【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

文字の大きさ
147 / 314
第4章 竜は泉で静かに踊る

第24話 竜は静かに泉で踊る

しおりを挟む
『ふう、決まったね。じゃあね、みんな。これからラフィーネの街を滅ぼしに飛んじゃうけど、許せないなら追ってきなよ。死体と瓦礫の山の中で待っててあげるから』

 翼を広げ飛び出そうとするクリスだったが、少女たちはただひたすらに結界破りに集中したままだった。

『ねえ? なんで諦めないの? なんで絶望しないの? リョウが死んだんだから、泣いて喚いて命乞いでもする場面だよ?』

 クリスは悲しい瞳でローゼたちを見つめる。
 ローゼたちのひたむきな姿が胸に突き刺さる。

 泉の蒸気が晴れる中、クリスの胸に今まで感じたことのない、奇妙な感情が芽生え始めた。

「私たちは信じている。だから今、やれることをやる!」

『信じるって何を? ローゼって変な人間だなあ……⁉』

 信じられない気配を感じ、クリスは恐る恐る振り向いた。
 そこには、リョウがボロボロになりながらも、剣を杖代わりにして立っていた。

『へえ、あの状況からブレスの直撃を避けるって凄いね。でも、もう一歩も動けなさそうだね』

「……そうだな。もう立っているのがやっとだ」

 リョウは正直に告げた。
 カッコつけるセリフも、ハッタリの言葉も口にすることはない。

『じゃあ、次で決まるね。爪で引き裂く、踏んづける、尻尾で吹き飛ばす、ブレスで燃やし尽くす。どれにしよう。どれがいい?』

「全部お断りだ。どれかになるだろうがな!」

 リョウは剣を構え告げた。
 もうボロボロの身体では勝ち目などないが、せめて翼を裂き、ローゼたちが結界を破る時間くらいは稼いでみせると気を張りながら。

『わかんないなあ。ああ、そうか。リョウは無知だから知らないんだね。こういうときは、こう言えばいいんだよ。『仲間に誘うのを辞めた。だからお別れだ』って。そうすればみんな生きて帰れるし、こっちも人間の街を燃やしに行くだけ。お互いに損はないでしょ? さあ、言ってみてよ』

