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第4章 竜は泉で静かに踊る
第1話 いつもの口喧嘩
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ベルガー王国の王都ベルンから南東は平原地帯が広がっている。
そこを歩きや馬車で1ヶ月ほど旅して、私たちはファインダ王国の国境の街、ラフィーネに到着した。
「へえ? アランの傭兵に、冒険者の女の子3人に、商人の女の子か。特にエルフというのは珍しいな。初めて見たよ。うん、特に身分証に問題もなさそうだし、通っていいよ」
門兵から通行証を貰い、私たちは街の中へと入った。
これから冬に向かっていく街の様子は、まだ雪は積もっていないものの、肌寒くなりつつある。
街路樹の葉が色づき始め、風に乗って焼きたてのパンの香りが漂ってきた。
通りには冬支度を始める人々の慌ただしい足音が響いている。
「ラフィーネは以前、もっとピリピリした雰囲気だったんすけど、ベルガー王国の政変の影響っすかねえ。ちょっと長閑になっている印象っす」
フィーリアが、茶色い瞳をキョロキョロさせながら、辺りを観察しつつ呟いた。
この自称11歳の、緑髪の短いツインテールの少女は、すでに5年の歳月をかけて大陸一周を経験している。
この子を知れば、誰もがこんなちびっ子がと驚いて、会話をすれば各地の特産品や料理、果ては地方文化や歴史にも精通していることに更に驚く、ドワーフで商人の女の子だ。
とある事件を切っ掛けに私たちの旅に同行しているのだが、その知識に何度も助けられているし、気取らない性格なので一緒にいてもストレスなく、歴史が趣味の私とも話が合う、仲間内で貴重な存在なのだ。
ただ一つ難点を挙げるとすると……
「フィーリアは相変わらず変なところを観察しているのね。ドワーフのくせに変に細かいから駄目なのよ。そんなことより、食事とフカフカのベッドとお買い物よ! 可愛い服を売っているお店の情報が先よ! 早く案内してよね!」
「ベレニスさん。もう少し落ち着きをもって行動するべきっすよ。まずは情報収集っす。これだから本能で生きるエルフは駄目なんすよ」
「はあ? どういう意味よ、フィーリア!」
ベレニスとフィーリアは、早速とばかりに口喧嘩を始める。
フィーリアの難点はこれだ。
ドワーフとエルフは、言い争いをしなければならない決まりでもあるかのように、しょっちゅうベレニスと口喧嘩している。
フィーリアも普段は大人びているのに、ベレニスが絡むと子供になるんだよなあ。
仲がいいのか悪いのか……
フィーリアと口喧嘩中のベレニスは、ハイエルフと呼ばれる種族だ。
尖った長い耳と腰まで伸びる銀髪に緑眼の瞳、そしてスラリとした両手足とスレンダーな体型。
黙っていれば超絶美少女なのだが、如何せん本能優先なので彼女に振り回されることは多い。
けれど、風の精霊魔法とレイピアの使い手である彼女にも幾度も助けられていて、私の大事な仲間の1人だ。
ただもう少し落ち着いてほしいな~とは思っている。
ベレニスとフィーリアの口喧嘩を見ながら、私は先日の盗賊退治の危機的状況で、2人が見事に協力し合った場面を思い出して密かに微笑む。
ヴィレッタはそんな2人を見てオロオロしていて、その様子に私は彼女らしいとまた微笑んだ。
私はヴィレッタへ視線を向けた。
彼女は元ベルガー王国4大公爵家のレスティア家の令嬢で、私の幼馴染だ。
濃い青色の長い髪に青色の旅装姿の彼女は、今はベルガー王国自由騎士として私たちの旅に同行している。
か弱き見た目のヴィレッタが騎士? ひょっとして剣か槍の達人? と思われるかもだけど、剣を持つ腕力すらない。
これは政治的な絡みがあるので、一言で説明が難しいんだよね。
ただ、大いなる神聖魔法の使い手で聖女でもあり、責任感が強くいつも一生懸命で、少し引っ込み思案なところがあるけど、そこがまた可愛い大切な仲間の1人なのだ。
「ローゼ。どうしたらベレニスとフィーリアの口論が収まるのでしょう? わたくし、2人を止める方法が思いつきません」
心配そうな表情で私へ問いかけるけど、うん。やっぱり可愛い。
大陸に広く信仰されている女神フェロニアの敬虔な信徒であるヴィレッタは、争いが嫌いで今も心を痛めている。
「任せてヴィレッタ♪ ベレニス! フィーリア! まずはお風呂! 文句あるかな?」
私は2人の間に割って入ると、そう笑顔で提案した。
フフン♪ そろそろ止められるのを待っている頃合いだろうし、私の言うことなら2人も聞くでしょ♪
「は? 文句大アリよ! まずは食事よ!」
「ローゼさんのお風呂好きにも困ったもんす。まずは情報収集が旅の鉄則っすよ」
「ええっ⁉ ここは私の言うことを聞く流れでしょ‼」
ちょっ⁉ ヴィレッタにいいところを見せようとした私の立場を考えてよ!
