【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

文字の大きさ
109 / 314
第3章 公爵令嬢の選択

第29話 同士討ち

しおりを挟む
 王都ベルンは、人口20万人が住む大陸でも有数の都市国家である。

 その中心には白亜の建物が立ち並び、美しい景観を醸し出す王宮が存在する。

 王宮から少し離れた場所に、貴族が祈りを捧げる教会がある。
 そこへ再び、私たちは足を踏み入れた。

 教会の重厚な木製の扉は不自然なほど大きく開かれ、辺りは静まり返り、いつもなら門番が立っているはずの場所には誰もいなかった。

 中は薄暗く、蝋燭の明かりが僅かにあるだけで、教会の長椅子に座る者や祈りを捧げる者も誰一人として存在しない。

 天窓から注がれる陽の光が、ステンドグラスを照らして神々しく輝いている。
 そこには本来、女神像が鎮座するはずの祭壇に、赤く長い髪のポニーテールの少女が横たわっていた。

 遠目から外傷は見当たらず、まだ死者の臭いはしない。

「シャルロッテ様!」

 叫び、近寄ろうとするヴィレッタを制止する。

「あの祭壇は罠。迂闊に近づいたら起動する」

 魔女である私にはわかる。
 シャルロッテの身体に魔法陣が描かれ、起動する時を今か今かと待っているのを。

「そんな! どうしてシャルロッテ様が⁉」

「落ち着いてヴィレッタ。気配がするわ。2人? いや……?」

「姿を見せろ! ジーニア!……それに、オルガさん」

 ベレニスが人数を看破し、リョウがその名を呼ぶ。

「よお、リョウ。どうした? 声が沈んでいるぜ?」

 祭壇の左の暗闇から男が現れた。

 短身痩躯だが剣の素人の私でもわかる、剣に生きる者特有の気配。
 リョウと同じ、アラン傭兵団の証である黄土色の鎧を装備したオルガ・フーガ。

 そして右からも、修道服に身を包んだ女が出てくる。

「キヒ♥ すんごいすんごい。ど~してここに来たのぉ? 別に来なくていいのにさぁ」

 相変わらず言葉の韻律が気持ち悪い、邪教の魔女ジーニアがニヤニヤと笑いながら姿を現した。

「シャルロッテ様を解放してくださいまし!」

 ヴィレッタが祭壇に向かって叫んだ。

「解放? キヒ♥ なぁんで解放しなきゃなんないのぉ? レスティア公爵令嬢様とぉ、このルインズベリー公爵令嬢様はぁ、別に友達でも政治的に重要ってわけでもないのにぃ。ねぇ、レスティア公爵令嬢様ぁ? キャハ♥」

「学友であり、10年前までは共にローゼマリー王女の側近として仕えた仲です!」

 シャルロッテを心から心配し、私についてきてくれたヴィレッタの怒りは頂点に達していた。

 そんな彼女の気持ちを大事にしたいから、私はここで冷静であらねばならない。

「ルインズベリー邸の惨劇、あれは何? あれがジーニアの目的? ベルガー王国の公爵家に仕える人々や公爵をグールに変えるなんて、随分と大胆な実験……いや、デモンストレーションをしてくれたのね。どんな国のどんな存在でも、邪教はいつでも人を魔獣に変えることができますって感じかな?」

 挑発交じりでジーニアに問う。

 ルインズベリー公爵家のグールに変えられた惨劇。
 その犯人たちに、私も怒りを抑えるのに必死だ。
 でもここは冷静に対処しなければ相手の思う壷。

 私の挑発に乗ったのか、オルガが抜刀する。

「へえ? リョウよお! お前さん、随分と感のいい女とつるんでいるなあ。……全く、絡んでこねえように一芝居打って、あわよくば宰相一派と争っていてもらいたかったんだがなあ。宰相も役立たずだったわ。いや、まさか、あの状況から大逆転の布石を打った王の知恵袋を褒めるべきだな。世の中には表に出てこねえで、裏で画策している連中が多すぎて嫌になるぜ。……まあいい。もう俺の勝ちは確定した」