 クリスの言葉にローゼたちも驚き、リョウに目線を送る。

 リョウの額からは血が流れ、視界はぼやけていた。
 それでも意識を集中させ、力強く目を見開いてクリスへ告げる。

「赤竜のルールなんだろ? 先に盟約した者の命令を覆す条件は、戦って勝つのみという。……なら! そうするまでだ!」

 リョウの宣言にクリスは絶句し、結界を破ろうとするローゼたちの力が一層増した。

『……意味がわからないな。ねえ? ローゼはどうなの? リョウをこんな目に遭わせてまで、赤竜を仲間にしたいの?』

 クリスは首を動かし、ローゼたちの前に顔を向ける。
 ローゼは、そんなクリスの瞳を真っ直ぐ見つめ返して答えた。

「クリスこそ意味がわからないな。私たちは赤竜を仲間にしたいんじゃない。クリスを仲間にしたいの」

 ローゼの青い瞳には、揺らぎない決意がみなぎっていた。

「ほーんとクリスもおバカね。しょうがないから、この私が色々教えてあげるわ。仲間になったら一緒に傭兵をバカにしましょ」

 ベレニスの緑の瞳からは、当然そうなると信じている力強さがあった。

「クリスさん。貴女は優しい方だと、わたくしは感じております。だってこうして、わたくしたちを心配してくれているのですから」

 ヴィレッタの青い瞳からは、慈愛に満ちた眼差しが溢れていた。

「人間の姿も美人さんでしたが、竜の姿も美人さんです! 是非! お近づきになりたいです!」

 レオノールのヘーゼル色の瞳からは、純粋な気持ちが全力で放たれていた。

「……そのネックレス。ずっと気になっていたっすが、魔導具っすね。それが盟約代わりでクリスさんを縛っているんすか? もし外したいなら協力するっすよ」

 フィーリアの茶色の瞳からは、必ず助ける方法を見つける観察力が発揮されていた。

 それらは、まるで倒すべき敵ではなく、仲間に呼びかける声のようであった。

 クリスの心の中で、これまでの孤独な生活と、目の前にいる人間たちの絆が対比されていった。
 戸惑いと羨望が入り混じり、ただただ思考は追いつかなくなり呆然となった。

 リョウは最後の力を振り絞り、仲間たちの想いを一身に受けて立ち上がった。
 剣を振り下ろす瞬間、彼の目には仲間たちの顔が浮かぶ。
 そこには当然、クリスも含まれていた。

 跳躍してクリスの片翼を斬り裂いたリョウは、地面に着地できず、そのまま倒れ伏して意識を失った。

 片翼が地に落ちてクリスはよろめくが、別に致命傷ではない。

 リョウを踏みつける、尻尾で叩く、爪で引き裂く、牙で噛み砕く、ブレスで消し炭にする選択肢が、クリスの脳裏を駆け巡る。

(その前に、片翼で飛べるか試すか)

 片翼で飛んだことがない。
 飛べなければラフィーネまで行って、人の街を滅ぼせないのだ。
 ここで試さないといけない。
 飛べなければ、盟約によって死ぬことになるのだから。

 片翼を羽ばたかせるクリスであったが、バランスが取れず諦めた。

(終わったか……リョウに負けたよ)

 気絶したリョウへ、クリスは称賛を送った。
 いつもパーティーメンバーの女子たちに、文句を言われたり軽んじられたりしていても、信頼されている不思議な男だと感じていたが、リョウの本質も理解できた気がした。

 リョウは、みんなの想いを背負って戦える男なのだ。

 だから、ローゼたちは期待をしているのだろう。
 リョウと共に旅をしながら、彼が多くの想いを背負って戦う姿を、彼の力になれる己の姿を思い浮かべながら。

 そして……ついに赤竜の結界が破られる。

 結界に向けられたローゼたちの力が限界に達した瞬間、虹色の光が閃いた。
 そして、まるで天の声のような轟音と共に、不可能とされてきた結界が砕け散っていった。
 その光景は、まるで奇跡を目の当たりにしているかのようだった。

『信じられない。……いや、見事だね。勝負はそっちの勝ちだよ』

 赤竜王ドラルゴが、魔王にすら破られなかった古の竜族の秘技が破られたのは、クリスが片翼を失った影響だろう。

 だが、それでも奇跡は奇跡だ。

 ローゼたちは一斉にリョウのもとへ駆け寄った。
 その表情には安堵と喜び、そして心配が入り混じっていた。

「よかった。息がある! ヴィレッタお願い!」

 ローゼがリョウを抱きかかえ、ヴィレッタの手から放たれる神聖魔法の光が、まるでリョウを包み込むかのように輝いた。

「師匠! お見事です! 赤竜と戦って勝つなんて、七英雄のレイン以来の快挙です!」

「と言っても片翼を斬っただけ。私たちに感謝しなさいよ。勝利条件に結界破りがなかったら、確実に傭兵の負けだったんだから!」

「リョウ様はもう少し、無茶をしない戦いを覚えたほうがいいっすね。毎回死にかけるのは心臓に悪いっす」

 仲間たちの口々から漏れる安堵の声が、深淵の森に響いていった。

 ヴィレッタは回復に神経を集中させ、もうリョウは大丈夫とローゼは安心し、クリスがいたはずの方向へと意識を向ける。

 赤竜の姿は見えない。
 泉へ意識を集中させて探っていくと、クリスが泉の端にいる姿が見えた。

 人の姿に戻り肢体を闇夜の中で晒しながら、まるで森に別れを告げるかのような、切なく儚くなる瞳で泉を眺めていた。

 手足を動かしているクリスの姿は、まるで踊りたいけど、踊れぬように。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...