【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

文字の大きさ
97 / 314
第3章 公爵令嬢の選択

第17話 商業ギルド

しおりを挟む
 王都商業ギルドの区画は、早朝にもかかわらず多くの人々や馬車が行き交っていた。

「へえ~、みんな早起きね~。でも空いている店はないのが不思議。なんで?」

 ベレニスはキョロキョロして、あれれ? という顔をしている。

「鶏が鳴くと市門が開くっすからねえ。それで多くの行商人が街に入ってくるっす。今の時間は行商人たちが商品を卸して、商業ギルドやこの街の商人と取引している時間っすよ。つまり今、この区画にいるのは商人が大半っすね」

「ふうん。んで? どこへ行くつもりなの?」

「まずは商業ギルド本部っすね。この時間なら大勢の商人が詰めているっす。そこに行ってみるっすよ」

 ベレニスは、ふうんと、相槌を打って歩き出した。

 王都商業ギルド本部は、噴水広場の近くの一等地にある立派な建物だ。

 扉を開けると広いエントランスがあり、談笑している者もいれば、商品の説明をしている者、受付に商品の納品をしている者と様々な商人たちがいた。

 正面奥にはカウンターがあり、そこで職員と話をしている者もいる。
 その奥の部屋では商談が行われており、交渉している者たちもいるようだった。

 フィーリアはスタスタ歩き、ベレニスもついていく。
 すると1人の男が2人に近づいてきた。
 30代半ばくらいの男性で、身なりが良く品のある雰囲気を醸し出し、友好的な笑みを浮かべて2人に話しかけてきた。

「これはこれは、幼い少女にエルフの少女ですか。一体どのようなご要件で、当ギルドをお訪ねでしょうか?」

「あ~、自分はこういうもんす。こっちのエルフは旅の仲間っす」

 フィーリアは懐中時計を見せた。

「ほほう? それは1人前の商人の証である時計ですな。失礼しました。ならば要件は取引でしょうか? 品物は何でございましょう?」

「あ~、すいませんっす。今日は別の要件で訪ねたっす。自分、旅をしているんすけど道中お世話になった商人の方々が多くいるんすが、そのうち何人かの詳細がわからなくなっちゃっているんすよ。ですので、ここ1年ほどの間で、このギルドに訪れた人物の名が記されているリストを見せてほしいっす」

