【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第3章 公爵令嬢の選択

第28話 神聖魔法

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「これは何だ!」

 応戦するも手応えがなく、懸命に泥人形を振り払いながら、リョウが叫ぶ。

「……禁忌の魔法で人を泥に変える邪法! こんな惨い魔法の使い手が、この世に存在していたなんて!」

「あれ見て!」

 私が答えて、ベレニスが指差す方向。
 黒煙を噴き出す屋敷の瓦礫の中から、煤だらけの人間が1人這い出てきた。

 それは傷まみれで息も絶え絶えだが、憎悪が宿っているのが、誰が見ても明らかだと感じてしまう。

「あれはエクベルト公爵⁉」

 ヴィレッタが驚きの声を上げた。

 エクベルト・ルインズベリーは血塗れだった。
 泥人形にやられたのか、それとも別の要因かわからないが、すでに瀕死のようにも見える。

「何があったのじゃ! 儂じゃ! わからぬのか!」

「シャルロッテ様は⁉ 家人はどうなったのです⁉」

 ニクラスとヴィレッタが呼びかけるも……

「おのれ~! ここはどこだ? 儂は誰だ? 痛い! 許さん! 殺す! 全て殺してやる!」

 瞬間、人とは思えない速さで襲いかかってきた、エクベルトだった存在。

 リョウの剣が胴を真っ二つにし、私の魔法で上半身が燃える。
 それでも下半身は動き回り、数秒が経つと全身が復元した。

「おのれ~! 痛い! 痛い! 痛いぞお!」

 その異様な光景に、ニクラスたち王国兵は怯えだした。

「あ、悪魔だ! あ、あれは人間が勝てる相手じゃないぞ!」

「ヒッ! 来るな!」

 次々と襲いかかってくる泥人形やエクベルトだった存在に、兵士たちは戦意を喪失する。

「あれも魔法でああなったの? 倒す術はあるの、ローゼ⁉ 魔法オタクなんだから知っているんでしょ!」

「斬っても斬っても死なない、か。こんなのが蔓延ったら傭兵団も役立たずになるな」

 兵士たちを護りながら、ギリギリの攻防を展開するベレニスとリョウの2人。

「……この泥人形もルインズベリー家当主も、魔獣としてのカテゴリーではグールと呼ばれる存在。弱点は神聖魔法だけど……高位の神官クラス、例えば七英雄のザックスぐらいでないと浄化は不可能。それ以外の手段は、再生不可能になるまでゴリ押しするしかない!」

