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第3章 公爵令嬢の選択
第29話 同士討ち
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王都ベルンは、人口20万人が住む大陸でも有数の都市国家である。
その中心には白亜の建物が立ち並び、美しい景観を醸し出す王宮が存在する。
王宮から少し離れた場所に、貴族が祈りを捧げる教会がある。
そこへ再び、私たちは足を踏み入れた。
教会の重厚な木製の扉は不自然なほど大きく開かれ、辺りは静まり返り、いつもなら門番が立っているはずの場所には誰もいなかった。
中は薄暗く、蝋燭の明かりが僅かにあるだけで、教会の長椅子に座る者や祈りを捧げる者も誰一人として存在しない。
天窓から注がれる陽の光が、ステンドグラスを照らして神々しく輝いている。
そこには本来、女神像が鎮座するはずの祭壇に、赤く長い髪のポニーテールの少女が横たわっていた。
遠目から外傷は見当たらず、まだ死者の臭いはしない。
「シャルロッテ様!」
叫び、近寄ろうとするヴィレッタを制止する。
「あの祭壇は罠。迂闊に近づいたら起動する」
魔女である私にはわかる。
シャルロッテの身体に魔法陣が描かれ、起動する時を今か今かと待っているのを。
「そんな! どうしてシャルロッテ様が⁉」
「落ち着いてヴィレッタ。気配がするわ。2人? いや……?」
「姿を見せろ! ジーニア!……それに、オルガさん」
ベレニスが人数を看破し、リョウがその名を呼ぶ。
「よお、リョウ。どうした? 声が沈んでいるぜ?」
祭壇の左の暗闇から男が現れた。
短身痩躯だが剣の素人の私でもわかる、剣に生きる者特有の気配。
リョウと同じ、アラン傭兵団の証である黄土色の鎧を装備したオルガ・フーガ。
そして右からも、修道服に身を包んだ女が出てくる。
「キヒ♥ すんごいすんごい。ど~してここに来たのぉ? 別に来なくていいのにさぁ」
相変わらず言葉の韻律が気持ち悪い、邪教の魔女ジーニアがニヤニヤと笑いながら姿を現した。
「シャルロッテ様を解放してくださいまし!」
ヴィレッタが祭壇に向かって叫んだ。
「解放? キヒ♥ なぁんで解放しなきゃなんないのぉ? レスティア公爵令嬢様とぉ、このルインズベリー公爵令嬢様はぁ、別に友達でも政治的に重要ってわけでもないのにぃ。ねぇ、レスティア公爵令嬢様ぁ? キャハ♥」
「学友であり、10年前までは共にローゼマリー王女の側近として仕えた仲です!」
シャルロッテを心から心配し、私についてきてくれたヴィレッタの怒りは頂点に達していた。
そんな彼女の気持ちを大事にしたいから、私はここで冷静であらねばならない。
「ルインズベリー邸の惨劇、あれは何? あれがジーニアの目的? ベルガー王国の公爵家に仕える人々や公爵をグールに変えるなんて、随分と大胆な実験……いや、デモンストレーションをしてくれたのね。どんな国のどんな存在でも、邪教はいつでも人を魔獣に変えることができますって感じかな?」
挑発交じりでジーニアに問う。
ルインズベリー公爵家のグールに変えられた惨劇。
その犯人たちに、私も怒りを抑えるのに必死だ。
でもここは冷静に対処しなければ相手の思う壷。
私の挑発に乗ったのか、オルガが抜刀する。
「へえ? リョウよお! お前さん、随分と感のいい女とつるんでいるなあ。……全く、絡んでこねえように一芝居打って、あわよくば宰相一派と争っていてもらいたかったんだがなあ。宰相も役立たずだったわ。いや、まさか、あの状況から大逆転の布石を打った王の知恵袋を褒めるべきだな。世の中には表に出てこねえで、裏で画策している連中が多すぎて嫌になるぜ。……まあいい。もう俺の勝ちは確定した」
