【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

文字の大きさ
109 / 315
第3章 公爵令嬢の選択

第29話 同士討ち

しおりを挟む
 王都ベルンは、人口20万人が住む大陸でも有数の都市国家である。

 その中心には白亜の建物が立ち並び、美しい景観を醸し出す王宮が存在する。

 王宮から少し離れた場所に、貴族が祈りを捧げる教会がある。
 そこへ再び、私たちは足を踏み入れた。

 教会の重厚な木製の扉は不自然なほど大きく開かれ、辺りは静まり返り、いつもなら門番が立っているはずの場所には誰もいなかった。

 中は薄暗く、蝋燭の明かりが僅かにあるだけで、教会の長椅子に座る者や祈りを捧げる者も誰一人として存在しない。

 天窓から注がれる陽の光が、ステンドグラスを照らして神々しく輝いている。
 そこには本来、女神像が鎮座するはずの祭壇に、赤く長い髪のポニーテールの少女が横たわっていた。

 遠目から外傷は見当たらず、まだ死者の臭いはしない。

「シャルロッテ様!」

 叫び、近寄ろうとするヴィレッタを制止する。

「あの祭壇は罠。迂闊に近づいたら起動する」

 魔女である私にはわかる。
 シャルロッテの身体に魔法陣が描かれ、起動する時を今か今かと待っているのを。

「そんな! どうしてシャルロッテ様が⁉」

「落ち着いてヴィレッタ。気配がするわ。2人? いや……?」

「姿を見せろ! ジーニア!……それに、オルガさん」

 ベレニスが人数を看破し、リョウがその名を呼ぶ。

「よお、リョウ。どうした? 声が沈んでいるぜ?」

 祭壇の左の暗闇から男が現れた。

 短身痩躯だが剣の素人の私でもわかる、剣に生きる者特有の気配。
 リョウと同じ、アラン傭兵団の証である黄土色の鎧を装備したオルガ・フーガ。

 そして右からも、修道服に身を包んだ女が出てくる。

「キヒ♥ すんごいすんごい。ど~してここに来たのぉ? 別に来なくていいのにさぁ」

 相変わらず言葉の韻律が気持ち悪い、邪教の魔女ジーニアがニヤニヤと笑いながら姿を現した。

「シャルロッテ様を解放してくださいまし!」

 ヴィレッタが祭壇に向かって叫んだ。

「解放? キヒ♥ なぁんで解放しなきゃなんないのぉ? レスティア公爵令嬢様とぉ、このルインズベリー公爵令嬢様はぁ、別に友達でも政治的に重要ってわけでもないのにぃ。ねぇ、レスティア公爵令嬢様ぁ? キャハ♥」

「学友であり、10年前までは共にローゼマリー王女の側近として仕えた仲です!」

 シャルロッテを心から心配し、私についてきてくれたヴィレッタの怒りは頂点に達していた。

 そんな彼女の気持ちを大事にしたいから、私はここで冷静であらねばならない。

「ルインズベリー邸の惨劇、あれは何? あれがジーニアの目的? ベルガー王国の公爵家に仕える人々や公爵をグールに変えるなんて、随分と大胆な実験……いや、デモンストレーションをしてくれたのね。どんな国のどんな存在でも、邪教はいつでも人を魔獣に変えることができますって感じかな?」

 挑発交じりでジーニアに問う。

 ルインズベリー公爵家のグールに変えられた惨劇。
 その犯人たちに、私も怒りを抑えるのに必死だ。
 でもここは冷静に対処しなければ相手の思う壷。

 私の挑発に乗ったのか、オルガが抜刀する。

「へえ? リョウよお! お前さん、随分と感のいい女とつるんでいるなあ。……全く、絡んでこねえように一芝居打って、あわよくば宰相一派と争っていてもらいたかったんだがなあ。宰相も役立たずだったわ。いや、まさか、あの状況から大逆転の布石を打った王の知恵袋を褒めるべきだな。世の中には表に出てこねえで、裏で画策している連中が多すぎて嫌になるぜ。……まあいい。もう俺の勝ちは確定した」