 神聖魔法。
 それは女神フェロニアを信仰し、祈りを捧げる信徒たちが奇跡を起こすことのできる魔法で、その効果は千差万別である。

「ゴリ押しって、この数を? うへえ、フィーリア、何かパーっとゴリ押しできる魔導具とか持ってないの⁉」

「持ってないっすよ! 地味にこっちもエマさんと共にヴィレッタさんを護っているので、余裕ないっす!」

 ベレニスの無茶振りに、フィーリアは魔導具で結界を張りつつ答えていた。

 ベレニスがグールの群れに風魔法を撃ち、リョウが泥人形を斬り捨て、私も最大火力で炎魔法を連射し続ける。

 だが、状況は芳しくない。

 いっそのこと、燃え盛るルインズベリー邸を丸ごと吹き飛ばしてみるのも手だが、万に一つの確率でも生存者がいたらマズい。

 特に、シャルロッテだ。

 泥人形は、人だった頃の面影がいくばくか残っている。
 今のところ、彼女らしき泥人形は確認できていない。

 なら! 生存の可能性に私は賭けることにした。

 けど、王国兵を率いるニクラスも限界に近い。
 ベレニスもフィーリアも肩で息をしている。
 リョウはまだ平然としているが、多少剣にブレが出ている。

 マズイな。このままだと、こっちが先に限界を迎えてしまう。
 そう思った時だ。

「神聖魔法でなんとかなるんですね?」

 意を決したように、ヴィレッタが私に語りかけてきた。

「うん。でもさっき言ったように、とびっきりの凄い使い手ならね」

「どうやるのでしょう? わたくしも女神フェロニアに魂を捧げた身。その方法を教わりたく存じます」

 ヴィレッタは覚悟を決めた目をしていた。

 たしかにヴィレッタのような敬虔豊かな信徒なら、女神フェロニアの加護は得られるだろう。
 だが魔法を使用したことのない人物が、いきなりグールを浄化する才を開花させるなんてご都合主義があり得るだろうか?
 でも……ヴィレッタなら。

「わかった。一回試してやってみよう! 駄目ならすぐに下がって! サポートは私がする!」

 私はヴィレッタに詠唱を教えた。

「こう詠唱して! 『大地にあまねく精霊よ、我が祈りに応えたまえ! 我は女神フェロニアの使徒にして裁定者なり。救いなき、かの者らへ救済を与えたまえ』」

 私の教えた詠唱を一字一句違わず、ヴィレッタは目を閉じ祈り始めた。

 するとどうだろう。彼女の身体が光に包まれ始めた。

 そして……

「おお!」

 泥人形たちの身体が崩れ、そして地面へと還っていった。
 神聖魔法の浄化効果が発揮されたのだ!
 ルインズベリー邸の燃え盛る炎すらも消滅した。

「うっぐ……おの……れ……儂は……」

 エクベルトだった存在も、最期に恨み言を残して浄化されていった。

「お嬢様!」

 倒れ込むヴィレッタを抱えた私に、エマさんが駆け寄ってくる。

「フフ……わたくしにもできました」

「いやホント凄いよヴィレッタ! 女神フェロニアの加護を得られたね」

 微笑む彼女に私は称賛を送る。
 私の詠唱を一度聞いただけで、神聖魔法を使うなんて大したものだ!

 いやいや、凄いなんてものじゃない。
 このヴィレッタの力は、今すぐ高位の司祭、いや、聖女を名乗ってもいいくらいだ。

 出来過ぎの展開に少しだけ違和感を感じるも、ヴィレッタのような純粋な魂の持ち主なら当然と思い込んだ。

 ……そのせいで驚きもせず、理解が追いついていないわけでもない存在が1人、この場にいたことに気づくことができなかった。

「ふう、よくわからんが危機は去ったのだな! 全く、図ったかのように応援も今着いたぞ。ちっ、アデル・アーノルドか」

 そんなニクラスの舌打ちが聞こえて振り向くと、アデルが数百の兵を率いて現れた姿が目に入ってくる。

「ニクラス様。遅れて申し訳ありませぬ。して? ルインズベリー邸がこうなっている理由とは? そしてこの状況は一体……」

「り、理由はそこの冒険者どもと、レスティア公爵令嬢に聞け! 我が兵はルインズベリー邸に突入せよ! 手柄を取られるなよ!」

 号令と共に、ニクラスが屋敷に突入していった。
 その様子に嘆息しつつ、アデルは私たちへと近寄り、状況の説明を求めてきた。

 ありのままを説明するが、ルインズベリー家の人間が魔獣グールにされたと伝えた時は、さすがのアデルにも動揺の色が見えた。
 だがすぐに気を取り直し、アデルは王宮への急使を手配して、私たちに礼を述べるのであった。

 ルインズベリー邸は封鎖され、王国兵はグール化した者たちの遺体の回収作業を始める。
 エクベルトだった灰となった存在も含め。

「テシウスの危惧していた通りだったか……」

 無意識に囁いたアデルの声に反応してしまう。

 テシウスってあの切れ者の先生か。
 これも予測範囲内の惨事だったってこと?