「何故だオルガさん! あんたはアランの傭兵でも指折りの実力者! 何故邪教に手を貸す‼」
リョウが無念を込めてオルガに問う。
苦楽を共にし、命を預けあった仲間が邪教に手を貸していた事実に、リョウは複雑な胸中だろう。
「邪教に手を貸す……か。むしろ逆だな。邪教かどうかなんて、知らんしどうでもいい。このジーニアが俺に手を差し伸べてくれた。ルインズベリー家に復讐し、グチャグチャにして滅ぼさねえかってなあ。そんな美味しすぎる話に、乗らねえのは馬鹿だろうが?」
オルガの顔が歪んだ。
……そういうことか。
主犯はジーニアで共犯者がオルガ。
オルガがポールを使い、元王女が生存しているという噂話を利用し、私たちを王派と宰相派の抗争が激化するように仕向けた。
その隙に着々と、ジーニアはルインズベリー家を実験台にしていたわけか。
「俺はなあリョウ! てめえと同じ復讐者よ。てめえのような歴史的事実の叛乱とは違うがよ! 俺のはなあ、権力に遮られ、捻じ曲げられ、泣き寝入りするしかねえ、イカれた貴族主義の国での出来事よ! そんな糞ったれ共を操り、家族の無念を晴らせるチャンスが舞い込んできたんだ。この話に飛びつかねえでどうすんだ‼ てめえだってどうせ俺と同じで、復讐のために強くなったんだろうがよ‼」
オルガの叫びにリョウがピクンと反応する。
「キヒ♥ オルガ・フーガはねぇ、とおっても可哀想なのぉ。10年前、先王が死んでから数日後にぃ、妹さんがルインズベリー家当主のエクベルトと息子のポールに、おもちゃにされたんだってぇ。キヒ♥」
ジーニアが、まるで面白い見世物でも見ているかのように嗤い出した。
「おもちゃってわかるぅ? 童貞には難しいかぁ? キヒ♥ あんたってぇ、女の子ばっかりと一緒にいるのにそういうのしてなさそう♥ 男として大丈夫ぅ? もしかして不能ぉ?」
ケラケラ嗤うジーニアだったが、リョウの剣気はオルガに向かったまま動じない。
だが……
「傭兵は不能じゃないわよ。ただ、女の子の扱いに無能なだけよ!」
ベレニスの発言に、リョウの剣気は乱れオルガは爆笑した。
ちょっ、ベレニス?
真面目な顔で胸を張ってリョウを庇うかのように言ったが、それフォローになってないっての!
「ハッハッハ、そいつはおもしれえや。リョウらしいぜ!」
てか、オルガもそこまで爆笑せんでもいいのに。
リョウも仏頂面だが、あれかなりのダメージを受けてそうだぞ。
「なら、そのシャルロッテさんは無関係っすよね? 10年前、5歳だった彼女が、オルガさんの妹さんの悲劇に関与はできないと思うっすが?」
フィーリアの疑問にオルガは笑うのを止めた。
「そうだなあ。俺にはもう関係ねえな」
「なら! 解放を! 貴方が背負った恨みと犯した罪の過ちは消えませんが、せめて……せめて彼女にだけは謝罪を‼」
ヴィレッタの想いがオルガに刺さったようだ。
そうまで言われては何も言えないのか、沈黙した。
けど……
「キヒ♥ 返してハイサヨナラまたねぇって、ならないよねぇ? どうせ戦うんだし彼女は景品♥ あたしたちに勝ったら解放してあげるよぉ。キャハ♥」
オルガは無言で剣を構え、リョウも呼応する。
「リョウ……」
「心配は要らん。俺がオルガさんを足止めしている間に邪教の企みを止めてくれ」
振り向かずに言うリョウに、私は応じる証として魔力を高める。
オルガを相手にできるのはリョウだけ。
必ず、2人の戦いの勝敗が決する前になんとかして見せる!
