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第4章 竜は泉で静かに踊る
第24話 竜は静かに泉で踊る
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『ふう、決まったね。じゃあね、みんな。これからラフィーネの街を滅ぼしに飛んじゃうけど、許せないなら追ってきなよ。死体と瓦礫の山の中で待っててあげるから』
翼を広げ飛び出そうとするクリスだったが、少女たちはただひたすらに結界破りに集中したままだった。
『ねえ? なんで諦めないの? なんで絶望しないの? リョウが死んだんだから、泣いて喚いて命乞いでもする場面だよ?』
クリスは悲しい瞳でローゼたちを見つめる。
ローゼたちのひたむきな姿が胸に突き刺さる。
泉の蒸気が晴れる中、クリスの胸に今まで感じたことのない、奇妙な感情が芽生え始めた。
「私たちは信じている。だから今、やれることをやる!」
『信じるって何を? ローゼって変な人間だなあ……⁉』
信じられない気配を感じ、クリスは恐る恐る振り向いた。
そこには、リョウがボロボロになりながらも、剣を杖代わりにして立っていた。
『へえ、あの状況からブレスの直撃を避けるって凄いね。でも、もう一歩も動けなさそうだね』
「……そうだな。もう立っているのがやっとだ」
リョウは正直に告げた。
カッコつけるセリフも、ハッタリの言葉も口にすることはない。
『じゃあ、次で決まるね。爪で引き裂く、踏んづける、尻尾で吹き飛ばす、ブレスで燃やし尽くす。どれにしよう。どれがいい?』
「全部お断りだ。どれかになるだろうがな!」
リョウは剣を構え告げた。
もうボロボロの身体では勝ち目などないが、せめて翼を裂き、ローゼたちが結界を破る時間くらいは稼いでみせると気を張りながら。
『わかんないなあ。ああ、そうか。リョウは無知だから知らないんだね。こういうときは、こう言えばいいんだよ。『仲間に誘うのを辞めた。だからお別れだ』って。そうすればみんな生きて帰れるし、こっちも人間の街を燃やしに行くだけ。お互いに損はないでしょ? さあ、言ってみてよ』
クリスの言葉にローゼたちも驚き、リョウに目線を送る。
リョウの額からは血が流れ、視界はぼやけていた。
それでも意識を集中させ、力強く目を見開いてクリスへ告げる。
「赤竜のルールなんだろ? 先に盟約した者の命令を覆す条件は、戦って勝つのみという。……なら! そうするまでだ!」
リョウの宣言にクリスは絶句し、結界を破ろうとするローゼたちの力が一層増した。
『……意味がわからないな。ねえ? ローゼはどうなの? リョウをこんな目に遭わせてまで、赤竜を仲間にしたいの?』
クリスは首を動かし、ローゼたちの前に顔を向ける。
ローゼは、そんなクリスの瞳を真っ直ぐ見つめ返して答えた。
「クリスこそ意味がわからないな。私たちは赤竜を仲間にしたいんじゃない。クリスを仲間にしたいの」
ローゼの青い瞳には、揺らぎない決意がみなぎっていた。
「ほーんとクリスもおバカね。しょうがないから、この私が色々教えてあげるわ。仲間になったら一緒に傭兵をバカにしましょ」
ベレニスの緑の瞳からは、当然そうなると信じている力強さがあった。
「クリスさん。貴女は優しい方だと、わたくしは感じております。だってこうして、わたくしたちを心配してくれているのですから」
ヴィレッタの青い瞳からは、慈愛に満ちた眼差しが溢れていた。
「人間の姿も美人さんでしたが、竜の姿も美人さんです! 是非! お近づきになりたいです!」
レオノールのヘーゼル色の瞳からは、純粋な気持ちが全力で放たれていた。
「……そのネックレス。ずっと気になっていたっすが、魔導具っすね。それが盟約代わりでクリスさんを縛っているんすか? もし外したいなら協力するっすよ」
フィーリアの茶色の瞳からは、必ず助ける方法を見つける観察力が発揮されていた。
それらは、まるで倒すべき敵ではなく、仲間に呼びかける声のようであった。
クリスの心の中で、これまでの孤独な生活と、目の前にいる人間たちの絆が対比されていった。
戸惑いと羨望が入り混じり、ただただ思考は追いつかなくなり呆然となった。
リョウは最後の力を振り絞り、仲間たちの想いを一身に受けて立ち上がった。
剣を振り下ろす瞬間、彼の目には仲間たちの顔が浮かぶ。
そこには当然、クリスも含まれていた。
跳躍してクリスの片翼を斬り裂いたリョウは、地面に着地できず、そのまま倒れ伏して意識を失った。
片翼が地に落ちてクリスはよろめくが、別に致命傷ではない。