おにょれフィーリアにベレニス。
ここは意地でも説得してやるからな!
女子3人の火花が散って、残る女子のヴィレッタは、傍観を決め込んでいるパーティーメンバー唯一の男性へと目を向ける。
「リョウ様。リョウ様が決めてください。きっとローゼたちも、リョウ様の決定には逆らわないと思います。少しばかり怪我をするかもしれませんが、わたくしの神聖魔法で癒しますので」
ヴィレッタはリョウに懇願するような視線を送った。
この人はリョウ・アルバース。
黒い瞳に黒髪で黄土色の皮鎧を身に纏っている。私たちの中では一番年長の17歳。
アラン傭兵団という大陸屈指の傭兵団に所属しており、剣の腕前は一流で、私たちを身を挺して危機から幾度も救ってくれているのだ。
戦いにおいては私たちの中で誰よりも優れているし、頼りになる存在なんだけど、それ以外は……
「神聖魔法って、俺が怪我をする前提なのか?」
リョウは困惑しつつも、やいのやいの言っている私たち3人の前まで来て口を開く。
「俺は宿に向かいたいのだが……」
第4の意見を出してどうする?
そういうところだぞ? リョウの駄目なところは。
「は? 勝手に行けば?」
ベレニスがブチギレて。
「じゃあリョウ様、荷物よろしくっす」
フィーリアがイラッとして、重そうな荷物をリョウに手渡して。
「お風呂が先! リョウはちょっとそこで待ってて!」
私はムスッとして口にしてしまうのであった。
三者三様の返答に、リョウは肩を落としてすごすご引き下がった。
「もう、リョウ様! そこは『俺について来い』と言えば、殴られたり噛まれたり魔法を放たれたりするでしょうが、きっとみんなリョウ様についていきます!」
お~いヴィレッタ? 私たちの想像するリョウへの扱い、なんか酷くない?
意見が通らなくても精々ベレニスが舌打ちして、フィーリアがガッカリそうにため息を吐いて、私はちょっとプイッと顔を逸らすぐらいだぞ?
「ローゼ! ベレニス! フィーリア! いい加減にしないとわたくしが怒ります。リョウ様もです! 殿方なんですから、もっとビシッとして下さいませ!」
あ、ヤバい。ヴィレッタが怒った。
真面目な性格の彼女だから、公共の場で口喧嘩し続ける今の状況に不満が溜まったのだろう。
時々あるんだよねえ、正式に旅仲間に加わってから。
大抵は頼りないリョウに向けて説教することが多いのだが、ヴィレッタの説教シーンは私もベレニスもフィーリアも、戦慄してしまう迫力があるのだ。
矛先がリョウに向いているうちに私たちは頷き合って、宿に行って食事をしてお風呂に入って情報収集しながらお買い物をするルートに決定した。
「このひと月、共に旅をして思ったのですが、リョウ様はダメダメです! わたくしたちがいないと何もできません!」
ヴィレッタは腰に手を当ててリョウに説教している。
正座姿のリョウはちょっと涙目になっている。
って! 通行人が何事かと見ているから!
私たちはヴィレッタを宥めて、宿屋へと向かったのであった。
リョウが落ち込んでいるけど、後でフォローしておかなきゃなあ。
私も大人げなかったしなあ。
おっと、私の紹介がまだだった。
私の名前はローゼ・スノッサ。魔女なのだ。
金髪ショートヘアに碧眼の見た目から、最近は金色の魔女なんて呼ばれてもいる。
装備は白銀の杖、白のブラウス、紺のスカート、それとドワーフの里でフィーリアから貰った自分の魔力を溜めておいて、いざとなったらそれを放出して自らの体内に戻せる魔導具を所持している。
その魔導具は魔石なのだが、軽くて丈夫。
何度か実験して試してみたが使い勝手もいい。
ふと魔力満タンな状態でこれを使ったらとんでもない威力の魔法をぶっ放せるんじゃないか?