「何故だオルガさん! あんたはアランの傭兵でも指折りの実力者! 何故邪教に手を貸す‼」

 リョウが無念を込めてオルガに問う。

 苦楽を共にし、命を預けあった仲間が邪教に手を貸していた事実に、リョウは複雑な胸中だろう。

「邪教に手を貸す……か。むしろ逆だな。邪教かどうかなんて、知らんしどうでもいい。このジーニアが俺に手を差し伸べてくれた。ルインズベリー家に復讐し、グチャグチャにして滅ぼさねえかってなあ。そんな美味しすぎる話に、乗らねえのは馬鹿だろうが?」

 オルガの顔が歪んだ。

 ……そういうことか。
 主犯はジーニアで共犯者がオルガ。
 オルガがポールを使い、元王女が生存しているという噂話を利用し、私たちを王派と宰相派の抗争が激化するように仕向けた。
 その隙に着々と、ジーニアはルインズベリー家を実験台にしていたわけか。

「俺はなあリョウ! てめえと同じ復讐者よ。てめえのような歴史的事実の叛乱とは違うがよ! 俺のはなあ、権力に遮られ、捻じ曲げられ、泣き寝入りするしかねえ、イカれた貴族主義の国での出来事よ! そんな糞ったれ共を操り、家族の無念を晴らせるチャンスが舞い込んできたんだ。この話に飛びつかねえでどうすんだ‼ てめえだってどうせ俺と同じで、復讐のために強くなったんだろうがよ‼」

 オルガの叫びにリョウがピクンと反応する。

「キヒ♥ オルガ・フーガはねぇ、とおっても可哀想なのぉ。10年前、先王が死んでから数日後にぃ、妹さんがルインズベリー家当主のエクベルトと息子のポールに、おもちゃにされたんだってぇ。キヒ♥」

 ジーニアが、まるで面白い見世物でも見ているかのように嗤い出した。

「おもちゃってわかるぅ? 童貞には難しいかぁ? キヒ♥ あんたってぇ、女の子ばっかりと一緒にいるのにそういうのしてなさそう♥ 男として大丈夫ぅ? もしかして不能ぉ?」

 ケラケラ嗤うジーニアだったが、リョウの剣気はオルガに向かったまま動じない。

 だが……

「傭兵は不能じゃないわよ。ただ、女の子の扱いに無能なだけよ!」

 ベレニスの発言に、リョウの剣気は乱れオルガは爆笑した。

 ちょっ、ベレニス?
 真面目な顔で胸を張ってリョウを庇うかのように言ったが、それフォローになってないっての!

「ハッハッハ、そいつはおもしれえや。リョウらしいぜ!」

 てか、オルガもそこまで爆笑せんでもいいのに。
 リョウも仏頂面だが、あれかなりのダメージを受けてそうだぞ。

「なら、そのシャルロッテさんは無関係っすよね? 10年前、5歳だった彼女が、オルガさんの妹さんの悲劇に関与はできないと思うっすが?」

 フィーリアの疑問にオルガは笑うのを止めた。

「そうだなあ。俺にはもう関係ねえな」

「なら! 解放を! 貴方が背負った恨みと犯した罪の過ちは消えませんが、せめて……せめて彼女にだけは謝罪を‼」

 ヴィレッタの想いがオルガに刺さったようだ。
 そうまで言われては何も言えないのか、沈黙した。

 けど……

「キヒ♥ 返してハイサヨナラまたねぇって、ならないよねぇ? どうせ戦うんだし彼女は景品♥ あたしたちに勝ったら解放してあげるよぉ。キャハ♥」

 オルガは無言で剣を構え、リョウも呼応する。

「リョウ……」

「心配は要らん。俺がオルガさんを足止めしている間に邪教の企みを止めてくれ」

 振り向かずに言うリョウに、私は応じる証として魔力を高める。

 オルガを相手にできるのはリョウだけ。
 必ず、2人の戦いの勝敗が決する前になんとかして見せる!

「アラン傭兵団の誇りのために、邪教の力を借りたあんたを討つ」

「はっ! 誇りなんざ犬にでも喰わせとけ! 俺は俺のために戦う! 来いやリョウ! 世の中綺麗事じゃねえってのを教えてやる!」

 オルガとリョウ、両者の想いがぶつかり合っていった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...