【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第3章 公爵令嬢の選択

第36話 エマ・グレイフォード(後編)

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 1週間が経過した。

 リョウは大したことはないと言っていたが、やっぱり重症だった。
 王宮お抱えの医師曰く、ヴィレッタの神聖魔法がなければ死んでいたよこれ、と言われて、私は目覚めたリョウをとりあえずポカリと叩いちゃった。

 まあ、翌日には朝早く起きて剣の鍛錬をしているリョウに、ベレニスもフィーリアも、ヴィレッタさえも呆れ顔だったし、このくらいはいいでしょ。

 リョウはオルガの最期を聞き、そうか、と呟いた。

「オルガさんは、俺がデリムの少年兵で唯一生き残ったのを発見してくれた人だった。……その後も何かと面倒を見てくれたんだ。……尊敬できる人だった」

「そっか……」

 オルガの亡骸は、王都外周の無縁墓地に葬られた。
 アデルも一度訪れて、花を手向けたそうだ。

 テスタ宰相の失脚に伴い、その派閥も壊滅的だそうで、今後は唯一無傷の公爵家であるニクラス・レスターが宰相職に就くそうだが、宰相の権限は大幅に縮小されるそうだ。

 まあ、ニクラスもテスタの片棒を担いでいたんだし、文句は言えないだろう。

 驚くべき人事は特になかった。

 貴族の抵抗を少なくする意図なのは誰にでもわかった。
 でも今後、緩やかに王の親政へと移行することも、誰の目にもわかった。

 その証拠に、2人の人物が王の秘書官に抜擢され、1人の人物が将軍職に就任した。

 2人の秘書官。
 外国人のトール・カークスと、王立学校の教師であったテシウス・ハーヴェスト。

 1人の将軍職。
 今回の騒乱で軍功第一と評価された準男爵アデル・アーノルド。
 正式に男爵が授与された。

 アデルは、儂なんぞ何にも役立たなかったのに、とボヤいていたが、元々大陸七剣神として名が通っているアデルは暮らしも慎ましく、軍での評判は高い。
 反対する貴族もいなかったそうだ。

 この3人と、近衛隊長のラシル。他にも今まで影でテスタ宰相失脚と王の復権を目指していた貴族はいるのだろう。

 徐々に彼らがベルガー王国を動かし、テスタ宰相政権下で重税と治安の乱れで疲弊した民衆を救ってくれることを祈るしかない。

 サリウス王はすでにこう民衆へ告げている。
 先王カエサル王の時代のように、才ある者を貴賤問わずに重用し、国力増進を計ること。
 英雄の器を持つ者は王の下に集い、貴族も平民もなく協力しあって発展することを。

 これは正式に公布され、実行されている。
 特に問題はないだろう。

 シャルロッテの消息は不明のまま。
 私の旅をする理由がまた一つ増えた。
 必ず邪教から救い出し、平穏無事な生活を送らせる。

 王が決めたシャイニング家とルインズベリー家の新当主は表向きは従っているようだが、両公爵の領地では不穏な気配があるという。

 商業ギルドのギルドマスターや多くの不正商人の捕縛には、フィーリアとヘクターさんが大いに働いた。
 裏帳簿の判明に尽力した2人は、本気で王国に仕えないかと役人から勧誘されたそうだ。
 フィーリアは旅路の途中と断ったが、ヘクターさんは商業ギルドの再建メンバーとして、ベルガー王国の準男爵を授与された。

 ベレニスとリョウは冒険者ギルドで仕事を貰って働いていた。
 政変の混乱で多くの仕事が舞い込んでいたためだ。
 リョウはともかく、めんどくさがりのベレニスも働いたのは、きっと彼女もエマさんの死に衝撃を受けたからだと感じた。
 動かなければ、塞ぎ込んでしまうから。

