【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第4章 竜は泉で静かに踊る

プロローグ

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 吐く息が白く染まるようになった季節。

 冷たい風を受けながら、深遠なる森の中である場所へと向かう、真っ赤な鱗に覆われている巨体がいる。
 存在を気づかれたら餌にされると怯えた魔獣たちは、森に響き渡る足音の振動を感知した瞬間に逃げだした。

 その行く手を男が阻む。

「へえ、赤竜が本当にいるとは驚いた。まだ実在していたのかよ」

 無精髭を撫でながら男は赤竜に声をかける。
 赤竜は男を見据えながら、足を動かして無視を決め込むも、再び前方に男が現れて小首を捻った。

「無視は傷つくぜ。人間、言葉ってのがあるんだから会話しようや」

『こっちは人間じゃないから、どうでもいい』

 赤竜は、人間を見たのは初めてであったが、弱いのは知っている。
 そんな存在と会話するよりも、寝床と決めた場所へ向かうほうが大事なのだ。

「喋れるんなら、どこへ行くのか教えてくれよ」

『安心しろ。人のいないところへ向かっている』

 男は親しげに会話を続けるが、悪意に満ちた禍々しい気配を隠そうともしない。
 赤竜は警戒心を抱いた。

「安心? おいおい、俺が、人が平穏に暮らすのを快く思う存在に見えるのかい?」

 男は小瓶を大地に垂らすと、周囲に禍々しい赤い魔法陣が浮かび上がった。

(魔導具というやつか、敵だな)

 赤竜はこれ以上の問答は無用と、森に被害が出ぬように結界を張り、喉を鳴らすと男へ向け口を大きく開きブレスを放つ。
 白き吐息が赤い炎となって、男へ放たれた。

 だが、そのブレスを受けても男は平然としている。
 真っ黒な髪に黒い瞳、黒く光る鎧に傷一つなかった。

(魔獣なら消し炭になるのに、人間はならないのか?)

 赤竜は戸惑った。
 知識として知っている人間と違ったからだ。

『何者だ? 我に何の用だ?』

 赤竜は目を大きく開いて、男へ視線を向ける。
 男はニヤリと笑みを浮かべ、両手を広げた。

「ハハッ! ようやく会話になった。なあに、ちょいと提案があるんだが、俺は6人の魔女が司る『真実の眼』っていう組織に酷使されている哀れな中年でなあ。その魔女様たちから、あんたに命令だ。暴れてくんね?」

 せせら笑う男に、赤竜はそんな命令を聞くわけないだろと、怒りの咆哮を上げながら男に突進し、爪を振り下ろす。
 だが、その爪も、男を切り裂くことなく甲高い音を響かせて弾かれた。

 男が手にしたロングソードによって、赤竜の巨体が大きく仰け反り後退する。

(なんだこいつ! 本当に人間か⁉)

 体勢を立て直そうとした赤竜だが、男の手に握られている剣が赤い光を放ち、包みこまれてしまう。

 すると赤竜は苦しそうに呻き出し、地面に倒れ伏してしまった。

(母さんも昔、2回負けたって言ってたっけ、誰と誰って言ってたかなあ?)

 赤竜は動かぬ身体で敗北を認めた。
 自分の生殺与奪は、目の前の男にあると。

 男は剣を鞘に収めると、ゆっくりと赤竜の元へ向かう。
 そして倒れたままの赤竜の首へ、ペンダントを装着させて笑いながら語ったのであった。

「暴れるのは俺にじゃねえよ。人間の街ラフィーネを襲って暴れな。そのペンダントは俺の目だ。外そうとしたり、俺を殺そうとしたりすればペンダントが砕けて、てめえは死ぬ。ま、気楽にやってくれよ。魔獣どもにはもう仕込んであるからよ」

 男はどす黒い笑みを赤竜に見せ、背を向けるや姿を消した。

 直後、大きな咆哮を上げて赤竜は立ち上がろうとしたが、力が思うように入らない。

(これは困ったぞ。竜の姿が維持できない)

 力を使い果たした赤竜は、人間の少女の姿へと変化する。

 自慢の鱗と羽と尻尾が消えたことに戸惑ってしまう。
 首元からぶら下がるペンダントも、人のサイズに合わせるかのように縮んでしまっていた。

 赤竜だった少女は頭の中がくしゃくしゃになって、赤く長い髪が生えた頭を抱えてしゃがみ込む。
 それからもう一度咆哮を上げると、仰向けに寝転がった。

「えっと、なんだっけ? 人間の街を襲うんだっけ? 面倒くさいなあ。そんなことより、今日のご飯何にしよっかな?」

 別に男への憎悪は湧かない。
 ただ敗北した以上は、あの男の言う通りに動くしかない。
 少女は自分のお腹を擦りながら、これからのことを考え始めた。

「魔獣どもにねえ~。……クンクン、あの男、瘴気を撒いたか~。まあ、どうでもいいや」

 少女の名はクリス。
 七英雄の1人、赤竜王ドラルゴの娘にして、最後の赤竜。

 クリスはあくびをすると目を瞑り、ゆっくりと眠りについた。
 
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