「何故だオルガさん! あんたはアランの傭兵でも指折りの実力者! 何故邪教に手を貸す‼」

 リョウが無念を込めてオルガに問う。

 苦楽を共にし、命を預けあった仲間が邪教に手を貸していた事実に、リョウは複雑な胸中だろう。

「邪教に手を貸す……か。むしろ逆だな。邪教かどうかなんて、知らんしどうでもいい。このジーニアが俺に手を差し伸べてくれた。ルインズベリー家に復讐し、グチャグチャにして滅ぼさねえかってなあ。そんな美味しすぎる話に、乗らねえのは馬鹿だろうが?」

 オルガの顔が歪んだ。

 ……そういうことか。
 主犯はジーニアで共犯者がオルガ。
 オルガがポールを使い、元王女が生存しているという噂話を利用し、私たちを王派と宰相派の抗争が激化するように仕向けた。
 その隙に着々と、ジーニアはルインズベリー家を実験台にしていたわけか。

「俺はなあリョウ! てめえと同じ復讐者よ。てめえのような歴史的事実の叛乱とは違うがよ! 俺のはなあ、権力に遮られ、捻じ曲げられ、泣き寝入りするしかねえ、イカれた貴族主義の国での出来事よ! そんな糞ったれ共を操り、家族の無念を晴らせるチャンスが舞い込んできたんだ。この話に飛びつかねえでどうすんだ‼ てめえだってどうせ俺と同じで、復讐のために強くなったんだろうがよ‼」

 オルガの叫びにリョウがピクンと反応する。

「キヒ♥ オルガ・フーガはねぇ、とおっても可哀想なのぉ。10年前、先王が死んでから数日後にぃ、妹さんがルインズベリー家当主のエクベルトと息子のポールに、おもちゃにされたんだってぇ。キヒ♥」

 ジーニアが、まるで面白い見世物でも見ているかのように嗤い出した。

「おもちゃってわかるぅ? 童貞には難しいかぁ? キヒ♥ あんたってぇ、女の子ばっかりと一緒にいるのにそういうのしてなさそう♥ 男として大丈夫ぅ? もしかして不能ぉ?」

 ケラケラ嗤うジーニアだったが、リョウの剣気はオルガに向かったまま動じない。

 だが……

「傭兵は不能じゃないわよ。ただ、女の子の扱いに無能なだけよ!」

 ベレニスの発言に、リョウの剣気は乱れオルガは爆笑した。

 ちょっ、ベレニス?
 真面目な顔で胸を張ってリョウを庇うかのように言ったが、それフォローになってないっての!

「ハッハッハ、そいつはおもしれえや。リョウらしいぜ!」

 てか、オルガもそこまで爆笑せんでもいいのに。
 リョウも仏頂面だが、あれかなりのダメージを受けてそうだぞ。

「なら、そのシャルロッテさんは無関係っすよね? 10年前、5歳だった彼女が、オルガさんの妹さんの悲劇に関与はできないと思うっすが?」

 フィーリアの疑問にオルガは笑うのを止めた。

「そうだなあ。俺にはもう関係ねえな」

「なら! 解放を! 貴方が背負った恨みと犯した罪の過ちは消えませんが、せめて……せめて彼女にだけは謝罪を‼」

 ヴィレッタの想いがオルガに刺さったようだ。
 そうまで言われては何も言えないのか、沈黙した。

 けど……

「キヒ♥ 返してハイサヨナラまたねぇって、ならないよねぇ? どうせ戦うんだし彼女は景品♥ あたしたちに勝ったら解放してあげるよぉ。キャハ♥」

 オルガは無言で剣を構え、リョウも呼応する。

「リョウ……」

「心配は要らん。俺がオルガさんを足止めしている間に邪教の企みを止めてくれ」

 振り向かずに言うリョウに、私は応じる証として魔力を高める。

 オルガを相手にできるのはリョウだけ。
 必ず、2人の戦いの勝敗が決する前になんとかして見せる!

「アラン傭兵団の誇りのために、邪教の力を借りたあんたを討つ」

「はっ! 誇りなんざ犬にでも喰わせとけ! 俺は俺のために戦う! 来いやリョウ! 世の中綺麗事じゃねえってのを教えてやる!」

 オルガとリョウ、両者の想いがぶつかり合っていった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...