 男は少し不思議そうな顔をしたが、ああ、と納得したように頷いた。
 受付の女性に数冊のバインダーを持ってこさせ、フィーリアの前に差し出す。

 これはどうもっす、と言いながら受け取り、フィーリアは中身を確認する。

「あんた、よく平気でぺらぺら嘘が言えるわね。感心しちゃうわよ」

「ベレニスさんの嘘を見破れる変な特技も感心っすよ。ともかく、ちょっと黙っててもらえるっすか?」

「何がわかるのそれで?」

「後で教えるっすから」

 フィーリアはペラペラとリストをめくっていく。
 そして気になる名を見つけ絶句し、さらに頻繁に訪れていたが、このひと月の間に全く訪れていない人物の名を記憶した。

「どもっす」

「何か分かりましたか?」

「そっすねえ。ホレイショさんの名が半月前に載っていてビックリしたっす」

「ホレイショ? ああ、ファインダ王国の商人ですな。彼ならもうリオーネに帰りましたよ」

「そっすかあ。自分がお世話になったのはホレイショさんがまだ行商人だった4年前っすが、ファインダの王都リオーネで店を持ったんすねえ。羨ましいっす」

 男へリストを返却し、他愛ない雑談をしてフィーリアはベレニスを連れて商人ギルド本部を後にした。

「ホレイショって人が怪しいの?」

「いやいや、その人は雑談で使用しただけっすよ。知人であるのは事実っすけど」

「勿体ぶらないで教えなさいよ。なんかわかったんでしょ? ドワーフのくせにフィーリアは豪快さが足りないのよ」

「いやいやベレニスさんこそエルフのくせに、繊細さが足りないんじゃないっすかね」

 相変わらず喧嘩する2人であったが、フィーリアが真面目な顔で、じゃあ言うっすけど、と前置きして告げる。

「あのリスト、頻繁にルインズベリー公爵家の当主エクベルトの名が記されていたっす。けれど先月からパッタリと途絶えたっすね」

「それって重要なの? 本人じゃなく代理人が代わりに来ていたんじゃないの?」

「いえ、先月以降から本日まで新規の名はなかったっす。まあ1人いたっすけど、自分の知っている名だったのでそれは除外するっす」

「つまりルインズなんちゃらって貴族の偉い人が定期的に訪れていたのに、一切来なくなったってこと? え~っと、どういうこと?」

「こういうのは、大体表向きには商売の取引と見せかけて、裏で密談ってのが相場っす。それが必要じゃなくなったのか、はたまたルインズベリー公爵に何かあったかっすねえ」

「何かって何よ」

「さあ、そこまでは。でもルインズベリー家の動向を調べた方がいいと思うっす」

 そんな会話をしながら商業ギルドの区画を歩いていると、あちこちの店が開き始め、街は買い物客で賑わい始めていた。

 そんな中でベレニスが気づく。

「尾行されてるわね」

「ということはリストを見たのは正解っすね。気づいてはいけない事実が記載されていたってことっすねえ。わかりやすくて助かるっす」

「ここで倒すわよ」

「いえ、ベレニスさん。このまま走って、商業区画の東の端の魔導具店まで向かってくださいっす。そこに匿ってもらうっす」

「珍しいことを言うのね。その店を巻き込んでいいの?」

「巻き込むも何も、自分の予想が正しければ当事者っすよ。その店の主人は」

 バッと走り出す2人に、尾行者も慌てて追い掛ける。

「逃がすな。殺しても構わん」

 尾行者たちは、そんな物騒なことを呟きながらフィーリアたちを追う。

 こうして、尾行者とフィーリアたちの追いかけっこは幕を開けたのだった。

 裏路地を右へ左へと逃げる、フィーリアとベレニス。
 ベレニスは得意の精霊魔法で風を纏い、フィーリアの手を引いて走る。

 やがて2人は商業区画の東の端に到着した。

 ここら一帯は新米商人が出店する区画で、本店から暖簾分けをした店が多い。

 フィーリアはベレニスの手を離し、立ち止まった。
 行き止まりの壁に阻まれたからである。

 尾行者たちが追いつき、2人に詰め寄る。

 フィーリアは尾行者の人相風体を眺めつつ、冷静に状況を分析していた。

(この距離なら魔導具で反撃できるっすし、剣で斬りかかられても大丈夫っすけど……問題は)

 と考えながらチラリと横を見る。
 そこには、はぁはぁと息を切らせながら、地面にへたり込んでいるベレニスの姿があった。

「体力ないっすねえ。エルフは」

「普通1時間も走ったらこうなるわよ! エルフはねえ、ご覧の通り細いの。ドワーフは体力と腕力で勝負する種族だけど、エルフは知恵と精霊の力で勝負するんだから。てか、私が精霊魔法を使いまくったんだから感謝しなさいよね!」

「……そんだけ喋れるなら、問題なさそうっすね」

 ベレニスに文句を言われ、フィーリアはやれやれという表情をした。

 そんな2人のやり取りに、尾行者も無駄口を叩くなと言わんばかりに睨み付け、ベレニスも男たちを睨み返しながら口を開く。

「それで? 目的は何?」

「こっちが訊きたい。お前ら何を探っている」

 フィーリアも毅然とした態度で口を開く。

「教えるとでも思うっすか?」

「なら死ね」

 相手は8人。商業ギルドに雇われている、冒険者か衛兵崩れの者たちだろうとフィーリアは想像した。

『風の精霊よ、突風を吹かせて!』

 ベレニスが精霊魔法を発動する。
 男たちを吹き飛ばして、壁に激突させてやると気合を込めて。

 だが……

「なっ⁉」

 男たちは無傷で立っていた。

「……魔導具『風盾』っすね。貴重な品を持っているのに驚きっすが、これでこの王都の商業ギルド本部が、裏でコソコソ何かをやっているのが証明されたっす」

「はあ? なんでよりによって風盾なのよ!」

「……そりゃあ追跡する相手がエルフだからっすねえ。それこそ自分等が追われる理由が、ギルドでリストを確認したからって答え合わせっすね」

 ベレニスが憤慨している間に、男たちは剣を抜いて襲い掛かる。
 振り下ろされた剣をフィーリアは横に回避し、ベレニスもヒラリと避け、横から蹴り飛ばした。

「一斉にかかれ。ガキと風魔法を封じられたエルフ。誰かが斬られようと構わず斬り殺せ」

 敵方の犠牲を厭わない命令に、ベレニスは呆れた。

「ホントくだらないわね。こんな連中とやり合いたくないけど、しょうがないわね」

「まあ待つっす。ベレニスさんが魔法を封じられた分、ちょいとこっちが不利っす。それに連中、教会の時と同じ魔導具の指輪を身に付けているっす」

 裏切りと見なしたキーワードで、装備者を殺害する残酷な魔導具だ。

 尾行者の態度から、知らずに付けているとフィーリアは感じた。
 追い詰め、問い糾したら相手は死ぬだけだとも。

「じゃあ逃げる? でも囲まれているわよ。後ろは壁だし。ジャンプするには高いわよ」

 ベレニスがそう考えた瞬間。
 フィーリアが壁に手を触れると、壁が宙に浮いた。

「はああああああ⁉ なんじゃそりゃ」

 尾行者たちが驚愕する。
 フィーリアの右手には、まるで真綿でも持っているかのような巨大な壁があった。

 状況を理解できない尾行者たちやベレニスを尻目に、フィーリアは右手を軽く振りかぶり壁を投げた。

 ドゴンと大きな音を立て、尾行者たちは壁の下敷きになった。

「まあ、死んでないと思うっすが、この騒ぎで衛兵が絶対に来るっす。とっととずらかるっすよ」

「フィーリア。……あんたやっぱりドワーフねえ」

 呆れて嘆息するベレニスであったが、すぐに新たな視線に気づき、振り返る。

 壁があった向こう側に、1人の美女が佇んでいた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...