とした品でもある。
 実力ある魔女なら解除ができるが、それは私クラスなので、そう滅多にはいない。
 ヘクターは盟約の指輪を見ると、諦めたかのように笑う。

「お前さんは色々変なの持ってるなあ。剣を持てない俺か……終わったな」

 フィーリアがヘクターに指輪を嵌め、盟約の呪いをかける。

「終わりじゃないっすよ。商人としてのスキルを活かしていくっす。ヘクターさんにはそれができるっすよ」

 フィーリアの微笑みはどこまでも優しく、ヘクターさんは降参のポーズを取った。

 凄い、対話で解決しちゃったよ。
 これがフィーリアという、小さなドワーフの女の子の手腕。
 見習う点があると素直に思わざるを得ない。

「すまない。サリアという人物は記憶してない。だが戦いで大勢を殺したのは事実だ」

「……チッ。拍子抜けするぜ。謝るなよ。テメエがそうだろうってのは予想してた。俺たちの選択ミスが招いた結果だってのもな。……だが行動せざるを得なかった。感情の赴くまま、復讐する。それだけが唯一の俺の生き甲斐だった」

 立ち上がり背を向けるヘクターさんは、そのまま歩きだした。

「あばよ。もう二度と会うこともねえだろ」

「何言ってるんすか。次にダーランド行ったら、真っ先に美人に成長した自分を見せるっすよ~」

「へっ。楽しみにしとくぜ」

 ヘクターさんはもう、振り返らなかった。

 私は軽く息を吐くとベレニスを揺さぶって起こす。

「ん? あの傭兵を狙ってた奴は?」

「フィーリアに説得されて帰っていったよ」

「ふうん? ん? はっ⁉ そんなことよりフィーリア‼ いきなり私も巻き込む変なの投げるってどういうつもりよ! これだからドワーフは!」

 ……起きたばかりで騒がしいベレニス。
 まあ、前からそうなので慣れたものだけど。

「変なもんじゃないっす~。エルフのクセに、魔力耐性ゼロなベレニスさんが変なもんっす~」

「なあんですって、フィーリア!」

 フィーリアも煽り返しているし。あ~もう!

「2人とも、怒るよ?」

 口喧嘩がピタリと止んで、無音のあっかんべー合戦をしつつ歩いているけど、もう知らん。
 でもフィーリアのお陰で、あのヘクターさんという人を殺さずに済んだのも事実だ。

 ……もしもリョウが殺されていたら、私はとても冷静でいられただろうか?
 両親に続いてリョウまで喪ってしまったら……

 私は自分の中にある黒い感情が、ヘクターさんと同じ復讐心だと自覚している。
 なので、その答えに辿り着いてしまったらきっと耐えられないだろう。

 だからフィーリアには感謝しかない。
 たださっきのヘクターとの件で、1つだけ気になる内容があった。

「ねえ? リョウが言っていたサラって人は誰?」

 ん? 何故リョウは、顔を背けるのだ?

「サラ・ルーカス。アランの傭兵っすね。自分もダーランド王国にいた頃に、一度護衛してもらっているっす。ローゼさんよりおっぱい大きい美少女さんだったす」

 へえ? そうなんだ~。
 あれ? なんでリョウもベレニスも、私を見て青ざめているのかなあ?

「な、なんでもないぞ! 単に同年齢の同期ってだけだ」

 ならなんで慌てているのかな?

「ちょっとフィーリア。あんた性格悪いわね。傭兵を煽るのはいいけど、ローゼはやめといたほうが身のためよ」

「いやいやベレニスさん。ローゼさんも危機感持ったほうがいいっすよ」

 ん~? おいこら2人とも、ヒソヒソ声はもう少し小さな声にしたほうが良いと思うよ~。

 というか、何に危機感を持つのだ?

「サラさんに聞いたっすけど、リョウ様はサラさんと寝食を共にした仲間らしいっす。しかも3年間も」

「ほほう?」

「単に見習いが同じ幕営に集められただけだ! サラの兄のカルマンだっていた! そっちのほうが一緒にいた時間は長い!」

 いや、まあそんなことだろうと思ってたし。
 私は別になんとも思ってないけど、リョウの反応が面白いからまだ黙っていよう。

「うわぁ~。傭兵って前から怪しいと思ってたけど、そのカルマンてのとデキてたの? うわぁ~」

「なんと! リョウ様は女性ではなく男性が⁉ そ、それはコメントしづらいっす。ヤバいっす。ヤバいっす! ちょっとローゼさん、まだ黙ってるっすか⁉」

 ……フィーリアがドン引きして私の肩を掴んで揺さぶっているよ。
 ベレニスは顔が真っ赤になっている。
 青くなったり赤くなったり忙しい子たちだね~。
 それにしても面白いなあ。コレ。

 リョウの言い訳っぽい羅列に、私は少しだけ溜飲が下がる思いで先に進むのであった。

 ***

 死体となった盗賊たちを、ムシャムシャと魔獣どもが食べていた。
 その横を通り過ぎるヘクターを、魔獣は警戒したが邪魔されないとわかるや興味を失い、まだ新鮮な死体を頬張ることに集中した。

(やれやれ、この世は地獄だねえ)

 ヘクターがそんなことを思いつつ歩いていると、目の前に黒のローブに身を包んだ女が現れる。

「尾行だけで良いのに何故手を出した?」

 詰問口調だが、別に責める感じではない。

「別に。バレたからだよ」

「……盟約の指輪か。どれ、解除してやろう」

「いらんいらん」

「貴様……裏切る気か?」

「はっ! 別に商人だって役立てることが出来るぜ? それによ、俺よりあんたのほうが色々とヤバイぜ」

 その言葉を聞いた女はフードで顔は見えなかったものの、笑ったように感じた。
 それから黒のローブ姿の女はヘクターに背を向け、死体の転がる場所へと向かう。

 魔獣たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 そして女は死体を一つ浮かばせ、漆黒の炎を浴びせる。

 黒炎が消えた後、女の姿はなかった。
 残されたのは燃えカスと化した灰と、大量の血溜まりだけだった。

 ヘクターはそれを一瞥してから再び歩き出すと、闇に溶けるように姿を消した。

「フィーリアも、とんでもねえ連中を雇ったもんだ。ま、それが運命ってヤツか。せいぜい足掻けばいいさ」

 そんなヘクターの呟きを、闇が吸い込んだ。
 
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