「アラン傭兵団の誇りのために、邪教の力を借りたあんたを討つ」
「はっ! 誇りなんざ犬にでも喰わせとけ! 俺は俺のために戦う! 来いやリョウ! 世の中綺麗事じゃねえってのを教えてやる!」
オルガとリョウ、両者の想いがぶつかり合っていった。
その中心には白亜の建物が立ち並び、美しい景観を醸し出す王宮が存在する。
王宮から少し離れた場所に、貴族が祈りを捧げる教会がある。
そこへ再び、私たちは足を踏み入れた。
教会の重厚な木製の扉は不自然なほど大きく開かれ、辺りは静まり返り、いつもなら門番が立っているはずの場所には誰もいなかった。
中は薄暗く、蝋燭の明かりが僅かにあるだけで、教会の長椅子に座る者や祈りを捧げる者も誰一人として存在しない。
天窓から注がれる陽の光が、ステンドグラスを照らして神々しく輝いている。
そこには本来、女神像が鎮座するはずの祭壇に、赤く長い髪のポニーテールの少女が横たわっていた。
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「姿を見せろ! ジーニア!……それに、オルガさん」
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「よお、リョウ。どうした? 声が沈んでいるぜ?」
祭壇の左の暗闇から男が現れた。
短身痩躯だが剣の素人の私でもわかる、剣に生きる者特有の気配。
リョウと同じ、アラン傭兵団の証である黄土色の鎧を装備したオルガ・フーガ。
そして右からも、修道服に身を包んだ女が出てくる。
「キヒ♥ すんごいすんごい。ど~してここに来たのぉ? 別に来なくていいのにさぁ」
相変わらず言葉の韻律が気持ち悪い、邪教の魔女ジーニアがニヤニヤと笑いながら姿を現した。
「シャルロッテ様を解放してくださいまし!」
ヴィレッタが祭壇に向かって叫んだ。
「解放? キヒ♥ なぁんで解放しなきゃなんないのぉ? レスティア公爵令嬢様とぉ、このルインズベリー公爵令嬢様はぁ、別に友達でも政治的に重要ってわけでもないのにぃ。ねぇ、レスティア公爵令嬢様ぁ? キャハ♥」
「学友であり、10年前までは共にローゼマリー王女の側近として仕えた仲です!」
シャルロッテを心から心配し、私についてきてくれたヴィレッタの怒りは頂点に達していた。
そんな彼女の気持ちを大事にしたいから、私はここで冷静であらねばならない。
「ルインズベリー邸の惨劇、あれは何? あれがジーニアの目的? ベルガー王国の公爵家に仕える人々や公爵をグールに変えるなんて、随分と大胆な実験……いや、デモンストレーションをしてくれたのね。どんな国のどんな存在でも、邪教はいつでも人を魔獣に変えることができますって感じかな?」
挑発交じりでジーニアに問う。
ルインズベリー公爵家のグールに変えられた惨劇。
その犯人たちに、私も怒りを抑えるのに必死だ。
でもここは冷静に対処しなければ相手の思う壷。
私の挑発に乗ったのか、オルガが抜刀する。
「へえ? リョウよお! お前さん、随分と感のいい女とつるんでいるなあ。……全く、絡んでこねえように一芝居打って、あわよくば宰相一派と争っていてもらいたかったんだがなあ。宰相も役立たずだったわ。いや、まさか、あの状況から大逆転の布石を打った王の知恵袋を褒めるべきだな。世の中には表に出てこねえで、裏で画策している連中が多すぎて嫌になるぜ。……まあいい。もう俺の勝ちは確定した」
「何故だオルガさん! あんたはアランの傭兵でも指折りの実力者! 何故邪教に手を貸す‼」
リョウが無念を込めてオルガに問う。