 私については、ヒソヒソと噂話は入ってくる。
 私が邪教の魔女から王女様と呼ばれていたことも。

 そんな中、私はヴィレッタと共に、ディアナさんの案内でノエルが孤児を保護していた場所へ行ったり、トリトリン家について調査をした。

「バネッサ・トリトリン様は、8年前に父親がファインダ王国との戦争で戦死の報を聞いた直後、シスターになると言って家を出ようとしました。しかし、わたくしどもに暇を出した数日後に病死したと耳にしました」

 そう語ってくれたのは、トリトリン家に仕えていたというお爺さんであった。
 ラシルから紹介されたのだが、老人はディアナさんのことも覚えていた。

「ノエル様が自殺し、ディアナちゃんや多くの人間が王都から去りました。トリトリン家が、貧民を支援していたことに不快に思う貴族も多くいましてな。それは金銀の貸し借りもあったのです。借金が膨らむ中、バネッサ様は家を売って借金を返済するしかなくなったのでしょう。口惜しいです。そのまま子爵でいれば、王立学校に通い、多くの人に才媛と認識されて世に出たでしょうに」

 老人の目には、この世の理不尽を嘆いているように思えた。

「ノエルが保護していた人物で、エマという人は覚えていますか?」

 ヴィレッタから問われると、勿論覚えてますと老人は答えた。

「そういえば、エマさんが王都から出たという話は聞きませんでした」

「……エマは身体が弱かったわ。きっと王都から出るのを躊躇ったのね。トリトリン家の借金に責任を感じたエマは働いた。それは命を短くする行為。……やがてエマ・グレイフォードは病に倒れ死んでしまった。それが、バネッサがトリトリン家を出ていこうとした日と同じ。……そう占いで判明したわ」

 そう語るディアナさんの胸中も、悲しみで渦巻いているように見えた。

「……シスターにはならなかったんですね。そのままバネッサはエマさんに成り代わって旅に出た。やがてレスティア領でメイドとして雇われ、ヴィレッタの専属メイドになった」

 私の胸中も複雑だ。悲しみに満ちた生涯を送った女性の半生。
 恐らくレスティア領までの旅路の途中で邪教に接触され、時が来れば協力するようにと約束していたのかもしれない。

「1つだけ疑問があるわ。私の占いではわからなかった。なぜジーニアは、貴女たちを騙すのにバネッサ・トリトリンの名前を使ったのかしらね」

 そんなディアナさんの疑問に答えたのはヴィレッタだった。

「ジーニアという邪教の魔女が、どこまでエマについて知っていたかはわかりませんが、きっとそれはエマの策だったのかもしれません。気づいて止めてほしいというサイン……」

 そこまで語って、ヴィレッタは嗚咽した。

 それが真実かはわからない。
 ……でも、教会で初めて聞いた、ヴィレッタとエマさんの会話を思い出す。
 祈り終えたヴィレッタがジーニアを背に教会を出ようとしたときの会話だ。

『見ない顔のシスターでございました。随分若く、手に剣ダコがあるようでした』
『エマ、人にはそれぞれ事情があります。詮索は失礼ですよ』

 あれもひょっとしたら……エマさんからのサインだったのかもしれない。

 私もディアナさんも、何も言葉にすることができなかった。

 ***

 レスティア邸に戻ると、テシウスさんとトールさんから手紙が届いていた。

 テシウスさんからは短く、明日の朝、王宮へ出仕をお願いします、とだけ書かれていた。

 トールさんからは、とんでもなく重要なことが書かれていた。

『ノイズ・グレゴリオはファインダ王国にいる可能性が極めて高い。邪教とは6人の魔女を頂点とする組織で、かの者らが自らを称するは“真実の眼“。これからも調査は続けるし、貴方方の旅を支援すると約束しよう』

 読み終わった瞬間、リョウの握る拳の力が強くなる。
 私も握り拳を作り、グッと堪える。

 次の行き先が決まった瞬間だった。

 この大陸全土に根付く邪教の陰謀。
 必ずや打ち砕き、無念に散った者たちの仇を討ってみせる。

 そう意気込む私たちを見て、ヴィレッタの顔に暗い影が差すのを、私は見逃してしまった。
 
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