って試そうとしたことあるんだけど……
『ローゼさん、街を滅ぼす気っすか? その魔導具は貴重な魔石なんすから壊さないでくださいっすよ』
ってフィーリアに言われて止められた。
滅ぼすって大げさな、と思いつつも、予備の魔力があるってだけで凄いことだし、大切にしないと駄目だよね。
それと実は、元ベルガー王国王女のローゼマリー・ベルガーな私なのだ。
ただ別に、王女にこだわっていないし戻るつもりもない。
だって、頼りになる仲間が4人もいるしね♪
そこを歩きや馬車で1ヶ月ほど旅して、私たちはファインダ王国の国境の街、ラフィーネに到着した。
「へえ? アランの傭兵に、冒険者の女の子3人に、商人の女の子か。特にエルフというのは珍しいな。初めて見たよ。うん、特に身分証に問題もなさそうだし、通っていいよ」
門兵から通行証を貰い、私たちは街の中へと入った。
これから冬に向かっていく街の様子は、まだ雪は積もっていないものの、肌寒くなりつつある。
街路樹の葉が色づき始め、風に乗って焼きたてのパンの香りが漂ってきた。
通りには冬支度を始める人々の慌ただしい足音が響いている。
「ラフィーネは以前、もっとピリピリした雰囲気だったんすけど、ベルガー王国の政変の影響っすかねえ。ちょっと長閑になっている印象っす」
フィーリアが、茶色い瞳をキョロキョロさせながら、辺りを観察しつつ呟いた。
この自称11歳の、緑髪の短いツインテールの少女は、すでに5年の歳月をかけて大陸一周を経験している。
この子を知れば、誰もがこんなちびっ子がと驚いて、会話をすれば各地の特産品や料理、果ては地方文化や歴史にも精通していることに更に驚く、ドワーフで商人の女の子だ。
とある事件を切っ掛けに私たちの旅に同行しているのだが、その知識に何度も助けられているし、気取らない性格なので一緒にいてもストレスなく、歴史が趣味の私とも話が合う、仲間内で貴重な存在なのだ。
ただ一つ難点を挙げるとすると……
「フィーリアは相変わらず変なところを観察しているのね。ドワーフのくせに変に細かいから駄目なのよ。そんなことより、食事とフカフカのベッドとお買い物よ! 可愛い服を売っているお店の情報が先よ! 早く案内してよね!」
「ベレニスさん。もう少し落ち着きをもって行動するべきっすよ。まずは情報収集っす。これだから本能で生きるエルフは駄目なんすよ」
「はあ? どういう意味よ、フィーリア!」
ベレニスとフィーリアは、早速とばかりに口喧嘩を始める。
フィーリアの難点はこれだ。
ドワーフとエルフは、言い争いをしなければならない決まりでもあるかのように、しょっちゅうベレニスと口喧嘩している。
フィーリアも普段は大人びているのに、ベレニスが絡むと子供になるんだよなあ。
仲がいいのか悪いのか……
フィーリアと口喧嘩中のベレニスは、ハイエルフと呼ばれる種族だ。
尖った長い耳と腰まで伸びる銀髪に緑眼の瞳、そしてスラリとした両手足とスレンダーな体型。
黙っていれば超絶美少女なのだが、如何せん本能優先なので彼女に振り回されることは多い。
けれど、風の精霊魔法とレイピアの使い手である彼女にも幾度も助けられていて、私の大事な仲間の1人だ。
ただもう少し落ち着いてほしいな~とは思っている。
ベレニスとフィーリアの口喧嘩を見ながら、私は先日の盗賊退治の危機的状況で、2人が見事に協力し合った場面を思い出して密かに微笑む。
ヴィレッタはそんな2人を見てオロオロしていて、その様子に私は彼女らしいとまた微笑んだ。
私はヴィレッタへ視線を向けた。
彼女は元ベルガー王国4大公爵家のレスティア家の令嬢で、私の幼馴染だ。
濃い青色の長い髪に青色の旅装姿の彼女は、今はベルガー王国自由騎士として私たちの旅に同行している。
か弱き見た目のヴィレッタが騎士? ひょっとして剣か槍の達人? と思われるかもだけど、剣を持つ腕力すらない。
これは政治的な絡みがあるので、一言で説明が難しいんだよね。
ただ、大いなる神聖魔法の使い手で聖女でもあり、責任感が強くいつも一生懸命で、少し引っ込み思案なところがあるけど、そこがまた可愛い大切な仲間の1人なのだ。
「ローゼ。どうしたらベレニスとフィーリアの口論が収まるのでしょう? わたくし、2人を止める方法が思いつきません」
心配そうな表情で私へ問いかけるけど、うん。やっぱり可愛い。
大陸に広く信仰されている女神フェロニアの敬虔な信徒であるヴィレッタは、争いが嫌いで今も心を痛めている。
「任せてヴィレッタ♪ ベレニス! フィーリア! まずはお風呂! 文句あるかな?」
私は2人の間に割って入ると、そう笑顔で提案した。
フフン♪ そろそろ止められるのを待っている頃合いだろうし、私の言うことなら2人も聞くでしょ♪
「は? 文句大アリよ! まずは食事よ!」
「ローゼさんのお風呂好きにも困ったもんす。まずは情報収集が旅の鉄則っすよ」
「ええっ⁉ ここは私の言うことを聞く流れでしょ‼」
ちょっ⁉ ヴィレッタにいいところを見せようとした私の立場を考えてよ!