リョウを踏みつける、尻尾で叩く、爪で引き裂く、牙で噛み砕く、ブレスで消し炭にする選択肢が、クリスの脳裏を駆け巡る。
(その前に、片翼で飛べるか試すか)
片翼で飛んだことがない。
飛べなければラフィーネまで行って、人の街を滅ぼせないのだ。
ここで試さないといけない。
飛べなければ、盟約によって死ぬことになるのだから。
片翼を羽ばたかせるクリスであったが、バランスが取れず諦めた。
(終わったか……リョウに負けたよ)
気絶したリョウへ、クリスは称賛を送った。
いつもパーティーメンバーの女子たちに、文句を言われたり軽んじられたりしていても、信頼されている不思議な男だと感じていたが、リョウの本質も理解できた気がした。
リョウは、みんなの想いを背負って戦える男なのだ。
だから、ローゼたちは期待をしているのだろう。
リョウと共に旅をしながら、彼が多くの想いを背負って戦う姿を、彼の力になれる己の姿を思い浮かべながら。
そして……ついに赤竜の結界が破られる。
結界に向けられたローゼたちの力が限界に達した瞬間、虹色の光が閃いた。
そして、まるで天の声のような轟音と共に、不可能とされてきた結界が砕け散っていった。
その光景は、まるで奇跡を目の当たりにしているかのようだった。
『信じられない。……いや、見事だね。勝負はそっちの勝ちだよ』
赤竜王ドラルゴが、魔王にすら破られなかった古の竜族の秘技が破られたのは、クリスが片翼を失った影響だろう。
だが、それでも奇跡は奇跡だ。
ローゼたちは一斉にリョウのもとへ駆け寄った。
その表情には安堵と喜び、そして心配が入り混じっていた。
「よかった。息がある! ヴィレッタお願い!」
ローゼがリョウを抱きかかえ、ヴィレッタの手から放たれる神聖魔法の光が、まるでリョウを包み込むかのように輝いた。
「師匠! お見事です! 赤竜と戦って勝つなんて、七英雄のレイン以来の快挙です!」
「と言っても片翼を斬っただけ。私たちに感謝しなさいよ。勝利条件に結界破りがなかったら、確実に傭兵の負けだったんだから!」
「リョウ様はもう少し、無茶をしない戦いを覚えたほうがいいっすね。毎回死にかけるのは心臓に悪いっす」
仲間たちの口々から漏れる安堵の声が、深淵の森に響いていった。
ヴィレッタは回復に神経を集中させ、もうリョウは大丈夫とローゼは安心し、クリスがいたはずの方向へと意識を向ける。
赤竜の姿は見えない。
泉へ意識を集中させて探っていくと、クリスが泉の端にいる姿が見えた。
人の姿に戻り肢体を闇夜の中で晒しながら、まるで森に別れを告げるかのような、切なく儚くなる瞳で泉を眺めていた。
手足を動かしているクリスの姿は、まるで踊りたいけど、踊れぬように。
翼を広げ飛び出そうとするクリスだったが、少女たちはただひたすらに結界破りに集中したままだった。
『ねえ? なんで諦めないの? なんで絶望しないの? リョウが死んだんだから、泣いて喚いて命乞いでもする場面だよ?』
クリスは悲しい瞳でローゼたちを見つめる。
ローゼたちのひたむきな姿が胸に突き刺さる。
泉の蒸気が晴れる中、クリスの胸に今まで感じたことのない、奇妙な感情が芽生え始めた。
「私たちは信じている。だから今、やれることをやる!」
『信じるって何を? ローゼって変な人間だなあ……⁉』
信じられない気配を感じ、クリスは恐る恐る振り向いた。
そこには、リョウがボロボロになりながらも、剣を杖代わりにして立っていた。
『へえ、あの状況からブレスの直撃を避けるって凄いね。でも、もう一歩も動けなさそうだね』
「……そうだな。もう立っているのがやっとだ」
リョウは正直に告げた。
カッコつけるセリフも、ハッタリの言葉も口にすることはない。
『じゃあ、次で決まるね。爪で引き裂く、踏んづける、尻尾で吹き飛ばす、ブレスで燃やし尽くす。どれにしよう。どれがいい?』
「全部お断りだ。どれかになるだろうがな!」
リョウは剣を構え告げた。
もうボロボロの身体では勝ち目などないが、せめて翼を裂き、ローゼたちが結界を破る時間くらいは稼いでみせると気を張りながら。
『わかんないなあ。ああ、そうか。リョウは無知だから知らないんだね。こういうときは、こう言えばいいんだよ。『仲間に誘うのを辞めた。だからお別れだ』って。そうすればみんな生きて帰れるし、こっちも人間の街を燃やしに行くだけ。お互いに損はないでしょ? さあ、言ってみてよ』
クリスの言葉にローゼたちも驚き、リョウに目線を送る。
リョウの額からは血が流れ、視界はぼやけていた。
それでも意識を集中させ、力強く目を見開いてクリスへ告げる。
「赤竜のルールなんだろ? 先に盟約した者の命令を覆す条件は、戦って勝つのみという。……なら! そうするまでだ!」
