【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第3章 公爵令嬢の選択

第30話 嗤うジーニア

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 リョウとオルガが戦い始めたと同時に、祭壇に横たわるシャルロッテの身体が光った。
 すると教会の四方八方から、ルインズベリー邸の惨劇と同様の泥人形のようなグールが出現し、私たちに向かってくる。

 ……微かにわかる。シスターだった人たちの、成仏できない魂の嘆きが……

「お任せください!」

 割って入ることができないリョウとオルガの死闘の剣戟音が響く中、グールに向けて戦闘態勢を取る私たちを制し、ヴィレッタの神聖魔法が発動した。

 神々しい眩い聖なる光がグールたちを包み、その光に浄化され……ただの死体へと変わる。

「へえ♥ 女神ってやつの力ぁ? すんごいすんごい! これは掘り出し物だねぇ」

 ジーニアが興味深くヴィレッタを眺めた。

 邪教に、ヴィレッタの存在が知られたのはマズいかもしれない。

 魔女の魔法や、ベレニスのように精霊の力を借りる精霊魔法、どんな凄腕の剣士だろうが、攻撃の効かない相手がこの世界に存在する。

 それが、グールやアンデッドと呼ばれる死体や悪霊の類いだ。
 そんな存在を浄化する最高級の神聖魔法の使い手は、大陸でも貴重な存在である。
 使い手は神の声の代弁者、聖人や聖女とも呼ばれる。

 ヴィレッタは、そんな貴重な最高級の神聖魔法の使い手となったのだ。
 人をグール化させ、大陸を混沌に誘おうとしている邪教にとって、ヴィレッタは邪魔な存在でしかないだろう。

 最悪、一生涯、命を狙われる可能性が高い。

「ジーニア、余裕みたいだけど一気に決めさせてもらう!」

 炎魔法を展開し、威力を高めるべく魔力を練る。
 ベレニスも風を纏わせ、ジーニアの懐まで瞬時に行ける態勢だ。

「キヒ♥ 慌てちゃだ~め♥ も~っと、楽しまないとぉ♥」

 祭壇が光る。

「次の相手はぁ~、こいつらでぇす♥」

 リョウとオルガの死闘の剣戟が響く中、再び私たちは新手の敵に囲まれた。

 教会の四方八方から次々と現れるのは、グールでも魔獣でもない、武装した虚ろな目の冒険者らしき者たちだ。

 その数は20人。

「……見覚えある顔がいるっす。商業ギルドの荒事担当者っすね。一度追われたんで記憶しているっす」

「全員、例の裏切りの指輪をはめているわね。このまま生きて捕らえて自白させようとしても死ぬだけって、これまたえげつないことを考えたわね」

「最初にヴィレッタを助けた際、襲ってきた連中は全員、指輪から毒を注入されて死んだ。その時の連中を使い捨てにしたのも、ジーニアの仕業だったのね」

 口々に述べる私たちに、ジーニアは気持ち悪い笑みを浮かべて見つめ返してきた。

「そう……駒のように人の命を弄び、ただ騙すためだけに人を死体にする。そんな手段、私は絶対に認めない!」

「キヒ♥ 王女様はぁ、騙されて怒りマックスってとこかなぁ? でもでもぉ、世の中ぁ、騙されるほうが悪いんだぞぉ、キャハ♥」

 ジーニア! ここで私を王女と呼ぶかよ!

 ……まあ、戦端が開かれた時点でジーニアとの休戦は無効なのは当然だけどさ。

 案の定、目を見開いてヴィレッタは私を見る。
 でも否定も肯定もする余裕はない。

 武装兵が襲い掛かり、応戦したのは私とベレニスのみ。
 グールのように剣や魔法が効かなくても動きが鈍い存在に対し、こいつらは近接戦のプロ!
 実力差はリョウと比べると歴然だが、数に押される不利がある。

 戦況が安定しない中、ヴィレッタを護るエマさんの守りをフィーリアに任せ、ベレニスのレイピアと私の魔法でギリギリの攻防が続く。

 リョウも、オルガの剣に次第に押された展開になっていた。

「ローゼさん、ベレニスさん。もう少し、敵を一箇所に引きつけてもらえるっすか?」

 フィーリアの声に振り向くと、両手に何やら見たことのない魔導具を装着していた。

「わかった!」

 ベレニスと頷きあい、敵を一箇所に集めるように動き出す。

 四方八方から迫り来る敵を、魔法の遠距離攻撃で翻弄しつつ、更にフィーリアの指示により敵の集まる場所を誘導していったのだ!

 ヴィレッタを護りながら戦うエマさんにも、その意図は伝わったようで、私たちの動きに合わせて敵を引き付けてくれる。

「今っす!」

 フィーリアの魔導具から無数の糸が射出された!
 それは魔獣を捕獲するために使うワイヤーだ。

 糸に絡めとられ身動きの取れなくなった敵へ、さらに糸は意思を持っているかのように動き、次々と指輪を無力化する!
 肉体ごとではなく、指輪だけを粉々にしたのだった。

「へえ♥ すごぉい♥ そんな魔導具があるんだぁ」

 驚きの表情をしたジーニアだが、焦りの色は見えない。

「名付けて『魔法糸発射機エンチャンテッド・ワイヤー・ランチャー』ってとこっすかね。これで、この連中を口封じに消すことはできなくなったっす。……商人ギルドとルインズベリー家、それに邪教の関連について、知っていることを全て吐いてもらうっす」