おにょれフィーリアにベレニス。
ここは意地でも説得してやるからな!
女子3人の火花が散って、残る女子のヴィレッタは、傍観を決め込んでいるパーティーメンバー唯一の男性へと目を向ける。
「リョウ様。リョウ様が決めてください。きっとローゼたちも、リョウ様の決定には逆らわないと思います。少しばかり怪我をするかもしれませんが、わたくしの神聖魔法で癒しますので」
ヴィレッタはリョウに懇願するような視線を送った。
この人はリョウ・アルバース。
黒い瞳に黒髪で黄土色の皮鎧を身に纏っている。私たちの中では一番年長の17歳。
アラン傭兵団という大陸屈指の傭兵団に所属しており、剣の腕前は一流で、私たちを身を挺して危機から幾度も救ってくれているのだ。
戦いにおいては私たちの中で誰よりも優れているし、頼りになる存在なんだけど、それ以外は……
「神聖魔法って、俺が怪我をする前提なのか?」
リョウは困惑しつつも、やいのやいの言っている私たち3人の前まで来て口を開く。
「俺は宿に向かいたいのだが……」
第4の意見を出してどうする?
そういうところだぞ? リョウの駄目なところは。
「は? 勝手に行けば?」
ベレニスがブチギレて。
「じゃあリョウ様、荷物よろしくっす」
フィーリアがイラッとして、重そうな荷物をリョウに手渡して。
「お風呂が先! リョウはちょっとそこで待ってて!」
私はムスッとして口にしてしまうのであった。
三者三様の返答に、リョウは肩を落としてすごすご引き下がった。
「もう、リョウ様! そこは『俺について来い』と言えば、殴られたり噛まれたり魔法を放たれたりするでしょうが、きっとみんなリョウ様についていきます!」
お~いヴィレッタ? 私たちの想像するリョウへの扱い、なんか酷くない?
意見が通らなくても精々ベレニスが舌打ちして、フィーリアがガッカリそうにため息を吐いて、私はちょっとプイッと顔を逸らすぐらいだぞ?
「ローゼ! ベレニス! フィーリア! いい加減にしないとわたくしが怒ります。リョウ様もです! 殿方なんですから、もっとビシッとして下さいませ!」
あ、ヤバい。ヴィレッタが怒った。
真面目な性格の彼女だから、公共の場で口喧嘩し続ける今の状況に不満が溜まったのだろう。
時々あるんだよねえ、正式に旅仲間に加わってから。
大抵は頼りないリョウに向けて説教することが多いのだが、ヴィレッタの説教シーンは私もベレニスもフィーリアも、戦慄してしまう迫力があるのだ。
矛先がリョウに向いているうちに私たちは頷き合って、宿に行って食事をしてお風呂に入って情報収集しながらお買い物をするルートに決定した。
「このひと月、共に旅をして思ったのですが、リョウ様はダメダメです! わたくしたちがいないと何もできません!」
ヴィレッタは腰に手を当ててリョウに説教している。
正座姿のリョウはちょっと涙目になっている。
って! 通行人が何事かと見ているから!
私たちはヴィレッタを宥めて、宿屋へと向かったのであった。
リョウが落ち込んでいるけど、後でフォローしておかなきゃなあ。
私も大人げなかったしなあ。
おっと、私の紹介がまだだった。
私の名前はローゼ・スノッサ。魔女なのだ。
金髪ショートヘアに碧眼の見た目から、最近は金色の魔女なんて呼ばれてもいる。
装備は白銀の杖、白のブラウス、紺のスカート、それとドワーフの里でフィーリアから貰った自分の魔力を溜めておいて、いざとなったらそれを放出して自らの体内に戻せる魔導具を所持している。
その魔導具は魔石なのだが、軽くて丈夫。
何度か実験して試してみたが使い勝手もいい。
ふと魔力満タンな状態でこれを使ったらとんでもない威力の魔法をぶっ放せるんじゃないか?
って試そうとしたことあるんだけど……
『ローゼさん、街を滅ぼす気っすか? その魔導具は貴重な魔石なんすから壊さないでくださいっすよ』
ってフィーリアに言われて止められた。
滅ぼすって大げさな、と思いつつも、予備の魔力があるってだけで凄いことだし、大切にしないと駄目だよね。
それと実は、元ベルガー王国王女のローゼマリー・ベルガーな私なのだ。
ただ別に、王女にこだわっていないし戻るつもりもない。
だって、頼りになる仲間が4人もいるしね♪
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