苦楽を共にし、命を預けあった仲間が邪教に手を貸していた事実に、リョウは複雑な胸中だろう。
「邪教に手を貸す……か。むしろ逆だな。邪教かどうかなんて、知らんしどうでもいい。このジーニアが俺に手を差し伸べてくれた。ルインズベリー家に復讐し、グチャグチャにして滅ぼさねえかってなあ。そんな美味しすぎる話に、乗らねえのは馬鹿だろうが?」
オルガの顔が歪んだ。
……そういうことか。
主犯はジーニアで共犯者がオルガ。
オルガがポールを使い、元王女が生存しているという噂話を利用し、私たちを王派と宰相派の抗争が激化するように仕向けた。
その隙に着々と、ジーニアはルインズベリー家を実験台にしていたわけか。
「俺はなあリョウ! てめえと同じ復讐者よ。てめえのような歴史的事実の叛乱とは違うがよ! 俺のはなあ、権力に遮られ、捻じ曲げられ、泣き寝入りするしかねえ、イカれた貴族主義の国での出来事よ! そんな糞ったれ共を操り、家族の無念を晴らせるチャンスが舞い込んできたんだ。この話に飛びつかねえでどうすんだ‼ てめえだってどうせ俺と同じで、復讐のために強くなったんだろうがよ‼」
オルガの叫びにリョウがピクンと反応する。
「キヒ♥ オルガ・フーガはねぇ、とおっても可哀想なのぉ。10年前、先王が死んでから数日後にぃ、妹さんがルインズベリー家当主のエクベルトと息子のポールに、おもちゃにされたんだってぇ。キヒ♥」
ジーニアが、まるで面白い見世物でも見ているかのように嗤い出した。
「おもちゃってわかるぅ? 童貞には難しいかぁ? キヒ♥ あんたってぇ、女の子ばっかりと一緒にいるのにそういうのしてなさそう♥ 男として大丈夫ぅ? もしかして不能ぉ?」
ケラケラ嗤うジーニアだったが、リョウの剣気はオルガに向かったまま動じない。
だが……
「傭兵は不能じゃないわよ。ただ、女の子の扱いに無能なだけよ!」
ベレニスの発言に、リョウの剣気は乱れオルガは爆笑した。
ちょっ、ベレニス?
真面目な顔で胸を張ってリョウを庇うかのように言ったが、それフォローになってないっての!
「ハッハッハ、そいつはおもしれえや。リョウらしいぜ!」
てか、オルガもそこまで爆笑せんでもいいのに。
リョウも仏頂面だが、あれかなりのダメージを受けてそうだぞ。
「なら、そのシャルロッテさんは無関係っすよね? 10年前、5歳だった彼女が、オルガさんの妹さんの悲劇に関与はできないと思うっすが?」
フィーリアの疑問にオルガは笑うのを止めた。
「そうだなあ。俺にはもう関係ねえな」
「なら! 解放を! 貴方が背負った恨みと犯した罪の過ちは消えませんが、せめて……せめて彼女にだけは謝罪を‼」
ヴィレッタの想いがオルガに刺さったようだ。
そうまで言われては何も言えないのか、沈黙した。
けど……
「キヒ♥ 返してハイサヨナラまたねぇって、ならないよねぇ? どうせ戦うんだし彼女は景品♥ あたしたちに勝ったら解放してあげるよぉ。キャハ♥」
オルガは無言で剣を構え、リョウも呼応する。
「リョウ……」
「心配は要らん。俺がオルガさんを足止めしている間に邪教の企みを止めてくれ」
振り向かずに言うリョウに、私は応じる証として魔力を高める。
オルガを相手にできるのはリョウだけ。
必ず、2人の戦いの勝敗が決する前になんとかして見せる!
「アラン傭兵団の誇りのために、邪教の力を借りたあんたを討つ」
「はっ! 誇りなんざ犬にでも喰わせとけ! 俺は俺のために戦う! 来いやリョウ! 世の中綺麗事じゃねえってのを教えてやる!」
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