「ディアナのところで色々買って組み立てていると思ったら、こういうことだったのね。もう! 用途はきちんと教えておいてよね! これだからドワーフは!」

 ベレニスがニンマリしながら叫び、フィーリアとグータッチした。

 ホントナイスだよ、フィーリア!
 大量の証言者がいれば、一気にベルガー王国の闇の部分を明るみに出せるはず。

「ヒャハ♥ すんごい自信♥ でもでもぉ、それはこの場から全員生きて出られたらって話よねぇ。アランの傭兵同士の戦いはぁ、こっちが有利だしぃ、人質だってぇ、こっちにいるんだしぃ♥」

 シャルロッテの身体の側で、ジーニアは舌を出して余裕の表情。

 祭壇に眠るシャルロッテを覆う魔法陣の光が、より濃くなった。

「人質が必要なら、わたくしを人質にしてお逃げなさい。如何に策があろうとも、いずれは教会も王国軍に包囲され、貴女もオルガという傭兵も終わりでございます」

 ヴィレッタが告げる中、私とベレニスは彼女を庇うように前に出て、ジーニアを見据えて言い放つ。

「ヴィレッタ、そんな犠牲は必要ないから」

「そうよ。要はジーニアをぶっ飛ばして、あの赤髪ポニーテールを助ければいいだけなんだから!」

 さあ、一気に決める!
 私の炎魔法が、ベレニスの風の精霊魔法に乗ってジーニアに襲いかかる。

 避けられないはず。
 この隙に祭壇に駆けてシャルロッテを奪還する!

 そう思って、私は違和感に気づく。
 ……ジーニアの奴、まだ嗤っている?

 ジーニアに、私の炎魔法とベレニスの風魔法が直撃する寸前、何かが私たちの魔法を薙ぎ払った。
 放たれた風圧に、私たちは吹き飛ばされ、床に叩きつけられてしまった。

「ローゼ! ベレニス!」

 ヴィレッタが床に蹲る私たちに駆け寄り、リョウも動揺したのか、オルガの剣を捌ききれず、右肩を裂かれ血が噴出していた。

「よそ見してんじゃねえ‼ テメエの相手は俺だろうが‼ テメエが死ねば、あの女どもも死ぬ! 俺が殺す! されたくなければ死ぬ気で来いや‼」

 オルガが絶叫し、リョウを圧倒していた。

 マズい。ジーニアめ。
 まさかここまでの隠し玉を持っていたなんて。

 ジーニアの前方に、私たちを吹き飛ばした存在が、虚無のように存在していた。

「キャハ♥ ここでお披露目するつもりはぁ、なかったんだけどぉ。仕方ないから見せてあげるぅ♥ どぉ? すんごいでしょう? ヒャハ♥」

 それは見覚えのある人物が触媒となった存在。

 グールとは比べものにならない、死霊の類を超えた存在。
 青い肌色になったそれを、私は七英雄の物語の書籍でしか知らない。

「キャハ♥ 王女様はぁ、わかるでしょぉ? これがぁ、なんなのかってぇ。キヒ♥ ビオレールでは邪魔されたけどぉ、あたしの目的はぁ、これを生み出すことだったんだよねぇ♥ キャハ♥」

「なんてことを……ジーニア!……人を魔族にするなんて‼」

 そう、それはかつてこの世界を滅ぼしかけた魔王の軍勢だった存在。

「ヤバいわね……あれってポールなんちゃらって、公爵家の偉い人でしょ? 赤髪ポニーテールの兄の」

「ベレニスさん。ポールなんちゃらじゃなく、ポール・ルインズベリーっす。公爵家の公子って奴っす」

 ベレニスとフィーリアも絶句していた。

「細かいのはいいのよフィーリア。ドワーフのくせにホント細かいんだから!」

「ベレニスさんが大雑把すぎなんすよエルフのくせに。……って、今はそれどころじゃないっす! あの魔族はヤバいっすよ! 元がポールなんちゃらだろうが何だろうが、グールやオークなんてレベルじゃないっす!」

 魔族。
 それは一体で、並の騎士や冒険者が数十かかろうが敵わない生命体。
 まさか、人工的にそんな存在を作り出せるなんて。

 そんなの、どんな書籍にも載っていなかったぞ。
 いにしえの賢人たちのバカ~って、叫びたい気分だ。

 リョウももう長くは保たないぐらい、全身いたるところから血を噴出させている。

「……世界をどうする気なの? 禁忌の実験を繰り返した先に待つのは破滅のみ! わかっているの、ジーニア!」

 そんな私の問いかけに、ジーニアの表情が真顔で、歪んだ。

「世界をどうするぅ? あたしはあたしの望む世界を作りたいだぁけ♥ ……あたしが望まない世界なんて、いらないでしょぉ♥ くっだらない質問してんな! 破滅がどうした! 世界がどうなろうが、あたしの知ったことか!」

 その言葉を言い終わり、絶句する私たちを見て、再びジーニアは嗤い出した。

 どうする? どうすればいいんだ⁉
 考えろ! 考えるんだ私‼
 私のそんな思考を遮るかのように、魔族の手のひらに想像を絶する魔力の塊が練られていた。

「じゃあねぇ~王女様ぁ。寂しくないでしょ? お友達と一緒に死ねるんだからぁ……キャハ♥」

 ジーニアの勝利宣言が教会内に響き渡った。
 
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