リョウの宣言にクリスは絶句し、結界を破ろうとするローゼたちの力が一層増した。
『……意味がわからないな。ねえ? ローゼはどうなの? リョウをこんな目に遭わせてまで、赤竜を仲間にしたいの?』
クリスは首を動かし、ローゼたちの前に顔を向ける。
ローゼは、そんなクリスの瞳を真っ直ぐ見つめ返して答えた。
「クリスこそ意味がわからないな。私たちは赤竜を仲間にしたいんじゃない。クリスを仲間にしたいの」
ローゼの青い瞳には、揺らぎない決意がみなぎっていた。
「ほーんとクリスもおバカね。しょうがないから、この私が色々教えてあげるわ。仲間になったら一緒に傭兵をバカにしましょ」
ベレニスの緑の瞳からは、当然そうなると信じている力強さがあった。
「クリスさん。貴女は優しい方だと、わたくしは感じております。だってこうして、わたくしたちを心配してくれているのですから」
ヴィレッタの青い瞳からは、慈愛に満ちた眼差しが溢れていた。
「人間の姿も美人さんでしたが、竜の姿も美人さんです! 是非! お近づきになりたいです!」
レオノールのヘーゼル色の瞳からは、純粋な気持ちが全力で放たれていた。
「……そのネックレス。ずっと気になっていたっすが、魔導具っすね。それが盟約代わりでクリスさんを縛っているんすか? もし外したいなら協力するっすよ」
フィーリアの茶色の瞳からは、必ず助ける方法を見つける観察力が発揮されていた。
それらは、まるで倒すべき敵ではなく、仲間に呼びかける声のようであった。
クリスの心の中で、これまでの孤独な生活と、目の前にいる人間たちの絆が対比されていった。
戸惑いと羨望が入り混じり、ただただ思考は追いつかなくなり呆然となった。
リョウは最後の力を振り絞り、仲間たちの想いを一身に受けて立ち上がった。
剣を振り下ろす瞬間、彼の目には仲間たちの顔が浮かぶ。
そこには当然、クリスも含まれていた。
跳躍してクリスの片翼を斬り裂いたリョウは、地面に着地できず、そのまま倒れ伏して意識を失った。
片翼が地に落ちてクリスはよろめくが、別に致命傷ではない。
リョウを踏みつける、尻尾で叩く、爪で引き裂く、牙で噛み砕く、ブレスで消し炭にする選択肢が、クリスの脳裏を駆け巡る。
(その前に、片翼で飛べるか試すか)
片翼で飛んだことがない。
飛べなければラフィーネまで行って、人の街を滅ぼせないのだ。
ここで試さないといけない。
飛べなければ、盟約によって死ぬことになるのだから。
片翼を羽ばたかせるクリスであったが、バランスが取れず諦めた。
(終わったか……リョウに負けたよ)
気絶したリョウへ、クリスは称賛を送った。
いつもパーティーメンバーの女子たちに、文句を言われたり軽んじられたりしていても、信頼されている不思議な男だと感じていたが、リョウの本質も理解できた気がした。
リョウは、みんなの想いを背負って戦える男なのだ。
だから、ローゼたちは期待をしているのだろう。
リョウと共に旅をしながら、彼が多くの想いを背負って戦う姿を、彼の力になれる己の姿を思い浮かべながら。
そして……ついに赤竜の結界が破られる。
結界に向けられたローゼたちの力が限界に達した瞬間、虹色の光が閃いた。
そして、まるで天の声のような轟音と共に、不可能とされてきた結界が砕け散っていった。
その光景は、まるで奇跡を目の当たりにしているかのようだった。
『信じられない。……いや、見事だね。勝負はそっちの勝ちだよ』
赤竜王ドラルゴが、魔王にすら破られなかった古の竜族の秘技が破られたのは、クリスが片翼を失った影響だろう。
だが、それでも奇跡は奇跡だ。
ローゼたちは一斉にリョウのもとへ駆け寄った。
その表情には安堵と喜び、そして心配が入り混じっていた。
「よかった。息がある! ヴィレッタお願い!」
ローゼがリョウを抱きかかえ、ヴィレッタの手から放たれる神聖魔法の光が、まるでリョウを包み込むかのように輝いた。
「師匠! お見事です! 赤竜と戦って勝つなんて、七英雄のレイン以来の快挙です!」
「と言っても片翼を斬っただけ。私たちに感謝しなさいよ。勝利条件に結界破りがなかったら、確実に傭兵の負けだったんだから!」
「リョウ様はもう少し、無茶をしない戦いを覚えたほうがいいっすね。毎回死にかけるのは心臓に悪いっす」
仲間たちの口々から漏れる安堵の声が、深淵の森に響いていった。
ヴィレッタは回復に神経を集中させ、もうリョウは大丈夫とローゼは安心し、クリスがいたはずの方向へと意識を向ける。
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