「危惧とは何でしょう?」

 私が発するより先にリョウが訊ねた。

「いや、何。どうにも此度の騒動、テスタ宰相すらもせっかちに動いていると、小首を捻る考えすぎる奴が友人におっての。筋書きを書いている、王国外部の者がいるのではないかと疑っていてな。禁忌の魔法により、人を魔獣に変える……か。だが、誰が何故このようなことをした? その者の意図が見えない……不気味だな」

 アデルは顎に手を当てながら、思案している様子を見せる。

「ときにリョウ殿よ。ルインズベリー邸にはオルガ・フーガはいなかったのか? 奴も死んだのか?」

「いえ、泥人形でオルガさんらしき者は見かけませんでした。他には公爵家の嫡男ポール殿と、妹君のシャルロッテ嬢が未だ安否不明です」

「ふうむ。オルガがいて、この惨事を食い止められなかったのは解せぬし、死をもって任務から解き放たれていないのも解せぬ」

「俺もそう思っています。オルガさんは現傭兵団で五指の実力者です。仮に人を魔獣に変える者に不意をつかれても、現場から逃げず、多くの人を助けようとするでしょう」

 リョウはオルガの強さは知っている。
 その強さを信頼しているから、状況の理解に苦慮しているようだ。

「アデル様、このような話を耳にしたのですが、ご存知でしょうか?」

 私はオルガが、妹のグレテがエクベルトに乱暴されて自死した件を伝えた。

「……知っておる。オルガは剣の才能溢れた若者だった。妹の死で自棄になっていた奴を、傭兵団へ推挙したのは儂だ」

「それって、ポール公子はどんな立ち位置だったんすかね?」

「立ち位置?……さて……ただオルガとポール様は今でも仲が良さそうだった。関与はしていないと思うぞ?」

 フィーリアの疑念に、アデルは小首を傾げる。

「フィーリア、それはオルガさんがエクベルトだけではなく、ポール公子も復讐対象だったってことか?」

「断定はできないっすけど……可能性は高いと思うっす」

 リョウとフィーリアの会話で、私も一つの推論が生まれた。

「アデル様。この場は任せてよろしいでしょうか? 私たちは教会へ向かいたく思います」

 私はアデルにそう告げる。

「魔女ローゼさん、なにゆえ教会へ向かう?」

「……邪教の魔女が教会のシスターとして潜伏しているのです。今回のこの惨劇、彼女の仕業の可能性が極めて高いと思います」

 私の言葉にアデルはピクリと眉を顰める。

 無理もない。教会とは神に祈りを捧げる場所であり、聖職者は俗世を離れ、清貧な生活を送るものだ。

 昔から教会の汚職や、権威を利用しようとする貴族は跡を絶たないが、基本的に熱心な女神信者ほど神の教えを胸に刻み、禁欲的に日々を過ごしている。

 アデルもそうなのだろう。

 だから教会が絡んでいると聞いて、いい顔をしない。
 だが、私は知っている。
 アデルは神に祈るより剣で道を切り拓くことを好むということを。

「ようやく、ジーニアをぶん殴れるのね!」

「逃げているかもっす。王都の封鎖もお願いしたいっすね」

 フィーリアに告げられ、アデルは手配した。

「わたくしも連れて行ってくださいまし!」

 ヴィレッタも覚悟を決めた目で口にした。
 エマさんは、一息吐くが主の意向を優先する構えだ。

「ヴィレッタ嬢は、アデル殿に護られていたほうが無難だが……」

「もうわたくしの命が狙われないからでしょうか? ですが、わたくしを利用した人物は教会のジーニアという、あのシスターなのですよね? でしたら、わたくしにも文句を言う権利があると思います。それに神聖魔法、この力が必要になるのではないか……そんな予感もするのです」

 唯一反対するリョウだが、ヴィレッタに詰め寄られ言葉を詰まらせる。

「私は、彼女の気持ちを尊重してあげたいと思う」

 私の援護に、リョウはタジタジになりながらも了承した。
 アデルに教会へ向かう許可をもらい、私たちは馬を借りて教会へと急ぎ向かっていった。
 
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